俺は超越者(オーバーロード)だった件 作:コヘヘ
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中火月(八月)初旬
冒険者組合の組合長の部屋において、
本来ここにいるはずがないエ・ランテル都市長パナソレイ・グルーゼ・デイ・レッテンマイアが来ていた。
冒険者組合長プルトン・アインザックと魔術師組合長テオ・ラケシルの三人で話し合う。
これから呼ばれる冒険者チーム『漆黒』について話し合うためだ。
新しくアダマンタイト級冒険者になった『漆黒』。
これだけでも人類に関わる大きな問題で話し合われるのも当然かもしれない。
だが、この二人はただのアダマンタイト級冒険者ではない。
圧倒的。エ・ランテルにおいては、世界最強と言われても納得するほどの傑物だからだ。
まず、冒険者組合に所属してわずか四日目で秘密結社ズーラーノーンの12高弟の二人を捕縛した。
それも全てのマジックアイテムを使用できるタレント持ち、この都市随一の薬師の孫『ンフィーレア・バレアレ』を護衛しながらだ。
銀級冒険者チーム『漆黒の剣』の素早い報告もあり、他のズーラーノーン所属の部下達を捕らえることに成功。
結果、恐ろしい冒涜的な計画の全容がわかった。
スレイン法国から盗み出したという『叡者の額冠(えいじゃのがっかん)』を用いてンフィーレア少年を文字通り道具として使う。
第7位階魔法『不死の軍勢(アンデス・アーミー)』で千を超えるアンデッドの軍勢を召喚しエ・ランテルを死の都市に変える。
そんな、恐ろしい魔法儀式を行う予定だったことが判明した。
『叡者の額冠』の他に『死の宝珠』というアイテムもあったらしいが、消息不明だ。
しかし、この事件でエ・ランテルを救った大英雄『漆黒』だが、
発生を未然に防いでしまったせいで正当な評価を与えられなかった。
白金(プラチナ)のプレートしか与えられなかったのは今でも皆後悔している。
次に『死を撒く剣団』の討伐。総員70人弱の傭兵団さらにブレイン・アングラウスまでいた。
王国戦士長ガゼフ・ストロノーフと互角に戦ったブレイン・アングラウスが、だ。
これは傭兵団の偵察を依頼された冒険者が文字通り死と引き換えに齎した情報だった。
漆黒の戦士モモンが鉄級冒険者ブリタに与えたという高位の回復効果の赤いポーションがなければ、
緊急時撤退予定の野伏(レンジャー)が報告した全滅しかわからなかった。
致命傷を負ったブリタ嬢が瀕死の状況で、仲間の死体の中で何とか飲み込んだというそのポーションがなければ。
戦士モモンはブリタ嬢の話を聞き激怒。『死を撒く剣団』を、ナーベ嬢を供とし襲撃した。
結果、傭兵団は壊滅、傭兵団のリーダーとブレイン・アングラウスを捕獲してきた。
凄まじい戦果で、オリハルコン贈呈も考えられた。
しかし、独断専行であったこと。
ミスリル級冒険者チーム『クラルグラ』のリーダーであるイグヴァルジの猛反発もあり、処罰しない代わりに昇進もなしとなった。
戦士モモンは、
「クラルグラのリーダーであるイグヴァルジ殿の言う通り。
寧ろ処罰覚悟で突貫してしまったのに寛大な処置に感謝する」
と言う人格面でも優れた面を示した。
イグヴァルジの立場が悪くなるとわざわざ戦士モモンから歩み寄る程だった。
イグヴァルジも自らを恥じ、それ以降戦士モモンを崇拝に近い尊敬を抱くようになったという。
他にも護衛任務中に遭遇したギガントバジリスクの討伐、カッツェ平野から流れ込んできたアンデッド師団を滅ぼした。
森の賢王(現名ハムスケ)を従え、森の賢王に匹敵する東の巨人の討伐する等偉業を成し遂げた。
冒険者プレートもその都度上がっていった。ミスリル級冒険者『虹』と『クラルグラ』、『天狼』を追い越し、オリハルコンになったが誰も嫉妬しなかった。
寧ろ、アダマンタイトにしろと『虹』のモックナックと『クラルグラ』イグヴァルジが連名で組合に文句を言ってくるくらいだった。
その後も、北上してきたゴブリン部族連合の殲滅やトブの大森林での超希少薬草採取。
ついに冒険者の最高峰アダマンタイト級冒険者になった。
しかし、『漆黒』はそのことを喜ばず、心ここにあらずという感じなのだ。
いや、正確には喜んだ。
法国の『死の神』スルシャーナの復活及び一時鎖国宣言を聞くまでは。
「モモン君は法国の人間かスルシャーナ信仰者なのだろうか」
都市長パナソレイはいつもの抜けた男を演じず、真剣な面持ちで言う。
全身を漆黒で纏い、『漆黒』という呼び名で通る彼らならありうると思ったからだ。
しかし、冒険者組合長アインザックがそれを否定する。
「彼らは、自分達は南方から来たと言ってました。
実際の容姿も南方出身者特有のものです」
「では、何故だ?神の復活を聞いてからおかしくなったのは確かなんだろう?」
魔術師組合長テオ・ラケシルは確認する。
あらゆる証言が、彼らがおかしくなったのはその報告を聞いてからだと言っている。
沈黙が場を支配する。
その折り、
「アダマンタイト級冒険者『漆黒』がお見えになりました」
冒険者組合職員から来訪の知らせが届く。
この際、直接聞いてみよう。今回集まった三人はその予定だった。
「…すみません。どうしても、確証いくまで答えられません」
戦士モモンがそう言い謝る。魔術師のナーベは沈黙する。
偉大な英雄が周りに常にそう言っていたのは知っている。
だが、もはや彼らは人類の宝。何かあったら人類の大きな損失だ。
だから、彼らの気に障られても尋ねよう。そう覚悟したときだった。
「ほ、報告が重大な報告が!」
これ以上ない焦りの声が部屋の中で響き渡る。
「どうした!何事だ!」
アインザックは事前に、
余程の緊急事態でなければ絶対部屋に近づくことすら許していなかった。
『漆黒』を招く以外で報告がある。
それは非常事態だ。
この都市を代表する三人はそのことをわかっているので話を黙って促す。
「か、カッツェ平原に巨大な山脈が出現!
このエ・ランテルからですら観測できるほどの山脈がです!」
異常事態だ。
どうするか対応を考えようとした時、
「…くくく、あはは!ハハハハハハ!!」
戦士モモンが笑いだしたのだ。
こんな俗物的な笑いを上げるモモンを誰も見たことがない。
「…申し訳ありません。都市長殿、冒険者組合長殿、魔術師組合長殿」
戦士モモンが一瞬の沈黙の後、全身全霊で謝る。
だが、それどころではない。
「も、モモン君。ひょっとしてこの件について心当たりが?」
代表してアインザックがモモンに尋ねる。異様な反応。俗物的な笑い声。
知っているに違いない。
「ええ、ついに、ついについに確信しました!」
大振りなまるで役者のごとく興奮した面持ちのモモン。
誰もが唖然とし、反応できない。
だが、モモンは話すのをやめない。
「数百年前の『神』の復活など、そのような真似はあの『魔王』しかありえない。
さらにいきなり山脈の出現?あいつしか絶対ありえない!
絶対、絶対有り得ない!ナーベ、いやナーベラル・ガンマ!」
モモンは全力で肯定する。知っていると。
だが、次にナーベ嬢が偽名らしい問題発言よりも、
さらに凄まじいことを言い出した。
「第十位階魔法の使用を許可する。
いくぞ!三度目の『魔王』との闘いへ!!」
ナーベ嬢に隠し玉があることは知っていた。
だが、神の魔法の存在をぶちまけた。