佐賀平野は広大な低平地であり,世界的にも屈指の軟弱地盤によって形成されています.また,北は背振山地を背し,南は日 本有数の干満差を有する有明海に面しています.平野内を流れる河川の多くが,天井川であることも特徴です.したがって,洪水等の災害を受けやすくまた排水もしにくいといった問題もあります.一方で,低い土地である低平地は水の集積もし易く,生物・生産活動が地球上でもっとも活発な地域でもあります.世界的な文明の多くがこのような低平地域を中心として発展してきた経緯を見れば容易に理解できるでしょう.このように平坦で都市空間としての有利の面を持つ低平地での快適な空間形成の創造は,今後も益々重要となってくるでしょう.
以下,大学の講義(低平地水圏環境学特論)でよく説明する内容を簡単にまとめてみました.
1.低平地の現況と問題
(1) 低平地とは・・・
狭義には,「海岸や河川などの平均水位よりも低い沖積平野」と定義される.
★近年の環境問題(地球温暖化,海面上昇)
我が国は四方を海に囲まれ,河口近くの低平地に大都市が発達している.
2050年・・・平均気温4.5℃上昇(?) → 海面水位1.4m上昇(?)
シナリオ通りにいくとその被害は・・・,
1)平均満潮位以下のゼロメートル地帯の面積が現状の3.5倍(4200km2)
2)人口は3倍(1000万人)
海上都市,大河川の周辺平野,火山湖周辺の平野なども低平地問題を有する.
平均潮位よりも低く,かつ広い面積の海岸地域が世界各地に存在する.
多くの文明の起源は,世界各地のデルタ地帯や海岸域に遡ることができる.
→現在では,人口の多い場所や都市の8割が低平地
ある意味で「低平地」は,「海,河川,湖などの水域周辺にあって,水位変動の影響を受けやすい環境下にある平地」である.
2. 佐賀平野の特徴
(1)立地特性と治水・利水
・県土面積:2440km2,県全平地面積の約70%(約510km2)が低平地.
・県全人口:約87万人の約35%が低平地に居住(約30万人).
・地盤沈下,潮汐作用,浮泥堆積により水害による被害多し.
.集水能力の低い背振山系だけで水資源は決して豊富ではない.
・不安定な淡水取水,地下水への依存度が高い.
・有明海の潮汐の影響を受け,満潮時には自然排水が困難.
(2)特徴
1)江湖(えご)とクリーク
江湖:澪筋の形成後,その規模が大きくなったもの
・・・佐賀江,八田江,本庄江など
クリーク:干潟の澪筋が陸化後も残存,
あるいは灌漑用水の確保などの人工的に掘られたもの.
佐賀市周辺のクリーク面積:約900ha,容量:約12百万m3
※クリークの役割:農業用水の確保,集落浸水防御など.
2)平地と山地
全国・・・山地:76%,平地:24%,佐賀・・・山地:42%,平地:58%
(可住面積大→治水対策が広範囲,山地が少ない→水不足)
3)有明海と潮汐
湾奥部での干満差が6m ,感潮域が六角川では30km付近にまで及ぶ.
(河川水の利用が困難,洪水・高潮問題の発生)
4)広大な低平地
計画高潮位以下に佐賀平野の多くが位置する.
(海水面上昇など地球環境問題への影響)
5)天井川
河床が堤内地盤高よりも高く天井川である.
(洪水氾濫が生じやすい)
6)軟弱地盤
軟弱粘土層が平均で15~20mで堆積している.
(地盤処理なしでは,各種事業の実施が困難)
7)農業用水の使用率
全国的には農業用水の使用率が非常に高い
(河川の水利用率 全国:66%,佐賀:82%)
→ため池,クリーク,アオ取水の利用
■低平地でのいくつかの課題を列挙すると・・・
・洪水と排水
・水循環と環境学的特性
・地盤沈下と地下水汚染
・低平地における水質管理
・生態学的側面
・今後の展開と管理,等が挙げられる.
☆低平地沿岸海域研究センターではこのような「低平地」に着目し,これを切り口とした国内唯一の学術研究機関として有明海沿岸低平地域の諸問題はもとより,世界的な低平地研究の中核施設として広く研究成果を世界へ発信することを目指し,研究を進めています.