もし彼女が巧く要点を衝いたなら   作:belgdol

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もし彼女が巧く要点を衝いたなら

 ナザリック地下大墳墓とそこにいるNPC達は全て宝だ。

 そうマーレやメイド達、さらに天井にいるエイトエッジ・アサシン達の前で、幸か不幸かアルべドに言い放ってしまったアインズにアルべドが襲い掛かる。

 

「アインズ様ぁぁぁ!もう我慢しなくていいんですね!?」

「ど、どうした!?何があった!」

「アインズ様、アインズ様……私の超愛している愛しの君……いと貴きその御身によって与えられた私の愛はもう、堪忍なりません!!アインズ様、どうかこの哀れな女にお情けを……」

 

 すぅっと一旦アインズの、いやモモンガの精神が永久凍土に落とされたかと思うほど冷え込んだ後、情動が抑圧される。

 それを一瞬きの間に何回繰り返しただろうか。

 

『モモンガを愛している。なんてかー!恥ずかしー!何やってるんだろう俺……ぁぅ……』

 

 ほんの余興だった。

 四十一人が集まり去って行った寂しさの発露だった。

 だから、こそだろうか。

 物理的に空虚になってしまった胸の内に刺さる棘が、無いはずの心臓をチクリと苛む。

 だから冷静に対処してしまった。

 

「落ち着けアルべド。落ち着くのだ。そうだな、アルべド以外の物は部屋を出よ。これは私とアルベドだけでやり取りすべき問題だ」

「モモ……アインズ様ぁ……!

 

 たしなめられて金の瞳孔を開く野獣のごとき顔から、恋する乙女に変じたアルベドを起たせ、威儀を正したところでよく状況を解っていないマーレが口を挟む。

 一般メイドとエイトエッジアサシンには言えない事だ。

 たとえ統括とはいえ同じ守護者だからこそ言えることはある。

 

「あ、あの、モモンガ様。今のアルベドさんの行いは不敬ではないですか?その、罰とか……もちろん、あんまりひどい事は、えっと、しないでほしいですけど」

「よい。良いのだマーレ。すべては私の失態だ。アルベドに咎はない」

「でもアインズ様を地につけるなんて……」

「良いと言っている。よいな」

「は、ははははい!解りました」

「他の者たちもよいな。一旦部屋から下がれ。誰も部屋に入れるな」

「しょ、承知いたしました。皆さん、でましょうか」

 

 絶望のオーラをにじませたモモンガの指示にアルべド以外の下僕達が一斉に席を外す。

 一般メイドのシクススなどは低位の絶望のオーラにも身体の動揺を抑えきれずエイトエッジアサシンに支えられながらの退出だ。

 

 そしてアインズ……モモンガとアルベドの二人きりの会話が始まった。

 

「アルベドよ。以前にお前のその思いは私が歪めたものだという話はしたな」

「歪めた。アインズ様がそうおっしゃるならそうなのかもしれません」

「ではなぜそこまでダイレクトに私への愛情を表わす。私などお前から石を投げられても仕方のない、裏切者だ」

「アインズ様。貴方様が歪めたというその気持ち。私にとっては裏切りなどではないのです」

「だが、タブラさんの設定を……」

 

 恥じ入るように、後悔に頭を軋ませるように手で顔を覆うアインズに、アルベドはそっと取りすがり、ささやきかける。

 柔らかな肌の感触が、どこかで嗅いだ記憶を刺激する芳香がアインズを包む。

 

「タブラ・スマラグディナ様が初めに定められた私はビッチでした。ですがアインズ様。その設定にアインズ様が「モモンガを愛している」と変更を加えた時点で、私にとってはモモンガ様を愛することは「そうあれかし」の一部なのです。そしてそれを抜きにしても私はアインズ様が……」

「アルベド」

「不敬を承知で言わせていただきます。モモンガ様が愛しい方だという事実は変わらないのです。モモンガ様。至高の四十一人最後の御一人にして、慈悲深くそして、お寂しいお方」

「私は、寂しくなど」

 

 モモンガはじくりと胸の奥から染み出してくるものを感じた。

 それはヘロヘロがログアウトした後円卓を叩かせたものであり。

 霊廟を作って引退したギルドメンバーのすべての所持品を保管していた理由。

 寂しい。

 悲しい。

 傍にいてほしい。

 この世界に来てから誰にも悟らせなかったはずだ。

 完全に完璧にして偉大なる至高の支配者を演じていたはずだ。

 それなのに。

 

「モモンガ様を愛している。そう刻まれた私は奥底で感じるのです。モモンガ様のお寂しさを。完璧なモモンガ様の最期の弱点になりうる一番柔らかい、その想いを」

「ぁ、ぁあああ……」

「モモンガ様。私はアインズ・ウール・ゴウン様だけでなく、モモンガ様を愛しています」

「ああー……」

 

 再び沈静化の波がモモンガを襲う。

 なんということだろうか。

 あのわずかな一文からここまで読み取られてしまう物なのか。

 それがアルベドが女であるということなのか。

 

「アインズ様。いえ、モモンガ様。アインズ・ウール・ゴウンそのものである御身でなくともよろしいのです。ただ一人のモモンガ様として私にお情けをくださいませ」

「アルベド……」

 

 すっと、アルベドの白磁の頬にそれよりなお白いアインズの手が重ねられる。

 それだけでアルベドの表情は喜びに満ち、陶然とした様相を呈する。

 ぱさり、ぱさりと黒い翼も揺れている。

 そんな彼女に、モモンガは気恥ずかしさを感じながらも内心を吐露する。

 

「実を言えばな。アルベド。お前の気持ちに応える……この場合伽を命じ……いや、命じるというのもおかしいな。閨をともにするといってもな。方法が分からん」

「方法。ですか?」

「私はアンデットだ。その、な。無いだろう?先立つものが」

「そのようなことですか」

 

 アルベドが当然とした様子でほおに当てられたモモンガの手に頬ずりしながら、慈母の微笑を浮かべながらこたえる。

 

「ただ抱いてくださればいいのです」

「へ?」

「ただ、抱きしめて、融け合うほど強く、長く。互いの温もりが感じられるほど床を共にしていただけるだけでも私にとっては幸せの絶頂です」

「そ、それだけでよいのか?」

「はい!勿論ですモモンガ様!モモンガ様がお望みとあらばフィストフ○ックやペッティングなどもしていただいて結構ですが!」

 

 え、ええ、今までいい雰囲気だったのにそれは台無しじゃないかアルベド……と若干引き気味になったモモンガの腕に自らの腕を絡めてアルベドは続ける。

 

「それも全てはモモンガ様が望まれるなら……私はサキュバスですが情欲は抑えて見せます。モモンガ様と一つになる為ならば、肉欲を捨て貴方にピュアな愛を捧げます。ですのでどうかモモンガ様……今この時の機を逃さずに臥し戸を共に致しましょう」

「……そう長い時間は取れないぞ」

「それはもう!一分でも、一秒でも、瞬きする間でも長くともにありたいとは思いますが!モモンガ様のご寵愛がいただけるならどんな短時間でも、このアルベド耐えて見せます!」

「そうか。ではアルベドよ。こちらへ……」

 

 モモンガは腕を絡めたアルベドを寝台に誘う。

 そしてローブを皺にならないように脱ぐと自然に受け取るアルベドに渡すと全身美白の麗しき痩身を曝してベッドに入る。

 

「さあ、来るが良いアルベド。お前の気持ち、しかと受け取った」

「はい!モモンガ様」

 

 モモンガのローブをきちんとたたむと自らも裸身になり寝そべるアインズの傍らに、腕を枕にするように入り込みその中に赤い珠をおさめた肋骨にしがみつくようにくっつくアルベド。

 そこで、ふとモモンガが軽口を叩いた。

 

「そういえば、途中からアインズからモモンガに変わったな?それはどういう心境なのだアルべド」

「アインズ様……いいえ、モモンガ様。名を変えたとはいえ私はギルドの象徴足るアインズ様よりもモモンガ様という私人を愛しているということです。どうぞご理解、ご寛恕の程お願い申し上げます」

「そうか。ギルドの象徴である私だけではなく、私人である私をか……ありがとう」

「お礼など!ただこれからも定期的にこういった時間を作っていただければ……」

「ん、む。それは時間が出来たらな……今はまだいろいろと忙しい」

「そうですね。先走ったこと、お許しください」

「だが、悪くない提案だぞアルベドよ。私もアインズ・ウール・ゴウンの名を苦しいと感じたことはないが心許せるものとただのモモンガに戻る時間があるのは嬉しい。いつになるかは解らないがそういう時間、ゆとりを持ちたいものだ」

「さようですか……一刻も早くモモンガ様の安寧の時間をお届けいたします」

「うむ、悪くない。悪くないな」

 

 寝台の上で絡み合う白と白。

 多少のモモンガの拙い悪戯はあったものの、アルベドは甘い吐息をもらすだけで自制した。

 アインズ、いやモモンガの心の芯の部分には食い込んだのだから。

 アンデットとサキュバス。

 時間は長いのだ……これ以上は急ぐ必要はない。

 怜悧な彼女の思考がその結論を出すのは、実に容易い事なのだから。







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