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【社説】

骨太の方針 甘い見通しが財政壊す

 政府が決めた経済財政運営の指針「骨太の方針」は究極の無責任な中身だ。財政健全化の目標を先送りするだけでなく一段と甘い指標を採り入れた。今良ければ「後は野となれ山となれ」なのか。

 安倍政権の五年間は、現実離れした高い経済成長見通しを掲げ、成長頼み一辺倒できたといっていい。歳出抑制や増税など痛みを伴う財政健全化には常に後ろ向きだった。今回の骨太の方針は、財政規律のなさはそのままに、さらに楽観的すぎる内容に後退した内容である。

 財政健全化の一里塚である「基礎的財政収支(PB)の黒字化」は、従来の二〇二〇年度から二五年度に先送りした。

 加えて中間指標として二一年度に対GDP(国内総生産)比での債務残高や財政収支の赤字、PBの赤字などを点検するとした。

 これはGDPが増えれば改善が見込まれるため、これまで以上に積極財政による成長志向を強めるおそれが強い。赤字そのものが減るわけではないので、より危うくなるともいえる。

 諸悪の根源は内閣府がつくる経済成長見通しの甘さだろう。名目で3%、実質2%というバブル期並みの現実離れした数字である。二五年度のPB黒字化も、消費税率の10%への引き上げ(一九年十月)後や東京五輪・パラリンピック後も含めて、高成長が続くのを前提としている。明らかに楽観的すぎるだろう。

 政府内の省庁がつくる経済見通しでは客観性に欠け、信頼性も著しく低いということだ。例えばドイツは経済財政見通しの策定には民間シンクタンクが関与する。カナダは経済見通しの前提であるGDPは民間の平均予測値を用いる。正確性や客観性を担保する仕組みを諸外国は採り入れている。

 世界一の借金大国である日本だけが、内々で都合のいい数字をはじき出していると非難されても仕方のない状況だ。これでは財政再建など進むわけはない。

 成長志向一辺倒の安倍政権は肝心なことも見落としている。財政の悪化により社会保障制度の持続可能性に国民が不安を抱いていることが、消費の低迷ひいては成長を阻害していることだ。

 国際通貨基金(IMF)がそう警告している。「積極財政」といえば威勢がいいが、財政規律を失った放漫財政は逆に成長を阻むのである。

 国民の安心感と納得感が得られる税財政改革が急務である。

 

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