新小児科医のつぶやき

2013-01-26 トンデモ医療への常識的反応

私の旧友。医療系とは無縁の売れないアート系の仕事をされています。私はこれでも医師なので、会えば自然に医療の話も出てくるのですが、たまたまですがトンデモ系の医療のお話になりました。もっともいきなりそこになったわけではなく、漢方の話からの四方山の末です。そういう分野については、それなりに知識があるのでお相手した次第です。

旧友が抱いていたトンデモ系医療へのイメージは、そうですねぇ、漠然と「未知の分野」と言うぐらいのところでしょうか。現代医療で手が及ばない治療の可能性が秘められているところぐらいの感じです。間違いとも言い切れないのですが、そう素直に思い込んでもらっても困るので、ちと本腰を入れて説明させて頂きました。

説明しやすかったのは旧友が欧州古来の波動について怪しいながらも知識を持っていたことです。波動の漠然たる概念も知らないと説明が厄介になるのですが、ここを知っていたのは良い取っ掛かりになりました。とりあえずアルバート・エイブラハムスのラジオニクスの説明です。これがエイブラハムスの死後、FDAでも否定され、治療装置であるオシロクラストも怪しげなブラックボックスであった事実の話です。

    ほんじゃ、否定されたの?

そう聞きたくなるのはわかりますが、「信奉者の系譜は今も続いている」で話を続けました。現在の日本でも波動医学協会なるものがあり、オシロクラスト類似の装置は今なお作られ、販売されているです。さらにその波動医学協会自体が装置を検証したところ、センサーと測定装置に回路的なつながりがないとまで自ら公表していると話しました。当然次に出てくる反応は、

    ほんじゃ、否定されたの?

そう反応したくなるのはわかりますが、信奉者は否定していないと説明すると旧友は「???」状態になってしまったと言うところです。「一体なんなの?」ってところでしょうか。さらにこれが水伝とかEMの基本理論になっていると言えば、

    インチキちゃうん!

でも信じている人間が多数いる点を指摘すると、「どっかの新興宗教みたいやな」ってところです。ついでですから、もう一つのトンデモ源流であるソマチッド理論も解説するとまさしく目をシロクロさせていました。そんなものをまともに信じられている世界が信じられないぐらいのところでしょうか。


旧友がそういうトンデモ系の知識が薄そうなので、ひょっとしたらと思って「ホメパチもそうだ」と説明したらまさしく「え~・・・・」てな感じでした。どうも旧友はホメパチは別と思っていたようです。しかたがないのでホメパチの基本原理である「振る」と「希釈」を説明し、効果は原液を薄めるほど「なぜか」強くなるのがホメパチであるの初歩的なお話をしました。

その上でどれほど薄めるのかの例として、フランスのホメパチ製薬会社が販売しているインフルンエンザ治療薬「オシロコシナム」を挙げ、希釈率は「宇宙に一滴」としたところで唖然と言うところでしょうか。もちろんラジオニクス理論との関係も説明しています。




たまたま出た話題だったので、私の説明も十分でない部分はあったとは思いますが、旧友はトンデモ医療のキモは理解してくれたようです。ブッ飛んだ理論の上に構築されている実態不明の怪しげなものであるです。旧友が鋭かったのは、では何故にそんな怪しげなものを人は信じ、はびこるのかを聞いてきた事です。これについては人は神秘に憧れるぐらいしか答えようがありませんでした。

人智を超える現象に遭遇した時、人はそこに超常的な何かを感じ畏怖する性質を持っているのだろうです。古代であれば自然現象である嵐や落雷、日照りや洪水なんかもそうだったと思います。多くの古代宗教は人智では制御できないものに神の力を感じて出来たと思っています。古代宗教も科学の一種なのですが、そういう超常的な現象を神の力として理論付けていたと考えています。

ルネッサンス以来の近代とは、神の力で理論が終っていたのを現代科学で説明してきた歴史だとも思っています。今や日常生活で目にする自然現象などは現代科学で説明できる時代になりました。理論そのものは知らなくとも、理論で全部説明できるのは誰もが知っているです。私も使っているPCにしても、中世やさらに古代となれば神秘の存在でしょうが、現代でPCに神秘を感じる人間はいないと思います。

医療も現代科学ですが、医療には未解明部分が多々あります。端的には治療できない病気はゴマンとあります。病気も生死に関ることがあり、その時に現代医学では対処できない時に人は神秘に傾きやすくなると思っています。何か未知の神秘的パワーによって、不治の病が治らないだろうかです。


トンデモ医療であっても理論はあります。ラジオニクスであり、さらにその大元の波動であり、またソマチッドもそうです。これらは現代科学で説明できないというより、まさに噴飯物の代物ですが、とりあえず深遠そうに見える理論です。しかし私はごく一部を除いて、トンデモ医療の信者も理論自体は理解していないと思っています。

いや理解と言う言葉は相応しくないようにも思っています。そういう世界では理論は理解するものでなく「信じる」ものだと考えます。古代宗教で神の力の原理は説明不要の絶対であるのと同様に、トンデモ医療の理論も理解不要の絶対の教義として覚えるものになっているのだと思っています。理解してしまう事は神秘のベールが薄れてしまうです。

あくまでも神秘は神秘であって、神秘をそのまま信じる事がトンデモ医療の本質と理解しています。現実に現代医学でも治せない病気があるのは事実ですから、それに遭遇した人々は神秘に最後の救いを求めてしまうです。もしトンデモ医療に存在価値があるとすれば、そういう点だろうぐらいには思っています。

そういう意味で棲み分けは必ずしも不可能ではない部分はあると思ってはいるのですが、トンデモ医療主宰者も商売を行われています。どんな商売であっても規模拡大の誘惑は不可避です。トンデモ医療主宰者は、現代医学の残りカスでは満足できないようです。ここで今以上に商売を広げるなら、現代医学のテリトリーを食い荒らす必要があります。食い荒らすためには現代医学を否定し、トンデモ医療に「代替」していくのが求められます。


実際はこんなに詳しくは話してはいませんが、代替医療とは現代医学の補完を目指しているのではなく、現代医学のある部分の置き換え(代替)を目指しているのが現実と説明させて頂きました。付け加えるならば、置き換え(代替)も可能な限り大きな部分を欲しています。まあ、究極目標は内科全般でしょうか。置き換え(代替)部分が大きくなるほど代替療法が商売として栄えるです。旧友は

    なるほど、そんなトンデモ商売なんだ!

とりあえずは納得してくれたので良い正月でした。あんまりリアルでの説明とか議論は得意とは言えないのですが、旧友が常識人であった事に乾杯です。まあまあ、普通は波動理論なり、ラジオニクス理論なり、ソマチッド理論を真面目に聞いて「そりゃ凄い!」と思わない・・・はずなんですけどねぇ。

hirohiro 2013/01/26 10:26 ブログ再開ご苦労様です。インフルエンザで今後診療も多忙になりますでしょうからご無理をなさりませんように。
さて、以前見た雪斎の随想録というブログに
「陰謀論」は、人間の世界の複雑さを観察することに耐えられない人々こそが、走りやすい代物だといえよう。「複雑な」世界の様相を読む際に単純な「解」を見つけ出して、「俺だけが、『解』を知っている」と思うことは、人々に倒錯した優越感を与えるものである。「陰謀論」が後から後から出てくる背景には、そうした「脳内麻薬」の需要に「陰謀論」が応えているからであろう。
と書かれていました。
恥ずかしながら身内にも「ユダヤがうんぬんかんぬん」が好きなものがおりまして、脳内麻薬の比喩はよく言い当てていると思ったのですが、トンデモ医療も同様かと思っております。
難治の慢性疾患や悪性疾患にはタッチしていないので想像ですが、自らや家族の病気・不幸で精神的に不安定な人が麻薬のようにトンデモ医療にはまるのかと思います。麻薬のように一度はまるとなかなかトンデモから抜けがたい点も似ていますが、依存からの脱却にはなにかいい方法があるのでしょうか。
一部の方がトンデモ医療を試すのは仕方ないとして、そこから抜け出させる方法さえあれば大きな健康被害には結びつかないと思うのですが、麻薬と同じで難しいのでしょうね。

YosyanYosyan 2013/01/26 12:51 hiro様

ツイッターで見つけた定番の反応です。
https://twitter.com/matsuoespresso/status/295003458073923584

『こういうの否定する医療関係者一杯いるけど、いつも思うのは上から目線の否定と、商売に対しての批判ばかり。患者の気持ちは考えない。RT@Yosyan2: トンデモ医療への常識的反応 http://htn.to/KmVvSZ』

単なる感情論ですが、こういう反応をされる方はどうしようもないと言うのが実情と思っています。だから商売として成立し無くならないです。もっとも、トンデモ医療なり、トンデモ科学への啓蒙を行っている人間も、目的は新たな被害者の抑制と、放置する事により成長し一定の市民権を得るのを防ぎたいが本音の狙いと思っています。できれば撲滅ですが、いかに手強い相手かは嫌でも学習させられますからねぇ。

luckdragon2009luckdragon2009 2013/01/26 13:37 患者自身は、基本的にトンデモは嫌いですよ。
闘病なんぞしてますと、変な治療法とやらを持ち込む輩の言葉に閉口します。

こういうものに、一番敏感のが「自称」患者の気持ちに寄り添う人、です。
所詮は自称、自分が気分良くなりたいだから、手軽な理屈で、手軽に効果がある触れ込みの、よく考えると胡散臭い治療法を山と持ち込みます。

自分の病態にリアルに向き合うわけでもないから、臨床の実態として、ちゃんと有効な疫学統計があるか、なんてのにも無頓着ですからね。

まあ、私はスルー出来ていますけど、心の弱い患者は、この手のに弱い。
本当は厳しい言葉をかけようが、一見患者の気持ちを考えていないように見えようが、患者の治癒率に一番頭を使っている、自分の通院している病院の医師の治療が、一番確実だったりするんですけどね。

たまに、セカンドオピニオンするくらいが適度でよい。

luckdragon2009luckdragon2009 2013/01/26 13:42 トンデモ医療の売りは「患者の気持ちに寄り添う」と宣言すること、です。

でも、現実は違う。
実際に、自分の治療法が効かないときに「効かない」と言えない医療があるとしたら、本当の意味では、患者の気持ちに寄り添っていない。(患者はより良い QOL を望んでいるのに。)

だから、トンデモ医療は、実際には患者の気持ちには、寄り添わない。
ポーズだけ。

元もと保健所長元もと保健所長 2013/01/27 08:34 トンデモ医療は「宗教」でしょうね。
ならば、思想信条、信仰、結社、言論出版の自由など、日本国憲法のキモに関わることなので、安易な批判は慎むべきです。

学生時代、敬虔なクリスチャンだった畏友(5年年長の同級生)から、こんな話を聞かされました。
「神を信じるか信じないかの境目は理屈ではないが、信じた先には理路整然とした科学の世界が広がっている」と。
私は神を信じていませんが、その畏友は今も尊敬しています。

○メパが見苦しいのは、信じた先の「科学」を信じる前の者に押しつけようとしていることでしょう。
級友には日蓮系の某信徒集団信者もいましたが (ry

JSJJSJ 2013/01/27 08:56 >思想信条、信仰、結社、言論出版の自由など、日本国憲法のキモに関わることなので、安易な批判は慎むべきです。
国家権力がその自由を制限してはいけない、ということであって、
一個人が批判するのは、それこそ言論の自由であるかと思います。

「破折屈伏」は、教義と深く関わることなのだから、宗教に対する批判が慎むべきものであるなら、
破折屈伏に対する批判も慎むべきである、という理屈になるのではないかと思います。

元もと保健所長元もと保健所長 2013/01/27 09:07 JSJ 2013/01/27 08:56 さん
>「破折屈伏」は、教義と深く関わることなのだから、宗教に対する批判が慎むべきものであるなら、
>破折屈伏に対する批判も慎むべきである、という理屈になるのではないかと思います。

意味不明です。破折屈伏に対する批判など、このスレのどこにも書かれていませんが。

JSJJSJ 2013/01/27 10:21 元もと保健所長さんも、コメントの中で日蓮に言及したのは、かの破折屈伏のことを想起されたからではないのですか?
文脈から、破折屈伏に対する否定的感情を感じましたが、読み間違いですか?
それならば、(ry などと曖昧な表現は避けるべきでした。

それはともかく、私が言いたかったのは、
「信じた先の「科学」を信じる前の者に押しつけようと」すること自体が、その宗教の教義と深く結びついていた場合は、
その行為を「見苦しい」などと安易な批判をするのは慎むべきこと、という理屈になるのではないか、という疑義でした。
破折屈伏は日蓮が話に出たので その一例として示しましたが、かえって話をややこしくしたようです。

ちなみに私自身の答えは
個々の日本国民には、宗教を信じる自由があるのと同様に宗教を批判する自由もある、です。

元もと保健所長元もと保健所長 2013/01/27 11:10 JSJ 2013/01/27 10:21 さん
>元もと保健所長さんも、コメントの中で日蓮に言及したのは、かの破折屈伏のことを想起されたからではないのですか?
>文脈から、破折屈伏に対する否定的感情を感じましたが、読み間違いですか?
それならば、(ry などと曖昧な表現は避けるべきでした。

そもそも、ryだからryなのです。
ryの先をまるで相手方が発言したかのように捏造して、しかもそれを否定してみせる、というのはオトナがとるべき手法ではありませんね。

protomed69protomed69 2013/01/28 03:06 トンデモ医療が横行することを許しているのは、現代医学が不確実性であるためでしょう。最も基本的で最強の知識である物理法則によって病気と治療を正しく説明できれば不確実性は解消される。その時、トンデモ医療は雲散霧消していくだろう。解剖学や化学に基づく現代医学では不確実性を払拭することはできない。

京都の小児科医京都の小児科医 2013/01/28 09:16 >思想信条、信仰、結社、言論出版の自由など、日本国憲法のキモに関わることなので

日本国には、日本国憲法を信仰するグループがおられると理解しています。
日本国憲法を経典と考えるのはちょっとどうかなと思います。 
日本国は日本国憲法発布以前から存在しています。

スパム対策のためのダミーです。もし見えても何も入力しないでください
ゲスト


画像認証

トラックバック - http://d.hatena.ne.jp/Yosyan/20130126