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 政府の知的財産戦略本部は2018年7月18日、「インターネット上の海賊版対策に関する検討会議(タスクフォース)」の第3回会合を開催した。アニメ業界の海賊版対策に加え、オーストラリアなど諸外国のサイトブロッキング法制について報告があった。自由討議ではブロッキング賛成派と反対派が激しく意見を応酬した。

第3回会合の様子
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3割の国や地域で海賊版ブロッキングを実施

 日本ネットワークインフォメーションセンター(JPNIC)の前村昌紀委員は会合で、各国のインターネット関連組織を対象としたアンケート結果を紹介した。このアンケートはJPNICが2018年6月下旬~7月上旬にかけ、北南米、欧州、アジア、アフリカなど49の国や地域にあるインターネット関連組織の担当者104人を対象に実施した。

 アンケート結果によると、Webサイトブロッキングを実施している国や地域は71%。導入している場合の対象コンテンツはカジノ・ギャンブルが50%でトップ、続いて著作権侵害が45%、犯罪・薬物・武器が33%、アダルト・ポルノが37%、政治的理由が28%、ヘイト・差別が21%だった。著作権侵害でサイトブロッキングを実施していると答えたのは回答者全体の約3割だったことになる。

 ブロッキングの技術的な手法はDNSブロッキングが62%、IP・プロトコルベースが41%、DPIブロッキングが9%、URLブロッキングが44%、検索エンジンからの削除が15%だった。

 「著作権侵害でブロッキングを導入している」と答えた17カ国/地域のうち、韓国、アラブ首長国連邦、台湾を除く14カ国/地域の回答者が「裁判所の執行命令が必要」と答えた。

 Webサイトブロッキングが効果的か否かについては、自由回答の主旨で「効果的」としたのが12%、「効果は限定的」は19%、「効果が無い」は69%だった。

 効果的とした理由は「人の意識に効果がある」「ドメイン名のテイクダウンよりは効果がある」「ほとんどの人はVPNを使わないから」などがあった。

 効果無しか限定的とした理由は「回避があまりにも容易(Public DNS、VPN、httpsなど)」「新しいミラーがすぐに出現する」「政府による検閲である、言論の自由や表現の自由への潜在的な脅威」「費用対効果が著しく悪い」などがあった。

「本当に一般人がブロッキングを回避するのか」

 この発表に関連して、カドカワ社長の川上量生委員が「回避策があるから(サイトブロッキングの)効果が限定的と言うが、一般人が本当にブロッキングを回避すると思うのか。この場にいるインターネット専門家に聞きたい」と問題提起した。

 これに対し、インターネットを専門とする委員は「規制を逃れる方法は、検索などで割と簡単に手に入る」(JPNICの前村委員)、「DNSブロッキングはオーバーブロッキングなどの副作用が心配」(慶応義塾大学の村井純共同座長)などの意見を表明した。

 これに対して川上委員は「その意見は極めて無責任だ。あらゆる犯罪には(防止手段の)回避策がある。いたちごっこになるのも当然のことだ。(サイトブロッキングによるアクセス抑止の)効果は確実にあるのに、なぜやろうとしないのか」と反論した。コンテンツ海外流通促進機構の後藤健郎委員も「カジュアルなユーザーや小中学生には(サイトブロッキングは)確実に効果がある。ブロッキングと共に(著作権保護に関する)教育などでフォローし、効果を高める必要があるだろう」とした。

 もう一点、自由討議で議論が紛糾したのが、4月13日に政府が決定した海賊版3サイトへの緊急措置の扱いだ。英知法律事務所の森亮二委員は、政府が名指しした3サイトからの著作権侵害コンテンツの配信がほぼ停止していることから「(緊急避難としてのサイトブロッキング実施を適当とする)緊急措置はもはやすべきではない、と検討会で示してほしい」と改めて主張した。

 これについて、委員の間で「海賊版サイトの抑止に水を差すことはすべきでない」「NTT職員は今も刑事訴追の可能性にさらされている。何らかの手は打つべき」などと議論は紛糾。慶応義塾大学の中村伊知哉共同座長はこの問題について採決はせず、挙手で委員の意見を確認するにとどめた。