ダムカレーの多くは、ダムにより水没移転を余儀なくされた方々が考え出した商品である。
焼きそばやケバブを食べながら放流を楽しむという、完全に観光化されたイベントだ。
ダムマニア管理人のブログ
河川行政に詳しいと言われている、政策エッセイストの、まさのあつこさんのブログ記事、「67.ストライクゾーンの狭いダム~八ツ場ダムではどうか」を読んでみた。
この記事の主題として、「ダムはストライクゾーンが狭い」と書かれているが、この点について疑問を抱いたので記事を書いてみる。以下、斜体は引用。
ダムの効果は「ストライクゾーンが狭い」と言われる。
丁度いい場所に、丁度よい降り方をしてくれる大雨にしか、効果を発揮しないからだ。
ここで言うストライクゾーンとは、多分、洪水を制御できるエリアの事を示しているのだと思われる。
ごく一部に降った雨にしか治水効果を発揮しないと言いたいのだろう。
さて、その一部とはどれぐらいか。
ダムに入ってくる水は、河川の上流から入ってくる水に加え、近隣の山々に降った雨水も入ってくる。
もちろん、上流の山に降った雨も河川に流れ込み、ダムまで流れ着く。
この様に、ダムに入ってくる水のエリアを、流域面積と呼ぶ。
利根川の最上流にある矢木沢ダムの流域面積は、167.4平方km、日本最大の総貯水容量を誇る岐阜県の徳山ダムは、254.5平方km、話題の八ッ場ダムに至っては、707.9平方kmと、東京都の面積の3分の1に匹敵する大きさだ。
これでもストライクゾーンは狭いと言えるのだろうか。
また、実はダムより下流の雨に対しても、ダムは威力を発揮する。
ダムの下流で大雨が降った場合、ダムは放流量をしぼり、下流に流す水量を抑えることができる。
その結果、雨による下流の増水を、ダムの放流量減少の効果により押さえることができる。(ただし、色々制約がある)
普通の大雨ならダムは要らない。
「普通の大雨」という表現は難解で、理解しがたいものがある。
多分、ダムにより洪水を防ぐことができる程度の雨を指すのだろう。
ポツポツ程度の雨なら、わざわざ「大雨」とは書かないはずである。
ダムは意外と洪水調節をしている。特に、普通の大雨時はその威力を発揮する。
国土交通省が提供する「川の防災情報」の中に、ダム放流通知という項目がある。
普通の大雨が降った時にぜひ見ていただきたい。
ダムが治水をしている様子をかいま見ることができる。
普通の大雨でも洪水が起きないのは、ダムが働いているからなのである。
知らない人にとっては、普通の大雨程度では洪水は起きないと思ってしまうのであろう。
高い位置から一気に放流し、破壊的な威力で下流に押し寄せて下流に被害をもたらすこともある。
ダムには減勢工というものがある。減勢工とは、高い位置から放流された水の勢いを弱めるためのものである。
ブログでは、写真などを例にあげているが、もしダムが無かったらこれ以上の被害があったことは間違いない。
ダムが無い分、長期にわたり多流量の水が流れ続けるからである。
というか、その前に、この山崩れはダムが引き起こしたものなのか検証されていない。
また、どれぐらい以上の雨になると「但し書き操作」に入り、
ダムが用をなさなくなるかという情報も明かさない。
ダムは現在の流入量を見て放流量を決定する。また、今後降ると思われる雨量も考慮される。
まさの氏の主張では、雨量から但し書き操作のタイミングを説明せよとの事だが、これは無理な話である。
なぜなら、雨量=流入量ではないからである。
日照り続きの山々に久しぶりに雨が降った場合、乾ききった山々は雨を多く吸収するため、それほど河川の増水を起こすことは無いだろう。
逆に、雨が降り続き、山々は水をたっぷり吸いこんでいる場合、降った雨はすぐに河川に流れて増水することだろう。
この様な理由から、雨量から流入量を導くことしかり、雨量から但し書き操作を説明することはナンセンスなのである。
特に、「緑のダム」を主張している方々は、この手のお話はご理解いただけることだろう。「緑のダム」とは、山々の緑が雨を吸収し、洪水を起こすことが無いという理論である。
この様に、河川行政にくわしい方でも、あまりダムの事をご存じない様で、ダム愛好家の私としては悲しい限りである。
ということで、ダムについて、もっともっと多くの人々に知っていただけるように、現在「日本一周ダムファン写真展」を各地のダムで開催しています。
美しいダムの写真や、本物のダムを見て、少しでもダムの働きをご理解いただければ嬉しい限りです。
薗原ダムは貯水率70%以上で発電&放流中
http://www3.ktr.mlit.go.jp/tonedamu/teikyo/realtime/live/sonohara.html
相俣ダムは貯水率27%以上で発電中(発電で水は川に戻るのでその分は放流)
http://www3.ktr.mlit.go.jp/tonedamu/teikyo/realtime/live/aimata.html
下久保ダムも貯水率68%以上で発電&放流中
http://www3.ktr.mlit.go.jp/tonedamu/teikyo/realtime/dammap.html
さらに隣の支流(渡良瀬川でも)貯水率38%で発電&放流中
http://www3.ktr.mlit.go.jp/tonedamu/teikyo/realtime/live/kusaki.html
奈良俣ダム、薗原ダム、相俣ダム、下久保ダムなどでも発電放流をしていると指摘しているが、上記に書いた通り、飲み水となる水を下流に流すついでに発電をしている。
つまり、発電で使用された水は河川に戻され、下流で上水道などに有効利用される。
最大の人口を抱える東京都から見れば
実は多摩川もあり、都民のためにこちらの水源は最後まで抱え込んでいる。
http://www.waterworks.metro.tokyo.jp/water/suigen.html
(中略)
多摩川の小河内ダムは今日も82%
村山・山口貯水池79%と、まったく問題ない。
東京都には多摩川水系のバックアップがあるが、
埼玉・千葉・群馬など、東京以外の自治体にとっては利根川の水不足は非常に問題である。
さらに見ると、利根川と多摩川の間の荒川なんて、
荒川貯水地が貯水率101%
二瀬ダムが貯水率225%
全体で貯水率106%だってことも分かる。
上記にも述べたとおり、荒川貯水池の貯水率が101%あったとしても、その水を取水することができない上流にある自治体にとっては何の意味もない。
また、二瀬ダムの貯水率が225%だと指摘しているが、
この時期の二瀬ダムは洪水対策のため、スズメの涙ほどの水しか貯めていない。225%といえどもわずかな量なのである。
このブログ記事は、私には、「水力発電のために無駄に水を放流し、渇水を招いている。または、渇水に見せかけている。」という内容に読み取れた。
しかし、実際は上記に述べたとおり、
下流で取水する飲み水を放流するついでに発電している
のである。
この点を十分理解していただきたい。発電のために無駄に放流はしていない。
発電で使用された水は河川に戻され、下流で上水道などに有効活用されている。
あまりにも頭にきた記事だったので、ここに指摘させていただいた。
ダムを愛する4名が作ったダム写真集。
十人十色、十基十色。それぞれの感性で語ったダム達をお楽しみください。
書籍を発売させていただくこととなりました。
近年急速に増えつつあるダムファンに向けて、ダムの基礎知識や見どころを豊富な写真とマニア心をくすぐる文章で伝えるガイドブックらしいです。
宮島咲
1972年、東京都生まれ。(一財)日本ダム協会認定元ダムマイスター、老舗割烹料理店「割烹三州家」5代目ダム事業部長。脱サラした28歳頃からダムめぐりを始め、関東地方を中心に600基ほどのダムを訪問、生涯の目標は国内のダム約2700基の制覇。
2002年ウェブサイト「ダムマニア」を開設後、ダム関係者に注目されることとなる。(一社)ダム工学会や(一財)日本ダム協会主催の講演や、フォトコンテスト審査委員などを務め、NHK「熱中夜話」やMONDO21「山田五郎のマニア解体新書」などテレビやラジオなどに多数出演してダムマニアとしての地位を確立する。著作に、「ダムマニア(オーム社)」や「ダムカード大全集(スモール出版)」「ダムを愛する者たちへ(スモール出版)」、日本ダム協会「月刊ダム日本」やオーム社「水と水技術」、井上よしひさ氏著の「ダムマンガ」にコラム連載など。
本業では各型式のダムを模したダムカレーを提供。全国からカレー目当てにダムファンが訪れる他、群馬県みなかみ町や、愛知県豊根村の町おこしにダムカレーが導入されるなど、さまざまな角度からダムや水源地をプロモーションする事業を展開し、ダムへの理解促進とダムファンの拡大に尽力している。
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