「あんぱん」は日本のオリジナル、とばかり思っていたが、意外なあんぱんに遭遇した。
東京・半蔵門にあるちょっと有名なブーランジェリー(こだわりの強いパン屋さん)で見つけたもの。正確にはブーランジェリーパティスリー(菓子パンも作っているので)。
たまたま友人がパン好きで、国立劇場で歌舞伎を見た帰りに、不意に立ち止まってこう言った。
「パリに本店があり、日本に進出した第1号店が近くにあるんですよ。日本のパンとはひと味以上違います。ちょっと寄ってみましょう」
あんこの細道を追い求める身だが、実はパンも大好き。
そこで見つけたのが「ヴィエノワ アリコルージュシュクレ」(1個 税別170円)だった。
日本語に訳すと、「こしあんぱん」。なあーんだ。
友人はパリのコンクールで2回優勝したという、本場のバゲットとクロワッサンを買い、私は「こしあんぱん」と「湯種食パン」(1斤 税別340円)を買い求めた。
日本にはこの麹町店と恵比寿店の2店舗しかない。
「ここは本場フランスのパン業界でも一目置かれるパン屋さんですぞ」と友人が解説してくれた。失礼しました。
その夜、わくわくしながら賞味となった。
大きさは小ぶりで、焼き色と香ばしさが濃い。上新粉(?)がパウダーのようにかかっている。
パン生地がまるで違った。日本のあんぱんのような柔らかさはない。しっとりモチモチ感もない。
悪く言うと、素朴にパサパサした食感。それでいて、小麦粉の香ばしさが口中に広がった。塩気もある。これが本場の本物?
中のこしあんは滑らかできれい。上質のあんこで、ほどよい甘さとほんのり塩気もある。パン生地との相性はしっくりこない。
日本のあんぱんのシンボル、銀座木村屋の酒種あんぱんとは別世界の、不思議なあんぱん、としか言いようがない。
だが、よく考えたら、パンのルーツはフランス(周辺)のはずで、日本流の柔らかなあんぱんの方が、世界の視点で見れば不思議な菓子パンかもしれない。
「ル・グルニエ・ア・パン(屋根裏のパン屋さんの意?)」がパリで産声を上げたのは1996年。バゲットでパリッ子の評判を取り、コンクールで2度優勝、今やフランス国内に20店舗、海外にも進出している。この麹町店は日本第1号店として、2013年にオープンしている。
気になるのはパリにも「こしあんぱん」があるのかどうか。気になると眠れない。
翌日、思い切って電話してみたら、「それだけは麹町店のオリジナルです(笑)。恵比寿店にもないですよ。パリの本店にもないと思いますよ」とか。
あんぱんは辛うじて日本のオリジナル、となぜか胸を撫で下ろした。妙に柔らかくない、ハーフのあんぱんがあってもいい。そう思うのだった。
所在地 東京・千代田区麹町1-8-8