東京ビッグサイトで7月18日から開催されている「グローバルビジネスサポート2018」。このイベントにおいて、新日本プロレスリングの代表取締役社長兼CEOであるハロルド・G・メイ氏が「『新日本プロレスのグローバル展開』~スポーツ界から学ぶ日本企業のグローバル化」と題するキーノートセッションを行った。

 冒頭に登場したのは、ブシロードの創業者で新日本プロレスリングのオーナーでもある木谷高明氏。同氏はまず新日本プロレスリングが属するブシロードグループのグローバル化について紹介した。

 ブシロードグループではグローバル展開を進めており、アジア圏での市場開拓、拡大を目指すために設立したシンガポールの現地法人をはじめ、米国やドイツにも拠点を持つ。現地採用の社員が増え、現在はグループ社員約370人のうち、60人程度、約16%が外国人だという。

 米国市場へのアプローチとしては、(1)カードゲーム、(2)スマートフォンなどのゲームアプリ配信、(3)新日本プロレスリング──を「3本の矢」と呼び、なかでも最も太い矢が、新日本プロレスリングだと期待を寄せる。

 木谷氏に続いて登壇したハロルド・G・メイ氏は、まず自分のプロフィールを紹介。前職は大手玩具メーカー、タカラトミーの代表取締役社長兼CEO(最高経営責任者)。赤字経営だった同社を大幅な黒字へと転じさせたことで知られ、今年6月に新日本プロレスリングの代表取締役社長兼CEOに就任。このキーノートセッションが新日本プロレスリングのCEOとして、同社の経営について話す初めての機会となった。

今年6月に新日本プロレスリングの代表取締役社長兼CEOに就任したばかりのハロルド・G・メイ氏。玩具メーカーであるタカラトミーの経営をV字回復させた手腕で知られる
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グローバル化のメリットは海外進出だけではない

 流ちょうな日本語で話すメイ氏は、日本の企業経営者から「日本市場は大きく伸びない」と行き詰まりを感じる声を聴くことが多いという。確かに日本の人口のトレンドを見るとその通りだ。2014年より減少へ転じて、2015年を100%とすると年5%のペースで減り、生産年齢人口も2060年には50%まで減ってしまう計算だ。日本のGDPは世界3位だが、全世界の合計で見ると6%に過ぎない。国内市場の縮小が避けられない以上、成長を続けるには海外市場に目を向けなければならないのは必然と言える。

 日本企業のグローバル展開における問題について、メイ氏は「三つの壁」として、「モノからコト」「IP(キャラクターなどの知的財産)化・ブランド化」「ビジネススキル・考え方」を挙げた。製造経済から変化・進化し、IP化、ブランド化によって新たな価値を生み出し、そしてグローバル化に必要なスキルと思考法を学ぶべきだというのだ。

 しかし、海外進出だけがグローバル化ではないとメイ氏は語る。ここで注目すべきは、インバウンド、つまり海外からの旅行者だ。2017年に海外から日本を訪れた旅行者の数は約2900万人。これは年20%のペースで増大中で、2018年には3000万人超えが確実と言われており、しかも再訪日を希望する人がほとんどであるという。こうした旅行者の日本を訪れる動機について調査すると、特に再訪目的では「爆買い」に代表されるような消費活動よりも、自然や景勝地、寺社仏閣などへの観光や、四季や自然の体験といった「日本文化」へ触れる機会を求めてくるのだという。

 メイ氏は、訪日外国人が求める日本文化のリストを示しながら、「オタク文化もあります」と指摘し、「日本のプロレスも、世界に誇れる日本文化の一つ」と強調する。試合を見に行けばすぐに友達になれる“空気感”があり、コスプレも体験することもできる。まさに「モノからコト」への変化を体現しているわけだ。つまり、IP化、ブランド化がしっかりでき、モノを買うことに重きを置く「ハード」経済から、そこでしか味わえないような体験を重視する「ソフト」経済への転換に対応できさえすれば、これらのインバウンドを対象としたビジネスが成立する。

 プロレスは「体験」であり、リングに上がる選手はそれぞれが一つのIPで、1ブランドである。同社はコトを売る会社として成長を目指すのだ。