トランプ米大統領が仕掛けた「貿易戦争(正確にいえば、中国に対する高関税政策)」は世界経済の先行きに対する不安材料とされている。IMF(国際通貨基金)もこの「貿易戦争」による世界貿易の縮小を懸念し、各国の経済見通しを相次いで下方修正している(日本も例外ではないようだ)。
一方、世界の株式市場の動きは必ずしもこの懸念を共有しているとはいえない。例えば、トランプ米大統領が中国に対して最初の高関税措置を発動した6月15日以降の世界の主要株価指数をみると、その動きはまちまちである(図表1、2)。
この関税措置が発動される前日(6月14日)の株価を100として指数化すると、7月17日時点の株価は、米国(ニューヨークダウ)が99.8、日本(日経平均)が100.8となっており、日米の株価はほぼ元に戻っている(いわゆる「いってこい」の展開)。また、インド(SENSEX)は102.6となっている。
この他、株価が堅調に推移している国としては、ロシア、メキシコ(ともに約104)、カナダ(約101.5)、オーストラリア(約102)、スイス(約102)イギリス(99.9)などが挙げられる。
一方、中国(上海総合)は91.9、韓国(KOSPI)は95.6、ドイツ(DAX)は96.6と下げ幅が大きい。これに加え、アジアでは、タイ(95.5)、ベトナム(90.6)の下げ幅が大きい。ちなみにフィリピン(98.6)、インドネシア(99.1)はそれほど大きな下げではない。
トランプ米大統領の高関税政策は、世界大恐慌後の保護貿易主義に匹敵するような悪政で、世界の貿易量を急激に縮小させ、世界経済全体の成長率を大きく落としかねないという報道が連日なされているが、以上のように世界の株式市場の動きには明らかに温度差がある。
世界の投資家が本当に貿易戦争のリスクを共有しているのであれば、今頃、世界のマーケットは軒並みリスクオフモードに入っており、株価の暴落によって世界経済は大混乱に陥っていただろう。だが、実際にはそうはなってはいないのである。