俺は超越者(オーバーロード)だった件 作:コヘヘ
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いつものように宝物殿でアイテムをふきふきしていると突然、メッセージが届く。
「今、よろしいでしょうか?パンドラズ・アクター様」
流石に声だけでは機微は読み取れないが、落ち着いているようで落ち着いていない。
動揺を押し殺している声だ。これは創造主の件だ。
「どうしました?ナーベラル・ガンマ」
なので、いつものように揶揄わない。
絶対に、自分にメッセージを飛ばすような相手ではないと知っている。
「モモンガ様のことでご相談したいことがあります」
やはり。
「全て。いや、モモンガ様がおかしくなったところだけを簡潔に教えなさい」
モモンガ様は何かを隠している。
「なるほど…」
聞いて思った。突拍子もない発想。不敬な勘違いである可能性。
創造主との関係性、ユグドラシルスレ、プレイヤー…人化の指輪。
だが、辻褄があってしまう。直接こうして話した自分にしか想定できない。
『創造主』の真実。
二重の影(ドッペルゲンガー)の彼女で良かった。
種族特性。これがなければ絶対報告しない。できない。
もし、仮にその場合の、御方の、真実の苦痛はいかほどか。どれほどまでに激痛か。
早まらせてはいけない。ここが最後もう遅い最後の分岐点。
急がねば、『創造主』が死んでしまうその前に。
「ナーベラル・ガンマ。今から上位二重の影(グレータードッペルゲンガー)を二体完全催眠で送ります。
今から行う事はモモンガ様以外誰にも言ってはなりません。
そしてこう私が言う事をモモンガ様に聞いてください…」
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「モモンガ様はに、『人間』で有らせられたのですか?」
ナーベラルの言葉は衝撃的だった。
「何故それがわかる!!」
大声で叫んでしまう。これから失うと覚悟を決めた今そのときに。
「『時間停止(タイム・ストップ)』」
タブラさんが現れる。一瞬の歓喜。いや、違う!ありえない!
「何の真似だ…パンドラズ・アクター!」
激怒する。もはや目の前の存在を許せない。
「落ち着いてください。モモンガさん」
ヘロヘロさんに変身される。わかっていても錯覚する程似ている。
「そうですよ。大魔王賛歌を歌ってくださいよ」
知るはずのない知識が言われる。るし☆ふぁーさんだ。
「これはゲームですよ。一旦落ち着きましょう」
ウルベルトさんが笑うように言う。
これは擬態だ。わかる。
では、どこから仕入れた知識なのか。
「ユグドラシルスレか」
目の前の『創造物』に確認する。人の目から涙が止まらない。が、無視する。
「はい。気が付きました。ゲームクリアです」
元のネオナチをモデルにした軍服姿に戻る。
俺の設定した通りに。
「『真実』がわかった時、気が付きました。
これほどまで何故、ゲームに全てを捧げたのか。クリアしてもなお残り続けたのか」
そこまで理解できたことに驚く。だが、次の言葉より驚くことはなかった。
「モモンガ様はこうなることを。
いや、これから起こることも知っていらっしゃるのですね」
それは誰にも言ってない。リアルでもゲームでも。
「…何故そう思った?」
否定しない。聞いてみる何故わかったのだと。
「異常な行動力。その源泉。
ユグドラシル末期。『大魔王モモンガ行動予測スレ』というのがございました。
その住民は皆モモンガ様が大好きで徹底的に情報をかき集め、分析していました」
あれは俺を避けるためのスレではなかったのか。
「私からすれば的外れな予想ばかりでしたが、情報量はもの凄く。
人化したモモンガ様と直接、何度も関わるうちに有り得ない結論に達しました」
冷静になろうとオーバーロードに戻ろうとする。
が、パンドラズ・アクターに攻撃されて止まる。倒れる。
ナーベラルがパンドラズ・アクターと俺との間に入ろうとする。
「やめてください!それをしたら御身は今度こそ死んでしまわれます!」
声が震えていた。役者のお前に、俺はそんなこと設定していない。
ナーベラルが困惑して止まる。
どちらの言うことを聞くべきなのか判断に苦しんでいる。
「いいですか、モモンガ様。私は推察しました。
人化の指輪。これはこの世界では異形種から人間になるだけ。
スキルも魔法も使える。だから完全にプレイヤーに戻れるものではありません!」
そんなことは、
「知っている。だから、だからこれ以上元に戻らない覚悟を決めたのだ」
俺は倒れた体を戻そうとする。
「ナーベラル・ガンマ!あなたはモモンガ様が人間でも良いと断言できますか!」
パンドラズ・アクターが叫ぶ。何がしたい。
「はい。私は強かろうが弱かろうが頭が悪かろうが良かろうが構いません。
この身は創造された御方々のためにあります」
ナーベラルは、はっきりと断言する。
「それは知っている!だから、俺が皆を守る覚悟を決めたのだ!
孤独だろうが何だろうが守って見せると決意したんだ!
『原作』?前世?そんなのは関係ない!死すら恐怖ではない!」
俺は叫ぶ。誰にも知られたくなかった本音をぶちまける。
「いいえ、わかってません。モモンガ様。
いいえ、この場合は『アインズ・ウール・ゴウン』様!」
パンドラズ・アクターはもはやなりふり構わず、設定何て無視して言う。
「最後に残られた御身に仕えることこそ喜びなのです!
苦痛の中で孤独に戦っていると知って、誰も喜ぶものなど!
…ナザリックには誰もいないのです」
懇願するように祈られる。では、俺は、俺は。
「どうすれば良いのだ…」
放心してしまう。俺は、結局、一人よがりでこれ以上誰も喜ばないと確信できた。
「まず、人化のままナザリックにいてください。勝手ながら熱素石を使いました。
これで人化の指輪を外しても永遠に人化のままでいられます」
勝手にワールドアイテムを使った。だが、怒りは沸いてこない。
黙って吸収し、わかる。人化を維持しても永遠に生き続けられる。
「このことはナーベラル・ガンマとこの私パンドラズ・アクターしか知りません。
ですので、嫌なこと、ご不快なことがあっても人化でいてくれることを約束してくださいませんか?」
パンドラズ・アクターはそういう。ナーベラルを見る。頷く。
「わかった。約束しよう、ただ…」
このまま仕事を放棄はしたくない。それを察したのだろう。
「ええ、ですので上位二重の影(グレータードッペルゲンガー)を用意しておきました」
この野郎…
「全てが計算済みか。子は親より優秀だな」
俺は思わず、負け惜しみを言う。
「おお…!ありがとうございます!」
これまで見たことがないオーバーリアクションでパンドラズ・アクターは喜んだ。