骸骨道中膝栗毛   作:おt
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近日中に2、3話更新すると言ったのに気づいたら前の更新から10日以上経ってたぜ!

ー前回のあらすじー
オリキャラ達の会談


8#亜人同盟の大侵攻

「2000から2500だぁ~?お前、そんなん亜人部族1つや2つの数じゃねーぞ!?情報は確かなのかい?…つーか、お前本物の伝令兵か?所属はどこか言ってみてくんねーか?」

 

「はい!信じられないかもしれませんが、数はバラハ兵士長の部隊からの報告なので間違いないかと。私は聖王国情報部隊伝令課の00165番で…」

 

面倒くさい雰囲気になってきた。モモンガは心の中で悪態をつく。オルランドの言葉節を聞く限り、約2500体の亜人の侵攻というのはこの聖王国?だったか?では滅多にない…もしかすると初の出来事なのかもしれない。つまり、想定の範囲外の戦力の敵であり、この国の軍は苦戦を免れないということだ。

 

(そんな、猫の手も借りたい状況に身元不明の強者が3人…あちらからしたら神がくれたチャンスと感じても不思議じゃないな。)

普通なら、味方に付いてくれと懇願はいいほうで…法に基づいた強制招集などが行われても不思議ではない。しかし、モモンガはこの国に助太刀する気は毛頭ないしNPC達も同様だろう。ぶっちゃけると今、目の前で慌てている者が全員死のうがモモンガは何も思わない。オルランドは戦闘狂ではあるが、なんだかんだで一本気の通った性格は嫌いではないがその親しみも犬や猫に向けるのと大差ないように感じる。

 

(しかし、本当に人間を辞めてしまったんだなぁ…。まず、感情の起伏が激しくなると、何かに抑制されるように平坦なものに変わる。さらには欲望というものが薄くなった。食欲も睡眠欲も感じない。性欲も微妙に感じなくはないが…。)

 

「実戦使用しないで…なくなっちゃったか」

 

「はい…!?何か仰いましたか?モモンさーーーん」

 

(うお!つぶやいただけなのに反応するのはびっくりするなぁ)

ここまで騒がしい喧噪のなかで、モモンガのかなしいひとり声が拾えるということに驚くが、話題が話題だけに反応してほしくなかったのが本音であった。

 

「おい!伝令兵!さっきの亜人侵攻の話は本当なのか!?」

 

店の奥からガタイのよい相撲取りのような体格の男がオルランドやモモンガの近くに歩いてくる。

 

「あん?おまえはどこのどいつだよ?」

 

「おやおや、私を知らないのですか?カンパーノ班長閣下。私はオール・ゴール。階級は兵士長ですよ。まあ、最近まで南側の地域が主な駐屯場所でしたので顔を知らないのも無理はないかもしれませんねぇ。」

 

「俺より弱い奴に興味ねーよ。つーか名前も知らねえよ」

 

オール・ゴールが明らかにキレた表情でオルランドを睨む。モモンガにもピシィという血管のキレた音が聞こえたような気がしたぐらいだ。

 

(うわぁ…一応、兵士長ってこの国の軍位でもなかなか偉いんだろ?それなりに敬意示しとけよ…)

オルランド自身に礼節がないのは確かであるが、モモンガ一行への対応などにはそれなりに敬意がみられたので、やろうと思えば配慮はできそうなものだが、できるからといってそれを実行するのは違うということだろう。さきほどの飲み会中でオルランド自身が上に嫌われていると言っていたが、こんな性格のやつがいたら確かに上は面白くないだろう。モモンガが考え事をしているとオール・ゴールの目線がモモンガ一行に向く。

 

「それで…こちら方はどちら様ですかね?明らかに一般人の恰好はされていませんが?カンパーノ班長閣下のお知合いですか?」

 

「ん?ああ、上には報告したんだがこの旦那方は何やら祖国で魔法の実験に失敗したらしくてな。アベリオン丘陵を彷徨っているところを俺らの部隊が発見したっていう流れよ。」

 

「何ともまあ…怪しい理由ですねぇ。今回の大侵攻も彼らが原因なのではないのですかぁ?」

 

どうやら、この兵士長(笑)はオルランドへの仕返しとして自分たちに難癖をつけることにしたらしい。実際、モモンガ自身も亜人の領域にいた理由が魔法の失敗というのは、怪しいと思うので何とも思わないがこの面倒ごとまで自分たちの責任にされるのは心外である。

 

「これは、彼らにも責任の一端が無きにしもあらず、なのではありませんか?カンパーノ班長閣下が贔屓にしている御人ならば強さもそれなりにあるのでしょう?それに今回の事件は国家総動員令が発動されるのは必至…彼らを徴兵するのも問題はないでしょう。」

 

(やはり、思った通りの展開になったか。)

金も貰い、ここにはもう用がないモモンガが立ち去ろうとしたその時…

 

ボゴァン!ガッシャーン!破裂音と机が破壊される音が店内に響く。オルランドがオール・ゴールの腹に岩の様な拳を打ち付け、殴り飛ばした音である。

 

「オグェ…何を…して…いる…」

 

「てめー!さっきから黙って聞いてりゃなんだ、その態度はよー!!」

 

オルランドがオール・ゴールに馬乗りになる。所謂マウントポジションである。

 

「俺にッ!勝ったッ!相手には!敬意を!表せ!この豚野郎!」

 

「オゴォ、やめっ…痛っ、それぐらいで、グぁッ!」

 

顔をボコボコに殴り始めた。これには流石にモモンガもドン引きである。周りもそうかと確認すると、報告にきた伝令兵以外は、大興奮なのでこの酒場では珍しい光景ではないのだろう。とんでもなくバイオレンスな連中である。

 

「カンパーノ班長閣下…オール・ゴール様は兵士長の立場にあります。今回の危機に対応するためにもその辺でご容赦していただけませんでしょうか?」

 

伝令兵が震えた声で制止に入る。一般兵の彼には生きた心地がしないような状況であったのは間違いない。

 

「私からもそれぐらいで勘弁してあげてほしいですね。別に私は彼に腹は立てていません。それよりも今は彼の言うようにこの危機に対応するのが先ではありませんか?」

 

モモンガもオルランドを制止する。オール・ゴールは顔がボールの様に腫れあがったり、手の骨も折れているみたいだが命に別状はないだろう。どうでもいいが。さて、ここからが問題である。この現場から逃走することは容易い。モモンガ達とその他ではそのくらい力の差があるが、無理やり逃げた場合、この後にモモン達の名が広く知られた時に足を引っ張る悪評になることは間違いない。この国がこの侵攻に耐えられればという前提の話ではあるのだが…

 

(この世界に来ているかもしれない友を探す際の一手として自分たちのの名を知らしめるのは有効な手段だ。)

しかし、この世界の情報が欠如した状態では他に来ているかもしれない敵対プレイヤーに目をつけられる可能性もある。よって、まずはモモンの名で有名になりつつ、情報を十分に得た後はアインズ・ウール・ゴウンに改名すればよい。そのようなプランをひねり出していたモモンガは、協力する姿勢を見せつつ自分たちを危険から遠ざけるのがベストな対応だと計算し会話に移る。

 

(しかし、俺はこんなに本番に強い奴だったか?プレゼン前はいつも胃腸が痛いくらいには緊張していたんだがな…アンデットになって冷静さが増したのかな?)

 

「えーごほん。私はこの国の人間ではありませんができる限り解決にご協力します。ですが、亜人の数は2500体…その中には想像を絶する強者がいるかもしれません。そんな中で私たちが慣れない軍隊組織に編入されると十二分に力を発揮することはできないでしょう。ですので、私たちは遊兵部隊として各戦場を回り色々とサポートをするのがベストだと考えていますが、いかがでしょうか?」

 

完璧な提案である。自分でも自画自賛できるほどの逃げの作戦をこの短い間で考えついたのは、ラッキーだと感じていたモモンガに返ってきた答えは予想外のものだった。

 

「いえいえ、うちの危機に旦那達の力を借りるほど俺たちの面の皮は厚くねーよ。それに…はは!聖王国の歴史上、一度しか起きたことのない大戦争を俺らの時代でもう一度、とは何とも言えないね!」

 

(えっ!ええ…)

 

「お前ら!これから楽しいパーティーの始まりだ!予備武器をかっぱらってこい!」

 

思っていた以上に戦闘狂だった…。もう、モモンガというより鈴木悟はドン引きなんて言葉じゃ表せないくらいオルランドに引いていた。しかし、チャンスではある。こんな面倒くさい事案から後腐れなく脱出できるという意味では絶好の機会である。

 

「そーで「オルランド殿!」いままで、黙って聞いていたコキュートスがいきなり立ち上がり、声をあげる。ちなみにモモンガは思わぬ人物の登場に「えっ?」という感じのまま動けずにいた。

 

「先程、モモンサンガ仰ラレタ通リ、コノ戦ニハ、オ前達ガ到底敵ワナイモノガ含マレテイルカモシレナイ。ソレデモ、オ前達ハ戦ウトイウノダナ?」

 

「ああ、俺は…いや俺たちはどんな強敵だろうと戦い抜いて見せる。それが男ってもんじゃないですかい。(強い奴と戦いてぇ!)」

 

「モモンサンガ言ウヨウニ私達ガ助太刀スレバ戦況ハ有利ニ進ムノハ間違イナイゾ?」

 

「しかし、自分の国を自分で守れもしないやつってのは無様ってもんでしょーよ。(あまり、獲物をとられたくねぇ!)」

 

そこまで、問答を終えたコキュートスが何かしら満足したような顔をする。モモンガは嫌な予感がした。この後のセリフをコキュートスに言わせてはいけないと自分の中の何かが訴えているような気がするのだ。モモンガはコキュートスを止めるために動き出す。しかし、現実は無情である。

 

「ナルホド!素晴ラシイ心意気ダ!モモンサンモ今ノオ前達ノ返答ニ戦士ノ輝キヲ見ラレタニチガイナイ!我々モ参戦シタイト思ウ!イカガデスカ!モモンサン!!」

 

(コキュートス~!!そこまでいったら参戦するしか選択肢ないよね!?まだ、情報収集が終わっていない段階って理解しているか!?もしかしたら俺たちにも対処できない敵がいるかもしれないんだぞ!!それに俺はオルランドの答えに()が見え隠れしてるんだよ!!ここは、なんとか穏便に断る理由を提示しなくては…)

 

モモンガは、何とか断る理由を探す。しかし、何もでてこない。そして、見てしまったのだコキュートスのこの地に転移してから一番ともいえる目の輝きを…

 

(コキュートスは、勝手に人間種の見た目にされたり、そんなに好きでもないであろうメイスで手抜きプレイさせてるし非常に申し訳ないんだよなぁ…しかし、それとこれは別だ!断れ!断るんだ!俺!)

 

コキュートスがじーっとこちらを見ている!

 

(言え!言うんだ!俺!)

 

じーーー

 

「ふっ。その通りだな、コキュートスよ」

 

(いや、いいんだ…確かにNPC達の安全も大事だがストレスだって体に良くないとよく言われているじゃないか…そうだ、俺はNPCの幸せを思って今回の決断を下したんだ…)

 

現実逃避する死の支配者を尻目に非常にコキュートスは嬉しそうにオルランドと作戦のすり合わせを行い始めた。

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

結局、モモンガ一行はこの戦いに参加することになったのだが問題は配置だった。伝令兵がこの国の王に、今回のモモンガ達の参戦を伝えには言ったが、周知されるまでモモンガ達は部外者として扱われるので、事情が分かっているオルランドと戦線を共にする必要がある。しかし、オルランドは

 

「旦那達の強さを発揮するのはここじゃあねえ。もっと、戦力の揃っていないところを助けてやってくれ!(俺達の得物は渡したくねぇ!)」

 

なんだか、興奮していてこんな感じの返答しかしてこないのだ。それに対しコキュートスも

 

「自分ノ安全ヨリ仲間ノ安全ヲトルトハ、祖国ヲ守ル戦士トシテハスバラシイ心構エダ!私モナザリックニ仇ヲナス輩ニハ率先シテ…(以下略)」

 

もう、戦闘狂と武士のせいで変な空気が出来上がってしまっている…ナーベラルはなんか、落ち込んでるし…カオスだな…その後、何度か説明を繰り返すことによってオルランドは意味を理解したらしく、厳つい顔で照れながらぶっきらぼうに謝ってきた。

 

 

「御方…戦士トシテ素晴ラシイ意見ニ興奮シテシマイマシタ…先程ノ提案ハ御迷惑デハアリマセンデシタカ?」

 

オルランドの班と共に行軍している最中、興奮がある程度冷めたのか、恐る恐るといった感じでコキュートスがモモンガに耳打ちしてきた。確かに予想外の展開でモモンガはびっくりしてしまった。しかし、それ以上にコキュートスが自分の意見を言ってくれたことがモモンガは嬉しく感じていた。NPCは創られた存在だからだろうか?自分の意見をモモンガに言うのを遠慮している節がある。

 

(これは…ほんのちょっとだがNPCも成長しているということなのかな…だとしたら、うれしくもあるが…少し怖いな)

成長とは変化だ。今は慕ってくれるNPCもいつかはモモンガを見放すかもしれない。だが、モモンガ自身はNPCを見放すなんてことは絶対にしない。

 

(最終的にはギルメンの様な関係になれれば一番だがな…まあ、そう急がないでもいいだろう。ゆっくりお前たちと友好を深めていけばいいんだ)

 

そういう考えに至るとさっきから、落ち込んでしまっているナーベラルに目が行く。原因は明らかで、モモンガの嫁はアルベドと宣言した一件だろう。どうにかして、立ち直らせてあげたいものだが…

 

「ふっ、迷惑などではないさ。今回のコキュートスの意見を私は興味深いと感じた。私は最初は不安だったのだ。お前達NPCは、我々ギルメンに創られた存在…もしかしたら私やギルメンに自分の意見を言えないという縛りがあるのかもしれないとな…しかし、今回、コキュートスは自分の意見を私に述べた。それは、どんな意見でも素晴らしいことだ。」

 

コキュートスの顔色が明るくなったように感じる。実際に顔色は変化しないのだが…しかし、今回の行動を手放しで賞賛するのはまずい。今回のコキュートスの意見は連絡・相談なしに行ったものだ。今回はまだ、何とかなる案件だから良いが、注意しておかなければ、これから思わぬ事件のきっかけになる可能性もある。

 

「しかし、自分の意見を相手側…つまり、今回はオルランドに通す前に私に相談してくれればコキュートスの行動は完璧だったな。これは、別にコキュートスを責めているわけではないぞ。これからは報告・連絡・相談(ほうれんそう)をしっかりしていけばよい。」

 

会話の中に先回りしてフォローをいれ、コキュートスが落ち込まないようにしておいた。自分でもできる上司の様な対応ができたことにモモンガ自身のテンションも僅かながらにあがる。

 

「それに、今回の戦である程度の活躍をすれば報酬としてコキュートスのメイスをオリハルコンを下地にアダマンタイトをコーティングしたもので作ってくれ、さらに少なくない金貨も支払うということらしい。また、うまく行けば名声も手に入れることができ、我が友に再会に一歩、近づけるだろう。」

 

これは、オルランドに戦の報酬はどうするか聞かれた時にモモンガが答えた内容である。報酬をなしにするのは、ありがたいと思われるより、怪しまれる可能性のほうが高い。そこで、卑しいと思われない程度に報酬を指定しておいたのだ。この世界ではオリハルコンやアダマンタイトは希少金属らしく結果、割ときつい要求になったことをモモンガは知らない。

 

(まさか、そちらで作れる最高のメイスを作ってくれといったらオリハルコンを素材にするとはな…プレイヤーからしたらふざけているとしか思われないだろうなぁ。)

一応、オルランドの言葉節からオリハルコン、アダマンタイトは高級品であることは理解できた。しかし、なんだか納得はいっていないモモンガであった。

 

「今回手に入るメイスはコキュートスに報酬として渡そう。いつまでも魔法で創造したメイスでは不安だろう」

 

これは、モモンガが前から気にしていたことでもある。魔法で創造した武器はモモンガがに何かあった場合、消失してしまう。斬神皇刀はできる限り使ってほしくはないので、コキュートスの安定した主武器が前から欲しいとモモンガは考えていた。コキュートスが肩をプルプル震わしている。どうやら、震えるほど嬉しいらしい。とモモンガが思っていると…

 

「モモンサーーンニオ願イシタイ儀ガゴサイマス!」

 

コキュートスの迫力にモモンガがたじろぐ。というか、ちょっと直ってきたモモンサーーンという奇怪な呼び方が復活していることもかなり、気になる。

 

「ソノ、報酬ノメイスハアリガタク頂戴イタシマス。デスノデ、ドウカモモンサーーンノ作成サレタメイスモ今マデト同ジヨウニ下賜シテ頂ケナイデショウカ?」

 

そんなに畏まって言う内容か?これ?別に「これからもモモンがつくったメイス使いたいんだけど大丈夫?」とかで良くない?重い、重すぎるゥ!そんな、内面はおくびにも出さずモモンガは返答する。

 

「よっよかろう」

 

「アリガタキ幸セ!!」

 

見た目が武士になったせいか、非常に返答も様になっているコキュートスから目線をナーベラルに移す。

 

「ナーベよ。そう落ち込むな」

 

「はっ!しかし、モモンさーーんとアルベド様の関係をガガンボごときに漏らしてしまったのは大きな失態と考えます!この命で謝罪を!!」

 

ナーベラルが腰に差した刀をスムーズに自分の首に持って来る。

 

「よせっ!!」

 

モモンガが支配者然とした態度でそれを止める。しかし、モモンガは内心では制止のこえが震えなかった自分を褒めてやりたい気持ちでいっぱいだった。

 

(え!?こっわー。この子なんですぐに自害しよーとするの!!?)

弐式炎雷と武人建御雷が見つかるまでの間、モモンガはこの二人の親代わりであるという自負がある。それなのに目を離した隙に自害されてはたまったものではない。

 

(んー。もう少し自分を大切にしてくれないかなぁ…俺にとってナーベラルが必要な存在!ってことをアピールできれば、自分が死んだらモモンガが悲しむ→自分の命を大切にしようって気持ちにはなるかなぁ?)

 

少し考えこんだモモンガに一つの案が浮かぶ。

 

(思いついたことには、思いついた…しかし、この案はちょっと恥ずかしいな…。でも普通にやっても効果薄いなら別の角度から攻めるしかないしなぁ。普通に…あくまで普通に言えば問題ないはず…)

 

「ナーベよ。これからも私とナーベの関係を質問されることはあるだろう…私と恋人ってことにするのはどうだ?かまわにゃいな…ないな。」

 

(全然、無理でしたーーー!!!)

ナーベラルは絶世の美女として創造されている。それは、ゲームが現実になった今も変わらない。つまり、童貞にはハードルが高すぎた…言われたナーベラルは、瞬時に真っ白な肌を耳まで赤くした後、うつむて顔を手で覆ってしまった。

 

「もっ勿論、設定での話だぞ!私とナーベが恋仲ということにしておけば、ナーベへのナンパも減るだろうし、アルベドの名前をうっかり出すなんてことはしないだろうしなぁ~なんて…」

 

ナーベラルの反応から、ヤバイ…これはセクハラ案件では…と焦り始めたモモンガは先程のセリフの意図を饒舌に付け足す。多少、早口になってしまうのは童貞の女子に対する常時発動スキル(パッシブ・スキル)なので仕方がない。

 

「(恐れ多くて)死にそうな思いです…」

 

(しっ死にそう!?そんなに嫌がられるとショック!!)

ナーベラルの返答がモモンガのHPに超位魔法級のダメージを与える。

 

(NPCだから喜んでくれると思ったのに!!めちゃくちゃ、恥ずかしかったのに!!)

モモンガは、心のなかで絶叫するがやってしまったことをやり直すことはできない。

 

「べっ、別にこの案は決定ということではないので、今すぐにどうこうというものではない。わ、私は少しオルランドに確認しなければならないことがあるので、ふ、二人は待っていてくれ」

 

黒歴史を作成してしまった気恥ずかしさとこの場から一刻も早く離れたいという考えからモモンガはありもしない用事を作りオルランドの元に向かう。アンデットじゃなきゃ、精神ダメージで死んでたな…と思いながら。

 

 

「イ、今モモンガ様ハナーベラルト恋仲ニナルト仰ッタノカ!?」

 

コキュートスが信じられないものを見たといったような口ぶりでナーベラルに確認する。

 

「こっ!恋仲!?ちっ違うでしょ!コキュートス!モモンガ様はアルベド様という方がいらっしゃるにも関わらず、たかがメイドである私への慈悲から恋仲の真似をしてやってもよい。ということを仰ったのよ!!間違ってもメイドという下賤な身である私を側室に迎え入れようとかそういう話ではないのよ!!」

 

普段の冷静な態度からは想像のできない慌てようでコキュートスにナーベラルが返答する。声は荒く、目はシュッとしているが口角は微妙に上がっている。

 

「ソウダナ…恋仲トイウノハ早計スギタナ。シカシ、不敬カモシレナイガ…コレハオ前ニモチャンスハアルノデハナイカ?」

 

「チャ!チャンス!?どういう意味よ?コキュートス?」

 

「モモンガ様ハナーベト恋仲ヲ演ジテモヨイト仰ッタ。ソノヨウナ事ハ、ソウイウ対象トシテ認識シテイナケレバ

デテコナイハズデハナイカ?。ツマリ、正室ヤ側室ノ話トナルトワカラナイガ、少ナクトモソウイウ対象ノ範囲内ニハ入ッテイルノデハナイカ?」

 

「そういう対象…側室…範囲内…」

 

完全にキャパオーバーしてしまったナーベラルを横目にコキュートスは思考する。

この世界にアルベド(モモンガを愛している)が一緒に転移していない以上、モモンガが妃を娶る確率はかなり低くなる。つまりお世継ぎが産まれる可能性も大幅に減った。しかし、モモンガがナーベラルをそういう対象に認識しているのであればまだ、可能性はある。

 

(フフッ…アキラメカケテイタガ、爺ノ出番ガアルカモシレンナ…)

しかし、モモンガの知謀は単なる一臣下であるコキュートスには計り切れない。もしかすると、ナーベラルを恋仲の役割に充てるのは何か大きな策の一端であり、ナーベラルに全く女としての興味を抱いていない可能性だってある。

 

(コンナ時ニデミウルゴスガイレバナ…)

コキュートスは、自分の良き同僚であり、ナザリックにおいて至高の御方々を除けば随一の知謀をもつ悪魔を思い浮かべる。彼であれば、自分よりうまくモモンガの考えを読み取り最善の行動を行うに違いない。そこでふとコキュートスは疑問に思う。

 

(ナザリックハ…ドウナッテシマッタノダ…)

消滅したとは…考えにくい。過去に1500人ものプレイヤーの侵攻を食い止めたこともあるのだ。簡単になくなるとは思えない。しかし、いくら思い込んでも嫌な想像は消えない。

 

(ナーベラルニ聞クノハ…辞メテオコウ…)

意識がここにはない(逝っちゃてる)ナーベラルを一瞥する。彼女は7姉妹の3女であり、姉妹の繋がりという意味ではコキュートスよりもホームシックは強くなるはずだ。わざわざ、このことを認識させて不安にさせる必要はない。

 

(モモンガ様ニハ、話シテオクベキカ…シカシ、モシ消滅シタト仰ラレテシマッタラ…)

コキュートスは、悶悶としながらもそこで考えるのを打ち切った。

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

「市街戦に発展した場合の対応策3案は完成したみたいですね。先程、幕僚の方々が資料にまとめたものをもってきてくれました。」

 

口を開いたのは聖王女カルカ・ベサーレス。ローブルの至宝と称賛される外見の美しさと第4位階までも行使する信仰系魔法詠唱者としての高い素質により女性ながら聖王国のトップになった存在だ。

 

「報告によると亜人の数は2000から2500ほどということでしたね。しかも、単種の亜人だけでなく確認されてるだけでも山羊人・半人半獣・魔現人など種類も豊富。今は、バベル・バラハ兵士長の部隊と周辺の砦の部隊で何とか抑えているようですが、市民の戦闘準備までの時間稼ぎになれば上々といったところでしょう。」

 

うっふっふっふ、といやらしい笑い方をしたのもまた女性だ。茶髪に整った顔をしているものの垂れた目尻や口角の向きから何か企んでいるようなーー悪くいえば腹黒という雰囲気の人物である。彼女はケラルト・カストディオ。神殿の最高司祭であり、神官団団長という地位に付く。使える魔法は信仰系第4位階であるとされているが実際は第5位階の行使も可能である。

 

「ん?そんな戦い方をしてたら、バベル・バラハは逃げ遅れて死んでしまわないか?」

疑問の声を挙げたのはレメディオス・カストディオ。ケラルトの姉であり、顔もよく似ているが目尻や口角の角度の違いで印象が大きく変わっている。身に着けているのは銀色の全身鎧に白いサーコート。そして、四大聖剣の一つとして有名な聖剣サファルリシアを腰に吊るしている。歴代最強と言われる聖騎士団団長である。

 

「いや…レメディオス…先程の作戦会議聞いていました?基本的にバラハ兵士長は時間稼ぎを重点に行い、市街戦で亜人の軍を打ち取るという案が採用されたじゃないですか…」

 

カルカが困ったようにレメディオスの質問に答える。その横でケラルトが呆れた様な顔をしている。その時、伝令が帰還した合図が部屋に響く。

 

「聖王国情報部隊伝令課の00165番と00678番。無事、帰還しました!!」

 

「それで、戦局に変化はありましたか?」

 

「はい!ついに亜人たちが城壁を超え、聖王国の領土に侵入してきました。バラハ兵士長の部隊の報告によると亜人達は種族単位で固まっているらしく、壁を登ってきた山羊人は推定900体で固まり10時の方向に侵攻中。12時の方向には魔現人推定300、山羊人推定400が進んでおり、2時の方向には半身半獣700体が固まり侵攻を行っています。また、山羊人・魔現人・半人半獣が各100体ほど城壁の周りに待機しております。」

 

聖王国の領土に亜人が足を踏み込んだことに三人は顔をしかめるが、一番早く真顔に戻ったケラルトが口を開く。

 

「そういった、侵攻をおこなうのでしたらB案が最適でしょうね。山羊人のグループには、将軍2人とその直属部隊+一般兵を充てましょう。魔現人のグループには相性の関係で神官団と聖騎士、そしてカルカ様で対応しましょう。半人半獣のグループには念のためカンパーノ班+バラハ部隊+パルテナン突撃部隊などの主力をぶつけ、全戦線の後方支援に一般兵をまわしましょう。確か、国家総動員令の発動は終了しているので問題ないはずです。あとの冒険者ですが…これはもう少し協議してから配属場所を決めたほうが良さそうですねぇ…」

 

ケラルトが作戦の確認を行った後、報告を言い切った伝令兵が思い出したように情報を付け加える。

 

「それと、追加の情報なのですが、カンパーノ班長の隊には、今日入国してきた聖王国とは別国家出身の3人組がいて今回の侵攻への参戦を表明しているそうです。」

 

この報告を聞いた3人の反応は二つに分かれた。その3人組の素性や事件との関係性について考察したカルカとケラルト、オルランドが連れてきたということで強さについて興味をもったレメディオスの2つのグループだ。

 

「もし、その3人組が法国出身だった場合、今回の事件に一枚噛んでいるという可能性はありませんか?カルカ様?」

 

「けれど、法国は人類史上主義を掲げる国家ですよ。人間の国を亜人に襲わせるとは考えにくいですね…」

 

そう、法国はきな臭いとはいえ人類の利益にならないことはしない国家だ。人間国家間では戦争をしないところや竜王国への支援などが顕著な例だ。しかし、宗教の問題で色々と揉めている聖王国からするとあまり良い感情をもつ国家とは言い難い。

 

「おい!伝令!そいつをオルランドが連れてきたってことは、それなりに強いんだよな?」

 

「はい!信じ難いことですが、報告によりますとカンパーノ班長を真剣勝負で破るほどの実力者らしいです。」

 

この報告には、三人の出身などに気がいっていたカルカ・ケラルトも強さの方面に気が行くほど驚いた。オルランド・カンパーノは強さだけで9色に認められた人物であり単純な戦闘力で言えば9色でも3指に入る実力者だ。

 

「この異常事態にその戦闘力は心強いですね…」

 

「そいつは、報酬はどのくらい提示しているんだ?かなりの額ふっかけてきててもおかしくないな」

 

レメディオスが興味深々にその3人組の情報を掘り下げようとする。

 

「レメディオス。それらの情報は後で報告書にまとめて伝令の方が持ってきてくれますので、今は侵攻への対抗作戦に穴がないか確認しましょう。」

 

「はっはい。承知しました。カルカ様。」

 

「今回の危機を乗り越えるには、聖王国が一丸となる必要があります。失敗は許されません。」

 

緩みかけた空気にカルカがもう一度、緊張感を与える。その後自分だけに伝える様に言葉をはく。

 

「…弱き民に幸せを、誰も泣かない国を、ね」

 

「その通りです!カルカ様!」

 

自分の独り言に、満面の笑みでレメディオスが大きく反応する。しかし、昔の自分はなんと世界を知らなかったのだろう。これほど難しい目標はないというのに。

それにしても…

 

(今回の侵攻は、不可解な点が多いですね…)

複数の亜人が同タイミングで攻めてくるだけでとかなり稀である。奴隷として他種族を使うということならあり得るが、山羊人と魔現人、半身半獣は皆強力な種族でどちらかを奴隷として使役できるとは考えにくい。

 

(かなり厄介なことが起こっているのかもしれませんね。気を引き締めましょう!)

 

少し嫌な予感がしつつも、カルカは作戦会議に意識を戻した。




今回のオリキャラ
オール・ゴール=オルランドに殴られる。ただそれだけのキャラ。しかし、モモンガさん達が怪しいからって亜人が攻めてきたのもモモンガさん達のせいにするのは殴られて当然だよね(白目)

高機動トウモロコシさん誤字報告ありがとうございます!こんなに誤字があるとは…いつも助かってます。







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