2016年5月4日夜、右翼団体「天誅塾」(本部・山梨県)に所属する松田晃平(26歳)は、新宿駅近くのディスカウントショップ「ドン・キホーテ」で消火器とペンキ缶を購入した。
総計5000円の買い物である。
おなじみの黄色いレジ袋をぶら下げたまま、松田が向かったのは、月刊誌『WiLL』などを発行する出版社「ワック」が入居する千代田区内のオフィスビルだった。
普段であればビル玄関はオートロックで施錠されているが、なぜかこの日はドアが開けっぱなしになっていた。「運命が味方している」と感じたという。
建物内に入ると一気に階段を駆け上がり、「ワック」のフロアに達した。
すでに夜の10時半。社内に人の気配はなく、さすがにここでは、入り口のガラス製ドアはロックされていた。押しても引いても開かない。
躊躇することなく、ガラスドアを消火器で叩き割り、社内に侵入した。
ジリジリジリ。警報機が作動した。
悲鳴のような警報音が響き渡る。
それでも、まるで何年間もこの"作業"を続けてきたかのように冷静だったという。
あたりかまわず消火器を噴射した。
さらにペンキを床にぶちまけた。
最後に『Will』の廃刊を要求するビラをばらまいた。
すべてを終えると、松田は自ら110番通報した。
──出版社に消火器をぶちまけました。自首したいのですが。
そう告げると、警視庁の担当者は「はい、ではすぐにうかがいます」と、宅配ピザ店の従業員のように事務的な対応で返した。
数分着、近くの派出所から警察官が駆け付けた。
警察官の第一声は「何か、危ないものとか、持ってる?」だった。
少し考えてから松田は答えた。
「危ないものは、もう使ってしまいました」
松田は建造物侵入の容疑で逮捕された、
その後、裁判で懲役2年、執行猶予4年の判決を言い渡されることになる。