<「新シルクロード」視察旅行で訪れた新疆ウイグル自治区のウルムチ。そこは想像以上の「監獄」だった。至るところにある荷物検査装置や軍事車両のパレードには閉口させられたが......>
こんにちは、新宿案内人の李小牧です。前回のコラム(「中国の旅行会社が「新シルクロード」に日本メディアを招待した理由」)でお伝えしたとおり、私は3月22日から29日にかけて中国西部を訪問した。今回はその中でも新疆ウイグル自治区で得た知見を紹介したい。
陝西省の西安視察を終えた我々、「新長安・新シルクロード・新夢路視察団」は飛行機で新疆ウイグル自治区へと飛んだ。西安も中国では西部と呼ばれる地域に属しているが、目的地の自治区首府ウルムチ市まではさらに3時間のフライトが必要だ。中国の広大さを改めて感じた。
さて、ヘビースモーカーの私が飛行機から降りてまずやるのは喫煙所探しだ。まずは1本吸わないと落ち着かない。
と、タバコを吸うだけで早くもガツンと来る体験に遭遇した。第一に喫煙所の看板だ。中国語と英語だけでなく、ウイグル語の表記もある。
多民族国家の中国ではさまざまな言葉を使う人々が住んでいるが、公用語は中国語のみ。他の言語はすべて「方言」という扱いだ。それでも新疆ウイグル自治区やチベット自治区などでは中国語の読み書きができない人が多く、看板にも「方言」が書かれている。中国政府は中国語教育を猛烈に推進しているが、中国語を話せない中国人は無数に存在する。看板が中国語で統一されるのははるか遠い未来だろう。
そして第二の衝撃なのだが、喫煙所の隣に小さな交番があった。「POLICE」と書かれた交番の造りは他地域とさほど変わりはない。違うのは警官の格好だ。迷彩服に大きな機関銃、さらにマスクもつけて顔を隠している。隣には機動隊が使うような大きな盾も置いてあり、突然の襲撃に備えている。
空港の交番。物々しすぎる......(写真:筆者)
皆さんもご存じだと思うが、新疆ウイグル自治区では何度も大きな騒乱が置きている。派出所襲撃事件「程度」の事件ならば、その数は数十ではきかないだろう。
2009年のウイグル騒乱後の数年は特に襲撃事件が多かったが、ここ1、2年はあまり大きなニュースになっていない。だが警察は今も警戒を緩めていないことが一目で分かった。中国の治安対策の最前線に私たちが乗り込んだことを一瞬で理解する出来事だった。
【参考記事】中国の「テロとの戦い」は国際社会の支持を得るか
あらゆるホテル、レストランでセキュリティチェック
ウルムチ市には3日間滞在したが、厳しい治安対策には驚くことばかりだった。ホテルに着くと、空港と同じような荷物検査装置が置いてある。ホテルだけではない。レストランやバザール、広場の入り口、高速道路の検問など至るところに装置が置いてあるのだ。検査装置の販売業者は大儲けしているだろう。
なお、検査があるたびにライターが没収されてしまった。飛行機と同様に危険物扱いされているのだが、そのたびにタバコが吸えなくなるのは困りものだ。ポケットの奥底に隠してみたりと無駄な抵抗をしてみたが、チェックの目は厳しくすべて発見されてしまった。ただし、マッチも本来は危険物扱いなのだが、こちらは見逃されることが多かった。
ホテルの入り口で荷物検査を受ける筆者(写真:西安天馬国際旅行社)
さて、それ以上に驚いたのが、バザールなど人が集まる場所での通信封鎖だ。私たち一行の多くは日本で借りた海外用のモバイルWi-Fiを持っていたのだが、突然つながらなくなってしまった。
最初は電波が入らないのかと思ったが、その後も人が集まる場所ではつながらなくなることが続いた。今はスマートフォンの時代だ。なにか事件があればすぐに近場にいた人の実況が始まる。そうした事態を防ぐための措置ではないだろうか。
まだまだある。閉口したのが軍事車両のパレード。装甲車や兵士を乗せたトラック、パトカーなど20台以上がパトランプをつけながら物々しくパレードする。これが午前、午後、深夜と1日に3回も行われるのだ。
武力を誇示して治安を守ろうという考えなのだろう。最初にパレードを見たのは深夜、ホテルに泊まっていた時だった。なにか大事件が起きたのではと思うような物々しさだったが、ウルムチ市の住民にとっては日常茶飯事のようだ。
よく知られているとおり、中国は厳しい情報検閲がしかれ、西側諸国基準の人権も存在しない、いわば監獄国家だ。ところが新疆ウイグル自治区を訪れると、北京市などの内地はまるで天国のようだ。「監獄の中の監獄」、それが新疆ウイグル自治区だった。
2009年のウイグル騒乱とその後に頻発した暴力事件の影響もあり、新疆ウイグル自治区を訪れる日本人観光客は大きく減少したと聞く。だが、この地の警戒態勢は世界一の厳格さだ。安全「すぎる」ほどの安全さだったと李小牧が保障しよう。もっとも、過剰な警備に閉口することも間違いないのだが。
熱々の羊肉とビールを市内でも楽しめるようにすべきだ
この安全さは新疆ウイグル自治区が「監獄」であることの裏返しなのだが、やはり抜け穴があるようだ。
中国ではB級グルメといえば羊肉串(シシカバブ)が有名だ。北京でも上海でも、あちらこちらの道端に露店がある。羊肉をかみしめながら流し込むビールは格別の味である。この羊肉串だが、もともとはウイグル料理。中国各地の露店もウイグル人が経営しているケースが少なくない。
となれば、新疆で「本場」の露店を体験したいと思うのが人情だが、いくら探しても影も形も見当たらない。やはり治安対策を名目としてすべて排除されてしまったのだという。露店は資本を持たない人間がもっとも容易に仕事を得るための手段である。貧しい人を追い詰めてしまえば、それがまた別の治安問題にもつながりかねないのだが。
それはさておき、新疆の露店を体験できなかったことを残念がっていると、意外な展開があった。歓迎の宴会が終わった後、ある現地在住者が私を二次会に誘ってくれた。どこに行くのかと思っていると、車に乗って市街地からどんどん離れて行くではないか。
実はウルムチ市市街は厳重な警戒態勢がしかれているが、郊外にはナイトライフを楽しめる場所もあるという。私が心待ちにしていた露店も軒を並べているではないか。ウイグル族の人々も夜食を楽しんでいる。
熱々の羊肉とビールは最高だった。連れて行ってくれた方の話によると、露店だけではなく、郊外には性風俗のお店まであるという。中国には「上に政策あれば下に対策あり」(政府がどんな政策を出そうとも、庶民は抜け道を見つける)という言葉がある。厳しい治安統制の中でも、新疆の庶民たちは楽しみを見出しているのであった。
【参考記事】美しいビーチに半裸の美女、「中国のハワイ」にまだ足りないもの
本来ならば、街中でもこうした光景があるべきなのだ。人々の不満を力で押さえつけるのには限界がある。楽しい日常生活があればそれだけ不満が減るし、何よりも雇用対策、経済対策になる。
私は常々、政治にはビジネスの視点が必要だと強調してきた。治安対策にもビジネスの視点、現地雇用確保の視点が必要だ。中国政府は大手国有企業にウイグル人の雇用数を増やすよう指導するなど一応の対策を行っているが、それだけでは足りない。現地の人々が露店も含めて自由にビジネスを行い、自力で豊かになっていく環境を整えることこそ必要だ。
中国政府は「維穏圧倒一切」(治安維持がすべてに優先する)を政策方針としているが、私に言わせれば「経済圧倒一切」(経済がすべてに優先する)だ。
新疆ウイグル自治区は美しい自然とユニークな文化を持ち、豊富な観光資源を有している。現在でも観光産業は主要産業の1つだが、この分野を大きく伸ばしていけるか、民間ビジネスを伸ばしていけるか。これこそが本当の意味での治安対策だと提言したい。
【参考記事】大人気の台湾旅行、日本人が知らない残念な話
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