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【社説】

W杯日本代表 結束し勝負に徹した

 サッカーのワールドカップ(W杯)で日本が決勝トーナメント進出を決めた。大会前は圧倒的不利が予想されたチームは、自分たちの力を謙虚な気持ちで俯瞰(ふかん)し、結束して番狂わせを起こした。

 日本の躍進はサッカー界に起こした奇跡だ。W杯前の予想では、大方の評論家や担当記者はグループリーグ三試合を0勝3敗、あるいは0勝2敗1引き分けとしていた。それを覆した原動力は、やはりチームの結束力ではないか。

 今年四月七日、日本サッカー協会は突然に日本代表監督だったハリルホジッチ氏を解任した。当時の技術委員長で後任監督に指名された西野朗氏が選手と個人面談し、その報告を受けた協会が「コミュニケーション不足」と判断したとされている。

 W杯開幕まで約二カ月と迫った時期の監督交代は、通常ならあり得ない。その上、日本の世界ランクは六十位台を前後している。世界各地の予選を突破した三十二カ国が出場する大会で白星を挙げることは難しいと評されても、チームは誰も反論できなかったのではなかろうか。

 だが、そのような当たって砕けろの気持ちが集団を生まれ変わらせることが往々にしてあるのが、スポーツの面白いところだ。

 初戦は開始直後の退場者で十人となったコロンビアが、引き分けに持ち込むより勝つことにこだわった“強者のおごり”を見せた。それに対し、日本は最後まで一人一人がチームでの自分の役割に徹して勝利をもぎ取った。

 二戦目は体格やスピードで上回るセネガルの攻撃に対し、執拗(しつよう)な守備や相手の動きを読んだパスカットで最後は精神的に相手を追い込み、引き分けに持ち込んだ。

 そしてポーランド戦は自分たちの力を冷静に分析して自力による決勝トーナメント進出を試合終盤にあきらめ、批判の声が出ることを覚悟の上で他会場の試合結果に委ねる決断を下した。

 かつてプロ野球の東京ヤクルトスワローズを率いて弱小から強豪に変貌させた名将の野村克也氏は「弱者の勝利戦略」として、選手一人一人が謙虚となってチームの目標に向かって一つとなる大切さを説いた。

 西野監督は急造態勢でW杯に臨んだチームの現状を俯瞰し、世界各国のリーグにちらばる選手たちをまとめ上げて勝負に徹するサッカーを貫いた。その手腕は称賛に値する。今後の采配に、ますます注目していきたい。

 

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