軍旗はためく下に

深作欣二の初期の傑作

生々しい度 100
謎解きスリリング度 100
人肉大安売り度 100
総合得点 99


うそぉ〜
これひいた〜


あの深作欣二の初期作品ということで、もっとスポットが当たってもいいはずなのだが、国内ではDVD化さえされておらず、そもそも観ることが難しい作品だ。むしろ国外ではDVD化されており、評価が高い作品とされる。

終戦間際に夫を失った妻。その手元には戦死通告が届いていたが、その通告は奇妙なもので、"戦"の字が消されて"亡"の字が足されていた。死亡←こんな感じ

なんだべこりゃ、、

戦死と死亡の違いはけっこう大きく、夫は英霊に加えてもらえず、恩給もでない。付きまとう不名誉。しかし夫、冨樫軍曹(丹波哲郎)はなぜ、戦死者ではないのか?役所に問い合わせると冨樫軍曹は敵前逃亡で軍法会議にかけられ処刑されたという。日本の法律では軍法会議にかけられ処刑された兵士は戦死扱いにならないという。

だが、軍法会議にかけられたという証拠は一切残っていないし、いつ刑が執行されたのかもわからない。なのに戦後26年経ってもお役所の石のようなロジックに阻まれ、夫は戦死者にさえなれない、、

妻は真実を知るため執念で当時を知る元軍人たちを訪ね歩いて話を請う。

冨樫軍曹が戦い、そして死んだのは
ニューギニア戦線であった。太平洋の血生臭い戦場で最も苛酷で生還率が低く、兵站が軽視され、飢餓地獄が巻き起こった戦場だ。しかも42年から終戦までダラダラ続いた。

ニューギニア戦線の飢餓については、
「ゆきゆきて、神軍」などもオススメしたい。あちらはドキュメンタリーだが、主人公が当時を知る軍人たちを訪ね歩くうちに地獄のような"聖戦"の裏側を知るという作りは、かなりこの映画に似ていると思う。

また、日本軍の飢餓と人肉食について、古くは市川崑の「野火」でレイテ島の散々な飢餓地獄が映像化されている。これも併せてオススメしたい。

さて、この映画であるが、全編にみなぎる
緊迫感はものすごいものがあって、見ているうちに冷や汗と緊張で指一本動かせないぐらい体が硬くなっていくのがわかった。見せ方がやはり並みではないのだな。これが巨匠の力なのか、、

残虐描写も真に迫っており、ホラー映画顔負けの大迫力。素晴らしいです。人肉を貪る幽鬼のような兵隊や(これがまたすごい迫力なのよ)、あまりの惨状に正気を失ってしまった哀れな将兵たち。憲兵はヤケクソで処刑命令を乱発し、軍法会議すらろくすっぽ行わず弱り切った兵たちを血の海に沈めていく。もうこの辺はソビエト連邦の督戦隊を全く笑えないと感じる。
人権の片鱗すらなく、命の価値は路傍の石に劣る。

残虐描写もかなりリアル


ある場面では捕虜にした米軍パイロットを参謀の命令で処刑。学徒上がりの少尉が軍刀使ってサバこうとするが、うまくできずに無意味に苦しめまくる。この辺の残虐さときたら生々しすぎて怖いぐらいだ。確かにそんな気持ち良くアッサリ殺せていたとも思えないですよね。。

クソな上官のせいでアホみたいに命を散らせていく末端の兵士たち。バカで無能でどうしようもない奴なのに、肩についてる星が一個多いだけで、生殺与奪がそいつに握られちまうという理不尽。意味もなく殴るし、マラリアのやつまで働かせるし、メシは自分だけたらふく食いやがってよぉ。

なんなんだこのリアルさ。。今の企業風土もあまり変わっていないからな、、おれもアホ上司にひどい目にあわされたことがある。だからなんとなくわかるんだよ。この理不尽さが、、軍隊には付き物?
いいや、この無茶苦茶さは日本独特のものだと思うね。ヒエラルキーが厳格すぎるというか。キレイな言葉で言えば"忠誠心"と言われるのだろうが、、これほど人間の浅ましさを隠さず描いた日本映画があっただろうか?

妻は戦後26年目にしてようやくこのような残酷な戦争の実態を追体験していくことになるのだ。それは名誉や勇ましい戦闘とは程遠いあまりに惨めな世界だった。

アメリカ軍とオーストラリア軍に囲まれ、敗退に次ぐ敗退。しかし大本営はこの島に執着し、末端兵士は無能なお偉方の役立たずの作戦のせいで見るも無残に消耗していく。野砲や機関銃はろくに動かず、時代遅れの三八式歩兵銃でさえ兵隊の手にはゆきわたらない。タマもなくメシもなく、自決用の手榴弾すら乏しく、死にたくなったら空の注射器で心臓に空気をぶち込んで死ねという。大本営のエゴは未来有望なる若者
18万人の犠牲を強いた。そのほとんどは感染症による病死、飢餓による餓死である。なんつー戦争だ。戦争と言えるんかこれ。。

勇ましく死にたくてもその機会さえない。。こんな戦争で英雄になろうったってそりゃ無理だ。。冨樫軍曹はいかにして死んだのか。

謎解きはスリリングで、最後まで油断できない。全てを知った時、妻は途方もない絶望と共に、夫の死になんの意味もなかったことを知る。そして、最後の最後のメッセージは、、

まあとにかく私の表現は平凡だが、この映画の迫力はすごい。確かにこれは日本ではDVD化はキツいかもしれん
ハッキリと菊の御紋を批判しているからね。とてもアナーキーな、さすがフカキン!と素直に膝を打てる映画です。

そして丹波哲郎が演じる冨樫軍曹はこう言うと不謹慎なのかもしれないが、
もうメチャクチャカッコイイのである。「けーけん(ニヤリ)」っとするところ、オシッコが漏れるかと思うほどカッコいい。最後の最後、日本の方角向いて部下を抱いて波打ち際で、、、胸の奥がジーンと熱くなる。素晴らしい演技でした。


最後に戯言を。
日本という国は、
無条件に愛国心を持つには複雑すぎる国だ。改めてそう考えさせられた。
日本を褒め称える若者たち。
日本が好きです!
英霊様に感謝の念を!
天皇を、靖国を褒め称えていたらそれでいいのか?その結果、ある種の人々を傷つけているかもしれないのに。

英霊にさえさせてもらえない、彼らのような人々がいたことを忘れてはならないのでは?彼らは売国奴の逆臣か??違うだろう。彼らは生きて帰って家族に会いたかった。惨めに餓死などしたくなかった。それだけである。

この地獄のような世界で死ぬまで歯を食いしばってくれた、この人たちこそ英雄なのでは?しかし靖国神社にはこの人たちはいないのである。こんな矛盾が他にあるか?

私はたまたま劇場でこの映画を観る機会に恵まれた。幸運だったと思っている。なかなか観れない映画なのが大変残念。国内でのDVD化を強く望む。
 
海外ではDVD化されてる


 

 

 

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