モモンガ「12話にして、やっとキチゲ解放!!」
オルランド「ケラルト・カストディオ怖すぎぃぃ!!」
怒りのブドウ亭。聖王国において一部の人種に人気の名店である。
開店中は常日頃から喧騒が鳴り止まない物騒な店として有名であるが現在、店内は怒鳴り声等の音はどこからも聞こえてこない。
店内に閑古鳥が鳴いているわけではない。むしろ、いつもよりも席は埋まっているほどである。
ではなぜ、店内が異様に静かであるのか。原因は2つある。
1つは、オルランド・カンパーノ――聖王国においてその名を知らぬものがいない戦士が、昨今、噂の絶えない救国の英雄モモンとその連れと店内に入店してきたからである。
強きものには敬意を払う荒くれ者の暗黙のルールを遵守する彼らは、当然、実力が確かなものへの配慮を忘れない。――という側面もあるが単純に聞き耳を立てているというのが大きい。
実際、通常の飲み屋のようにグラスを傾ける音や雑談は普通に発生している。
ただこれでも、異様なほど静かであるのは少なからず彼らが気を使っているということである。
2つは、オルランド・カンパーノの連れてきたモモン一行、正確にはモモンが片手で頭を抱えて口を開かないからである。横に座る二人も悔しそうな表情を浮かべるだけで声を発しようとはしない。
「おい…モモンの旦那よぉ。なんかまずいことでもあるのか?」
「オ…オルランド殿。やはり、式典でのダンスと言うのは必須なのか…?」
「まあ、普通は貴族なんかしかおどらねぇが、今回モモン殿は聖王国の救済の立役者だしな。聖王女主催のパーティーなら普通に踊らにゃならんと思うぜ。」
「こいつは参ったな…」
モモンガは、完全に油断していた。聖王国でのビッグイベントもつつがなく終了し悪名ではない方法で、周辺諸国に名を広めることもできた。
あとは、よくわからないパーティーで報酬をいただきこの国からおさらばするだけ!
そう思っていた矢先にこれである。
(ひょっとして、亜人のボスと対峙している時が一番心が安らいでいたんじゃないだろうか…。普段は普段で心労が絶えないしなぁ。胃が痛い…ないけど。)
「もしかして…ダンスが踊れねぇのか?」
モモンガのただならぬ様子を察したオルランドから疑問の声が上がる。
「はい…普通に踊れませんよ…。むしろ、オルランド殿は踊れるんですか?」
NPCの評価がダンスの経験で下がるかは不明だが、ここで強がるのは非常に拙い結果を生むと考えたモモンガが素直に認める。
「いやぁ、俺もダンスなんて軟弱なものはさっぱりでね。モモン殿は品があるから貴族とかお偉いの出なんじゃねーかなと、思ってな」
(品!?小卒で教養ゼロの俺が!?)
「いや、貴族ではないですよ…。そうですね…。ある団体のまとめ役として癖の強い人たちをまとめていたので物腰が柔らかく見えるとかそういうことではないですかね?」
ふーん、そういうもんか。と興味なさ気にオルランドが呟く。対照的にNPCは至高の41人の話に集中して聞き耳を立てているのが分かる。
(こいつら、ギルドメンバーの話好きすぎだろ…)
「まあ、ダンスができねーのなら基礎だけ学んでほんの一小節だけ踊るっていう手もあるらしいし、俺が掛け合って練習の相手探してきてやろーか?」
「では、それでお願いしてもよろしいですか?」
「いいってことよ。そのかわりと言ってはなんだがもう一度、俺と模擬戦してくんねーか?
もう、旦那と
(ヒェ…。こいつの台詞なんか怖気が走るんだよなぁ。そっちの気はないと知っててもぞっとするわ。まあ、狙われていると言う意味ではあながち間違いでもないのかも知れないけどさぁ)
「おほん…。そうですね、でしたら周辺諸国の強者の情報や、色々な情報を知っていそうな人物のことを教えてくれませんか?教えてくれたら、明日にダンスの練習相手を紹介してくれる際に模擬戦を行いましょう」
しれっと、ダンスの練習相手の紹介の期限を明日にするとは…流石はモモンガ様と考えている二人を尻目に欲に目がくらんだオルランドが了承し、情報を話し始める。
「そうだなぁ。周辺国家まで名が響いている戦士で言えば、王国のガゼフ・ストロノーフにブレイン・アングラウス。あと、蒼の薔薇のガガーラン。帝国で言えば、皇帝直属の4騎士に亜人の武王くらいかね」
「王国、帝国というと前に教えてもらった国ですよね?」
「そうそう、魔法詠唱者で言ったら帝国のフールーダ・パラダインはかなり有名だな。なんでも200歳くらい生きているから情報なんかもいっぱいもってるんじゃねーか」
「なるほど、王国には優秀な魔法詠唱者はいないんですか?」
「ああ、あの国は魔法詠唱者は軽視されてるらしーぞ。で、その王国と帝国は毎年戦争してるんだけども、その対戦場所のカッツェ平野って場所があってな。そこが…
その後、周辺諸国の情報を得たことでご満悦のモモンガがお礼をいうと、そんなモモンガをドン引きさせるほどの笑顔でオルランドは了解の意を示して飲み会はお開きになった。
あまりにも欲望に忠実な態度は、モモンガがなくしてしまった尻の部分を手でおおってしまったほど不気味であった。
◆◆◆◆◆◆◆
「よし、ではオルランドから得た情報から今後の行動をどうとっていくか作戦会議を行う」
オルランドとの飲み会(という体の情報収集)の後、二階の宿泊先に戻った三人は一休みを入れる間もなく作戦会議を開く。
「ハッ!シカシ、作戦会議ヲ行ウトシテモ下僕ノ身デアル我々ニ深謀遠慮デアルモモンガ様ニマトモナ意見ヲダセルトハ思エナイノデスガ…」
ふぅーとモモンガは聞こえない様に大きく息を吐く。
これがモモンガを現在悩ませている問題である。
NPCの忠義が重い以前に融通がきかなすぎるのだ。
(彼らはもうゲーム時代の様にプログラムで動いている存在ではない。不思議なことだが今までの経験上、自分で考え行動することができている。つまり…)
上司である自分が教育をまともにできていないということであろう。
(ううぅ…でも仕方ないんだ。だって今まで安全確保もできず、自分のストレスもマッハな状態だったんだ。そこまで手が回らなかったんだぁ)
そして、大きく息を吐いたのは、ため息だけのためではない。気合を入れるためだ。リアルではただの一会社員である自分が他人を教育する。しかも、相手は紆余曲折あって捨て犬のように心が弱っている。
結果、自分の言葉一つで自害しかねない(実証済み)
会社なら新入社員に仕事を教えたことはあったが、果たして自分にそれができるのだろうか?――否
(できるかじゃないやるんだよ!鈴木悟!いや、今はナザリックの支配者モモンガか)
ちなみに部屋に戻るなり、すぐにまじめな話を始めるモモンガによってNPC達にも緊張が移り、いつもより硬くなっているという側面もあるのだが、そこにはモモンガは気づいていない。
会社の上司(しかも会長クラス)が真面目に仕事を行っている状態で部下は気を抜くことができないのは当たり前であるのだが、色々精一杯のモモンガに多くを求めるのは酷だと言えよう。
「コキュートスよ。この世界に転移してすぐに私は意見を出すことの重要性を説いたはずだ。私とて完璧ではないのだ、色々な意見が出たほうが今後のためにも良いだろう」
そして、次にいう言葉が重要なんだよという意味をこめて一拍溜める。
「それに私はお前たちが考えている以上にお前たちのことを評価している。そのことを踏まえて忌諱のない意見を述べよ。例えそれが的外れでも私は咎めたりしない」
「ハッ!」 「はっ!」
「よし!では、まずコキュートスよ。我々はこの聖王国を出国後、どこにどの様な目的でいくことが重要であると考えられる?」
「ヤハリ、コノ世界ノ知識ヤ情報ヲモット多ク集メルコトガ先決デアルト考エマス。」
「ほぅ、ではそれをするにはどうすれば良いと思う?」
「ハイ、オルランドノ話ヲキクカギリ少シ遠クハナリマスガ帝国ニ行クノガ良イト考エマス。魔法詠唱者ノ教育ナドヲ行ッテイル点カラ王国ヨリモ国防ニ優レテイルノデ文化ガ発展シテイルノデハナイデショウカ」
「サラニ、フールーダ・パラダイントイウ人物ハ人間ニハ珍シク長ク生キテイル点カラ多クノ情報ガ手ニハイルト愚考シマス」
「ふむ…では、王国は一旦、後回しにするということだな?」
試されていると感じたのか、コキュートスが少しの間深く悩む仕草を行う。
「ハイ。ソレデモ問題ナイカト…」
「ふっふっ、すばらしいぞ!コキュートス!お前の考えていた事は私も考えていた。お前のおかげで私の考えにもより説得力が増したと言うことだな。見事な提案だ。」
「アリガトウゴザイマス!」
(よい上司になるためにはまずは褒める!なんといってもこれが大事だよな!しかし、こんなことになるなら、ナザリックから『良い上司になるには~入門編~』を持ってくるんだったなぁ)
コキュートスを褒めながら、部下教育の第一段階が上手くいったことに安堵する。しかしその一方で
(確かに、魔法詠唱者がいるってことは国防上有利だし育成する国力があるってことだよな…。そこまでは考え付かなかったなぁ!!)
正直、モモンガも次の進路は帝国がいいのでは?とぼんやり考えてはいた。しかし、それは人間最長寿らしき人物がいるという単純な思い付きであったというかそれしか考えてなかった。結果、危機感が募る。
(やばいなぁ。実は無能だとばれるのもそこまで遠い日ではないのかもしれない…)
「えーおほん!そうだな、では方針はそれでいくとしてナーベラルよ。これから行われる式典で何か気をつけるべきことがあると思うか?」
この質問は先ほどコキュートスにしたものよりも遥かに重要度が低い質問である。なぜなら、この国の式典の細かいことなどこの時点で知れるはずがないからである。つまり、答えとしては一般的な式典のマナーなどを答えればよい。
(ふふ、ナーベラルの役職はメイド!パーティーの準備とかもするだろう。つまりその辺の知識はもっているはず!個々人には答えられるであろう質問を振ることで自信を持たせれる!これも『良い上司にry 』に書いてあったぞ!)
そのメイド観は当たっているのか?という疑問を第三者が持ちかねないことを考えている間にナーベラルが口を開く。
「はっ!私としては、至高の御方であるモモンガ様が人間どもに合わせてダンスの練習をする必要などないと考えます!モモンガ様の威厳をもって踊る気はないと言い切れば奴らも納得するのではないでしょうか?」
「なっ、なるほどな。確かにナーベラルの言うとおりかも知れんな。ただ…そうだな、会場の人間どもに私がダンスから逃げたと思われるのは癪ではないか?パーティーの出席者であるお前らの顔を立ててやる為に少しは踊ってやる。とやつらにそう思わせることも大事ではないか?どうだ、ナーベラル納得したか?」
モモンガは完全に予想外の質問が来ても声を震わせず、冷静に対処できた自分を褒めてやりたい気持ちでいっぱいだった。しかし、不安から納得の有無を問うことを止めることはできなかったが。
「はい!その深い考えには感服いたしました!」
「ありがとう、ナーベラル。お前の意見も素晴らしかったぞ。ただ、今は人間に紛れて情報収集をしている段階だ。あまり、攻撃的な意見は今は控えてみるとさらにいいかもな!うん!そうだな!」
久しぶりに個人で褒められたからだろうか?ナーベラルのポニーテイルがぴくっと上に跳ねる。
そんな、ナーベラルをみて、モモンガは嬉しいと体の一部が反応するのか?なら、コキュートスも元の姿ならあのスパイクつきの尻尾がブンブンと反応していたのかな?と気の抜けたことを考えていた。
◆◆◆◆◆◆◆
「あーー、約束どおりダンスを教えられる人材を連れてきたぜ。」
後日、オルランドがフードを被った人物を連れてモモンガ達を訪問した。
しかし、第一声はいつもの快活で獰猛なオルランドらしくない口調である。その声色には少なくない困惑が読み取れる。
「今回、旦那にダンスを教授してくれるカローラさm…さんだ。2日で踊れるようにするのが目標なので、時間がない。ということでモモン殿との個人レッスンになるそうだ。」
謎の人物がフードをとり、自己紹介をするためにオルランドの横、モモンガ達の前に場所をとる。
「はじめまして。今回、モモン様にダンスの特訓をつけさせて頂く、カローラです。2日間よろしくお願いいたします。」
その瞬間、モモンガはオルランドの困惑の理由を悟った。
「えっ!?いや…女王様ですよね?」
どこから、どう見ても先日、挙動不審だった女王以外の何物でもない。一応、髪形を変えて冠を外してはいるが、もろばれである。むしろ隠す気はあるのか?
「女王といいますと…カルカ・ベサーレス聖王女のことですか?光栄ですが、似ているだけの別人物ですよ。…私がなぜ、モモン様のダンス指導に当たることになったのかはモモン様であれば理解できるはずです」
「なるほど…取り乱してしまいました。それであれば、確かにあなた以外の適任者はいませんね…」
「察しが良くて、非常に助かります。やはり、ダンスを踊れずとも武芸に秀でているモモン様であれば、演舞と同じ要領であることを理解できると考えて、正解でした。」
「いえいえ、たまたまですとも」
「ダンスっていうのは、技術もそうだがパートナーに合わせるということが一番の難所らしくてね。2日間という少ない期間で仕上げるにはこうするしかないということらしい。」
カローラ?とモモンガの会話を聞いて、不思議そうな顔をしているナーベラルとコキュートスにオルランドが耳打ちする。
ちなみにモモンガに表情があれば、間違いなくNPCと同じ表情をしていたことは言うまでもない。
「では、時間もないので練習を開始してもらってよろしいですか?ナーベとコキュートスは旅館で待機しておいてくれ」
「はい。承知しました。」 「ソウサセテイタダキマス」
反論がくるのを身構えていたモモンガに対し、NPCは素直に答える。
(おっ!もしかして、早くも教育の結果がでてるのでは!?やはり、教育が人を育てる…やまいこさんが言っていた通りだな!)
カローラとモモンが練習場に移動する後ろ姿を見送ったあと、無茶ぶりが酷いと愚痴をこぼすオルランドの姿があった。
その姿は、とても超級の戦士には見えず、くたびれたサラリーマンにしか見えなかった。
◆◆◆◆◆◆◆
(くふふふふふ、遂に!遂にこの時が来たわ!)
カローラ改め、カルカは幸せの絶頂にいた。ここ2、3日は何をしていてもモモンのことを考えてしまい、公務すらままならなかった。
しかし、現在、憧れの人物といっても過言ではないモモンと密室に二人きりである。そして、ダンスの練習…勿論、体は触れ合っている。どこかの墳墓の住人であれば、その場で鼻血を出しながら倒れこんでもおかしくはない、美味しいシチュエーションである。
カルカも例に漏れず、心のなかで残念な妄想に浸っているのだが、それを隠し、まじめな顔で指導に取り組んでいる。やはり、腐っても王族。
鈍感属性持ちのモモンガでは、その内心をうかがい知ることが出来なかったのは幸いである。
「モモン様は、転移される前はどんな職業につかれていたのですか?」
ある程度、ダンスからぎこちなさが減ると会話する余裕が生まれてくる。その間に会話が始まるのは自然なことであった。
「そうですね…深くは言えないですが、ある団体の長をしていました。まあ、長と言っても基本的に個性的なメンバーの調整役でしたが」
まさか、サラリーマンというわけにもいかないモモンガはアインズ・ウール・ゴウンでの自分の立ち位置を語る。
(アインズ・ウール・ゴウン…俺の輝かしい全て…)
「そうだったのですね。個性的とはどう、個性的だったのですか?」
「大のロり…子供好きの弓矢使い、可愛らしい声を持っていて、時には厳しいこともズバズバ言う戦闘指揮官、正義を愛した聖騎士に中2…悪に拘った大魔法使い…細かく挙げるときりがないほどですよ」
「なっなるほどー、そっその中にモモン様の恋人はイナカッタノデスカ?」
「?。恋人ですか?別にいませんでしたよ?」
いきなり、かみかみでぎこちなくなったカルカに疑問を持ちつつ、モモンガが答える。
「えっ!!確か、アルベドという方が恋人ではなかったのですか?」
(あーー!!そんなんあったな!確か、ナーベラルの失言をオルランドから聞いたのか?)
「恋人…ではないですね。どちらかと言うともっと一方的な関係と言いますか。上手くは言えないですけどそういった関係ですかね…」
(アルベド…設定の改変は、最後の最後に俺の心の弱さが生んだ間違いだ。それを恋人というのは、いくらなんでもアルベドの親であるタブラさんに失礼というものだ)
「そっ、そうなんですか…」
重たい事情を感じ取ったカルカは、これ以上の追求をしなかった。まあ、彼女が確認したかった情報は得ているので、あえて深入りせず引いたと言うのが正しい。
もしこれが、某王国の吸血姫であれば引き際を見誤って、地雷を踏んでしまうだろうが、そこは人の機微を読み取ることに長けた地位にいるもの。頭が恋で沸騰していようが、そこの配慮は完璧である。
「では、休憩はこれくらいにして練習を再開しましょう。」
「すいません。手間取らせてしまって…何分、ダンスははじめてなので…」
「いえ、モモン様大分、才能があるほうだと思いますよ?飲み込みも早いですし」
二人の特訓が終了したのは、時計の針が12を回ったころであった。
◆◆◆◆◆◆◆
時刻は、モモンガとカローラ(偽名)がダンスの練習をする前にさかのぼる。
「で?コキュートス、モモンガ様に警護をつけなかった理由を聞かせてもらえるかしら?」
素直に、モモンガを一人にするという行動。ナザリック地下大墳墓のNPCなら、死すら免れない大罪である。それをコキュートスはナーベラルに提案したのだ。
コキュートスは忠義に篤い男。おろかな理由での行動ではないと思うが…
「ソウ、ニラムナ、ナーベラル。モモンガ様ハ先程ノ言動カラ、私達ノ成長ヲ望ンデイル様ニ思ワレル。」
「私たちに意見を求めた会議の話で合っているわよね?」
「ソノ通リダ。デミウルゴス、アルベドナラ兎モ角。私ヤナーベラルノ考エ付クコトハ、御方ニモ考エツイテイルハズダ」
確かに。とナーベラルは考える。あの会議はどこか不自然であった。あの程度の進言をモモンガ様が考え付かないはずはない。しかし、どちらの進言も前向きな言葉を掛けてくださった。まるで、私たちの案を肯定することが前提であったかの様に。
「気ヅイタダロウ。ツマリダ。アレハ、ナンデモイイカラ私達ニ意見ヲ述ベテホシイ、トイウモモンガ様ノメッセージデアッタト考エルノガ自然ダ」
興が乗ってきたのか、コキュートスの解説が続く。
「モモンガ様ハ、想像ヲ絶スル智者。あの会議ヲオコスコトデ、私達デモコノ真意ニキヅケルト考エテオラレルノデアロウ…。シカシ、デミウルゴスナラ瞬時ニキヅクダロウガ、私ハホンノ少シ前マデ、コノ考エニ至レナカッタ。」
コキュートスが悔しそうに解説を終了する。しかし、コキュートスは自分を卑下したがこの真相に至れるだけで十分に凄い。
考えてみれば、コキュートスはデミウルゴス不在時に防衛時NPC指揮官の任に就いている男。決して馬鹿ではないのだ。
「だけれど、私たちの成長を望んでいるのと、モモンガ様の護衛に付かない件は何が関係あるの?」
ここからが話の本題なのか、コキュートスが自慢気に言い放つ。
「先程ノ説明デモモンガ様ガ我々ニ自分デ考エルコトヲ推奨シテイタノハ、確カダトイエル。ツマリ、モモンガ様ノ発言ノ真意ヲヨメトイウコトダ!」
ナーベラルがこれだけでは理解できないと首を傾げたのを見て、コキュートスが説明を追加する。
「モモンガ様ハ、相手側ノ提案通リ、一人デ練習ニ向ワレタ。教エラレルトイウ立場ヲ配慮シタモモンガ様ノ御判断デアロウ」
「人間如きがモモンガ様にものを教授しようという立場をとっているというの?おのが身分を考慮にいれるなら土下座して教えさせていただくのが礼儀ではないのかしら?」
「マア、モモンガ様ニ教授スル係リトハ本来、人間ニハ過ギタ褒美デアルガ、モモンガ様ホドノ偉大ナカタデアレバ、利益ヲ優先シアノ様ナ態度ヲトラレルト考エル。アア…私モ、モモンガ様ニモウ一度、剣技ヲ教授シタイ…。ソシテユクユクハ御子息ニモ…アア、爺ハ強イデスゾ…」
「そういうのはいいから、早くつづけて」
「アッ.ハイ」
「ツマリ、言葉ニセズトモ自分デ考エロ…。相手側ノ提案モノミツツ、護衛ニツクニハドウスレバヨイカ?」
「!!なるほど!秘密裏に護衛し御身をお守りしろということね!?」
合点が言った。という態度をナーベラルがとり、瞬時にあることに気づいたのか、ナーベラルが驚愕の表情を浮かべる。
「ドウシタ?ナーベラル?」
「コキュートス…もしかするとよ…もしかすると、これは私がモモンガ様の恋人役になれる様にする為の特訓も兼ねているのではないかしら?」
「ドウイウコトダ!?」
「モモンガ様を秘密裏に護衛すると言うことは、当然モモンガ様は私たちの存在に気づいているけれど、相手はその限りではない…。つまり、モモンガ様が他人にどの様に対応するかを特等席でみれることと同意!!ナザリックきっての智者であるモモンガ様の行動を目にすることができれば、そこから学べるものはとんでもないと言えるわ!そうじゃない!?コキュートス!」
「確カニ…考エルトソウトモ考エラレル…。ムシロソウトシカ考エラレナイ!!」
「すごい…凄すぎるわ…モモンガ様。発言の裏に二重にも三重にも真意が隠れている。アルベド様ならもっと多くのことを読み取れるのかしら?」
「ソウトキマレバ、早速、護衛ニ行クゾ!!ナーベラル!」
「ええ、急ぎましょう!」
◆◆◆◆◆◆◆
「昨晩はお楽しみだったようですねぇ?」
カルカの部屋に入ってくるなり、ケラルトが言い放つ。どう好意的に解釈しても、キレている人間の声である。というかブチ切れである。
「なんのことかしら?」
しかし、それをカルカはそよ風の様に受け流し、本当に疑問であるといった態度で返す。それをみたケラルトは、自分の勘違いであったか。と謝罪し…なかった。
「ネタは挙がっています。昨晩カルカ様の部屋にいた影武者は、こちらで捕えていますし、カンパーノ班長から自白も出せていますよ?これでもシラをきるおつもりですかぁ?」
「いやぁ…それはそのぉ…」
「普段のカルカ様であれば、もう少しうまい隠蔽工作ができたでしょうに…。明日の式典の準備でこちらは大忙しなんですよ!そんな時に殿方とダンスの練習とは…」
「それは、本当に申し訳ありません…。」
「全く…、では今日の仕事に取り掛かりますよ!何とか夜の8時には終わらせるように頑張りましょう!8時からモモン様と約束があるんですよね?」
「えっ!?行っていいのケラルト?」
「どうせ、引き留めても行かれるのでしょう?でしたら、時間制限を設けて仕事に集中するのが効率的だと言えるでしょう。」
カルカの顔に満面の笑みが咲く。さすがはローブルの至宝と言われるだけあってその笑顔は美しかった。
「あっ一応、ペースを詰めるので30分後までにこの資料の束に目を通してください。その後、大臣との会食が控えてますので時間厳守でお願いします。」
「はい…」
しかし、その笑顔はケラルトの鬼ともいえるスケジュール管理によりすぐに枯れてしまうのだが。
◆◆◆◆◆◆◆
「モモン様あなたはこれから、どうなさるのですか?」
2日目の練習の休憩時、意を決した様にカルカが真剣な表情で問いかける。
「どうといいますと?」
「ここは、あなた方にとって見知らぬ土地です。この聖王国は、あなた方に救って頂きました。しばらくの間、ここで住んで貰っても構いません。もし、望むのであれば、3人とも役職についていただくことも可能です。」
(これは、王女直々のスカウトということと考えていいのかな…?)
聖王国という国は救国の英雄である自分達に非常に好意的である。悪い提案ではない。しかし…
「ありがたい申し出ですが、遠慮いたします。…誤解をしないように言っておきますが、私はこの国が決して嫌いではありません。ですが、昨日述べた個性的メンバーの内2人が私と一緒の原因でこの大陸に飛ばされている可能性が高いのです。私達はこれから、彼らを探す旅にでようと考えているのです」
そうなのですか!とカルカは驚く。そして一拍おいてまた、喋り始める。
「でしたら…その方の情報を私達の国でも探します。ですので…たまに、たまにでいいのでこの聖王国に顔を出して頂けないでしょうか?」
(なぜ。ここまで親切にしてくれるんだ?なにか裏がある?…わからん。まあ、大きな戦力である俺達との繋がりを保っておきたいということか?まあ、こちらとしても悪い話ではない)
スカウトよりも求婚に近い様な気がしないでもないが、鈍感主人公モモンガ様が、カルカの真意に気づくわけもなく、ダンス練習はつつがなく終了した。
部屋の片隅には誰かが発したのであろう歯ぎしりの音が響いていた。
◆◆◆◆◆◆◆
式典はスムーズに進んだ。今回はモモンガ達の都合上、急に開かれた式典ということもあり、参加した他国の来賓は帝国と法国のものだけであった。
問題として懸念されていた(モモンガサイドが)ダンスもつつがなく終了。
その後、当初の約束通りアダマンタイトでコーティングされたメイスに白金貨300枚。それと、救国の英雄として勲章が授与された…
(帝国使者サイド)
「どうだ、アルシェ?彼らの力…特に魔法詠唱者ナーベの使用位階は読めたか?」
ヘッケランが声を潜めて、横に立つアルシェに耳打ちする。
今回、ヘッケランがリーダーを務めるフォーサイトは普段とは毛色の違う依頼、そして毛色の違う依頼主に困惑を隠し切れなかった。
――フールーダ・パラダインーー帝国最強の魔法使いであり、重鎮。そんな彼からの依頼は、聖王国の式典に潜入し、モモン一行のナーベの力を読み取るというものであった。
フールーダという大物が依頼主となれば、そのバックに皇帝が絡んでいることは確実。失敗は許されない。少しでも良い情報を持ち帰りたいのだが…。
「それが…全く読み取れない。魔法使いであれば、弱くても少しは見えるはず」
「探知を阻害するアイテムを装備しているのかもしれませんね…。ということは、隠さなければいけないほどの強者という事でしょうか?」
ガタイの良い男が顎をかきながら考察する。彼の名はロバーデイク、最年長ということもあり落ち着いた表情を崩さない。
「それって、なかなかのアイテムよね…あんな美貌をもってて、魔法の才能も有り、金も持ってるって…ねぇ?なんか気に食わないわね」
悪態をついたのは、イミーナ。レンジャーとして優秀であるのだが、結構口が悪く喧嘩っ早い。何気に素行不良に見えるヘッケランより問題児である。
「そういうなよイミーナ。噂通りの力とあれだけの美貌があれば、いくらでも金は手に入るだろうしな」
「確か、今回支払われた報酬は帝国公営の宝くじの一等とほぼ同じ金額ですね。かなりの額ですが、かれらの成した功績を考えると安いのか高いのか…わかりませんね」
「やったことを考えると安いくらいだと思う。ただ、あれほどの報酬が貰えるのは単純に羨ましい」
話しが逸れてきたと感じたのか、ヘッケランはジェスチャーで静かにするように伝える。
「まあ、今回の依頼はナーベの実力を見て確かめる“だけ”だ。これ以上深入りして、リスクを負うのは勘弁願うぜ」
ヘッケランの提案にその通りだとメンバーは同意する。その後、彼らは表向きの仕事である
、帝国貴族の警護にまわった。
(法国使者サイド)
「分からない…」
人間国家では一般的な礼服を身に着けた女性が呟く。眠たそうな目と礼服に似合わない猫背から全体的にだらしない印象を受ける。
彼女は漆黒聖典第11席次――占星千里。法国の秘匿する最強の組織の一員である。
「おいおい、ここまできて分からないというのは困るぜ。引きこもりが長すぎて集中力が足りないんじゃないのか?」
そんな彼女に軽口を叩く男もまた、漆黒聖典。第7席次――巨壁万軍である。
彼は表向きは法国の使者の護衛が任務であるが、占星千里の護衛の為に今回の任務に参加している。
「集中力というよりは、装備の問題。本来の装備であれば、もう少し何か読み取れたかもしれない。でも何も読み取れないというのは明らかに不自然」
「何が原因だと考えられる?」
巨壁万軍の声が硬くなる。漆黒聖典という組織内だけでなく、法国全体として見ても彼女の探知能力は個人としては群を抜いている。その人物が異常をかんじているという状況が緊張感を強くしたのだ。
「1つ、強力なアイテムで力を隠している。2つ、探知妨害などの魔法を常時展開している。3つ、彼ら自体が強くなく力はアイテム由来のものである。」
占星千里が考えられる可能性を挙げていく。
「そのなかだと1番が高確率だろうな。お前の能力を完全に妨害できる魔法はさすがに考えにくいし、3番は強力なアイテムもある程度の実力がなけりゃ使いこなせないことは、常識だ」
「そうね。私もその確率が高いと思う。」
「となると…本国には探知不可能という報告になるな。あー、カイレ様が怒りそうな案件だな…」
「私の能力で分かることはほとんどなかった。けれどあなたはどうなの?戦士として彼らの実力を計れるものはなにかないの?」
報告のことを考えていた巨壁万軍が、目標の一行を凝視する。少なくない時間が流れてから彼が口を開く。
「そうだな…まず、目が行くのはコキュートスとかいう戦士だな。アイテムで隠されているのか、読み取りにくいが、かなりの使い手だというのが一挙手一投足に垣間見れる。だが、ぶっちゃけ俺より強いかは分からん」
「で、ナーベとかいう魔法詠唱者だが、ある程度は剣の心得もあるんじゃないか。冒険者でいうミスリルくらいの身体能力はありそうだな」
ミスリル!占星千里が思わずと言ったように声を上げる。ミスリルクラスの冒険者の実力は、上から数えたほうが早い。勿論、自分達の足元にも及ばないが。
しかし、魔法詠唱者がそれほどの身体能力を持っているというのは驚愕すべき内容だ。
「それで…リーダーのモモンはどう?」
「それがな…足運びとかから推測するに、ナーベと同じくらいにしか感じられん。まあ、後ろのグレートソードを二刀流で扱う筋力があるんだから、それなりには強いとは思うが…」
「でも、報告では獣王を屠ったのは彼という事になっている」
「屠ったところは誰も見てないんだろ?それこそアイテムの力を使ったのかも知れん。ただ、俺のはお前の能力のような確かなものじゃない。話半分に聞くくらいでいいと思うぞ」
巨壁万軍は苦笑した様にいう。
「でも、報告の情報が多い方がカイレ様に怒られなくて済む」
「確かに、それは言えてるな」
◆◆◆◆◆◆◆
「今回は本当にありがとうございました。」
パーティーがお開きになったあと、カルカがモモン達に頭を下げる。
「いえいえ、最初に言ったように報酬狙いですのでお気になさらずに」
「それでも、本当に助かりました。明日には聖王国を発つということですが、なにかあった時は何時でも…どんなときでも聖王国を頼ってください!」
「あ、ありがとうございます」
カルカの熱意にモモンは少し引く。それと同時にカルカの斜め後ろに立つケラルトがカルカにがっつきすぎとジェスチャーで注意し、ナーベラルが呆れた目でカルカを見る。
「そういえば、オルランド殿はどこですかね?最後に彼とお礼を兼ねた手合わせをする約束になっていたのですが…」
「確か、彼は王宮内にいると思うので呼んできてもらいましょうか」
カルカが警備兵にお使いを頼もうとしたその時…
「その必要はない!!!」
凛とした声が響く。声の発生主は…いままで、姿が見えなかった聖騎士団団長レメディオス・カストディオであった。
今回、白金貨の値段は考察サイトを参考にしました。
金貨10枚=白金貨一枚
金貨が5万円くらいで白金貨一枚50万円くらいかな(適当)
モモンガ達が貰ったのは白金貨300枚なので1億5000万円くらいです。
作者的には、国を救ったらこれくらい貰えるだろう+モモンガのがっつかない配慮+復興であまり報酬を貰えな
いって感じでこれくらいが妥当かなと思ってます。
あと、帝国公営宝くじはオリジナル設定です。
でも、あんだけ娯楽あるんだから宝くじくらいありそうですけどね。
王国に宝くじあったら、絶対一等でなさそう笑
対艦ヘリ骸龍さん、黒帽子さん、miikoさん誤字報告ありがとうございます。