俺は超越者(オーバーロード)だった件 作:コヘヘ
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トブの大森林の奥深く、剣戟を振るう、ぶつかる、響き渡る。
誰もいない森の中、人と蟲の戦士が一瞬一瞬を楽しむように全力で剣を振るう。
蟲の戦士は剣を、矛を、ハルバードを振るう。様々な武器が交差する。
ここで決める。蟲の戦士、コキュートスは偉大なる御方に全力の一撃を叩き込む。
「不動明王撃(アチャラナータ)!」
コキュートスの背後に不動明王が出現する。
〈不動羂索〉と〈倶利伽羅剣〉のどちらかの二者択一。
ここからの巻き返しは一択。
「倶利伽羅剣!」
右手の一本から魔を打ち倒す仏智の利剣とされるその一撃が繰り出される。
龍が巻きつき、炎に取り巻かれている。
五大明王撃の一つ食らえば大ダメージ必至。
「だが、予測済みだ」
発動前に右へ半歩幅ずらす。そこから右下からの斬撃。
斬撃は龍の炎ごと叩ききった。
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「ありがとう、コキュートス。これなら戦士として活動も問題ないか?」
人の戦士は怪物へ、超越者(オーバーロード)に変化していく。
蟲の戦士コキュートスは『それ』を知っている。
ナザリック内でも秘匿にしておかなければならない情報、『人化』。
偉大なる御方の気配を読み違えるシモベ等はいない。
何故秘匿にする必要があるのか戦士のコキュートスにはわからない。
だが、意味のある行為であるはずであり疑問に持つのは…また今度だ。
なので、求められた質問に答える。
「ハッ!私以上ノ戦士デアラセラレルモモンガ様。
ソレニ届ク戦士ハ他ノ至高ノ御方ノミト存ジマス!」
心からの称賛を送る。
人間という種族に変化した。云わば弱体化した状態であるモモンガ様。
こちらは満身創痍であり、モモンガ様は多少の傷はあるが深い傷はほぼない。
「マジックキャスターデアラセルト、
最初ニ手ゴコロヲ加エヨウトシテシマッタ私ノ慢心ヲオ許シ下サイ」
モモンガ様が戦士として手合わせをして欲しい。
そう聞いた時、失礼ながら圧倒的暴力を用いたものだとばかり思っていた。
だが、違った。経験、技量、戦闘の流れに至るまで一流の剣士のそれ。
一体どこでこのような研鑽を積んだのか。
油断した。初手に予測した暴力に対していなそうとした。
だが、モモンガ様がいなすこと前提で切りかかられた時、自分の間違いに気づいた。
戦士としての技術、経験を積んだもののそれ。油断は致命的。
慢心はしていないつもりだった。
だが、慢心していた。初手で狂わされ反撃という反撃ができなくなり、傷つき焦った。
最後の不動明王撃に至っては完全に読まれていた。
完敗という他ない。
「いや、コキュートス。
私はお前のことをよく知っていたし、お前は剣士としての私を知らなかった。
私が身体能力にものを言わせてかかってくると思うのは道理だ」
だから最初から勝敗はついていたと偉大なる絶対者は嘯く。
コキュートスは楽しかった。自分の防衛という大任はわかっていた。
だが、ナザリックで自分のところまで侵入者が来たのは『あの』一回だけ。
他のNPC達が任務に就く中、自分が成果を挙げていないという不満があった。
だが、慈悲深い主人は『手合わせ』という形で不満以上の歓喜を与えてくださった。
だからこれ以上求めるのは、不忠。
そう思い直し、今回負けた反省を生かし稽古に励もう。
戦士としての研鑽を積まねば、モモンガ様が失望されてしまう。
だが、
「…コキュートス。また、たまに手合わせしてもらえるか?」
コキュートスは歓喜した。
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危なかった。ゲームだと問題なかったが、クッソ痛かった。かなり焦った。
コキュートスがこちらをマジックキャスターとして油断していなければ負けていただろう。
全力で技術もない暴力的で来ると思われてなければ、純粋な圧倒的ステータスの差がなければ本気で危ない。
流石、Lv150の守護者。ナザリックの誇りだ。
人化でこれ以上の戦闘はないと思いたいが、研鑽を積まないといけない。
コキュートスも喜んでくれるし、一石二鳥だ。
痛みに耐えないと。人化してパニックになって負ける、囚われる。
そんな愚を犯してはいけない。
俺は『モモン』であり何よりも『アインズ・ウール・ゴウン』なのだから。
この次は、ナーベラルの、ナーベとしての装備と万が一に備えて持っていくマジックアイテムを選ぶ時間だ。
本当はナーベラルも連れていきたかった。自分の装備のことだし。
パンドラズ・アクターがそれでは恐縮してしまい断られかねないからサプライズにしろと言われた。
道理だ。他人の機微をそこまで察するなら何故、俺の何というか設定を…
優秀だし、成果も十分。パンドラズ・アクターにも何か褒美を与えるべきなんだが。
自分で作ったNPCなのに、いやだからこそその辺の些さじ加減が難しい。
考えは後だ。いずれ考えよう。
トブの大森林内の偽装拠点に転移し、そこからさらにナザリックへ転移する。
今日のナザリック入口担当のシズに声をかけて指輪を受け取る。
受け取ったリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを嵌めて宝物殿へ転移する。
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宝物殿でオーバーリアクションをやめさせるまでの恒例になってきたやり取りを行う。
少々疲れつつ、目的のアイテムを所望する。
「以前作った私の物理攻撃用スタッフ…ああ、炎の纏わりつく低位のそれで間違いない」
ナーベラルには、ナーベ状態で第三位階のマジックキャスターとして振る舞ってもらうことは伝えている。
奥の手として第六位階まで許可している。第十位階は俺の許可が必要だ。
なので、スケリトルドラゴン等の対策は必要だ。
…純粋なステータスのゴリ押しで余裕だが、あまり目立ちすぎても良くない。
現地で浮かない程度に最高品。その装備でなら勝てる程度が必要だ。
なので、俺のかなり前に作ったスタッフが一番合理的だ。
装備品について報告したパンドラズ・アクターとデミウルゴスから気をつけるように言われたが…
それとあまり関係ないことを。
「それとだが、ついでに課金アイテムを収めているところから『ボール・シリーズ』をいくつか取ってきてもらえるか?」
ボール・シリーズ。
ユグドラシル最終日二日前。
『流れ星の指輪(シューティングスター)』が白髪エルフに買われてしまった俺が自棄買いして大量に手に入れた課金アイテムの一つだ。
課金アイテムの中でも使えない微妙系アイテムのシリーズだ。
ボールを投げてモンスターを捕獲できる。
どう考えてもアレだが、本物とは程遠い課金アイテムだ。
前提条件は、知能が非常に低いモンスターであること。半分以上HPを削りきること。
そうすることでようやく捕獲できるようになる。
失敗することも多く、1回で使い切り。
成功確率を上げるために弱体化の魔法等が必要である。
そうすることでようやく捕獲できる。これだけ聞くと失敗するだけの有用アイテムだ。
しかし、欠点がある。
まず、持ち主の言う事を聞かない。
捕獲されたモンスターはランダムで攻撃してくる。
また、HP等削ったものは絶対戻らないし、スキル使用分も絶対回復しない。
捕獲Lvの制限もある。プレイヤー1人につき六個までしか持ち運べない。
メリットとして死んだとしても1日経てば再召喚可能であること。
ただし、1日1回しか召喚できず、一度召喚したらボールを戻すことはできない。
破棄と交換可能ではある。
シリーズ最高の『ボール・マスター』でもLv80までしか捕獲できない。
それでもHPを半分以上削った上で弱体化させまくってようやく捕獲らしい。
六体しか捕獲できない。しかも、HP半分以下で消耗した状態で自分に襲い掛かってくる。
ハズレ扱いも当然の課金アイテムだ。
だが、毎日復活して殺して良い敵。
ナザリック内で籠る一部NPCのストレス発散に使えるかもしれないと思った。
ようはお土産だ。
冒険者になれば、知能の低いモンスター討伐はあるだろう。
事前情報で害虫駆除みたいな感覚でモンスター駆除があるのは確認済みだ。
そう考え用意させるつもりでいた。
「おお、『ボール・シリーズ』!
その最高峰、『ボール・マスター』は隠し条件を満たせば限定的にとはいえLv90まで捕獲可能なアイテムですね」
えっ。
「どういうことだ。確か捕獲できてもLv80まででなかったか?」
『原作』の『ゴブリン将軍の角笛』の数千のゴブリン召喚等の隠し要素があるのか?
いや、前にそれとなく聞いてみたとき、パンドラズ・アクターはそのことを知らなかったはず。
『設定』以上の情報はこの世界でも自分で調べるしかない。
「モモンガ様が研究所においたエルダーリッチ達の報告の結果わかった効果です。
雑多で無意味な情報ばかりでしたが、検証すると真実が含まれている物もありました!
…報告がまだなのはノイズが多すぎるためです。申し訳ありません」
そう言って頭を下げるパンドラズ・アクター。
そもそも担当者じゃないので全く責任はない。
おそらく宝物殿から出すようになり、『設定』的に気になって自分で確認しにいったのだろう。
ユグドラシルスレの分析、それは価値が低い上に難しいと思っていた。
故に報告の優先順位は下げていた。
だが、移転前に想定していたこと。未知が現実となった。
これまでたいしたことのないと思っていたアイテムの脅威。
歴史の深い国ならそういったアイテムの研究をしていないはずがない。
この情報一つで重要度を上げる必要がある。
情報源を持っていて、知らないで負けるのはあってはならない。
「どういう隠し条件なんだ?」
その後、俺は物凄く長い蘊蓄を聞くことになり後悔した。