俺は超越者(オーバーロード)だった件 作:コヘヘ
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「ふぅ…ふぅ…」
一番死にそうにない男が目の前で死にかけている。
息も絶え絶えでいつ死んでもおかしくない。
「友よ…」
寿命だ。生きとし生ける者皆死ぬ。当たり前の営み。
だが、苦難を共にした最後の仲間が今、逝く。
「ふふふ。…『死神』が死を嘆くとは…スルシャーナいや、『スルメ』」
私の『真名』を呼べる目の前の『エレア』はニヤリと笑う。
仲間達は皆、全力で生き抜いた。わざわざ人になり死した『天使』もいた。
「すまぬ。わが友よ…だが、私の、最後の苦楽を共にした仲間が逝く。
それだけは…悲しいのだ」
『死神』としてあるまじき姿勢。
だが、国を守護する存在としてのこれからの孤独を考えると辛い。
例え自分が選んだ道だとしても。
「ハハハ!…だが、数百年すればきっと会えるさ」
彼が励ますように笑う。どちらが見送る側かを忘れてしまう。
そう。私が残る理由はたった一つ。『彼の王』のためだ。
「ああ。そうだな!私たちの国を、新しい友達を見ていただくのだ。
今度こそ対等に、共に歩んで貰える世界を!」
ユグドラシル最終日からずっと、ずっと私は後悔していた。
『遍く栄光が諸君に降り注がんことを!願わくば我らが世界に匹敵する栄光を!』
あの言葉の裏にある孤独。
それを私は、初めて友を失ったときようやく理解できた。
私は幸福だ。オーバーロードとして変質しながら偏執せずに済んだ。
仲間と共にあの言葉を叶えるためにあらゆる存在に喧嘩を売った。
殴り合って認め合って、この『世界』の一員となれた。
だが、彼の王は、孤独で来られるだろう。この『世界』に。
あの言葉があったからこそ皆でまとまれた。国を築けた。人を救えた。
だからせめてもの恩を返すと決めたのだ。
たった数百年待つだけだ。この『世界』はどこまでも美しい。絶対飽きることはない。
「ふっ。そうだその意気だ!何、あの蜥蜴達を弄繰り回せばすぐさ」
あの最強とかほざく竜達を揶揄った思い出。
ふんぞり返って世界の覇者とかいうので『乞食の肉』を皆に食わせたりした。
色々一緒に遊んでいたら、何故か人間に性癖を抱くようになった竜にはドン引きしたが。
「今度は私一人で『エレア』の、君の善意を世界中の皆に食らわせてやろう」
目の前の男の生き甲斐を私が引き継ごう。
「ああ、良かった…安心した」
そう言って目の前の友は安らかに逝った。
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数十年後、世界は蹂躙され瞬く間にこの『世界』の友達が殺されていく。
私達が築き上げた国もこれ以上は持たない。
私と白金の竜王だけでは、正攻法で倒せない。
だから、私は死ぬ。仲間との誓いを破る。
悔いはある。『死神』として恥ずべき『生』への執着がある。
だが、それでも許さない。
人により滅んだ『世界』を知りながら『世界』を滅ぼそうとする等、決して許してはならない。
我が友に言葉は託した。この世界最強の竜王ならいつかきっと出会えるだろう。
我が従者に国を見守るように伝えた。人は堕落し、滅びもありうるだろう。
それでも見守れと。
ならば、これ以上は我儘。さぁ、破滅という名の『死』をくれてやる。
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漆黒の世界。
自分という存在がわからない。
何もわからない。漆黒とはなんだ?存在とはなんだ?
永遠に消えていく。
なにもわからないが消えていく。
だが、引っ張られる。どこからか漆黒の闇に。
引っ張る者は祝福された世界。
思考に淀みはなく新しい『世界』を自ら受け入れた者。
自分の世界を完結させる寸前で救われた者。
そして、深淵なる闇が彩り輝く。
大いなるものから、一つから祝福を受けた。
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「ここは…」
見覚えがある。だが、頭が回らない。
「まさか…本当にできるとは」
どこかで見た大きなトカゲが驚いている。
「トカゲ…ええと、つあー?」
そうだ!この目の前の竜の名はツアー。わが友だ!
「蜥蜴とは酷いのではないか?スルメさん」
おお、このお方は!
「お久しぶりです!我が盟主『魔王』モモンガ様!」
朦朧とした意識なんて知るか!早く頭を回転させろ。ハリーハリー!
精神が鎮静化される。
おかしい。
確かワールドチャンピオン共を煽りまくって、
何人か罠で嵌め殺したら、復活されて殺されたはず。
「蜥蜴って…蜥蜴って…」
ツアーは傷ついているようだが、何そのうち回復する。
我が友のことは良く…
気づいた。
不味い、流石に数百年ぶりにトカゲはない。
「ツアー…何て不憫な…」
我が盟主は竜に同情する。
「すまないモモンガ。君のことを変態共と同じと誤解していた私を許してくれ」
何て無礼な蜥蜴なんだろう。
仲間達は変態じゃないし、最低でも変態という名の紳士だ。
「いいや、私がもっとこう…すまない既に手の施しようがない変態だったんだ」
そんな!
「な、仲間達は紳士的ですよ。まとめ役である我が保証します!」
フォローすべきだ。仲間達を変態だなんて流石の盟主といえども。
「「はぁ…」」
二人とも深い、深いため息をついた。