俺は超越者(オーバーロード)だった件   作:コヘヘ
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これはカルネ村事件後。
後の、覇王エンリの誕生の瞬間であった。


閑話 覇王エンリの第一歩

 

昨日、帝国騎士じゃなく法国の偽装騎士に襲われたカルネ村。

 

襲ったのが誰でも関係ない。私たちは自分達の愚かさが身に染みてわかった。

 

 

たまたま慈悲深い旅のマジックキャスターに助けられた。

 

 

村人の犠牲も出たが旅人の大活躍のお陰で犠牲は最小限だった。

 

もう二度とあのような偶然はないだろう。

 

 

王国戦士長がカルネ村まで来てくれたが、その頃には村人は全滅していただろう。

 

 

生き残ったとはいえ、防衛を、戦うことを私たちは忘れてしまっていた。

 

戦おう。せめて妻を、子供を守るために逃がせるようにと村の皆は決意した。

 

 

 

直ぐに私はアインズ・ウール・ゴウン様から頂いた笛を使ってゴブリンを召喚することを村の皆に話した。

 

 

 

呆然とする村の皆。どうやら他の村人達はゴウン様の名前を知らなかったらしい。

 

私はアインズ・ウール・ゴウン様がカルネ村を救ってくれた旅のマジックキャスターであることを伝えた。

 

その時、ゴウン様がかなり切羽詰まった様子だったこと。

 

落ち着いたら、また来るつもりであることを教えられていたことを報告した。

 

 

 

そのことを村の皆に教えると、村長はホッとしたようだった。

 

何でもお礼をするまもなく去っていったらしい。

 

できる限りの恩を返したかったと昨日から後悔していたという。

 

 

 

何て高潔な方なのだろう。

 

私が感じた『絶対者』。

 

そのような方がたまたま見かけただけの村を救う。

 

まるで御伽噺だと私の胸は熱くなる。

 

早まる鼓動は感じたことのないものだった。

 

 

 

そんな御方のアイテムならばと皆納得してくれた。

 

私は頂いた『ゴブリン将軍の角笛』の内一つを使うことにした。

 

 

 

現れたのはゴブリンの軍勢19人。皆屈強な戦士達。

 

私に首を垂れる彼らに慌てながらも考えた。

 

私は村を守るための戦闘技術指導と村を囲う柵の作成をお願いした。

 

 

 

 

数日後、村に完全に溶け込んだゴブリン達。弓矢の指導や簡単な防御柵を作ってくれた。

 

 

そんな中、村長夫妻が私に村長を譲りたいと言ってきた。

 

 

呆然とする私と反対する両親。

 

村長は今後のことを考えたのだと言う。

 

若い私が行う意識改革とゴブリン達の指揮官としての能力が、

 

これからのカルネ村には必要だと説得してきた。

 

村長からは両親がいる私にそのようなことを迫る罪悪感と苦渋の決断を思わせる『覚悟』を感じた。

 

村長はそれでも無理強いはしない。

 

早めに答えて欲しいと言われた私は悩んだ。

 

 

所詮与えられた力ではあるがゴブリン達の指揮官である私。

 

あの犠牲の中真っ先に発言できた私。

 

 

それらを考えれば、私が適任なのはわかった。

 

両親も村長の『覚悟』に反対しきれない。

 

ぐるぐる思考がまとまらずに思わず誰かに救いを求める。いもしない誰かを。

 

 

 

その時、アインズ・ウール・ゴウン様がまた私の前に現れた。

 

 

 

アインズ・ウール・ゴウン様はようやくひと段落したので、村にまた来たこと。

 

村長にお願いしたいことができたという話だった。

 

私は、エンリは決意する。

 

 

 

「私が村長です」

 

 

 

「ええ…」と声を出し、考え込むゴウン様を見て慌てる。

 

突然こんなことを言われたら馬鹿にされたとしか思えない。

 

顔が真っ赤になるのを自覚しながら、先ほど村長就任を依頼されたことその経緯を話す。

 

 

「…すまない。私のせいだ」

 

経緯を聞いたゴウン様は沈黙の後、謝罪された。

 

とんでもないと私は言う。偉大なる御方のお陰でこの地位につけたことなのだと。

 

 

「そ、そうか。感謝するエンリよ」

 

たかが村娘には勿体ない言葉だった。どんどん高まる鼓動を抑えられない。

 

なので、反応が遅れてしまう。慌てて謝罪しようとするが、

 

 

「とはいえ前村長に伝えていないならまだ村長ではないか。

 

村の今後にも関わることだ。

 

ご両親、エンリに私と一緒に着いてきてもらっても大丈夫かな」

 

両親は快諾し、私は謝罪できずに一緒に着いていく。

 

返しきれない恩がある。求められることは全て叶えたい。

 

感じたことのない気持ちが何なのか私にはわからなかった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

村長(前村長)と私はゴウン様のお話を伺った。

 

 

トブの大森林奥深くに住まいを構え、研究する魔術師であること。

 

先日のような仲間達と共に住んでいること。

 

世捨て人のような感覚であったこと。

 

カルネ村には空き時間の空中散歩でたまたま騎士に襲われるのを見かけ、助けたこと。

 

自分の住まいが何者かに襲われていることを知り、挨拶も碌にせず慌てて戻ったこと等だった。

 

 

 

それを聞いた私は何という高潔な方なのだろうかと思った。

 

トブの大森林の奥深くに住んでいるということは、

 

仮面を被っておられるのはひょっとしたら人間でないからかもしれない。

 

そんな状況で自分の不利益を無視してまで襲われている村人達を救ってくれた。

 

何と慈悲深い。隣の村長も同様に感じたのか目頭を熱くしていることがわかる。

 

見合う報酬は無理だろう。

 

これだけの力を持つ慈悲深い存在に払えるもの等、村全てを捧げても足りない。

 

 

 

だが、ゴウン様の求められる報酬は簡単な者だった。

 

・住まいと実験のための畑等の利用許可。

・それらを囲って見えなくすること。

・その監視者の配置。

・それを村人に覗かないで欲しいこと、他人に話さないで欲しいこと。

・それらを守るため、村に防壁を築くこと。

 

たったこれだけだった。

 

森に住んでいるせいで、そういった研究をしたことがなかった。

 

ゴウン様はそうおっしゃり自嘲するように笑われた。

 

 

嘘なのはすぐにわかった。

 

実験は森を開拓すれば簡単にできる。

 

防壁に至っては自分達の利益でしかない。

 

 

これは自分達が恩を返したと思わせるためにあえて考えられたものだと理解した。

 

助けた者達が、今後自分達で身を守れるように配慮してくださったのだと。

 

村長も薄々であるが気づいているだろう。村のメリットしかないことに。

 

 

 

とはいえ、私も村長も直ぐに承諾した。

 

 

 

ゴウン様はできればすぐにでも取り掛かりたいと思うが、村の皆に確認してきて欲しいと言われた。

 

すぐさま行動を開始しようと村長宅から出ようとした。

 

ゴウン様をお待たせするわけにはいかない。

 

いつのまにか遠目に村の皆が集まっていた。皆に聞く話は簡単だった。

 

皆即答した。感謝に咽び泣く者もいた。

 

これほどのご配慮してくださったお方の時間を妨げる者はいなかった。

 

 

 

ゴウン様がさっそく紹介しようと楕円の闇が現れる。つい先日見た光景だった。

 

そこから現れたのは、眼鏡をかけた生真面目そうな美しいメイド。

 

褐色の肌で三つ編みのメイドとこれまた見たことがない程美しい方々だった。

 

さらにゴーレムが数体。

 

ゴーレム以外はこの者達が交代で来るとはずだとおっしゃった。

 

 

 

そう言うと私に聞きたいことがあると言われた。

 

ゴウン様は私の両親に確認を取り、二人きりになった。

 

何か粗相をしたかと謝罪するが、違うと言われた。

 

 

 

村長になるに当たっての改めて心配の言葉。

 

それと先日、父を癒した赤いポーションについてだった。

 

 

どうやら自分達で作っているのと違うらしいことが気になったという。

 

真っ先に驚いた私が何か知っていないかと改めて聞きに来たとのことだった。

 

 

心配に対しては大丈夫だと、村長として頑張ってこれから勉強していくことを伝えた。

 

ポーションについてだが、私はすぐに友人の薬師から色々聞いた事を話してみた。

 

ツギハギの聞きかじりでもっとまともに聞いていれば良かったと後悔した。

 

それでもゴウン様は村娘の拙い話を真剣そうに聞いてくださった。

 

 

私は、ゴウン様に薬師の友人を直接ここへ呼ぶこと。

 

村で囲い込み、研究させる等すること。

 

そのために誘致するよう誘導して良いかと尋ねてみた。

 

友人は有名なタレント持ちであり、きっとゴウン様の役に立てるはずだと。

 

 

 

偉大なる恩人のためとはいえ、友人を利用するのは痛む心がある。

 

 

 

けど、少しも恩を返せていない現状がどうしようもなく嫌だった。

 

村長として全力でできる範囲のことを全てでいつか返すことを決意した。

 

恩を返すのは無理だろうができることは何でもしてみせる。

 

 

 

嬉しいがそこまでさせるのは申し訳ないと躊躇するゴウン様。

 

そこで私は友人の、彼、『ンフィーレア』にもメリットがあることを伝える。

 

友人は毎回来る度に私にポーションと薬草のことを語るくらいのポーション狂であること。

 

エランテルで依頼すれば良いのに、

 

わざわざ定期的に冒険者を引き連れ、自分で森に入り薬草を採取する勢いであること。

 

そんな彼なら自分が赤いポーションのことを示唆すれば絶対食いついて来るはずだと説得した。

 

 

 

何か言いたげな御方は、

 

「正直エンリにそこまでその友人を利用させるようなことはしたくはない」

 

と仰った。

 

 

私はお役に立てないことへショックを感じた。

 

 

慈悲深い御方は少し慌てた様子で、

 

「だ、だが、そうしてくれると確かに、そう確かに有難い…よなぁ」

 

と仰ってくれた。

 

 

 

私はほんの一部とはいえ恩を返せる喜びに心を支配される。

 

 

 

それを喜ぶ私を見て、ゴウン様は呆然としてしまわれた。

 

あまりの恥ずかしさで堪らなくなり、私は慌てて謝罪した。

 

 

 




良かったねンフィーレア!
思い人に心の底から求められたぞ。







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