JPDA権利保護委員会
Vol.2「著作権と意匠権」 2009年8月3日 委員長 丸山和子
担当理事 時田秀久

今回の情報発信
6月の特許庁セミナーでは、数多くの質問に対して質疑応答の時間が短く、疑問が残ったままの閉会になってしまいました。そこで補足説明も含めてパッケージデザインを巡る法的保護について、特許庁審査業務部意匠課・課長の川崎芳孝氏に当ホームページへの寄稿をお願いしました。
今回は著作権と意匠権の違いを、この後数回の予定でシリーズ掲載になります。
法の立場と、デザインの現場との出会いが身近になることを願っています。


 
パッケージデザインと「著作権」

特許庁審査業務部意匠課・課長 川崎芳孝

 第1回は、当日も多くの質問をいただきました「パッケージデザインと『著作権』」について、基本的なお話をしたいと思います。ただし、私は、著作権の専門家ではないので、これからお話しすることは、あくまでも私見としてお読みいただければ幸いです。

 さて、著作権法上の著作物の定義ですが、同法では、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」(同法2条1項1号)と規定されています。さらに、「この法律にいう『美術の著作物』には、美術工芸品を含むものとする。」(同法2条2項)と規定されています。
 
2009.6 中国広東省順徳で開催された日中米欧意匠フォーラムで講演する筆者

 それでは、皆さんの関心事項でもある、パッケージデザインが「美術の著作物」に含まれるか否か、検討してみましょう。 
 パッケージデザイン等は、一般に「応用美術」と言われます。そして、「応用美術」が「美術の著作物」に含まれるか否かの判断基準は、裁判では、一般に「純粋美術と同視しうるか否か」という点で判断されているようです。

 有名な判例ですと、今回のセミナーで使用した「ニーチェア事件」(大阪高裁平成元年(ネ)第2249号:最高裁第一小法廷平成2年(オ)第706号)があります。この判決では、「それ自体が実用面及び機能面を離れて完結した美術作品として専ら美的鑑賞の対象とされるものではない」として、「美術の著作物」には該当しないと判断されました。

 
著作物と認められなかった【ニーチェアー】
http://www.rakuten.co.jp/malsyo/ より
  著作物と認められなかった【ファービー】と
侵害に当たらないとされた被告製品【ポーピィ】
http://www.u-pat.com/IMG/d-31-1.jpg より

 また、同じく今回のセミナーで使用した「ファービー事件」(仙台高裁 平成12年(う)第63号)でも、「『ファービー』の形態は、全体として美術鑑賞の対象となるだけの審美性が備わっているとは認められず、純粋美術と同視できるものではない。」として、同様の判断がなされました。  
 そして、「ファービー事件」では、更に、「美術の著作物」とは、「絵画、彫刻等の専ら美術鑑賞の対象とされることを目的とした純粋美術のみならず、美術の感覚や技法を手工的な一品制作に応用した美術工芸品も含まれる」との解釈を示していますが、「ファービー」が美術工芸品にも含まれないことは明らかです。  

 以上のことから、パッケージデザインが「美術の著作物」に該当するためには、「純粋美術と同視しうる」か「一品製作の美術工芸品」に該当しうるか、の基準をクリアしなければならず、そのハードルは高いと言わざるを得ません。  
 したがって、パッケージデザインの法的保護は、意匠法に委ねるというのが一般的です。しかし、大量生産品であっても「純粋美術と同視しうる」と判断された「仏壇彫刻事件」(神戸地裁姫路支部 昭和49年(ワ)第291号)などもありますので、例えば、香水瓶などは「純粋美術と同視しうる」あるいは「一品製作の美術工芸品」に該当すると判断されるものもあるのではないでしょうか。今後の裁判例を注意深く見守る必要があるでしょう。
 


「デザイナーが見えない」
Vol.1にお寄せいただいた“真のクリエイターの保護へ 大阪工業大学知的財産学部 専任講師 関堂幸輔”を受けて。
(委員長 丸山和子)

真のクリエイターが何故、不在になるのか?
それはデザインの提案に真の創作者の名前の表記の習慣が無いことに大きな原因が有ると考えられます。
関堂氏のお話の中にも、その背景にあるデザイナーを取り巻く社会的な構造の一部が述べられています。
デザインに制作者名が抜け落ちていく事と、意識的あるいは、無意識的な盗用・転用・流用と言った行為が起こりやすい事とは、けして無関係では有りません。
創作者が見えなくなると、表現された物は一人歩きを始めてしまい、勝手に使うことに抵抗感が薄れる傾向が有ると思うのです。 それは、デザイナーの依って立つべき誇りを失わせ、デザインの質の低下を招き、結果としてデザイン産業、ひいては国の工業力・産業力の衰退にも繋がります。
また、保護すべき真の創作者とは誰か?
それは物品が担うべき特質・思想と言った目に見えない対象を、自身の想いのフィルターをかけてから、現実に目で見え、手に取れ、触れるとして具現化した人=デザイナーを指します。
膨大なプロジェクトであっても、構成する要素をイメージから形へと転換させた個々のデザイナーの存在が必ず、其処に有ります。
デザインを、そして創作したデザイナーを守るために、法的な保護制度の勉強・検討と並行して、デザインに関わる社会全体のモラルの向上をいかにして図るかを考えて行くことが、今、求められる事かと思います。
このテーマは皆様と一緒に考えながら、回を重ねる必要があると思います。
さまざまな分野・立場の方々との意見交換が、ここで進められればデザイン保護のあるべき形のひとつが見えてくるのではないでしょうか?
どうぞ下記アドレスまでご意見をお寄せ下さい。よろしくお願いいたします。
MAIL:info@jpda.or.jp


最新号:Vol.42「D-8創作証って何?」2013年01月25日
バックナンバー:
    Vol.30〜「取り消される商標」、「D-8創作証」(2012年2月〜)
    Vol.18〜29 「JPDA知財塾」、「デザイン業務で学ぶ契約」ほか(2011年1月〜12月)
    Vol.8〜17「特許庁意匠課 見学ツアー」、「デザイン保護ハンドブック」ほか(2010年2月〜12月)
    Vol.1〜7「デザイン保護」、「著作権と意匠権」ほか(2009年7月〜12月)