俺は超越者(オーバーロード)だった件 作:コヘヘ
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カルネ村までの護衛、ゴブリンやオーガ21体が攻めてきた。
これくらいなら容易に瞬殺できたが、『漆黒の剣』を立てるつもりで半分をお願いする。
もちろん万が一に備え、護衛としてナーベを待機させた。
初依頼で失敗するわけにもいかない。全力で行く。
ゴブリンとオーガの位置関係から剣の軌道を、最速で任務を達成することのみを考える。
ほぼ止まっているように遅いそれらをどう処理するか結論が出る。
ユグドラシル時代終末期、一つのことを極めた。だが一番になれなかった戦士達の闘技場。
その一人から叩き込まれた単騎で行う切り殺し回収術。
ドロップアイテムを回収しながら単騎で戦い続ける方法。
片手のみ剣を持ち、討伐証明の耳を切り飛ばしてから最速で殺す。
もう一方の手で耳を袋に入れる。耳が袋に入るように切り飛ばす。
ゴブリンの耳を斬り飛ばし殺す。耳を回収する。
オーガも同様に分け隔てなく少しでも早く担当分を殺し尽くし、回収する。
担当分11体を殺し尽くして、振り返る。
『漆黒の剣』に手伝う必要があるか聞いた。
『漆黒の剣』が絶句していた。
…ゲーム時の感覚、全力でやり過ぎた。
『漆黒の剣』の担当分のゴブリン・オーガは既に倒しているもの以外は逃げていた。
当たり前だ。
どう考えてもオーバだ。やり過ぎた。
せっかく友好関係を築けたというのに…どう考えても化け物だよなぁ。
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化け物と言われるかと思われると思いきやナーベラルは兎も角、
『漆黒の剣』に全力で称賛された。戦士の極みだと。
日の沈む前に野営をするため、血なまぐさい現場から離れたところで準備を始める。
俺は黙々と手伝った。ナーベラルから御身のすることではないと言われたが黙らせた。
野営の準備が終わり、考えたいことがあるのでしばらく一人にしてくれと頼んだ。
ナーベラルにも来ない様に命令した。
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陽光聖典から引き出した情報には、この世界の人間の習性という報告があった。
強者は同族、特に異性を引き付けるという。
聞いた当初、俺は胡散臭くてしょうがなかった。
だが、おそらく種の保存としての本能だとデミウルゴスは興味深そうに語っていた。
この世界の人間は弱小種族であり、強者は浮くどころか周りを守るのが大半らしい。
現に信仰とそれを元に法国は成り立っているという。
偶に外れる裏切者もいるという話だが。
正直、一種の精神疾患だと思う。転移前世界の人間である俺からすれば。
俺は人間ではないとは言え、モンスターを大量に殺しても特に何も思わなかった。
思えばコキュートスと全力で手合わせしたときも、恐怖より高揚感があった気がする。
悪いことではない。だが、転移前の俺という人間のズレがある。
今回の件でよくわかった。人化しているせいかより理解できてしまう。
これは他のプレイヤーも同じなのか?若しくは、人化は完璧ではない?
超越者(オーバーロード)化の精神変化が人間状態にも反映されているのだろうか?
だが、痛みや同情等の感情はある。
無意味な殺しへの嫌悪感は転移前とあまり変わりはない。
まるで人であるのに人を超えたような…
…オーバーロードになったということを恐ろしく感じないこと自体がおかしかった。
人化を思いついた時点で、普通なら人間で有り続けるはずだ。
あれは経験したからわかる。人の残滓のみ残る化け物だ。
まともな精神なら切り替えしない。恐ろしく感じないことが恐ろしい。
人として振る舞えるからこそ怖い。理解できるのが怖い。
怖くなくなることがわかるのが怖い。
…仲間たちと共に築いたナザリックに対する愛情は本物だ。
それがあるからこそオーバーロードであっても人間の感覚、比較ができたのだと理解してしまった。
俺は執着する対象がなくなったとき、俺は完全に化け物になってしまうのか?
そう考えることができる。わかってしまった怖さ。
それなら人化の指輪何ていらなかった。
完全催眠と魔法を併用すればバレるはずがないかもしれない。
だが、ナザリックを守るためには客観的なプレイヤーとしての感覚。
人化の指輪は必要不可欠だとわかってしまう。どうやっても。
俺はこれからも人化とオーバーロードを何度も繰り返すだろう。
その果てに割り切れるだろう。今感じている恐怖何て忘れるだろう。
だが、その終わりはいつまで続くのか。
俺は気づけば震えていた。
ナザリック地下大墳墓の支配者『アインズ・ウール・ゴウン』でも『モモン』でもない。
『鈴木悟』としての悲鳴だ。
これは、誰にも気づかれるわけにはいかない。誰もまだ気づいていない。
俺はNPC達からすれば元々オーバーロードなのだから。
オーバーロードに戻れば一瞬で忘れる恐怖。
何度も人化を繰り返せばなくなるのだから。
誰かが近づく気配を感じる。
「モモンガ様…」
来ない様に命じたはずのナーベラルだった。