「資産運用は始める時期が早いほどいい!」と言われています。そのおもな理由がこちら。
- まだ手持ちの資金が少なくても、少額の積立投資を長期的に続けることで大きな資産を形成できる
- 運用資金が減っても、回復のための時間(余裕)があるのでリターンの高い投資に挑戦しやすい
20代という若さを最大限に活かすには、具体的にどういった資産運用がいいのでしょうか。ファイナンシャルプランナーの久保田正広先生に聞いてみました!
若さを活かせるのは「長期投資」
若い=運用資金がない、投資経験もない。そんな20代が「若さ」を最大限に活かすための運用方法が「長期投資」です。
たとえば、20歳から定年までの40年間、貯金と投資それぞれのやり方で月1万円もしくは3万円ずつ運用した場合、それぞれの結果がこちらです。
利率 | 1万円 | 3万円 |
---|---|---|
0% | 480万円 | 1,440万円 |
0.1%(銀行口座に預金) | 489万円 | 1,469万円 |
1.0%(投資で1%運用できた場合) | 589万円 | 1,769万円 |
3.0%(投資で3%運用できた場合) | 962万円 | 2,778万円 |
ちなみに、30年続けた場合がこちらです。
利率 | 1万円 | 3万円 |
---|---|---|
0% | 360万円 | 1,080万円 |
0.1%(銀行口座に預金) | 365万円 | 1,096万円 |
1.0%(投資で1%運用できた場合) | 419万円 | 1,258万円 |
3.0%(投資で3%運用できた場合) | 582万円 | 1,748万円 |
運用期間によってリターン率に差が出る!
今の低金利下では、銀行に預けているだけではほとんど利息がつきません。また、今後のインフレ基調を考えると、物価の値上がりを下回った運用になってしまい、実質的に資産価値が目減りすることになってしまいます。
そこで、毎月3万円の積立投資を仮に40年(25~65歳の間)行った場合。3%で運用できたとすると、1,440万円の投資額が2,778万円と約2倍になっています。同じく、3%で30年(35~65歳)の積立では1,780万円と、40年間運用した場合に比べて1,000万円ほど少なくなります。期間が短い積立なので少なくなるのは当たり前ですが、注目したいのは、投資額に対するリターン率です。
30年間の運用では1,748万円の資産が形成されるため、投資額は1,080万円で1.6倍に増えています。しかし、40年間の運用の2倍に比べて率が落ちています。同じ3%ですが、運用期間によってこれほどにもリターン率に差が出るのです。
3%という利回りは多い?
ここで提示している「3%」とは、年利です。投下資金が1年後に3%増えることになります。しかし、株式であれば1日で3%の値動きはいくらでもあります。つまり、1年で2倍になることもあれば、逆に半分になってしまうこともあります。
久保田正広先生(以下、久保田先生)「過去数10年単位の実績からみて、投資の世界で安定して長期にわたって3%をたたきだすことは、年金や保険会社ような機関投資家が目指す利回りのレベルに合致してきます。投資の目的が自分の年金対策のような遠い将来、準備する必要があるものの場合、マイナスでなく確実にプラスで3%を目指すという目標設定は利にかなっています」
おすすめなのが「長期+分散投資」
投資にはリスクがつきものです。投資と言えば、株式投資をイメージし、自分が知っている優良企業の株式を1つ買うというパータンも少なくありません。しかし、そのやり方は実はとてもリスクが高かったりします。今は大企業でも倒産する時代です。「安心して買った」はずの銘柄が短期間で何割も値下がりすることはよくあります。
そういったリスクを回避しながら、かつ「若さ」を活かす方法としておすすめなのが「長期投資」に「分散投資」を加える方法です。分散投資では、おもに以下のメリットがあります。
- 不測の事態など、リスクを回避して資産を守ることができる
- 集中投資に比べて結果的に高い運用成果を期待できる
どんなに良さそうに見える投資対象でも100%大丈夫とは誰も保証してくれません。過去に起きた数え切れない不測の事態によって、プロでも大きな損失をうけています。
投資の世界では「卵は1つのカゴに盛るな」という格言があります。分散するとリスク回避できる一方でリターンが下がってしまうのではないかと懸念されますが、ハイリスクの集中投資よりも分散の方が結果的にいい成果につながります。
久保田先生「長期分散投資は運用のプロでも実践している伝統的な手法です。過去の実績から見ても、投資分散のほうが高いトータルリターンを出しています。一攫千金を狙うのであれば1点買いの方が効率的ですが、それはもう投資ではなく『投機』または『ギャンブル』です」
「分散投資」を始めるときのポイント
4つのアセットクラスをバランスよく組み合わせる
分散投資では、やみくもにいろんな銘柄を組み合わせればいいわけではありません。同じような値動きをする銘柄に複数投資しても、リスクを減らす効果は限定的です。
分散投資では、値動きやリスクの質が違うものを組み合わせる必要があります。たとえば、株式を複数銘柄購入するのではなく、債券(国債や社債)にも同時に投資します。また、その株式や債券を国内・海外に分散させることで以下のような4つのグループに分けることができます。
- 国内株式
- 国内債券
- 海外株式
- 海外債券
上記それぞれのグループを「アセットクラス」といいます。
同じアセットクラスに入る銘柄は、同じような値動きやリスクを持っています。そのため、あなたの運用資金が特定のアセットクラスに偏っていると、何かあったとき、ダメージが大きくなってしまうことがあります。分散投資では、アセットクラスのバランスをいかに考慮するかが重要です。
久保田先生「歴史的にみても『資金をどのアセットクラスにどれだけ振り分けるかが、収益の8~9割を決める』と言われています。つまりどの地域のどの資産(株・債券)に配分していく作業(為替相場も考慮しながら)、これが勝敗の鍵を握っているということです。もちろんそれぞれのアセットクラスの中で分散投資ができていなければなりません」
ローコストで分散を実現するため、投資信託を利用する
現実問題として、分散投資を実践しようとすると非常に手間暇(=コスト)がかかります。一銘柄の選定はもちろん、複数銘柄の購入手続きだけでもけっこうな時間を必要とします。
また、株式投資であれば最低購入額が1銘柄で10万円を超えることは珍しくありません。こうなると1万円から運用を始めたいと考えている人にとってはもう無理となってしまいます。
こういったコストを省き、最低購入額の壁をクリアして分散を実現させるためにも、投資信託を利用しましょう。投資信託は、多くの投資家から少しずつ資金を集めて大きなファンドにし、複数の銘柄に分散投資してくれます。
ただし、投資信託を選ぶときは以下のポイントに注意しましょう。
- 過去の実績や残高、人気ランキングだけで決めない
- あくまでも、どのアセットクラスにどんな配分がされているかに注目する
久保田先生「アセットクラス配分の重みとは逆に各銘柄の選択はリターンの1~2割程度しか影響がないと言われています。もちろん銘柄選びも大切なのですが、そこは投資信託のような専門家に委ねて、アセットクラス配分に投資にかける体力の8~9割を費やすという考えがあります。これだけでも結構大変な作業です!」
購入後はしばらく「放置」してもいいくらいの気持ちで
長期投資では、購入後は基本的に「放置」する程の心構えがちょうどいいです。仕事中まで株価のチェックをして一喜一憂していては本末転倒になりかねません。特に毎月1万円のように積立式で投資信託を購入する場合は、一度に1,000万円を投資するのと違い、値下がりする時期は安く株が買えるメリットを期待できます。
このように定期的に一定額の少額投資をして平均購入額を下げる方法を「ドル・コスト平均法」と言います。この方法は値下がりをむしろ歓迎するくらいの気持ちの余裕が持てます。一方、一度に多額の投資をする場合は、一定の値下がりが生じたら損切りするラインを予め決めておくという方法もあります。しかし、個人ではこれがなかなかできないものです。
だからこそ半年に1回程度、アセットクラスのバランスをチェックします。もし特定のアセットクラスに大きな増減があれば、当初立てた配分方針にのっとってバランスを調整し直すなどしましょう。これを「リバランス」と言います。
久保田先生「100万円とか1,000万円のように自分の資産の多くの割合を一度に投資する場合は、積立に比べて高値でつかんでしまったり、投資後に市場の変化を気にする必要があります。長期投資というスタンスに立って、一喜一憂しない程度の投資額に抑えて値上がりの回復を気長に待つ余裕がほしいところです」
「長期+分散投資」をスタートさせてからのポイント
投資によるリスクやリターンと自身のライフプランの関係をゴルフに例えられることはよくあります。
ここでは、分散投資をスタートさせてからの流れやポイントをゴルフに例えながらご紹介します。
20代~の運用ポイント
20代の多くが、まだ資産が少ない状態です。そんな人が少ない資産を増やすには、安定的な債券に比べて、リスクは高くてもハイリターンな株式の配分を多くします。
ゴルフを人生(ライフプラン)で例えてみると、ティーショットでドライバーを使って遠くまでボールを飛ばすイメージです。池ポチャやOBのリスクはありますが、若さの特権である「時間」を味方につけて、値下がりした投資対象が再び値上がりしてくるのを待つ(リカバリーショットを打つ)ことができます。
40代~の運用ポイント
40代になると、定年退職(=ゴルフではグリーン)を意識します。クラブをアイアンに持ち替えて、正確にグリーンに乗せることがポイントになります。つまり値動きの激しい株式の比率を抑えて安定的な債券の割合を増やします。これで、バランスをとってコントロールしやすくなります。ここでは20代のころのように思い切った冒険をせず、あくまでも「確実性」を重視して運用することが大切です。
退職のころには、グリーンに乗ったボールをホールに向けて、パターで正確に打ち込む必要があります。ここでドライバーを握ってしまうことが少なくないので注意が必要です。
久保田先生「アセットクラス配分の基準はライフプランだけではありません。実際には収入や支出、投資以外の資産の状況、リスク許容度、投資経験などあらゆる視点から考えて選択する必要があります」
注意点
投資してすぐに売却←手数料を回収できない!
投資信託の購入には必ず「買付手数料」「信託報酬」という手数料がかかります。中でもわりとかかるのが、買付手数料です。
「投資したけど、入用になった!」などの理由ですぐに投資信託を売却すると、手数料を取り戻す間もなくやめてしまうことになります。結果、損することになります。
久保田先生「こういった観点からも長期投資の方が理にかなっていることになります。また手数料も投資信託によってばらつきがあるのですが、手数料の大小だけで選択するのは禁物です。手数料以上のメリットがあるかの見極めの方が大切ということです」
「投資での大成功談」←見習うと失敗する可能性がある!
ここ2年ほどはアベノミクスの影響もあり、たいていの運用がうまくいきました。こういうタイミングだからこそ注意すべきなのが、周囲の成功事例を鵜呑みにしないことです。
特に今の20代は、バブル崩壊やリーマン・ショックといった暴落の経験がありません。周りに転がっているような成功事例を鵜呑みにしないように注意してください。
お話を伺ったのは、こちら!
久保田正広さん
ファイナンシャルプランナー。株式会社FPバンク代表。高校生・大学生の男の子を持つパパでもある。「長期分散は投資の基本です。しかし、基本ができていないために失敗している人が少なくありません。まずは先人の知恵に習うのが大切です」と久保田先生。
(image by amanaimages)
(ライター・福岡夏樹)