韓国の仮想通貨交換業者大手ビッサム(Bithumb)の幹部は先月、何か不穏なものを感じていた。
競合相手が6月にハッカー攻撃を受けて以降、ビッサムでもログイン失敗や不正アクセスの形跡が増えていたと関係者は明かす。同社は大規模な点検作業を行うためにセキュリティー担当者を増員し、オフライン環境で保管する仮想通貨を増やすなどの対策を講じた。
だが、それだけでは不十分だった。6月19日、ビッサムはサイバー攻撃を受けて、ビットコインなど推定3000万ドル(約33億7000万円)の仮想通貨が盗まれたと明らかにした。それ以降、一部は取り戻し、被害額を推定1700万ドルまで引き下げた。
英金融サービス分析会社オートノマス・リサーチの分析によると、2011年以降、仮想通貨交換業者や仮想通貨技術を使った資金調達(ICO)、その他の仮想通貨プラットフォームを狙ったサイバー攻撃が、世界で56件発生した。ハッカー攻撃に絡む損失額は合計で推定16億3000万ドルだ。特に大きな被害を受けたのは日本の交換業者で、2014年にマウントゴックス、今年1月にはコインチェックが攻撃された。直近では7月9日、イスラエルのプラットフォーム「バンコール(Bancor)」から2350万ドル相当の仮想通貨が盗まれる事件が発生した。
ハッカー攻撃の増加は、仮想通貨およびその売買プラットフォームがいかに脆弱(ぜいじゃく)かを物語っており、不正や緩い規制を巡る投資家の懸念を強めている。
ハッカー攻撃は、仮想通貨の売買が活発なアジアに集中している。今年起こったハッカー攻撃7件のうち4件がアジアで発生。計8億ドル以上の仮想通貨が盗まれており、すでにこれまでの通年の最高記録を超えた。
株式取引所では、証券の売買は手掛けても、投資家に代わって証券を保管することはしない。だが仮想通貨交換業者の場合、多くは売買手数料を課すとともに、顧客のために仮想通貨の保管も行う。そのため仮想通貨交換業者はハッカーにとって「いいカモ」だとアナリストは指摘する。不正侵入に成功したハッカーはまるで銀行強盗のように、現金化可能な多くの仮想通貨を手に入れることができるという。
サイバーセキュリティー会社BLAKFXのロバート・スタティカ社長は、仮想通貨交換業者への「攻撃は容易で、ハッカーは最小限の手間と費用で最大のリターンが得られる」と話す。
サイバー攻撃の急増を受けて、投資家心理は冷え込んでいる。年初から大きく売られたビットコインは、ビッサムの事件を受けてさらに下落。直近では6300ドル前後と、年初来の安値圏にあり、昨年12月につけた最高値の2万ドル近い水準から大きく下げている。