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2018年7月9日(月)
緊急報告 西日本豪雨 ~被害はなぜ広範囲に及んだのか~

緊急報告 西日本豪雨 ~被害はなぜ広範囲に及んだのか~

九州から中部にかけて、広範囲にわたる記録的な大雨。数十年に一度の災害を意味する「大雨特別警報」が11府県で出されるなど、かつてない事態となった。今もなお各地で土砂災害や浸水などの被害が続く。大水害はどのようにして起きたのか?なぜこれほどの大雨が広範囲に、長時間、降り続いたのか?今後の注意すべき点は?・・・被災地や専門家への取材、さらには現地から最新状況の中継を交え、記録的な大雨について緊急報告する。

出演者

  • 中北英一さん (京都大学 防災研究所 教授)
  • NHK記者
  • 武田真一・田中泉 (キャスター)

緊迫の救助現場で何が? “平成最悪”西日本豪雨

豪雨による土砂崩れで孤立した広島・呉市の山あいの集落。ヘリで救助に向かった福岡市消防航空隊が撮影した映像です。幼い子どもがいる家族が取り残されていました。

消防隊
「福岡市の消防隊です。ヘリで上げて、呉まで搬送します。」

消防隊
「ごめんね、ちょっと我慢してね。」

一刻を争う救助活動が続きます。

消防隊
「(行方が)分からない人は?」

住民
「あちらのお宅に1人、そこのお宅に1人。」

消防隊
「埋まっている人はもういない?」

住民
「あそこに屋根が見えますね、あのお宅の人と安否確認が取れていません。」

消防隊
「1人だけ?」

土砂で埋め尽くされた住宅や田畑の中に、生存者がいないか懸命に捜索します。空からの救助にあたった消防隊員は、こうした甚大な被害が、かつてない規模で広がっている様子を目の当たりにしたといいます。

福岡市消防局隊員 宮原保雄さん
「福岡から広島ヘリポートの方に移動してきたんですが、その間、山口県、広島県付近を飛行してきたんですけれども、やはり道路の寸断されたところ、冠水している状況。同時多発的に西日本を覆った。」

中国、四国を中心に、多数の犠牲者を出した西日本豪雨。今も懸命の救助活動が続く現場からの報告です。

あっという間に浸水… 西日本豪雨で何が?

倉敷市真備町。町を流れる川の堤防が決壊し、市街地の広い範囲が浸水しました。雨が強まり始めたのは6日金曜日。発達した雨雲の列、線状降水帯が近づき、夜10時40分には特別警報が出ました。

その後の様子を住民が撮影していました。日付変わって土曜0時過ぎ。高台に逃げる丸畑裕介さんが撮影した車窓からの映像です。

丸畑裕介さん
「おう、(雨が)すごいぞこれ、うわぁ。そこまで水きてる。」

橋のすぐ下まで水位が上がっていました。

その30分後。川が氾濫したことが発表されます。
そのころの小田川の水位です。夕方から急上昇し、特別警報発表から僅か2時間ほどで氾濫していました。

夜が明けると、堤防は100メートルにわたって決壊していました。

丸畑裕介さん
「むちゃくちゃや。なんやこれは。」

朝10時、丸畑さんは父親に避難を促しにいきます。

丸畑裕介さん
「父さん。もうびしょびしょ。もう逃げにゃ、もう逃げないといけない。」

父親
「上に(2階に)電気製品あげるんや。」

丸畑裕介さん
「じゃけん、昨日からやっておけばよかった。」

30分後…。

丸畑裕介さん
「うわぁ、きてる床まで。」

氾濫した水が、床上まで押し寄せてきました。

丸畑裕介さん
「あっという間ですよね、水が増えていくのは。何から何をすればいいんだろう、そんな状況。」

この日の午後には、多くの家が浸水していました。昨日(8日)の朝、高齢の夫婦が自宅から救助されました。

「1階は電球がこのぐらいあるでしょ。その電球のかさに手が届く。座って。」

寝ていたベッドが浸水によって天井の電球付近まで浮き上がり、そのまま一夜を明かしたといいます。

「そこらじゅう(ケガ)。体がいっぱいケガして、もうだめかと思いました。」

真備町では、今日(9日)も次々と新たな犠牲者が確認されています。

各地で土砂災害が… 西日本豪雨で何が?

今回の豪雨で、各地の山間部では土砂崩れによる被害が相次ぎました。

土砂災害で多くの人が命を失った、愛媛県宇和島市。至る所で家屋が倒壊し、道路が寸断されていました。

田中
「今、重機が入って土砂を取り除いているのですが、その間に、赤い車が横にひっくり返っている様子が分かります。」

田中
「あちらの土砂が崩れ、道路の先にあるあの家、崩れています。」

自宅のすぐ近くの山が崩れた男性です。かろうじて難を逃れたものの、家の近くまで土砂が迫っていました。

被害に遭った住民
「雨の音がすごくて、(土砂の音は)聞こえませんでした。バケツをひっくり返したとか言うでしょう、あんな感じで、どばーって。」

今も各地で、懸命の救出活動が続いています。

なぜ?かつてない被害

ゲスト中北英一さん(京都大学 防災研究所 教授)

武田:平成に入って最悪の豪雨災害となりました。最新のまとめでは、全国で123人が死亡、2人が心肺停止の状態、さらに61人の安否が不明となっています(9日夜10時現在)。被害の全容はまだ明らかになっていません。豪雨災害に詳しく、国内外のさまざまな被災地を調査してこられた中北さん、ご自身にとっても、今回の豪雨は驚くような災害ですか?

中北さん:台風でないのに、梅雨の豪雨でこれだけ広い範囲で、しかも長い時間、大雨をもたらしたというのには驚いているところです。

武田:こちらは降り始めからの雨の量を示したグラフですけれども、最も多い所でおよそ1,700ミリに達して、各地で平年の7月、1か月分の半分程度の雨が降ったことになります。

社会部・災害担当の中丸デスクです。この今回の雨の降り方、どんな特徴があるといえるのでしょうか?

中丸憲一デスク:今、中北先生がおっしゃったように、去年(2017年)の九州北部豪雨ですと、比較的狭い範囲に短時間に集中して猛烈な雨が降ったんですが、今回は1時間に50ミリ以上の非常に激しい雨が、広い範囲で長い時間、降り続いたというのが特徴になります。この結果、72時間に降った雨の量が、全国にある気象庁の119の観測点で、統計を取り始めてから最も多くなりました。また、48時間の雨量も123の地点で最も多くなって、記録的な豪雨となりました。さらに今回、気象庁は大雨の特別警報を5年前の導入以来、最多となる11の府県に発表する、異例の事態となったわけなんですけれども、被害の拡大を防ぐことはできませんでした。

武田:これまでに分かっている各地の被害の状況、どうなっているでしょうか?

中丸デスク:こちらは、全国の主な河川の位置を示しています。ここに、豪雨で堤防が決壊したり、氾濫して浸水したりした、被害が出たエリアを重ねてみます。

武田:オレンジ色で示した所ですね。

中丸デスク:西日本を中心に、各地で堤防の決壊や氾濫が相次いでいることが分かります。先ほど紹介した岡山県倉敷市の真備町ですが、この小田川の堤防が決壊しました。また、愛媛県でも氾濫が発生している川があります。

崖崩れなどの土砂災害も相次ぎました。VTRで紹介した愛媛県の宇和島市や、四国で数多く発生しています。また広島でも、これは全て反映されていませんが、数多く発生しているという情報も入っています。

武田:中北さんは今回の被害の中で、特に国が管理する大きな河川、いわゆる一級河川の氾濫に注目されているそうですけれども、それはどういうことなのでしょうか?

中北さん:一級河川はもともと、河川の流域、降った雨が川に流れ出てくる、その受け皿のエリアの面積ですけれども、それが非常に大きな河川であるということが多いんですが、その広い範囲に、台風でない状態で、長雨で、多くの雨がもたらされたと。国交省からの情報では、治水計画で基準とされるような雨量に達した流域もあるし、それを超えた流域もあるというような、梅雨では珍しいことが起こりました。それから、すでにもう長雨で流域そのものが水で満たされている、言葉で言うと「飽和している」という状態ですので、そのあとちょっと雨が降っただけでも川に水が非常に出やすい、それも量が多く出てくるという危険な状態が続いた。そういうところが大きな特徴だと思っています。

武田:豪雨はなぜ、これほど広範囲に、しかも長時間にわたって降り続いたのか。分析を進めると、まれに見る気象条件がいくつも重なって起きたことが分かってきました。

なぜ大量の雨が長時間… 西日本豪雨 気象条件は?

名古屋大学で気象システムを研究している坪木和久さんは、今回、悪条件が2つ重なったと考えています。
1つ目は、雨を降らせる梅雨前線の位置です。梅雨前線は、気圧の配置によって位置を変えます。例えば、去年の6月、梅雨前線は1か所に長期間とどまることはありませんでした。ところが、今月(7月)5日以降、ロックされたように動かなくなりました。梅雨前線に向かって湿った空気が流れ込み、雨を降らせます。これが、西日本付近に3日間もとどまり続けたのです。

ここに、もう1つの悪条件が重なります。南の海上から雨の元、大量の水蒸気がもたらされたのです。水蒸気から生まれた雲の発生を捉えた衛星画像です。台風7号が6月29日に発生し北上。しかし、日本の南西の海上を見ると、次々に雲が発生し続けています。

坪木さんは、この時期に雲の発生源となる水蒸気がどれほどあったのか、シミュレーションしました。すると水蒸気は、通常の梅雨の時期をはるかに超える上空5,000メートル以上に達していたことが分かりました。水蒸気の量を色で示します。赤い部分ほど水蒸気が多いことを示しています。去年、甚大な被害をもたらした九州北部豪雨のときと比べても、大量の水蒸気が広範囲にわたっていることが分かります。

梅雨前線が長く停滞したことと、大量の水蒸気の供給。こうして西日本に非常に発達した雨雲・線状降水帯が次々に発生し、赤や黄色で表される大量の雨が各地にもたらされたのです。

名古屋大学 教授 坪木和久さん
「複数の要因が重なって、このような非常に広い範囲で、しかも強い雨が降ったといえるわけです。私自身はこれまで経験がないですね。」

西日本豪雨 何が起きた? 土砂災害に“ある特徴”が…

豪雨によって、西日本では多くの土砂崩れが発生。死者・安否不明者が増え続けています。土砂災害が数多く起きた広島県。昨日行われた緊急調査に同行しました。広島大学大学院の海堀正博さんです。山肌の崩れた場所では、地面で蓄えきれない地下水が流れ出していました。

広島大学大学院 教授 海堀正博さん
「相当な量あって、今でもこれだけ。土石流が発生したときは、もっと水の量が多かった。」

さらに、市街地に押し寄せた土砂崩れの跡を調べると、あることに気がつきました。

「この辺、石が少ないですね。」

広島大学大学院 教授 海堀正博さん
「ええ、大きい石がない。」

「小さい石しかないってことですか?」

「そういうことです。普通の土石流だと、1メートルとか50センチの石がごろごろ転がって。」

積もっていたのは細かな粒。「花こう岩」という岩石が砕けたものでした。

「この状態が花こう岩?」

広島大学大学院 教授 海堀正博さん
「そうです。岩の状態で、これがバラバラになって粉になる。」

火山性の岩石である花こう岩。年月を経て風化すると、ぼろぼろに崩れやすくなる性質があります。この花こう岩は、西日本中心に各地に広く分布するといいます。赤い所が、地表に花こう岩が出ている部分です。九州・中国・四国の北部近畿地方など。こうした場所では、特に土砂災害の可能性が高いというのです。

広島大学大学院 教授 海堀正博さん
「土砂災害の危険箇所、土石流の災害の危険箇所とか、崖崩れの災害の危険箇所というのが多いという状況になってしまった。土石流とか崩壊の起きやすい場所は無数にあります。」

被害はなぜ広範囲に?

武田:最近、温暖化によって気象現象が極端になっているということがよくいわれますけれども、今回の豪雨災害もその表れということがいえるのでしょうか?

中北さん:今回の場合は、広い範囲に梅雨前線が停滞して、水蒸気がやって来たということで、とにかくあちこちで前線、線状降水帯が発生して、土砂災害が起きるということがありました。通常の梅雨でしたら、九州、広島、山口、あるいは近畿というふうにそれぞれの場所の中であちこち土砂災害が起きるのですが、今回の場合は、その線状降水帯が同時にいろんな所で発生したということで、どこでも今まで起こったことのないような場所でも土砂災害が起きて、1軒や2軒だけでの場所でも大きな被害を受けたというような特徴があると思います。

武田:そういった事態というのは、ある程度、温暖化によってもたらされるということは予測されていた?

中北さん:温暖化によって南から水蒸気がよりたくさん入ってくるということで、各地の線状降水帯、梅雨豪雨が増えるというふうな推測をずっとしてきていますし、北海道、東北というような所でも起こるだろうというふうに推測をしています。という意味では、温暖化によってフェーズが少しもう変わってきているだろうという理解をしておく必要があるんだろうというのが、今回の災害だと思います。

被災地の最新状況は?

武田:雨は現在はやんでいますけれども、各地で地盤が緩んでいて、土砂災害の危険性は続いています。町のあちこちで土砂崩れが起きている、愛媛県の宇和島市で、田中キャスターが取材を続けています。

田中:宇和島市吉田町にあります避難所、JA立間に来ています。こちらには一時、200人ほどが避難していました。今は建物の2階と3階で、避難をしている方々が夜を過ごしています。あちら、少し薄暗く見えますが、夜間ということももちろんあるんですが、実はこの建物も地下にある電源が浸水して使えなくなり、自家発電で最低限の量を賄っているからなんです。一番多くの人が避難する2階のホールには、扇風機は2つ、そして、明かりは1つしかありません。

水も浄水場が被害を受けたため断水していまして、今も復旧の見込みは立っていません。こちらは防火水槽から引いてきた水を、トイレ用に使っているものです。バケツにくんで、1回1回流して使っています。

ここで集落全体で避難してきたという方々に出会いました。その被害の深刻さを取材しました。

避難所からおよそ3キロ離れた、荒巻地区の住人たちです。

住民
「家の近くで撮った写真なんですけど。高台の方に家があって。」

土砂崩れで一時集落は孤立。その後、消防団に救助され、全員が避難しました。

家はどうなっているのか。けさ、住民たちは消防団の先導のもと、様子を見に行きました。家の前の道路が川のようになっています。敷地は一面の水たまり。この家は、基礎の部分がほとんど流され、かろうじて立っている状態でした。危険な状態が続いているため、住民たちは帰宅を断念せざるを得ませんでした。

荒巻地区の住民
「まだまだですね、これ見たら。(帰宅は)ちょっと難しいかな。」

武田:被災された方々の暮らしの立て直しの見通しはどうなんでしょうか?

田中:荒巻地区に住んでいる人の中には、朝にはまだ家に戻れるだろうと期待している方もいたんです。ただ、一時帰宅をしたときに、地区に1つしかない一本道がまだ土砂で埋まっていたり、あるいは上流から水がまだ流れていたり、そして木や潰れた車が立ちふさがっている状況を見たときの、皆さんのがっかりとした表情、そして不安そうな表情が目に焼きついています。
また、私がこちらに来てからずっと感じているのは、このうだるようなこの蒸し暑さなんです。こちら、高齢の方も多く住んでいます。今後、避難が長期化した場合、体調の悪化もとても心配されます。さらに何よりもライフラインが徐々に復旧しても、いったん地盤が緩んでいる地域に住んでいる方々は、また雨が降った場合、新たな災害が起きる可能性があって、命の危険がある以上、帰るに帰れないという状況なんですね。まだまだ全く心の休む時間はありません。

かつてない災害… 西日本豪雨

武田:被災した方々が気をつけるべき点は、どんな点でしょうか?

中丸デスク:今も暑さという話がありましたけれども、今日、各地で梅雨明けしたとみられまして、明日以降、本格的な暑さがやって来ます。避難所で生活する人を含めて、熱中症に十分な注意が必要です。それから避難所や車の中での生活が長引きますと、「エコノミークラス症候群」になる可能性があります。これは過去の地震災害などでも起きてますので、注意が必要です。長時間同じ姿勢でいることを避けるために、時々体を動かすなどしてください。さらに、泥水が乾燥することで砂ぼこりが発生して、肺炎や気管支炎なども起こりやすくなるということで、こまめに掃除をして床を清潔に保つことなども必要になると思います。

武田:経験したことがないような災害に、どんな心構えで対処すればいいんでしょうか?

中北さん:フェーズが変わってきていますので、住民の皆さんはより早く避難するようにするとか、治水対策も進めていくという必要があると思います。

武田:行政も今までの発想を超えて、対策を続けていく必要があるということですね。このあとも引き続き取材してまいります。