西日本豪雨の被災地において、自衛隊がコンビニ各社と連携して物資(商品)供給をしていることが話題になっています。
被災地に必要な物資が届けられることで助かっている人が居るのですが、中には疑問を投げかける者もいるようです。
なるほど、疑問ですからね。非難や反対ではないと。
であるならば、ということで調べてみました。
(「感想」だからデマじゃないと言ってる人と似たような論法の気がしますが)
- 西日本豪雨の被災地の物流需要は一時的に増えている
- 民間の物流会社の力を後押しすれば良かった?
- コンビニやスーパーとの連携協定は必要?
- 「被災地の人に金を払わせるとは非道だ!」に対して
- 特定のスーパー・コンビニは「指定公共機関」
- まとめ
西日本豪雨の被災地の物流需要は一時的に増えている
これを見るだけでも分かる通り、被災地における物流需要が通常時の倍以上に増えているため、輸送力を強化する必要があったということです。
民間の物流会社の力を後押しすれば良かった?
上図は流通経済大学の苦瀬博仁氏らが国土交通省等の政府機関と連携して災害時の物流について研究した結果報告の一部です。
平時よりも需要量が増大する一方で、物流関係の企業が被災することで供給力(商品生産力や輸送力)が平時よりも低下するということが分かります。
また、災害の影響を受けて道路状況が悪くなり、輸送に時間がかかることもわかります(自衛隊車両でないと通れない場所が発生したかどうかにかかわらず)。物流会社が全く被災していなくとも、道路状況等によって質的に輸送力が低下するのです。
災害復興の急性期においては類型的に供給不足が生じるため、多少のニーズのズレが生じてもプッシュ型の救援物資の輸送が必要になると考えられています。
したがって、民間の輸送力だけでは需要に対処しきれないので、国の輸送力=自衛隊の力を借りようというわけです。
そこで、国と企業間においては「平成27年度末時点で、輸送協力協定(トラック協会)は100%締結済み、保管協力協定(倉庫協会)は72.3%、物流専門家派遣協定(トラック協会、倉庫協会)は64.9%である」という状況になっています。
自衛隊が輸送業務で連携することで、民間では供給できないリソースを賄うことができるということがわかります。自衛隊にも不足しているノウハウはあるので、それは民間企業の知見で補完されることになっています。
したがって、民間の物流をプッシュしても、そもそも民間の物流能力の絶対量が足らないという事態には対処できないということになります。
もちろん、自衛隊による輸送強化と同時に、民間による輸送の強化を支援することも忘れられているわけではありません。
政府の側に民間の業績を奪い取ろうという意図があるならそれは良くないですが、民間の側も理解しているので安心してください。
コンビニやスーパーとの連携協定は必要?
例えば倉敷市の避難所には、一体何人の方が避難しているでしょうか?
倉敷市のHPを見ると、指定避難所で行政が把握しているのはせいぜい3000人です。それ以外の可能性も考えるともう少し多いでしょう。
倉敷市の人口は48万人です。
果たして、全員が避難所に避難していると思いますか?そうではないでしょう。
避難所にもキャパシティがあります。全員を受け入れることはできません。
避難所には避難所に対して食糧等が輸送されています。
一方、自宅に留まっている人に対して個別に物資を供給することは不可能です。
そのため、地元の方は自前で物資を調達する必要があるのですが、地域のスーパーやコンビニで買い物をしたくても、品不足になって買うことができなくなっては意味がありません。
更には、スーパー・コンビニを利用するのは被災地の住民だけに限りません。
このようにして、避難所に物資を供給するだけでは不十分だということが想像できると思います。被災地全体に対する支援が必要だという視点に立たなければ、国とスーパー・コンビニ協定について正しく評価できません。
もちろん、避難所への物資供給についても考えられています。
この辺りについては、193 参議院 災害対策特別委員会 3号 平成29年03月29日193 参議院 災害対策特別委員会 3号 平成29年03月29日、192 参議院 災害対策特別委員会 4号 平成28年11月18日が参考になります。
「被災地の人に金を払わせるとは非道だ!」に対して
これは一見すると被災者の側に立っていると思われますが、次の視点が重要です。
「企業も被災者である」
企業に勤めて給料を得ている人もまた被災地の住民であることが多いはずです。
企業の収益が無くなってしまえば、会社の存続が危ぶまれます。これでは復興をしようとしても雇用がなくなってしまい、人が被災地から離れてしまいます。
消費者目線ではなく、生産者目線で考えれば、商品という形での物資供給は、経済活動が停止することなく被災地支援が行えるという利点があるのです。
国がスーパー・コンビニと連携することのメリットについては、勝見氏がまとめています。
- 救援物資を自治体が協定価格で一括購入することで成り立つ仕組み
- 通常購入も可能なため営業活動も併存可能
- コンビニ側は災害時でも利益率を下げず自治体側は有効な支援策を実施できるというwin-winな協定
このような仕組みが分かっていれば、被災者がお金を出して商品を購入することについて理解が得られると思います。
特定のスーパー・コンビニは「指定公共機関」
なお、特定のスーパー・コンビニは災害対策基本法上の「指定公共機関」となっています。魚拓:https://archive.fo/LSorv
熊本地震の教訓が活かされた、ということですね。
まとめ
- 被災地では需要が平時よりも大幅に増加する
- 対して輸送能力は量的にも質的にも低下する
- よって、自衛隊の輸送力を導入すると共に、民間の輸送力の強化が必要
- 食品等の需要があるのは避難所だけではない
- 特定のスーパー・コンビニは「指定公共機関」
- 国と民間の協定により、企業は経済活動を停止することなく被災地支援が可能
全部が国の手柄だとかを言うつもりのある人なんて、居ないんじゃないでしょうか?
災害対策は総力戦だということ。過去の災害の教訓が活かされているということが分かり、心強いと思いました。
以上