バイロンベイの農場が提案する、これからの体験型コンテンツ
実際、健康や環境問題に関心の高い住民やビジターが多く、街のオーガニックレストランやフレッシュジュース店は大にぎわい。朝のビーチでも20人ほどが集まってヨガをしていたり、スローライフを地でいく街であることがうかがえます。
そんな意識高めな街、バイロンベイの郊外にあるのが農場レストラン「The Farm」。ここでは、「GROW」「FEED」「EDUCATE」をフィロソフィーに掲げ、野菜や動物、コミュニティを育て、レストランやストアでそれをシェアし、ゲストや子供たちに”学び”までを提供しています。
日本でも農園や牧場にレストランが併設された施設は増えてきましたが、ここまでクリエイティビティに溢れ、網羅的に体験型コンテンツを提供しているところはまだ見かけません。
今回はこのThe Farmの展開を通して、これからの体験型コンテンツに不可欠な要素とはなにか? について考察します。
1日中楽しめるエンターテインメント施設
The Farmは広大な敷地に農場やレストラン、コーヒースタンド、バー、ベーカリー、ショッピングストア、子供たちの遊び場……あらゆるものが揃っていて、週末に家族で1日中楽しめる”体験型エンターテインメント施設”といっても過言ではありません。
左上から時計回りに)農場、レストランの外観、カフェ&ストア、レストランのテラス席。
場内の施設や製品には理念や想いがきちんと反映されており、どれもクオリティが高いことに驚かされます。
例えば、鶏・豚・牛などの飼育環境は、畜舎に押し込めるのではなく、自由に動き回れてストレスフリー。餌も、鶏や豚には自然由来のもの、牛は100%牧草を与え、きわめて健康的に育てられています。野菜はなるべく自然に近い形で育てる”バイオダイナミックス農法”を用います。
「The Bread Social」と名付けられたベーカリーは、地元のパン職人とのコラボ運営。ここに、地域社会との関わりを大事にしていることもうかがえます。
ショッピングコーナーでは、農場で採れた新鮮な野菜はもちろん、オリジナルの加工品、雑貨、レシピ本まで、驚くほどお洒落でクリエイティビティ溢れるものが展開されています。
左上から時計回りに)オリジナルのレシピ本、ベーカリー、コーヒースタンド、ショッピングコーナー。
ゲストはレストランでゆっくりとすごしたり、カフェでパンとコーヒーを片手におしゃべりしたり、農場を散歩したり。子供たち専用の広い遊び場も用意されており、多種多様な人たちが満足できる環境作りが徹底されているのを感じます。
ファームツアーに参加中の若い女性ゲストたち。
The Farmが特にユニークなのは、フィロソフィーの1つである「EDUCATE=学び」の要素。
農場では連日行われているファームツアーに加え、子供たちの農体験、メディカルハーブやみつばちについて学ぶワークショップ、バイオダイナミック農法やパーマカルチャーについて学ぶ講義など、さまざまなプログラムが展開されています。
さらに「The Garden Shed!」というコーナーでは、「自分たちが食べるものは、自分たちで育てる」というコンセプトのもと、簡単に育てることができる食用植物についての知識を学べるようになっていたりします。
The Farmは、施設での体験に「学び」が加わることで、人々が食や地域のコミュニティへ積極的に関わるようになることを期待しています。体験を日常のアクションにまで繋げていくことで、環境や健康に配慮した行動や思考が習慣化し、持続可能な好循環を社会にもたらすのではないか、と考えているのです。
The Farmの主要メンバーたち。サーファーらしくカジュアルな出で立ちながら、ビジョナリーで秀逸なビジネスモデルを構築
このThe Farmのルーツは、「three blue ducks」というオーストラリアで4店舗を展開しているレストラン。自分たちが提供する食のトレーサビリティやサステナビリティを追求した結果、このような体験型の農場レストランという形になったといいます。
また「three blue ducks」のコアメンバーは、社会的な活動を行うアクティビストではなく、海や自然、リアルフードを愛するサーファーたち。自分たちが本当に良いと思える環境や循環を作り、健康的な食べ物を享受したり提供したい、という純粋な動機からThe Farmは生まれているのです。
体験型コンテンツに必要な5つのファクター
「モノからコト」に消費マインドが移行していく中、さまざまなシーンで体験型コンテンツが重要視されるようになりました。しかし、このトレンドにのってできたものが全て成功しているかというと話は別です。そこで改めてThe Farmを見ると、コンテンツ設計のヒントがありました。
成功の要素となるのは以下の5つのファクター。中でも、体験をより深いものにする(5)エデュケートは最も重要ではないかと思います。
1. 生産から提供まですべてに透明性のある「トレーサビリティ」
2. 継続的に育まれていく「コミュニティ」
3. 質が高く心地のよい「クリエイティブ」
4. 地域との関わりを大切にする「ソーシャル」
5. 体験を日常化していくための「エデュケート」
一見、オーストラリアの片田舎のお洒落ファームかと思いきや、The Farmにはこれからのコンテンツづくりのヒントが詰まっており、多くのインスピレーションを得ることができました。ヨーロッパやアメリカにも同じような施設が増えてきているので、旅先の候補に入れてみてはいかがでしょうか。
連載 : クリエイティブなライフスタイルの「種」
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