俺は超越者(オーバーロード)だった件 作:コヘヘ
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神官長会議には、今回特別に漆黒聖典も集められていた。
今回の議題は漆黒聖典の裏切り者についてだからだ。
「漆黒聖典元第九席次クレマンティーヌが捕縛されたぁ!?」
信じられないとクレマンティーヌの兄、クアイエッセ・ハゼイア・クインティアが叫ぶ。
無理もない。
敬虔な『死の神』スルシャーナの信徒であり、
漆黒聖典第五席次『一人師団』である彼は妹の凶行を止めるべく、暇さえあれば情報を集めていた。
それはこの会議に参加しているもの全てが知っている。
「失礼いたしました!」
第一次席は今回、漆黒聖典に関することなので特別に集められたと知っている。
故に全身全霊を込めて謝罪する。
「以後、気をつけるように」
最高神官長はそれだけ言うと報告を続けるよう促す。
「王国の都市エ・ランテルにて、
冒険者の戦士モモンとマジックキャスターのナーベという二人組が、
ズーラノーンの12高弟の1人、カジット・デイル・バダンテールと共に捕縛したそうです」
温厚そうな、しかし苛烈に数多の異種族を殺してきた老聖戦士、風の神官長ドミニク・イーレ・パルトゥーシュは事実を淡々と告げる。
「誰だ?」「聞いたことがない」「知らんな」
最高神官長含む神官長達が互いに確認する。
「プレートは銅、入ったばかりの新人だそうです」
その反応を一通り聞いた後、風の神官長ドミニクは続ける。
「ありえん。偽名の可能性は?」
この場にいる最高齢である水の神官長ジネディーヌ・デラン・グェルフィが疑問を述べる。
「ありません。さらに言えば、その二人が襲う予定だった護衛を守りながら捕縛したそうです」
風の神官長ドミニクは淡々と続ける。六色聖典のまとめ役だけあって感情が読み取れない。
「…百年の波か?」
最高神官長はもうそろそろ『あの頃』だと知っている。
だから疑問の声を出す。
「いや、ぷれいやーの子孫という線もあります」
最も若い40代の土の神官長レイモン・ザーク・ローランサンは言う。
元漆黒聖典として十五年以上働いて来た彼はそういう強者がいることも知っていた。
「神の血かしら?」
唯一の五十台の女性、慈母を思わせる火の神官長ベレニス・ナグア・サンティニが疑問を述べる。
沈黙が会議の場を支配する。最もこれは思考の沈黙だ。すぐに戻る。
はずだった。
「うぁぁぁああああああ!」
漆黒聖典第十一席次『占星千里』が突如叫ぶ。
「神聖な会議の場で静かにしろ!」
土の神官長レイモンが騒がしいと遮る。元漆黒聖典ということもあり醜態に怒ったのだろう。
「いや、待て…どうした!何があった?」
風の神官長ドミニクは知っている。
漆黒聖典第十一席次『占星千里』彼女のタレントを。
『占星千里』はタレントで予言。鍛えた能力で様々な探知・感知ができる特殊な人材だ。モンスター等の教養も深い。
破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)の予言のせいで現在、信用を落としているがそれでも彼女の能力は価値がある。
「か、神が…『死の神』スルシャーナ様が復活されました!!」
信じられないという顔でだが、『占星千里』はそれが真実だと告げていた。
誰も信じたいが信じられない。そんな中で一人だけ心を震わせた男がいた。
「おお…」
クレマンティーヌの兄、クアイエッセだ。彼の神スルシャーナへの信仰はもはや狂信を超える狂信者として有名だった。
「大罪を犯せし者たちによって放逐されたなど偽りの伝承だったのですね!」
故に彼は歓喜する。全身全霊で。
会議に出席していた第一次席はこれらのやりとりをただ呆然と失態の謝罪もできずに眺めていることしかできなかった。