俺は超越者(オーバーロード)だった件 作:コヘヘ
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「時と世界を超えた邂逅というわけか…モモン!!」
『魔王』が叫ぶ。
見た目は『エルダーリッチ』のようだが、全く違う。
あれは『神』というべき存在だ。
『覇者』のオーラが放たれる。
数百メートルは離れている自分達ですら跪きかけない。
「ありえない邂逅に『神』に感謝すべきかな?
神を超えた超越者(オーバーロード)!『魔王』アインズ・ウール・ゴウン!!」
俺たちが憧れた『英雄』はいつものように二本の漆黒のグレートソードを両手に持ち、言い放つ。
そのしばらく離れたところで、もう一人の『英雄』が戦う。『怪物』と。
「ナーベラル・ガンマと言ったかしら…不快なのよ。ええ、とても不快」
紫色の全身鎧の女騎士は静かにしかし、不快感を隠さない。
圧倒的強者。『怪物』のオーラ。
格が違い過ぎて何も感じられない。
ただ、体の底から凍り付くような声が『格』の違いを教えてくれる。
「…御心のままに、御身のために。そのためには全て捧げましょう!」
その圧力を、マジックキャスターであるナーベ嬢が、
否、ナーベラル・ガンマ嬢の感じるプレッシャーはいかほどか。
だが、俺たちは知っている。
彼女が俺たちを遥かに超越する戦士であり、神の魔法を使う存在だということを
俺、ミスリル冒険者チーム『クラルグラ』のイグヴァルジと『虹』のモックナックは死ぬ覚悟で戦いを見守る。
自分から参加した神官、森神官、戦士、野伏達も同様だ。皆一人でも生き残れば良いと思っている。
あの『魔王』の配下が俺たちを取り囲むように、魔法で防御をしていると知っていても、だ。
子供のころ憧れた。しかし、遠い『英雄』の姿を俺は…
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「まず、はっきり言いましょう。私、いや、私達ではかの『王』に絶対勝てません」
衝撃的なことを言う漆黒の英雄。
信じられずに皆、呆然とする。
だが、冒険者組合長の私、いや俺は言う。
「では、何故挑むというのか?モモン君、君は人類の宝だ」
人類の宝というのは本当だ。
だが、無謀を承知でこの街の恩人が死地に向かうことを承知できる者はいるだろうか。
「そ、そうだモモン君やめるんだ!」
都市長も同様の気持ちなのだろう。
演技力の塊のようなお方が、焦りの気持ちが、露骨に出ている。
「な、ナーベ嬢?否、ナーベラル・ガンマ嬢。第十位階というのは…」
我が友であるはずのラケシルは壊れた。無視する。
「私はかつて彼の『王』に二度負けています。
しかし、生かして返されました。
その際、約束したのです。いつかまた戦おうと」
わからない。これが『英雄』の思考とでも言うのか。
彼の『王』とは何者なのか。
疑問を感じ取ったのだろう。『英雄』は言う。
かつてこの世全ての財を手にしたという『魔王』の話を。
私達も知る『御伽噺』を。存在したという神々の話を。
そして、『他の世界』の存在を。
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「「では、いくぞ!」」
『魔王』と『英雄』は金色の剣と漆黒の剣を振るう、ぶつかる、響き渡る。
いつまでも続くと思われたそれは突如、中断された。
「はぁ!」
後ろに飛ぶ『魔王』。一瞬意味がわからない。
だが、すぐわかる。
「あれは…わからない!だが、ありえない。なんだ!神聖な炎の気配は!」
神官が壊れたように叫ぶ。
どう見てもアンデッドなら、使えるはずがない魔法ということはわかるからだ。
「神炎(ウリエル)!」
詠唱を破棄したそれは神々しさを感じさせ、膨大な炎は、漆黒の英雄を包み込もうとする。
「ぬん!」
『英雄』は山の一部をひっくり返して壁を作り、炎を防ぐ。
だが、その好機を『魔王』は許さない。
「な、なんだ!?あれは、詳細は、わからないが森神官の信仰系だぞ!」
魔法の気配を察した森神官は叫ぶ。
神官が叫んでも理解できなかったことが自身に関わる魔法でようやく理解できたのだろう。
「大溶岩流(ストリーム・オブ・ラヴァ)!」
溶岩が壁を溶解させて『英雄』を飲み込む。そうに違いない。
だが、本物の御伽噺の『英雄』は不可能を可能にする。
「ふっ!」
全力で壁を吹き飛ばし溶岩ごと一時足止めし、勢いに任せて横へ飛ぶ。
「あまいわ!」
『魔王』はそれを予測していたように金色の剣で横なぎに切りかかる。
「ぬん!」
だが、剣士としては『英雄』が上、たたら踏みになりながらも防ぎ切り、そして
「四方八方!」
聞いたこともない技が、連続の斬撃が繰り出される。
「ちぃ!核爆発(ニュークリアブラスト)」
斬撃ごと全てを吹き飛ばす。凄まじい白き閃光、そして爆発。
だが、それは『魔王』自身も吹き飛ばす。
「ウォーミングアップは痛みわけかな?」
『魔王』が信じられないことを言い出す。
あれで二人とも本気でないというのか。
「…割と本気で決めるつもりだったのにな」
『英雄』は苦笑する。だが、まだ余力がありそうなことに俺達は驚く。
「知っているが、前のお前が使える技ではなかったな。成長したようで何より」
『魔王』は本気で『英雄』の成長を喜んでいるように褒めたたえる。
「奥の手の一つだったのだがな。魔法戦に持ち込まれれば負ける。
だから短期で勝ちたかった」
『英雄』はちっとも喜ばない。褒められたことより悔しさが滲み出ている。
だが、
「魔法三重化・連鎖する龍雷(トリプレットマジック・チェイン・ドラゴン・ライトニング)!」
三匹の龍を彷彿とさせる白い雷撃が、『怪物』の全身を龍が巻きつくように覆い焼き尽くそうと迫る。
「ウォールズ・オブ・ジェリコ!」
完全に三匹の白い龍の雷撃が消え去る。
戦士モモンとの闘いにも引けを取らない攻防が、『魔王』と『英雄』を入れ替えたような戦いが繰り広げられている。
「全体防御とは…戦いにくい」
ナーベラル嬢は憎々しい言葉を発しながらどことなく敬意ある含みを言葉に感じる。
「くぅぅぅ!とっとと斬られなさい!」
『怪物』はそれが気に入らないのか、凄まじい勢いで巨大な斧頭を振り下ろす。
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永遠に続くと思われた戦い。
結論から言う。認めたくないが、俺達の『英雄』が負けた。
最初の言葉通り。
「止めを今度こそ刺すか?」
漆黒の鎧はズタズタで体中、血だらけだ。
「よっしゃああああ!」
『怪物』は雰囲気を無視して勝利の雄たけびを上げる。
見れば、ナーベラル嬢はもはや立つ気力すらないらしく膝をついている。
四人全てがギリギリの攻防を繰り広げていた。
だから、『敵』ながらわからなくもない。
だが、それが、
「騒々しい静かにせよ!!」
『魔王』の逆鱗に触れたらしい。
「申し訳ございません!アインズ様!」
全身全霊で『怪物』は謝罪する。
自害しそうな勢いを感じる。
「で、何だったか?」
戦士モモンは呆れたように『魔王』に問いかける。
「…山を見よ」
そういう山々は、戦う前の立派なものから更地に近くなっている。
それに怒りを感じたのだろう。
だが、次の瞬間俺達は絶句する。
「山が元に!」「ありえない魔法か!?」「そんな馬鹿な!」
ついて来た仲間達は叫ぶ。異常な光景に。
「これぞ我が力。つまりまだお前は弱い」
『魔王』の言葉に俺達は絶望する。
だが、『英雄』は違った。
「まだだ、まだ強くなれる…糞が!」
悔しんでいる。信じられない。ありえない。
だが、だからこそ俺達の『英雄』なのだと誇りに思う。
「だからこそだ。モモン。我が配下となれ」
そう言って『魔王』は指を鳴らす。
するとそこに現れたのは、
凍えるような蟲の戦士、鮮血の戦乙女、奈落を思わせる炎のスライム等々。
凄まじい。神話の戦士、怪物達。
全てが超級の強さ、それこそ『英雄』モモンを感じさせるような。
「我が配下には貴様と並ぶ数多くの戦士がいる」
『魔王』は絶望的な言葉を告げる。
「だから、『神』を復活させた今、お前のような『英雄』を望む」
仰々しい仕草で手を差し伸べる。
「何のために?」
当たり前の質問を戦士モモンは問いかける。
不要ではないかと。
「決まっている世界平和だ」
『魔王』は当たり前のように似合わぬことを告げる。
「一体何者なんだ…?」
俺はわけのわからない光景に思わずつぶやく。
小さな呟きは以外と大きいものだったらしい。
『魔王』は告げる。
「我が名はアインズ・ウール・ゴウン。
かつてこの世全ての財を手に入れ、九つの世界を救おうとして夢破れた『魔王』である!」
『英雄』から話を聞いていた。
だが、俺達が聞いていた昔話、『御伽噺』の誰もが知っている『魔王』が現実にいた。
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『しばらく前』
ツアーの住んでいる洞窟で、皆落ち着いてから三人で話合うことになっていた。
法国からスルメさんが帰って来たとメッセージが届き、俺は洞窟へ向かった。
スルメさんは、かつての国や従者に諸事情を説明してきたという。
「かつて、『魔王』モモンガ様のお話は私が伝えていました」
大分変っていましたが、と悲しそうに報告する。
『死神』として誰かが気づくように残していたが、人類に取って都合の良い『御伽噺』になっていたという。
まだ転移してから一月程しか経ってない。
流石に『御伽噺』まで調べていない。陽光聖典から『御伽噺』を聞く発想がなかった。
神話というより子供達の寝物語というそれ。
あっても、わからない。少なくともナザリックNPC達では。
俺はひらめく。
「なあ、これ使えないか?『九つの世界を救おうとした魔王の話』」
「というと…どういうことだいモモンガ?」
ツアーは当然の疑問を抱く。
だから答える。
「これを利用してユグドラシルから脅威が来ることを伝えれば良い。
もし、八欲王の時に慢心せずに、知っていれば勝てたんだろう?
今後百年間この世界が対策すれば、俺がいる。
絶対、二度とスルメさんのような悲劇は起きない」
ついでにナザリックが善人ですよアピールになる。
「賛成だ。…しかし、私はちょっと難しいかな、『議員』だし」
ツアーは自分の立場との葛藤をしている。
無理もなく無意味な恐怖を民衆は感じることになる。
だが、それでも話をこれまでの歴史全てを聞いた俺は、早いうちに公表すべきだと思う。
「フハハハハ!…ハハハ!」
スルメさんは笑いだす。精神鎮静化されているはずなのに何回も。
「流石は我が盟主!我らの魔王様!ええ、全力でやるべきでしょう!」
全力で肯定された。いいのか『神』が恐怖を与え…あっ『死神』か。
「この蜥蜴は相変わらずの臆病者よ!」
全力でツアーを煽りだす。ノリノリでスキップして周りを取り囲む。
無詠唱化で幻術まで使って何人ものスルメさんがツアーを取り囲む。
うわぁ…
「…うん。わかったよ。覚悟を決めた」
何て心の広い竜なんだ。俺がやられたら魔法ぶち込みかねない。
「では、二人して全力で煽ってよ。私は裏から広報活動するから」
ニヤリと笑って全部俺達に押し付ける竜。
あの糞『エレア』をふと思い出した。