俺は超越者(オーバーロード)だった件 作:コヘヘ
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それは最初に気づいた最後の分岐点。運命は物語へと終着する。
ユグドラシル終了残り一か月を切り、段々俺の気分は落ち込み始めていた。
もちろん、出稼ぎは辞めてはいないし、スクロールを売ったりもしていた。
だが、もう町にはプレイヤーはほとんど見かけない。
人化の指輪を使い人間種の町に行ってみたりもした。
そちらは幾分賑やかだった。ただ前来た時よりプレイヤーの人口密度はない。
今まであちこち襲撃したりしていたのが馬鹿らしくなるくらい静かなのだ。
皆最後の時間を細々と過ごしていた。
毎日問答無用で襲い掛かってきていたPKプレイヤーすら俺と対話してから挑んでくるようになっていた。
皆どこか諦めているかのようで、まるでリアルのようだった。
俺が愛したユグドラシルが失われるのは見ていて嫌だった。
思い切って魔王警報出さずに襲撃した。誰もいない挑んでこない。
うっかり無関係なプレイヤーを魔法に巻き込んでしまう。
回復アイテムをただで渡そうとしたが、断られた。
そんなある日、解散した従属ギルドのメンバーの一人からメールが届いた。
アカウントを消していない従属ギルドメンバーが何人かいたのは知っていた。
久々に来たメールには長々と魔王モモンガへの時敬の挨拶があり俺は苦笑した。
それに続く内容を読み、俺は驚愕した。
翌日、俺は元従属ギルドのオーバーロードであるスルメさんに連れられとあるワールドの中心街に来ていた。
俺は昨日知ったのだが、最終日近くということで主義主張、種族の差をも超えたギルド連合国家が結成されたという。
それは、ある意味ワールドチャンピオン以上のドリームビルダーの頂点。誰もが認める〇印プレイヤーによるギルド連合国家だった。
参加しているプレイヤーにはワールドアイテム持ちもいる。
例えば、ワールドアイテム『乞食の肉』。
全ての存在がオーバーロードすらこのアイテムは飲食可能。無限の量を強制的に食べさせられるアイテムだ。
名前からしてアウトだが、敵判定で食べさせると低確率で状態異常を引き起こす性質の悪いワールドアイテムだった。
このワールドアイテムを取得した際とある白髪オッドアイのエルフは「何故俺は緑髪にしなかった!」と世界の中心で戯言を叫んだ。
『乞食の肉』を取得した途端に彼は当時名高かった弓ガチビルド構成を大胆に変更し、『逃げる』ことただ一転に特化した。
真面目だった性格が反転したようになり、空腹状態のプレイヤーを探し出しては強制的に『乞食の肉』を食べさせる。しかも敵判定でという畜生行為を行い始めた。
彼はアインズ・ウール・ゴウン以外の上位ギルド連合討伐隊すら逃げきった。古参プレイヤーなら誰もが知る伝説的ドリームビルダーだ。
その行いのせいで一時期異形種狩りより「白髪のエルフを殺せ」と話題になったのを俺はよく覚えている。
その他にも碌でもないプレイヤーばかりだ。
冒涜的な異形種を操り、他プレイヤーの目の前で冒涜的な行為を行うことで数多くのプレイヤーのSAN値を直葬した女森祭司(ドルイド)。
R18だと毎日のように運営に問い合わせが来たが、『ギリギリセーフ』との回答に問い合わせた全てのプレイヤーはガチギレした。
何らかのアイテムを用いてプレイヤーを禿にしまくった『至上の光』を自称する至高天の熾天使(セラフ・ジ・エンピリアン)。
とあるギルドダンジョンを単身で攻略し、幼い容姿のNPCを大量に作成、配置したガチペド聖騎士等々。
誰もが聖者殺しの槍(ロンギヌス)で即抹殺されてもおかしくないプレイヤー達ばかりである。
しかし、異常なまでの生命力で今まで平然とのさばってきた真の強者。逆の意味でワールドチャンピオン以上に畏怖されたプレイヤー達だった。
濃い性格だったはずのスルメさんを振り回し調整役に周らせた。
スルメさんはいつの間にか連合代表のギルド長になったらしい。
その俺はその就任挨拶を頼まれた。しかも魔王ロールで。
もう思う存分好き勝手に話して良いとのことだった。
久しぶりの仲間の頼みだからと引き受けた。
誘ってくれたのは嬉しかったが、正直色んな意味で嫌だった。
スルメさんがギルド長となったギルド拠点は神殿だった。
神聖な空間を思わせる中で全くもって神聖とは程遠い畜生プレイヤー共とそのNPC達。
端的に言って俺はヤケクソだった。
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静まり返った神殿内。そこは誰もしゃべらなければ完璧な。俺の理想した空間だった。
「かつて我々は弱者だった。強者が驕り弱者を甚振る」
ユグドラシル初期俺は蹂躙された。扱いはおもちゃだった。
「今でこそ超越者(オーバーロード)足る私すらも地を這い、屈辱の中での滅びを確信した」
ゲームを辞めようと決意したときだった。
「そこに現れたは純白の聖騎士。救われた私は集まった仲間達と共に強者に立ち向かった」
全ての始まりのクラン『九人の自殺点(ナインズ・オウン・ゴール)』。
俺は、「魔王」のオーラを解き放つ。
「我らは世界を作り、この世全ての財を手にした」
在りし日の栄光。ギルドを手に入れた。鉱山を手に入れた。2500人を討伐し返した。
手に入れた財でナザリック地下大墳墓という世界を彩った。
「…そんな我らが真に望んだのは全ての存在の安寧、生きとし生ける者全ての平穏だった」
絶望のオーラを解き放つ。異形種狩り等へのPKK。今でこそユグドラシルの惡の華。
しかし、全ての始まりは善だった。
「理解しようとしない愚か者達が何度も我らが居城を攻め、私は自己で完結してしまった」
櫛の歯が欠けたようにいなくなるギルドメンバー。仲間達との思い出に俺は執着した。
「しかし、今ここに真の自由と平穏の理想郷が誕生した」
本当に自由過ぎる面々に俺は苦笑する。
「私は怒る自分自身に。私は怒る我らがついに手に入れられない存在に。私は怒る世界の終焉を!」
いてつくはどうを解き放つ。
俺は許せないユグドラシルが終わってしまうことが。
例え異世界に転移してしまって永遠の繁栄が約束されたとしてもそれ以上に許せない。
「…だが、超越者たる私ではできなかった偉業を諸君は成し遂げた」
一旦間をおいて「魔王」のオーラを解き放つ。
このギルド連合はある意味俺たちの夢を叶えたものだった。
それが最後の一瞬だったとしてもだ。
「全ての存在、異形種・亜人種・人間種の国を築いた諸君を祝福しよう!」
俺は心からの称賛を彼らに贈る。
超越者(オーバーロード)としてゲームクリアしてもできなかったことだ。
俺がやったことは内心はどうあれ『従属』という形で対等ではなかった。
「繁栄を!遍く栄光が諸君に降り注がんことを!願わくば我らが世界に匹敵する栄光を!」
俺は仰ぎ見るように両手を広げて彼らを祝福した。
僅かな静寂。
その場にいたNPCを除く全ての者達が雄たけびを歓声をあげる。
俺は用意していた課金アイテムで砂時計のように消え入りその場を後にした。
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疲れた。
勝手に退場したが良かっただろうか?
あの後、スルメさんからはこの世にある全ての称賛の言葉を凝縮したと錯覚する程の感動と感謝を述べられた。
きっと喜んでくれたと思いたい。
俺は彼らが羨ましかった。俺が彼らに誘われなかった理由はわかる。
アインズ・ウール・ゴウン、ナザリック地下大墳墓。
ゲームクリアにより強化されたそれはもはや対等な関係を結べない。
俺は生まれて初めて栄光あるはずのアインズ・ウール・ゴウンとナザリック地下大墳墓の存在に、これまでの行いに後悔した。