俺は超越者(オーバーロード)だった件   作:コヘヘ
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無くした思いを、遠ざかる残滓を『魔王』は見た。


閑話 魔王建国宣言(帝国編)

『魔王』が王国に赴く数日前、

 

 

バハルス帝国の皇帝執務室では皇帝を除く近衛兵、帝国騎士、魔法詠唱者が全て魔法で眠らされていた。

 

 

いや、『主席宮廷魔術師』フールーダ・パラダインと帝国四騎士だけは起きていた。

 

 

だが、帝国の味方であるはずの『重爆』レイナース・ロックブルズと

 

『主席宮廷魔術師』フールーダ・パラダインが他三騎士を取り押さえている。

 

 

それがなくても『魔王』の威圧に耐えられない。

 

 

「つまりだ。最初からチェックメイトなんだよ…

 

 ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス殿」

 

『鮮血帝』の異名を持つ皇帝。

 

『大改革』を行ってきた男の弱みを握ることなど、

 

俺にとっては造作もないことだった。

 

 

彼の皇帝はデミウルゴスの言うように「中途半端に賢い」。

 

 

正直、俺より賢いと思うが、デミウルゴスが言いたいことは何となくわかる。

 

常識的に『詰み』に追い込めば、すぐ諦めて最適な落としどころを理解し、行動する。

 

何と素晴らしい。王国にいる馬鹿貴族だとこうはいかない。

 

面倒なことにならなくて実によい。

 

 

「では、交渉に入ろうか。いや、何すぐに終わる」

 

その日、帝国は陥落した。

 

皇帝とその側近以外、誰にも知られずに。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

ツアーとスルメさんとの二度目の会談前から帝国での情報収集や裏工作はしていた。

 

王国よりチェックが厳しく、全く痕跡を残さないようにするのは少しだけ手間だった。

 

なので、すぐに重役から取り入る方向で決まった。

 

 

 

帝国に裏工作を仕掛ける際に、フールーダは余裕だった。

 

人気のないところで俺が現れるだけで、その場で絶頂した。

 

 

…本当に気持ち悪かった。

 

 

俺はとりあえず『賢者の呪帯』を与えた。

 

これから行う依頼への報酬の前払いとして。

 

 

あと、事が済んでも、俺に教えを乞う前にまずは第六位階まで理解するように命じた。

 

三個まで取得できるが、考えて取得するように厳命した。

 

…対策となる本は持ち込んでいるが関わりたくないので、なるべく放置したかった。

 

 

『魔王』の存在が表に出るまでジルクニフの弱点を掴むように命じた。

 

その途端、その場でアンデッド使用について等、もの凄い量の機密を報告し出した。

 

 

…誰か情報漏洩を考えて複数人体制での情報管理を考える奴は帝国にいなかったのか。

 

 

少なくともナザリックではそうしている。

 

もう、フールーダ一人で十分じゃないかと思った時、気が付いた。

 

 

こいつ、『魔法』関係の弱みしか持ってない。

 

 

これだけでも十分に脅せるが、政治や貴族等に疎いフールーダでは一時的な脅しにしかならない可能性があった。

 

引き抜けば、最悪交換すれば良いだけだ。

 

なので、もう一人、『貴族』出身者の協力を得ることにした。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

『重爆』レイナース・ロックブルズ。

 

彼女は呪いさえ解ければ皇帝にすら剣を向けると周囲に公言していた。

 

彼女ならば裏切っても、遺恨がないだろうと判断できた。

 

 

しかも貴族出身者であり、機微も敏いはず。

 

 

強いて言えば裏切られる可能性から情報はあまり望めないかもしれない。

 

だが、それを考慮しても、重責を担う『四騎士』の彼女ならば得られる情報多いと判断した。

 

 

呪いを解呪してしまっても、高位の幻術またはマジックアイテムで補えば良いとも思った。

 

俺は彼女、『レイナース・ロックブルズ』と接触することを決めた。

 

 

 

 

彼女は俺が『御伽噺』の『魔王』だとわかると即座に『呪い』について語りだした。

 

 

…彼女の顔の右半分の『呪い』は、俺の想像以上に、かなり面倒なものだった。

 

 

彼女の『呪い』とやらを一目見た後、さらに身の上話を聞いて、

 

俺は『呪い』の正体を確信した。

 

 

恐らく彼女は『カースドナイト』の『職業』を持っている。

 

 

Lv30以下の『忍者』がいるこの『世界』なら有り得るだろうが、

 

まさか不人気職の『カースドナイト』を取得している者がいるとは思ってもみなかった。

 

 

 

『カースドナイト』

 

 

ユグドラシルではLv60の積み重ねがないと取得できない『職業』。

 

『呪い』によって汚れた神官騎士という設定だ。彼女の経歴的にも合っている。

 

低位のアイテムを持っただけで破壊してしまうというデメリットを持つが、その分強い『職業』だ。

 

 

ペロロンチーノさんは構成の穴をついて見事にシャルティアにほぼデメリットなしで取得させることに成功している。それでも低位のアイテムは壊してしまうが。

 

 

彼女の『重爆』という異名も納得がいく。

 

低レベル帯の戦いでこの『職業』についていればかなりの脅威だ。

 

 

彼女はまだできないようだが、他にも様々な能力を持つ。

 

闇の波動や、呪いによって強力な治癒魔法でなければ癒せなくなる傷を与える。

 

即死の呪いをかけるスキルなどを持つ。

 

彼女も成長していけばやがて才能を開花していくだろう。

 

 

 

さて、『解呪』だがこれが結構難しい。いや、簡単でもある。

 

まず、超位魔法『星に願いを(ウィッシュ・アポン・ア・スター)』なら余裕で解呪できる。

 

論外。割に合わない。

 

次に、呪いの原因である『カースドナイト』を消せば良い。

 

これは簡単だ。レイナースを殺して復活させれば済む話だからだ。

 

 

だが、彼女の何レベルのときに『カースドナイト』を取得したのかわからない。

 

有り得ないと考えたいが、Lv5以下も有り得る。この世界なら。

 

 

慎重にやると第九位階魔法『真なる蘇生(トゥルー・リザレクション)』を連発する必要があるかもしれない。

 

 

NPCを呼べば蘇生費用だけですぐできるし、

 

大量にある短杖(ワンド)使えばいい話だが、あまり使いすぎは良くない。

 

今後、これが前例となりペストーニャ達が能力を乱用しかねない。

 

最も、今回は理由がある。悪しき前例とは一概には言えないはずだ。

 

 

財は膨大だが、有限だ。いつかきっと果てる日が来るだろう。

 

それなのにあまり与えすぎては、そもそもこの『世界』が成り立たなくなってしまう。

 

 

それでは、本質的に八欲王と変わらない。

 

 

ツアーやスルメさんは違うと言ってくれるかもしれないが、

 

『世界』を乱すことには変わりない。

 

 

俺は『世界』を守ると決めた。

 

 

最低限で最高の結果を出すことに躊躇はない。そのために『財』や『力』は惜しまない。

 

 

 

だが、俺は、そんな『存在』にだけはなりたくない。

 

『友』を殺した『存在』に、『世界』を破壊した『存在』に。

 

 

 

この『世界』を強化するのに協力を惜しまない。

 

ナザリックのためならば『友』のためならば、『破壊』も辞さないだろう。

 

 

所詮は俺の自己満足。自分勝手なエゴだ。

 

思考が悪い方向へと変化していく。

 

どんどん気分が悪くなる。思い込みが加速する。

 

俺は、八欲王と何が違うというのか…胸糞悪い。

 

 

 

…さらに言えば彼女が帝国の内情を探る場合、

 

『弱い』状態で帝国に潜入させるとすぐバレるだろうと判断できた。

 

 

ドッペルゲンガーを使えば良いとも思ったが、現地の強者をなるべく失いたくはなかった。

 

彼女は俺目線では『弱者』とはいえ、『経験』を積んでいる。

 

この『世界』の経験・技術を俺は学びたかった。

 

慢心して良いことなど一つもない。

 

彼女は『魔王』側についても問題ない貴重な現地の『強者』だ。

 

 

故に殺さないで解呪する方法を考えたのだが、

 

彼女の侵された『死に際の呪い』というのは極めて厄介な物だった。

 

 

まず、第六位階大治癒(ヒール)では解呪不能だ。

 

 

彼女はこれまで解呪するために何でもしてきたとのことだが、

 

この『世界』では不可能だったことだろう。

 

第六位階魔法が奇跡とされる『世界』で、蘇生魔法を乱用できない『世界』で、

 

どんなに酷い思いをしてきたか察するに余りある。幸福からの絶望を何度も、だ。

 

しかも、どんなに頑張ってもこの『世界』では『解呪』はほぼ不可能。

 

…俺は不覚にも同情してしまった。

 

 

転移前の完全に二極された『世界』。

 

生きるためとはいえ、平然と弱者を、善人を貪る『世界』。

 

俺は何度も裏切られて、ユグドラシルにたどり着いた。

 

 

 

彼女がこうなった原因は、家の所領に出現するモンスターの掃討だという。

 

彼女曰く、『死に際の呪い』を受けたという。

 

 

…弱くても、邪悪な設定のモンスターが殺した相手に『死に際の呪い』をかけることがある。

 

少なくともユグドラシルでは。

 

 

不幸だったのは、彼女はそのモンスターに出会ってしまい、

 

呪いをかけられる時間があったことだろう。

 

 

 

呪文発動能力を持たなくても呪いの効果を与えられるモンスターがいる。

 

呪文発動能力を持つモンスターがいるなら、『冒険者モモン』ならすぐ見つかったはず。

 

故に呪いの効果を与えられるモンスターであること、数は非常に限られていることが推察できた。

 

 

 

ちなみに、この『死に際の呪い』に対してユグドラシルではどう対処したか、

 

ユグドラシルではそもそも呪い発動前に確実に殺す。

 

Lv100になっていれば無効も同然。

 

最悪呪われても、一回死んで蘇生することで『呪い』を消す方法が一般だった。

 

 

 

この『世界』では参考にならない。論外だ。

 

シリアス返せ馬鹿と言われること待ったなしだ。

 

こう並べるとまるでプレイヤーが理不尽の塊に見えてくる。

 

実際理不尽なわけだが。特に俺。

 

 

 

…この『世界』では蘇生がかなり貴重だ。

 

 

近場だと、王国のアダマンタイト級冒険者『青の薔薇』の某中二病リーダーくらいしか公にいない。

 

法国はそれなりにいるらしいが、それでも少ない。

 

聖王国にいたような気もするがそこまで『原作』を読んでいなかった。

 

正しいかどうかも不明な憶測だ。当てにならない。

 

 

 

俺は、ここまでプレイヤー云々を除いておおよそ彼女に話した。

 

呪い解呪はできなくはないが、君は恐らく帝国にはいられなくなると。

 

今まで得た力もほぼなくなると説明した。

 

 

 

「全く構いません!御身に全てを捧げます!」

 

無駄だった。

 

 

できれば能力そのままで帝国に残って欲しかったが、

 

死と蘇生を繰り返して、『呪い』を解呪する。

 

解呪できる魔法詠唱者の情報をばら撒いて混乱させて貰おうかとも考えた。

 

 

帝国をかき乱せれば、穴が開きつけ込める。

 

手段等いくらでも思いつく。こちらの情報の隠蔽は完璧だ。

 

だが、俺は何とかならないか必死に考えた。

 

 

 

…一つだけ思いついた。

 

確実だが、彼女の心を抉ることになるかもしれない。

 

それでも良いか彼女に尋ねた。場合によれば失敗すること、見捨てることも。

 

 

「…はい。いえ、私は、私の因縁を、私で何とかしたいと心から願っておりました。

 

 そのご提案は、寧ろ、感謝の言葉が足りない程のものです」

 

そう断言した。覚悟を決めた者の目だった。

 

 

俺はもはや何も言わず、

 

彼女『レイナース・ロックブルズ』の忌まわしい記憶を蘇らせた。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

恨み、辛み、憎しみ、憎悪、嫌悪、悪意、嫉妬…

 

この世全てを呪う『呪い』として、漆黒の世界に行かずに残り続ける。

 

死ぬよりも深い『憎しみ』がある。

 

願わくば、せめて、もう一度戦って殺したい。

 

そのためには、『憎しみ』すら捨て去ろう。

 

そう願い続けていると『神』が自分を出迎えた。

 

手を伸ばすは祝福された『世界』。

 

漆黒の輝ける深淵なる闇。

 

罠だと知っても食らいつく。最後の思いを果たすため。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「ぐぉぉぉぉおぉぉおおおおおおぉおおおお!!!」

 

『レイナース・ロックブルズ』の忌まわしい記憶が蘇る。

 

今、彼女の呪いは解けていた。

 

だが、俺は彼女に教えている。時間がないことを。

 

 

 

俺がしたことは、簡単に言えば逆転の発想だった。

 

『死に際の呪い』なら、その対象が生き返れば無効になる。

 

俺は『真なる蘇生(トゥルー・リザレクション)』で彼女の元凶を蘇らせた。

 

そして、今度こそ元凶を、『呪い』の発動時間内に倒せと言った。

 

 

「いやあああああ!!!」

 

レイナースは咆哮を挙げ、槍を構え全ての元凶に突撃する。

 

 

俺は黙って見ていた。

 

失敗しても成功しても、俺は、これ以上は協力しない。

 

 

これはレイナース自身の問題だから。

 

 

レイナースが失敗したら、俺は彼女の記憶を消して去ると伝えてある。

 

彼女の代わり等いくらでもいるのだから。そう言った。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

結果、容易く彼女は元凶を滅ぼした。

 

…『解呪』のために強くなっているのだから当然ではあった。

 

思わぬ副産物として『呪い』のみなくなり、『カースドナイト』は残っていた。

 

『『呪い』によって汚れた神官騎士』ではあるが、

 

別に『呪い』を解いてもなくなるとは『設定』にない。

 

 

何というご都合主義。いや、合理的結論ではある。

 

 

だが、まぁ今後ナザリックのためにレア職が消えないのは良かった。

 

 

冒頭のやり取りの後、皇帝はすぐに降伏した。

 

 

事後処理はデミウルゴスに任せてある。

 

フールーダにはナザリックで研究させるための打ち合わせとしてカジータを呼んでいる。

 

 

俺は一人となったレイナースと歩いていた。

 

 

「…結局、帝国には居られなくなったな」

 

利用したことに関しては同意を得ている。

 

だが、国を失わせたのは悪かったかもしれない。

 

例え、レイナース自身が故郷を全て滅ぼしていたとしても。

 

彼女は常に呪いが解けたら何をするか考えていたと言っていた。

 

ならば、国でやりたいこともあったはず。

 

 

レイナースにここまで思い入れは不要だが…何故俺はそこまで気にしているのか?

 

 

 

そんな風に疑問を思っていると、

 

「私の全ては御身のためにあります。

 

 国が、世界が滅ぼうとも、この命が尽き果てる最後の時まで、

 

 御身のために私の全てを捧げます。どうか何卒、忠誠を誓わせてください」

 

そう跪いて、命すら捧げる覚悟を誓われた。

 

 

 

端的に言って、ナザリックのNPC達みたいなことを言い出した。

 

ああ、うん。そうだ何で想定してなかったんだ、俺。馬鹿じゃないの?

 

 

…良く考えたら、彼女のは忠義だから何の問題もない。

 

寧ろ、好都合だ。全く問題ない。

 

 







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