和歌山市園部の自治会が開いた夏祭りで、カレーにヒ素が混入され、67人が急性ヒ素中毒に陥り、うち4人が亡くなるという凄惨な事件が発生してから、7月25日で20年になる。
容疑者として逮捕、起訴された林真須美(正しい表記は眞須美。当時37歳)は、2009年に最高裁で死刑が確定した。
しかし、彼女は逮捕当時から一貫して容疑を否認しており、有罪の決め手となったヒ素鑑定にも綻びが生じてきている。
林真須美といえば、逮捕前、自宅を取り囲む報道関係者たちにホースで放水している姿がよく知られている。笑いながら“こちら側”に放水してくるふてぶてしい態度に、嫌悪感を覚えた人も少なくなかっただろう。
あのとき彼女が着ていた黒いTシャツには、ある有名ブランドのロゴが入っていたのだが、イメージの悪化を懸念したブランド側の要請で、報道の際、ロゴの部分にぼかしが入るようになった。
拙著『「毒婦」 和歌山カレー事件 20年目の真実』の表紙写真でも、彼女は大のお気に入りだったそのTシャツを着て微笑んでいるが、ロゴはない。
彼女はなぜ、報道関係者たちに放水するという暴挙に出てしまったのだろう。真須美の夫、林健治は、当時を振り返りこう語る。
カレー事件のあと、マスコミがウチ囲んだでしょ。夜中もずっといてるから、蚊にさされたらかわいそうだと思って、キンチョール持っていってやったりしたんですよ。
それなのに、とりもちつけた棒で郵便受けから郵便抜き取ったり、塀にはしごかけて2階の子ども部屋の写真撮ったりされて。
そんとき私、体が不自由やったから、真須美に「あいつらのぼせ上がってるから、記者会見する言うて集めて、上からいっぺん頭冷やしたれ」て命令したんですよ。
以来、真須美といえば、あの放水の「絵」が使われるでしょ。いかにもカレーに毒入れそうなおばはんの「絵」ですよね。
夫婦は逮捕される10月4日までの約2ヵ月間、前例のないメディアスクラム(集団的過熱取材)にさらされた。
子どもたち(当時長女が中3、次女が中2、長男が小5、三女が保育園年中)も記者たちに囲まれてしまうので、夏休みが終わっても登校できなかった。
そのため、和歌山市教育委員会が子どもたちの登下校を妨害しないよう求める文書を報道関係者に配布するという異例の事態となった。
なお、このとき健治の「体が不自由やった」のは、保険金を詐取するためにヒ素を飲み、多発性神経炎を発症していたからである。
健治は、かつてヒ素を扱う白アリ駆除会社を経営しており、廃業後もヒ素を所持していた。
そして、カレー事件の10年ほど前から、ヒ素を用いるなどして、夫婦で保険金詐欺を繰り返していた。詐取した金額は8億円に上る。