絶え間ない低空飛行訓練にさらされたらどうしますか。問題解決のカギは「地元の要望」?「米軍による配慮」?それとも「日本政府のやる気」?さて…
米海兵隊の基地に海上自衛隊が同居する山口県の岩国基地。神奈川県にある厚木基地からの空母艦載機の移駐は今年三月に終わりました。米海軍の戦闘機など六十一機が追加され、海兵隊の約六十五機と合わせて米軍機は百二十機以上。海上自衛隊の航空機を含めれば、百五十機にもなります。
沖縄県の嘉手納基地を抜き、東洋最大の基地に躍り出たのです。
◆空母艦載機が移駐
岩国移駐は二〇〇六年の米軍再編で日米両政府が合意しました。移駐に反対した当時の岩国市長は容認派の候補に敗れ、受け入れが既成事実化。日本政府の側面支援もあって容認派の市長は当選を重ね、昨年から始まった岩国移駐はスムーズに進みました。
元の岩国基地は滑走路の延長線上に石油コンビナートがあり、市街地にも近接。地元の要望もあって防衛省が滑走路を一キロ沖合に移設したところ、滑走路の先にある広島県がもろに航空機の騒音を浴びる結果になったのです。
世界遺産・厳島神社のある宮島の絶景スポット「弥山」の頂上に立つと戦闘機の離陸に伴って足元からごう音が近づき、頭上を越えて機体が見えなくなるまでエンジン音が響くといいます。
宮島がある廿日市市に住む坂本千尋さんは「空母艦載機の飛び方は海兵隊機と全然違う。二機ずつ離陸して四機編隊で廿日市の上空を飛んでいく。その分、騒音もすさまじい」とのこと。
廿日市では、大声を出さないと会話が聞き取れないほどの騒音にあたる七〇デシベルを観測した回数が一六年度は六百二十六回でしたが、一七年度は八百九十四回と大幅に増え、空母艦載機移駐の影響が出ています。
◆やりたい放題の米軍
より激しい騒音の被害を受けているのが島根県との境にある北広島町。戦闘機が低空飛行訓練を行う「エリア567」と呼ばれる空域の真下にあります。本来は「エリアQ」という自衛隊の訓練空域ですが、昨年、米軍は二百五十三日分の使用を求め、事実上、米軍の訓練空域になっています。
この「エリア567」で昨年十月、米戦闘機二機がミサイルを避けるためのフレアと呼ばれる火の玉を十数回繰り返して発射し、大騒ぎになりました。
北広島の美濃孝二町議は「廃校になった小学校を目標にしているようだ。急降下してきた戦闘機が急上昇していく。これを何度も繰り返すのです」。米国では、住宅地の上空を極力飛ばないよう配慮する米軍が日本に来るとひょう変するのでしょうか。
米軍機は、最低高度は百五十メートル以上と定めた日本の航空法の適用を受けません。一九九〇年ごろから全国で低空飛行訓練が問題となり、日米両政府は九九年、最低高度は百五十メートル以上、学校・病院に考慮することで合意しました。
北広島町では「もっと低く飛んでいる」との指摘があります。その証拠でしょうか、自動車のクラクションと同じ一一〇デシベルの騒音まで記録しています。訓練中止を求める地元の切実な声に米軍が配慮する様子はありません。
広島県にはブラウン・ルートと呼ばれる低空飛行訓練ルートもあります。ブルー、グリーン、オレンジなど色分けされた低空飛行訓練ルートは全国各地に広がりますが、これらは日本政府が提供した訓練空域でも何でもありません。勝手に米軍が名付け、勝手に訓練に使っているのです。
日本と同様に米軍基地を抱えるドイツでは、提供施設外の訓練はドイツ国防相の同意が必要。イタリアでもイタリア政府との調整、承認が不可欠です。米軍のやりたい放題がまかり通る日本は主権国家といえるでしょうか。
広島県は防衛省に対し、航空機騒音の見返りに交付金制度の新設を求めますが、島根県は財政措置と距離を置いています。訓練を容認したと受け取られるからです。広島県の市町村の中でも対応は分かれています。米軍をめぐり、地域が分断されているのです。
現在、空母艦載機は空母に載せられて出港し、岩国基地にはほとんどいません。しかし、海兵隊の戦闘機は残っているので、静寂が戻ったわけではありません。
◆防衛省は責務果たせ
防衛省は、空母艦載機の岩国移駐によって増えた騒音被害の実情と繰り返される低空飛行訓練の実態を把握する責務があります。日本列島は米軍の占領地ではありません。理不尽な訓練に対し、日本政府が中止を求めるのは当然の話です。
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