事故直後、いい加減な推測をした人々に「そら見たことか。謝罪と訂正をしなさい」と言いたくなる事実が報じられました。 9月19日に、岐阜県の「ひだ丹生川乗鞍 畳平バスターミナル」で、ツキノワグマによる近年まれにみる大量加害事故が発生したことを、9月19日に「大量加害事故」で紹介しました。 事故直後から報道されていた事実を収集し、これを冷静に分析さえすれば、この熊が施設の残飯に依存していたわけではないことは簡単にわかることです。 その理由は9月20日に書いた「大量加害事故 その2」や、9月24日に書いた「なぜ2700mまで?」で、私の考えをまとめたとおりです。 それなのに、そんな簡単な報道事実の確認やその分析もできない人々は、まるで被害に遭った方が悪いかのような非難をしました。 それらに対し11月7日に「「ひだ丹生川乗鞍 畳平バスターミナル事故」の報道被害・真相」で非難しつつ、この事故の「事実」を再確認しました。 そんな中、12月11日付けで信濃毎日新聞が、非常に重要な事実を報道してくれました。 以下、全文を引用します。 乗鞍の熊 残飯依存ない自然の個体 体毛や胃の内容物調査で判明 12月11日(金) NPO法人信州ツキノワグマ研究会(松本市)と岐阜大の研究グループは、岐阜県高山市の乗鞍岳山頂付近で観光客ら10人にけがを負わせた熊について、体毛や胃腸の内容物を分析し、「残飯に誘引されたのではなく、バスターミナルに現れてパニックに陥り、居合わせた人を襲った可能性が高い」との調査結果を10日までにまとめた。 熊は9月19日、標高約2700メートルにある通称・畳平バスターミナル脇の登山口付近に現れ、観光客や山荘経営者らを次々に襲った。駆けつけた猟友会員が射殺。岐阜大が熊の胃腸の内容物を調べ、研究会が体毛を分析した。 岐阜大応用生物科学部の浅野玄准教授(野生動物医学)によると、熊は19歳前後の雄で、体長136センチ、体重67キロ。胃腸の中には標高2500メートル前後の高山帯・亜高山帯にあるハイマツの球果、キソアザミの葉などが含まれ、人が出した残飯はなかった。 同研究会は、体毛に含まれる炭素と窒素の安定同位体のそれぞれの比率が、摂取した食べ物と密接に関係していることを利用し、熊の食性を調査。分析を受託した日本認証サービス(横浜市)の中下留美子主任研究員によると、熊は北アルプスにすむ通常の熊と同様の食べ物を食べていたといい、「少なくとも今年と昨年は木の芽、実、昆虫などを食べていたとみられ、残飯に味をしめて人前に出てきた可能性は低い」としている。 同研究会の林秀剛代表は「ふんを垂れ流しながらバスターミナルを動いていた状況からして、熊は相当なパニックに陥っていた」と指摘。バスターミナルに出てくる前に熊に石を投げた人がいた-との情報もあることを踏まえ、「畳平一帯に熊がいることを人間側が認識する必要がある。もし出合ったら大声を出したり物を投げたりせず、静かにその場を離れるなどの対応を、観光関係者が観光客に教えていくことが必要ではないか」としている。ここできちんと、被害者の人数を事故直後の「9人」から「10人」へと、事故直後はすぐに病院に行かれたために警察からさえも見逃されていた徳島の男性をカウントに含めているであろうという、丁寧な取材ぶりも評価できます。 NPO法人信州ツキノワグマ研究会も、多くの実績と地道な活動をされていて常々好感を持っている組織ですが、今回もきちんと死がいを解剖する段取りをされ、敬服いたします。 記事後半の、「バスターミナルに出てくる前に熊に石を投げた人がいたとの情報」というものについては、「「ひだ丹生川乗鞍 畳平バスターミナル事故」の報道被害・真相」で書いたとおり、既に被害に遭っていた方を助けようとしての行動と混同されているという可能性は十分にあります。 その「石を投げていたのを目撃した」というだけの話ならば、第一被害者を助けようとして襲われた第二被害者らが取った行動を、そのときに駆けつけ襲われた施設従業員さんが「熊に石を投げているのを見た」とおっしゃっていたからです。 決して「イタズラ・面白半分」あるいは「何もしていない熊を恐れて」そうしたとは限らず、情報が錯綜しているのは十分にあり得るわけです。 「ふんを垂れ流しながらバスターミナルを動いていた状況からして、熊は相当なパニックに陥っていた」という情報は今回初めて知りました。 しかし、この情報も「大量加害事故」で泉ヶ岳での事故例から今回の事故の要因を推測しましたが、それを裏付ける情報です。 つまり、今のところほぼ確実に言えることは、 1.このツキノワグマは、施設の食べ物に誘われてやって来(てい)たわけではない 2.最初の被害者・徳島県の男性が写真を撮っていたところ、熊が近づいてきた。驚いて逃げたところ、後ろから襲われた 3.徳島県の男性や周辺にいた人を助けようと、ある人は石を投げ、当初「第一被害者」とされていた男性は杖で立ち向かい逆襲されて「第二被害者」となった 4.そのころ、施設従業員らが駆けつけ、助けようとして次々に襲われた。この施設従業員「熊に石を投げている人を見た」という主旨の発言をされているが、その目撃した行動は、既に暴れている熊に対するできる唯一の対抗手段だった 5.この従業員の目撃証言が正しく解釈されず、「熊に石を投げた人がいる」→「熊に石を投げた人が、熊を怒らせた」という短絡的な曲解の元となった可能性が残る(むろん事実をそのまま証言した従業員は一切悪くない) 6.従業員らを含め、たくさんの人が果敢に立ち向かったことで、多くの人がケガをすることになったが、その代わり熊の集中力が欠けて、死亡までには至らずに済んだ ということです。 「第一被害者」の方が遭遇した際の様子を聴いた限りでは、それ以前に石などを投げられていたと判断する要素はありません。 ただ、その方が慌てて後ろを見せて逃げたということが、結果的に襲われた要因の1つかもしれません。しかし、これも熊が近づいてきたときを想像すれば無理もなく、「正しくは無い行動」であったとしても、それが「悪い」行動とは限りません。 私の推測は、この施設周辺は「熊の通り道」の範囲内であって何か目的があったわけではなく、いつもどおり通りかかったところ、シルバーウィークで多くの人がいて興奮気味になっていた。そこに「第一被害者」と不幸な遭遇をし、追う形になって襲った。そこにたくさんの方が助けに入ったことで、幸い死亡者が出なかったという反面、さらに興奮していった…そう考えます。 日本熊森協会は未だにその公式ホームページでこう非難しています。 再度一部引用しましょう。 緊急 岐阜県高山市乗鞍山頂近く2700mで、クマにより数人がケガ ⇒クマ射殺 顧問先生指導熊森見解です。 原因は人間
この集団は現地も見ていないのに、「お弁当の残りか、土産物屋のおいしそうなにおい」と、「原因は人間」などと断言している。乗鞍の山頂は、雷鳥の生息地。クマは、ブナ・ミズナラ地帯の動物で、どうしてそんな高いところまで上がって行ったのかと思うと、原因は人間だろう。お弁当の残りがあったのかもしれないし、土産物屋さんがおいしそうなにおいのするものを売っていたのかもしれない。現地を見ていないので、100%の断言はできないが。どちらにしても、クマはエサを 求めて出て来た。 【後略】 同じように現地に行かずとも、私はこうして餌付けされていた可能性を当初から否定できていたわけですが、2万人以上の会員を有している団体さんには、もう少ししっかりと責任を持ったコメントをしていただきたいものです。 【前略】
「人間が用意したエサにクマがおびき寄せられて出て行った」などと、根拠無く施設側もしくは観光客側に対して一方的に責任を押しつけているのは、明らかに間違い。直ちに削除か訂正すべきですね。クマを殺す必要などまったくない なぜクマを殺したのか理解できない。クマは人を襲おうとしてこのようなことをしたわけではない。クマにとって人間はエサではない。人間が用意したエサにクマがおびき寄せられて出て行ったら、人間に襲われそうになってパニックに陥ってしまった。人間側がみんなさがってそっとしておけば、クマは安心して逃げていっただろう。人間がクマをおびきだしておいて、出てきたクマを殺して終わろうとするなら、クマとの共存などできないだろう。 【後略】 また、「岩木山を考える会」の事務局長という人も「事務局長blogとやらで、こんなことを書いていましたね。
草紅葉も始まった(その5)/ クマ「岐阜・乗鞍岳、9人重軽傷」ということ(その6) 2009-09-26 05:07:23 | Weblog 【前略】 「クマ」は、下部の森林地帯から登ってきた。恐らく「乗鞍スカイライン」沿いにやって来たものと考えられる。しかも、最初から「餌」がその「バスターミナル」にあることを学習していたのだろう。 すでに、何回もやって来ていて「残飯漁り」をしていたのではないか。「バスターミナル」の「残飯処理の不備」が餌付け効果となり、「クマ」は学習と経験から、スカイラインの終点である「バスターミナル」を自分の餌場(テリトリー)としていたのではないか。 【後略】まったく、想像だけの産物です。当初からの報道事実さえしっかり集め、比較分析すれば、こんな推論は出て来ないはずなのです。 この信濃毎日新聞の伝える「事実」で、日本熊森協会も岩木山を考える会の事務局長氏も、その想像が誤りだったということを真摯に受け止め、施設側や被害者側を冒涜したことを詫び、今後は慎むべきではないかと思います。 |
この記事に
報道の一面しか未定ないと間違った解釈をしてしまうと言う典型的な例ですね。私もその後の報道は知りませんでした。
2009/12/12(土) 午後 7:53 [ プーサン ] 返信する
岐阜大学や信州ツキノワグマの会も動いていたとは知りませんでした。よけい熊森は何をしているという話になりますが・・・・・・期待するだけ無駄ですね。
熊森のHPを見たら職員募集に研究調査とあって嗤ってしまいました。いやお前ら調査する気なんてはなからないだろと。
それと最近「動物たちの反乱」という獣害問題の本が出ました。主に兵庫県の事例が紹介されていました。参考までにどうぞ。
2009/12/12(土) 午後 8:30 [ 梨 ] 返信する
プーサンさん、本来は情報の受け手の読者や視聴者に、正しく判断できる丁寧な報道をすべきは報道機関の役目・義務であるはずなんですけれど、ほとんどの報道機関はその責務を果たしているものかどうか…。
また、このような事故の場合は、情報が錯綜して、もしかしたら現場にいた当事者の方さえも、全体像をわからず、誰ももう、この事故の全容はわからないかもしれません。
2009/12/12(土) 午後 8:44 [ 泉ヶ岳 ] 返信する
梨さん、「動物たちの反乱」は早速購入して、今、読んでいるところでした。同じころ、東海大学出版会から出た「ツキノワグマ」も、まずまず面白いですよ。
この報道はもちろん、日本ツキノワグマ研究所の米田理事長もご存じですが、他の業務が繁忙でHPしたくともできない状況でいらっしゃるということです。
米田理事長のお話しですと、「最初の被害者」がなぜ襲われたのか、ハッキリされないということで、これも本当の最初の被害者かさえもわからないかもしれないということです。
事故のその後の状況も情報が錯綜し、また日が経つにつれて記憶が薄れ・自己保身を含めた証言の脚色も始まるので、すぐに現地入りしたかったのだが…ということで、一大事件を正しく記録に残したいのに残念だということです。
資金力があり「実践」をうたう集団が何もしていないで好き勝手行っている現状は、もう評価に値しませんね。
2009/12/12(土) 午後 8:52 [ 泉ヶ岳 ] 返信する