tsuputon's blog

英語の名言をベースに, 哲学から医学・薬学に至る雑学を, ゆるまじめにご紹介していきます

英語で名言を:成長を欲するものはまず根を確かにおろさなくてはならぬ。(和辻哲郎)

 

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                                              July.16.2018

 

 

和辻哲郎は,1889年

兵庫県生まれの哲学者です

 

日本独自の思想と西欧哲学の

融合を目指された点で,

西田幾多郎と双璧をなす

稀有な日本人哲学者と称されます

 

『古寺巡礼』『風土』などの

代表作で知られています

特に『風土』では,世界の気候を

日本などのモンスーン・砂漠・牧場

に分け,そうした風土の違いが

人間に影響するという,

当時では画期的な発想で

世界的に評価されました

 

1950年には日本倫理学会を設立され,

生涯会長を務められました

 

1958年には,美智子妃殿下の

お妃教育もされました

 

本日はこの,和辻哲郎

名言のいくつかをご紹介したいと思います

(英文拙訳)

和辻哲郎 - Wikipedia

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まずは,「あたり前」の中の「不思議」

についてのコメントからです

 

あたり前の現象として

人々が不思議がらない事柄のうちに

不思議を見出すのが、

法則発見の第一歩なのである。

The first step to find a law is

to find a wonder among the matters

that people don’t wonder

as a matter of course.

 

イチロー選手が「毎日同じことをする」

と言っていたことが思い出されます

 

日々の日常が「あたり前」だと思い,

その感覚だけで暮らしているとすれば,

それは平凡です

日常の中の非日常を見出せてこそ,

非凡なるものが生まれます

 

問題にしない時には

わかり切ったことと

思われているものが、

さて問題にしてみると

実にわからなくなる。

そういうものが我々の身辺には

無数に存している。

What is considered

as a matter of course

when we don’t ask will be really hard

to understand once we ask,

which are innumerable around us.

 

たしかに,普段から

毎日通っている道ばたに咲くタンポポ

気づくことは,

 驚くほど少ないものです

確実に視界には入っていても,

その存在を捨象して注目せず,

「目的」に急ぐ…

 

実は問題にしていないだけで,

私たちは無数の謎に包まれたまま

日常生活を送っています

 

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続きまして,孔子に言及された後の

コメントです

 

人類の教師たり得るような

智慧の深さや人格の偉大さは、

大衆の眼につきやすいものでは

ないのである。

The depth of wisdom or

the greatness of personality of somebody

who can be a teacher of humanity

isn’t something

the public can notice easily.

 

たとえば孔子が説いたとされます

「中庸」の概念などはその例でしょう

 

出過ぎるでもない,

出過ぎないでもない,

ちょうどその中間の

バランスを取ることが,

最も徳のある行為だと

 

現代のSNSやマスコミの

過激・衝撃・刺激にあふれた

情報洪水社会では,

「中庸」など大衆には

眼につきやすいアイデアではありません

 

和辻はこの考え方を

私たちのアイデンティティでもあります,

東洋文化に当てはめていました

 

西洋の学者の掘り散らした跡へ

遙々遅ればせに鉱石のかけらを

捜しに行くのもいいが、

我々の脚元に埋もれている宝を

忘れてはならないと思う。

It is good to be excited to go find

pieces of mine to the places

which Western scholars have

dug out before, but as I see it,

we must not forget the treasures

underlying at the foot of ours.

 

ただし,ここで「中庸」的

バランス感覚を持っていたのが,

和辻の深みです

 

東洋文化を誇るあまりに、

西欧の文化を侮りあるいは

斥けるということは我々に解し難い。

両者はおのおの尊敬すべき

個性をもっているのである。

We can’t understand

to insult or exclude the Western culture,

too proud of the Eastern one;

both have it’s own respectable characters.

 

和辻のライフワークとも言えます,

東洋思想と西欧哲学の融合は,

こうした健全なる精神から

生涯試みられました 

 

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和辻の慎重な性格がうかがえる

フレーズがありました

 

わかろうとあせったり、

意味を考えめぐらしたりなどしても、

味は出てくるものではない。

だから早く飲み込もうとせずに、

ゆっくりと舌の上で

ころがしていればよいのである。

そのうちに、おのずから

湧然として味がわかってくる。

You can’t taste it

even if you are frustrated to understand

or seek for the meaning.

So, you have only to keep it

on your tongue; in due course,

you’ll taste it

spontaneously and gracefully.

 

「吟味」とはまさにこのことでしょうか?

ゆっくりと舌の上でころがす,

いわば「大人」の風格を,

学問の場でも強調しています

 

味覚の比喩はなぜか

説得力がある場合が多いです

 

小生の悪友に,

「あの子はイタリアン」

「あいつは中華」

「彼女はボルシチ

とかが口癖の徒がいまして,

始めその人ごとの好みの話しか

と思って聞き流していましたら,

どうやら彼流の「印象」の喩え

だったようです…

何故だか理解できた小生でした…

 

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和辻はソクラテスの至言を

「新しい」としています

 

誰でも自分自身のことは

最もよく知っている。

そして最も知らないのは

やはり自己である。

「汝自身を知れ」という古い語も、

私には依然として

新しい刺激を絶たない。

Everyone knows him/herself best,

and still also least; the old saying,

“Know thyself.” never fails

to stimulate me newly.

 

自分は自分に最も近く最も遠い

自分の鏡像は見れても実像は見れません

他人の実像は誰しもが見られるのに…

 

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和辻はこうした意味で,

徹底したリアリストでした

それを端的明瞭に表すコメントです

 

成長を欲するものはまず

根を確かにおろさなくてはならぬ。

上にのびる事をのみ欲するな。

まず下に食い入ることを努めよ。

Those who want to grow

must take roots surely.

Don’t want only to go upwards;

first, try to get into the ground.

 

ただ単なる上昇志向だけでは,

実りは望めません

木は根付いた分だけしか

伸び得ないからです

 

いぶし銀のようにクールな和辻の感性に,

猛暑が少し和らいだ気がしました

 

それでは,このへんで

ごきげんよう

 

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