骸骨道中膝栗毛   作:おt
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前回のあらすじ
オルランド「やらないか(決闘を)」


6#聖王国の戦闘狂

「私と…勝負。つまり立ち合いがしたいということですか?そんなことでなぜ、わたしがオルランド殿から報酬を受け取れるのでしょう?」

 

漆黒の剣士がその厳つい図体には似合わない小首をかしげる様子を見てオルランドは本題に入る。

 

「いえね。俺はさっき城門で名乗った通り9色という地位に付いていてな…まあ、こう見えてお偉いさんなわけよ。しかし、ここは見た目通りなんだが俺は戦闘狂でね。強いやつとの戦いに飢えている。そんな俺の前にあんたらのような実力者が現れたら、手合わせの一つや二つしてみたくなるというものよ」

 

「でしたら、その9色?でしたか?彼らに挑めば良いのでは?全員が強い訳ではないのですか?」

 

漆黒の剣士が当然の疑問をオルランドにぶつける。この時、モモンガの後ろに控えていたナーベラルが「その辺のダニが至高の御方であらせられるモモンガ様と決闘?下等生物の分際でおこがましいわ!」というメッセージを込めた凄みを出していたが説得に必死なオルランドは気づかなかった。

 

「確かに9色が全員強いわけではねぇが、問題はそこじゃなくてな。俺たちお偉いさんがおいそれと殺し合いなんざできないわけよ。それに、部下にも強者の戦闘を見せておきたくてな」

 

オルランドの説得に熱が入る。結果として部下の経験のためなどという出まかせまで行ってしまったが、説得のマイナスにはならないだろう。部下からも尊敬の眼差しが送られてきているし、漆黒の戦士も不動のためそう判断する。

ちなみにすごんでいたナーベラルは、コキュートスに小声で怒られていた。まるでポンコツな妹をフォローする苦労者の兄のようだ。身長差は1m近くあるが。

無言の間が漆黒の剣士とオルランドの間に流れる。オルランドは漆黒の剣士の返答を待つ。そして、この提案を聞いていた漆黒の剣士もといモモンガはというと…

 

(なんか、やばい人に絡まれた!!!)

という感情しか湧いてこなかった。正直に言うとモモンガは調子に乗っていた。というのもギャラリーの前で前衛無双を披露できたからというのが大きい。大剣で山羊人を切るたびに横や後ろから「すげぇ…」だの「動きに無駄がない」だの賞賛の嵐である。コキュートスからの賞賛も嬉しかったが、やはり身内以外からの手放しの賞賛は別ベクトルで気持ちがよい。そんな状況で割と気にしていた路銀の話を振られたのである。実は、モモンガはただでさえ少ないアイテムを売るつもりなど毛頭なかったが、足元を見られたくないので嘘をついていた。モモンガ的にはこの戦闘は、聖王国に問題なく入るためのイベントと考えていたので、それで構わないと考えていたが…

 

(まさか、手合わせしただけで金までもらえるとは…まさに棚から()()()というやつだな!しかし、なぜ嬉しい時に使うことわざでぼろい餅がでてくるんだ?昔の人はそれで喜んだのか?)

オルランドの話自体は悪い話ではない。むしろ金に困っていたモモンガにとってはこれ以上ない好機である。しかし…

 

(見知らぬ人といきなり勝負しようって本当に戦闘狂だな…しかも、真剣でって…殺し合いじゃん!)

モモンガはオルランドの提案に少し、いやかなり引いていた。ほんの数日前まで一般的な日本人だった鈴木悟からしたら、この手の人種と接するのは初の経験であり、娯楽に自らの命をチップにするのは信じがたい行動であるからである。

 

(だが、俺は今コキュートスとナーベラルの代理の保護者としての責任がある。自身の感情でこんなうまい話を棒に振るわけにはいくまい)

 

話を聞く限り、裏はないようであるし何より本人からの圧が強い。一応、偉い人ぽいので殺さないように戦おうとはおもうが…

 

(山羊人の戦闘の時、興奮してて他の人見てなかったんだよなぁ…どんぐらい強いんだ?こいつ)

相手の情報もあまりない状況で接待プレイは、足元をすくわれる可能性がある。

 

「オルランド殿の気持ちは分かりました。少し仲間に聞いてみるので待ってもらえますか」

 

なので、まずは相手の情報をコキュートスに聞いて接待プレイで倒せそうなら勝負をうけるという選択をモモンガは選んだ。コキュートスは前衛としての観察眼はNPCの中では最高クラスなのでコキュートスに聞けば間違いはない。なんだか、戦闘のたびにコキュートスの観察眼を頼っているので失望されないか心配がモモンガによぎる。実際、聞かれた本人は心底、歓喜するだけなので気にするだけ無駄ではあるのだが。

「コキュートスよ。オルランドのレベルはどのくらいだと予想する?」

 

「ハイ御方。アノ戦士ノレベルハ25-30程度デショウ。30レベルハコエテイナイト思ワレマス。」

 

「ふっ。ならばコキュートスとの特訓の成果を出すのにちょうど良い相手ということだな。それと、御方と呼び畏まるのはよせ。我々は仲間というアンダーカバーのもとで行動するのだからな」

 

「ハッ。畏マリマシタ。モモンガ様」

 

「この姿の時は、モモンと呼べ。ナーベラルもな」

 

「「畏まりました。モモンさーーん」」

 

(全然、わかってないじゃん…)

こちらの世界に飛ばされてから何となく予想はついていたがNPCにとってギルメンは言い過ぎでもなんでもなく、神に等しいらしい。若干、げんなりするが何度言ってもこの反応なので流石にモモンガも慣れてきた。モモンガはオルランドに返答を行う。

 

「決まりました。オルランド殿。その決闘受けましょう。」

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

「コキュートス。あのヤブ蚊のレベルは30レベルあたりでまちがいないのよね?」

モモンガが離れたところでナーベラルがコキュートスに尋ねる。ちなみにナーベラルとコキュートスは非常に仲が良い。これは創造者の関係がNPCに引き継がれるからである。普段は階層守護者とプレアデスの関係上畏まってはいるが、プライベートではため口である。

 

「アア、ソウダガドウカシタノカ」

 

「いえ、モモンガ様は普段は偉大な魔法詠唱者であらせられるけれど今は戦士職に偽装しているじゃない。私も魔法詠唱者だからわかるけど、その状態ではレベルは1/3程度…つまり33レベル。もし、あのやぶ蚊に特殊な能力があるとモモンガ様は今の状態では苦戦するのではない?」

 

不快なことだけどね。と呟きを残して、ナーベラルがコキュートスに疑問を呈する。

 

「フッ。確カニソノ考エハ正シイ。シカシ、普通ノ33レベルニハナク、モモンガ様ニハアルモノガアル。ソレハコノ戦イヲ見レバワカルダロウ」

 

コキュートスが武士然に言い放つ。自分より戦闘に詳しい人物がここまで余裕を持っているのなら大丈夫だろうと、ナーベラルはこの時点で思考を放棄して主人の決闘を見守ることにした。

 

「では、ルールを確認します。両者は10メートル離れた地点から戦闘を開始します。降参や戦闘不能になった時点で決闘は終了とします。また、できる限り死亡は防ぎたいので首を狙うのは避けてください。」

 

オルランド班の副長が審判としてルール確認を行う。周りにはその他隊員が、我らが班長閣下と謎の強者の戦いを少年の様な目で見守っている。

 

「おい。どっちが勝つと思う?あの全身鎧は確かに強いが班長閣下には、さすがに勝てねーよな」

「いやいや、あの全身鎧の動きは常人じゃねえ。これはもしかしたら班長閣下も不覚を取る可能性は十分あるぞ」

 

普段は、勝負事を見ると賭博を始めるような連中だが今回の戦を見守るその目は真剣そのものである。これはオルランドがどれだけ、班員にしたわれているかの証であるともいえる。

 

(この空気はユグドラシルのPVPの様で悪くないな。)

ほんの少し前のことであるが随分と前に感じるユグドラシルの日々をモモンガが思い出していると、その空気の変化が伝わったのだろう。オルランドが反応する。

 

「そちらさんも楽しそうじゃねえの。やっぱり、戦いが好物な人種か?」

 

「戦闘自体は我々の国でもよく行っていましたからね。ですが、少なくともあなたよりは戦には飢えていませんよ」

 

言うねぇ。とオルランドが笑う。ちょうどタイミングを見計らったように審判が声をかける。

 

「それでは、両者向き合ってください。これより決闘を開始します。始め!!」

先に動いたのはオルランドだった。それもそのはずでモモンの得物は大剣の二刀流である。大剣は刃が長い分ふところに入られると弱い。そもそも、1本で扱う大剣を二本持ちしているのである。尚更、相手の土俵で戦うわけもなく、狙うなら超接近戦である。オルランドは狙い通り、モモンの一振りを抜けふところに入る。

 

(モモンは全身鎧…狙うなら関節だな。まずは右ひざを頂く!!)

馬鹿正直に狙うのではなく脇を狙うフェイントをいれて、右膝に剣を突き立てようとした瞬間、モモンの膝がオルランドの顔に迫る。

 

(!!)

それをオルランドは間一髪で回避し、後ろに下がる。しかし、かすったのか頬からは血が出ている。

 

「おいおい、初手から膝蹴りとは恐れ入るねぇ。その大剣は飾りかよ」

 

オルランドのあおりにナーベラルは青筋を立てるが、モモンは平然と返す。

 

「いやいや、剣の師匠から剣の攻撃だけにこだわるなと教えられていましてね」

 

オルランドはここでモモンへの警戒レベルを一つ上げる。宮廷仕えの騎士にありがちなのだが、剣術に固執し実践で使えない剣士というのは一定数おり、モモンも豪華な装備品からそういったタイプの可能性も考慮していたが…

 

(どうやら、考えが甘かったようだ)

 

「あんたの実力は、大体分かった。次からは本気でいかせてもらうぜ」

 

「まだ、私は剣を振るっていませんが本当にそれで実力が計れたのですか?」

 

減らず口を!。オルランドはモモンに言い放ち再び超接近戦に持ち込んだ。

・・・

ナーベラルは眼前で撃ち合う主人とやぶ蚊の様子を見て先ほどのコキュートスの説明をなんとなくだが理解した。モモンの戦士職のレベルは33レベルである。しかし、体力・防御力も33レベルまでおちるのかというと、答えはNOである。また、装備品も魔法で作ったものとはいえ、100レベル魔法職の作成したものであり少なくともやぶ蚊の装備とは比べ物にならない。ナーベラルが理解したことを表情から読み取ったのかコキュートスが補足の説明を行う。

 

「マタ、モモンガ様ハ60レベル以下ノ攻撃ヲ無効ニスルスキルヲ持ッテイルト仰ッテイタ。ツマリ、アノ人間ノ戦士ハモモンガ様ニ傷ヲツケルコトハデキナイ」

 

ソレニ、特訓デ戦士トシテノウデモ上ゲラレタシナ。と尊敬の念を隠し切れないコキュートス。それを聞いて、さすがはモモン様…と尊敬と光悦の間くらいの表情をしているナーベラルに少し間を空けてコキュートスが言葉を繋げる。

 

「今、私ノ聞キ間違イデナケレバモモンガ様ハ私ノコトヲ剣ノ師匠ト仰シャッテオラレナカッタカ!?何トイウコトダ…スバラシイ!!スバラシイ光景ダ!!アア…モモンガ様…魔法使イトシテ遥カ高ミニオラレナガラ剣ノ腕マデ高メルトイウノデスカ…ナラバ爺ニオ任セクダサレ…オオ、イイ太刀筋デスゾ!…ナンデスト!御世継ギノ稽古マデ任セテイタダケルノデスカ!アリガタキ幸セ…」

 

勝手に妄想にトリップするコキュートスをナーベラルは可哀そうな子を見るような顔で視界に収める。

 

(コキュートスはポンコツっぽいわね。私がしっかりモモンガ様をサポートして差し上げなければ!)

決意を新たにナーベラルは気合を入れ直した。

 

・・・

オルランドは焦る。8本あった剣も最後の2本となったのにまともな傷をモモンにつけられていないからである。

 

(装備品と速さばかりに目が行くが、パワーが半端じゃねえ…ただ、数回撃ち合っただけで装備がおじゃんにされちまう。)

また、相手の力の乗った一撃だと一発で装備が欠けることもあった。

 

(もう、あとがねえ…。あれを使うしかないか)

オルランドは覚悟を決め、今日何度目かわからない接近を開始する。モモンの剣戟をいなしつつふところに入り、おお振りな一撃を誘う。そして、何度か撃ち合った時、モモンの重心が乗った一撃がオルランドに繰り出された。

 

(今だ!!!)

その攻撃を紙一重で避け、両手の剣を振り下ろす。狙うはモモンの肩。そして、オルランドは能力を発動する。その能力は使用すれば武器が破壊されるが通常の数倍の威力が放てるというものである。確実に当てるためのリスクは大きかったが、オルランドは賭けに勝ったといえる。能力を使う最高のタイミングを引き出せたのだから。

ガギィーン!!。鉄が砕けたような音が発生する。手応えはあった。懸念としては、あの硬そうなモモンの鎧を抜けて攻撃が通ったかだが…。思考を回転させるオルランドの意識をモモンの声が呼び戻す。

 

「肩を狙ったのはわざとか?まったく…。本当に勉強になる」

 

オルランドは、そのつぶらな目を見開く。砕けた刀身の先にあったのは、ヒビの入ったモモンの大剣であったからである。

 

「確かに、バランスは崩したはずだが…なぜ防御が間に合っているんだ…」

 

モモンは何でもないように答える。

 

「単純に貴方の攻撃を読んでいたからですよ。オルランド殿。特殊能力か分かりませんが攻撃の貯めが通常より長かったので警戒していたんですよ。ですので防御が何とか間にあいました。」

 

(おいおい、あの技に貯めなんかないぞ…つまり俺には確認できないレベルの弱点がこの技にあったということか…完敗だな)

 

「俺の負けだ。もう武器がねえよ」

 

オルランドが両手を挙げて降参の意を示す。それを確認したモモンはガントレットをしたまま右手を差し出した。オルランドは敗者には見えない、晴れやかな顔でその手を握り返した。

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

オルランドとモモンの決闘の熱はなかなか、冷め切らなかった。「最後の防御はどんな動きだったか」「あの戦闘スタイルはどこの流派だ」だの戦いに重きを置いている連中にはかなりの刺激になったらしい。しかし、オルランドの一声で隊員は皆、通常業務に戻った。現在、モモンとオルランドは談笑を開始していた。

 

「まさか、私の剣が砕かれるとは思いませんでしたよ。」

 

「まあ、俺はお前さんのその立派な鎧を狙っていたんだがなぁ…。おお、そいえば、路銀の件なんだが、今は任務中で持ち合わせがねえ。俺の行きつけの宿があるから、そこで休んでいてくれ。俺も夜番と変わったら宿に向かうからよ」

 

俺に勝った強者なんだから、色々と話も聞かせてくれよ。そう言って、オルランドは仕事に戻っていった。

 

「さて、ナーベラルにコキュートスよ。案内された宿に行くとするか」

モモンガは堂々とした様子で宿に向かい歩き始める。まさに、強者の余裕を滲ませる歩き方である。そんな彼の胸中はというと…

 

(あぶねぇ!!しのぎ切ったぁー!!)

実は、最後のオルランドの一撃にモモンガはまんまと誘導されていた。では、なぜ防げたかというとただの身体能力にモノをいわせた動きである。勿論、技の前の貯めなど出まかせである。しかし、無理やり防御するのは普通の33レベルの人間には不可能であり、モモンガが防御できたのも運が良かっただけである。また、モモンガが冷や汗を掻いているのはそれだけではなく、もし鎧にさっきの一撃が当たっていた場合、間違いなく骨の体を露出することになっていたからでもある。

 

(もし、防御できてなかったら計画すべて練り直さないといけなかったな…)

少し、浮かれすぎていたな…と猛烈に反省しながらもフルフェイスの兜と骸骨の体により周りには偉丈夫な人物にしか見えないことは幸いである。

・・・

町中を案内されているモモンガは田舎者よろしくな様子で回りを見渡す。

(うわー、なんか異国って感じがするなぁ。確か昔のヨーロッパとかがこんな感じの街並みだったよな?朱雀さんがいれば色々聞けて楽しいだろうなぁ。)

町中は鈴木悟の世界の様に電子機械がある気配はなく、人々の服装も現代的なものからはかけ離れている。そんななか、例に漏れず中世的な木造建築で大きな建物がモモンガ一行の視線に入り始める。分かりやすく言うと西部にある飲み屋を一回り大きくしたような建物である。

 

「こちらの建物が皆さんに案内する宿になりやす。夜には班長閣下が来ると思うんで宿の中で夜まで待っててくだせい。」

 

モモンガの予想通りこの建物が宿らしい。

 

「分かりました。案内ありがとうございます。オルランド殿には夜に会うことを楽しみにしている旨を伝えておいてください。」

 

ハキハキとしつつも恐縮したような態度で相槌を打つと案内人の男は任務に戻るため、オルランドの元に帰っていった。

 

(さて、中に入るとするか)

モモンガは両開きの扉を開けて中に入る。中の人間は皆一様に厳つい顔にごつい装備を持った者たちだったが反応はそれぞれだった。初対面の時のオルランドの様に訝し気な顔をするもの、興味がないとすぐ酒を飲みなおすもの、ナーベラルの美貌を見て下卑た表情をするもの達である。視線を内心気にしながらもそんな素振りはおくびにも出さずモモンガがカウンターの向かいにいる店主らしき人物に声をかける。

「宿泊を希望したいのだが?」

 

「1日7銀貨。前払いでな。」

 

店主が素っ気なく答え、言葉を続ける。

 

「しかし、うちの利用者は必ず紹介制になっている。あんたは誰かに紹介されてうちに来た客か?もし、違うなら別の宿にあたりな。うちは、腕の立つ荒くれ物が多くてな。生半可な腕じゃ喧嘩に巻き込まれただけで死んじまうからあんたのためでもあるんだぜ」

 

モモンガは内心でなるほどと感心する。最初に宿に入った感想はほんとに偉い奴が紹介した宿か?と思うほど場末の店といった印象だったが店主の忠告を聞くに、荒くれもの専用のそれなりの宿ということだろう。確かにあの戦闘狂(オルランド)の御用達の宿なだけある。

 

「ああ、紹介者はオルランド・カンパーノという人物なのだが…」

 

そこまで喋った瞬間に店内の空気が変わった。何というか、今までは店主、客問わずに無遠慮に視線を向けていた感じだったが、そんな視線でみてイチャモンをつけられたらヤバイという感じに全員の視線が散ったのだ。

 

「カンパーノ班長閣下の紹介ですか。わかりやした。代金はカンパーノ殿がお払いになるんで?」

 

急に慣れてないだろう敬語で喋りかけてくる店主に気味の悪さを感じつつもモモンガは、肯定の意で返し、宿泊の部屋が並ぶ二階に上がっていった。

 

漆黒の剣士とその連れが二階に上がるのを確認すると、店内は一気に騒がしくなった。それも当然である。この店の常連である9色オルランド・カンパーノはここにいる戦士たちにとってはあこがれの存在である。強さで自分の意見を通し、貴族にすらこびない姿に感銘を受けた荒くれものは少なくない。そんな彼がどんな時に人間を認めるかというと勿論、自分に勝った人物またはいい勝負をした人物に限る。前例としては9色のバベル・バラハ兵士長、同じく9色のレメゼン・パルテナン突撃団長などは過去にこの店に来店したことがある。

荒くれものが敬意を払うのは強き人物だけである。そして、同時に漆黒の剣士とオルランドの関係性にも強く興味を持つ。現在この店にいる客のほとんどは夜に訪れるだろうオルランドと漆黒の剣士の会話を聞くために深酒をすることを決めた。

そんな1階の様子を知る余地のないもモモンガ一行はこれからの予定といままでの行動のすり合わせを行っていた。

 

「この後、オルランドに食事に誘われているが私はアンデットであり、ものを食すことはできない。それらが露呈するリスクを冒してまであちらの希望をかなえる必要はないと思われる。」

 

「当然です!至高の御方であらせられるモモンガ様にこれ以上、ただの人間ごときがかかわりを持とうなどと無礼千万!許されることではありません!」

 

ナーベラルが嫌悪感を隠すことなく、モモンガの意見に同意する。どんだけ人間嫌いなんだよ…と元人間としてほんの少し気を落としつつ、モモンガは言葉を続ける。

 

「しかし、わたしは今回の誘いを受けようと考えている。」

 

ナーベラルとコキュートスが驚愕し言葉を発する前にモモンガは理由を説明する。

 

「まず、我々は亜人からこの世界の平均レベル、地理などの情報を得た。しかし、最初期に述べたように人間種の情報網は大きく、情報収集は基本的に人間種の国で行うことになるだろう。その時に貨幣の価値や存在する組織などの一般常識を身に着けることは必要不可欠である。これらの情報を今回の食事会で得ようと私は考えている。そして、オルランドは周りの対応を見るにそれなりの地位に付いてるのだろう。コネを作るという意味でもメリットが存在している。ここまでが私の考えだが異論はあるか?」

 

ザッと音を立て、2人のNPCが膝をつく。

 

「ソコマデ考エヲ巡ラセテイルトハ…サスガハモモンガ様!知謀ノ王ノ名ニ相応シイ御方デゴザイマス」

 

「クッ!私はそこまで考えが至りませんでした。役に立たぬ下僕で申し訳ございません。」

 

また、自分への過大評価がはじまってしまった。というか、今言ったことってそんな感銘を受けるような内容でもなかったよね!?と困惑しながらも目の前で膝まずく二人を眺める。一拍おいてモモンガは、ガントレットを取りナーベラルとコキュートスの頭を撫でる。

 

「「モモンガ様!!?」」

 

二人が音程の狂った声を上げる。モモンガには、目の前で膝まずく二人が「捨てないで」「失望しないでほしい」と言った気がしたのだ。自分の勝手な感情移入かもしれないが…。モモンガは子供に言い聞かせるような優しい声で話しかける。

 

「ナーベラルにコキュートスよ。お前たちはすでに多くのことで私に役に立っている。この世界に転移してきたとき、お前達がいたからこそすぐに行動に移れたし二式炎雷さんや武人建御雷さんに会いたいという気持ちをつよくすることができたのだぞ。」

 

また、ロールプレイの都合上言えないがさみしさが薄れたというのもモモンガの中では大きかった。床に雫がたれ、ナーベラルが嗚咽しながら震えている。コキュートスは涙を流せないからか、拳を握りしめて震えていた。彼らが泣き止むのを待ちモモンガは二人に喝をいれる。

 

「それに、これからの食事会ではお前たちにも情報収集を目的に据えた会話を行ってもらう。我が友に会うための地道な一歩だ。気合を入れて臨むぞ!」

 

「「承知いたしました!!モモンガ様!!」」

 

「ふっ、今はいいが下ではモモンと呼ぶようにな」

 

モモンガは苦笑しつつもほほえましげに笑った。

しかし、モモンガの考えは甘かった。実はナーベラルは気合いが入れば、入るほど空回りしてしまう困ったちゃんであり、コキュートスも武人的な性格から素で主従関係を匂わせちゃうという欠点があったのだ…

 

―3時間後―

 

(どうしてこうなった…)

モモンガはオルランドの話に相槌を打ちつつうなだれていた。勿論、原因はナーベラルとコキュートスにある。食事会開始時、ナーベラルは嫌悪感を前よりは隠し(それでもオーラはでてる)短いながらもちゃんと会話をしていた。しかし…

 

「モモンさんとナーベさんって恋人関係だったりする?」

 

というナンパ的な質問にナーベラルはテンパってしまい、モモンの恋人はアルベドと言い放ったのだ。別にアルベドの名前を出すこと自体は今更、問題にはならないのだがこのことでナーベラルは大層、落ち込み全く喋らなくなってしまった。また、コキュートスは武器のメイスの話の際に

 

「コノ、メイスハモモンさーーんヨリ下賜サレタモノデアリ、立派ナノハ当然デアル!」

 

とどや顔で語っていた。このせいで最初の設定だった仲間同士というアンダーカバーは使えず、仕方なく「親友の子供です」と関係の説明に使った。どうやらこの世界では10代に子供を産むのは珍しいことではなく、幻影で作った鈴木悟の顔でも何とか言い訳が通ったのは不幸中の幸いである。

・・・

 

(というか、NPCにとっては俺とアルベドが恋人という認識なのか?)

モモンガは、アルベドの姿を思い浮かべる。かなりドストライクな容姿であり、悪い気はしない。しかし、なぜそんな認識なのか。

 

(あー!設定をモモンガを愛しているに変更したからか…タブラさんに申し訳ない)

モモンガが会の雰囲気とは、別のところで追加ダメージを受けていると…

 

「オルランド・カンパーノ殿はおられるか!!」

 

扉を勢いよく開け、息を切らした兵士が店内に呼びかける。

 

「おう。いるがどうかしたのか。今、俺は楽しく飲んでるんだが厄介事か?」

 

お前、この雰囲気で楽しく飲めてるのかよ!と内心突っ込みつつモモンガも話に耳を傾ける。

 

「はい!亜人の襲撃です!今は、バラハ兵士長の勤務時間ですが緊急のためオルランド班長にも伝令として参りました!」

 

「OKだ。緊急ってことは亜人は数十人じゃねえんだよな?100から200ってところか?」

 

オルランドの確認を聞いた伝令兵が首を大きく振る。目は充血していて尋常な様子ではない。

 

「数は推定ですが…亜人の数は2000から2500はいるとの報告です…」

 




更新が大変遅くなりました○| ̄|_
一応、近日中にあと2.3話更新できたらなーと思ってはいます。

高機動トウモロコシさん誤字報告いつもありがとうございます。







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