遠見の鏡が操作できない
今日はついている。バザーは眼前に広がる蛇身人の死体を眺めて今日、1日を振り返る。平時であればバザーは狩猟には同行しない。そういう事は部下に任せればいいし、班に一人は精鋭の山羊人を付けているので大抵の相手はどうにかなる。しかし、今回は隣接する縄張りの蛇身人が自分たちの縄張りの境界ギリギリで狩りをしている。という情報が入ってきたのだ。蛇身人の勢力は自分たちよりも弱い。しかし、そんなグレーな狩りをしている連中ならある程度の実力者は配置していると考えたバザーは自分が同行することでその蛇身人を片付けることを主目的に狩りに参加したのだった。結果は、大成功と言える。邪魔臭い蛇身人も排除でき、さらにそいつらが狩ったのであろう獣の肉も手に入ったのだから。山羊人は基本的に雑食である。魚はあまり食べないが肉は良く食べる、それは亜人であろうと人間であろうと関係ない。バザーの部族は総勢5,000人を超える大所帯である。これは、他の山羊人どころか周辺の亜人の部族でも三指にはいる数の多さだ。食料はありすぎて困るという事はない。
(今日の晩飯は豪勢だな…ん?)
涎を抑えながらにやけるという器用なことをしていたバザーの視界に蛇身人の死体以外のものが迫ってくる。この距離からでも分かる強者の気配を纏っている。
(あれは、死者の大魔法使いか…なぜ、強力なアンデットが俺の縄張りにいるんだ?それにあの鎧は強いな…)
遠距離で死者の大魔法使いに炎球を使われると非常に厄介ではあるが対策がないわけではない。今回、狩りに参加した山羊人は30人。幸い、戦闘を念頭に置いていたので平時より数は多い。
「敵襲だ!こちらに死者の大魔法使いと謎の鎧が接近している!あの鎧は強い!俺が鎧を抑える間に他のものは遠投槍で攻撃しつつ距離を詰めて死者の大魔法使いを屠れ!俺らの縄張りに侵入したことを後悔させてやるぞ」
バザーのカリスマに満ちた号令を合図に山羊人は臨戦態勢に入る。まずは、多数の山羊人が槍を投げ、牽制をするが謎の鎧の構える盾に防がれてしまう。しかし、これはバザーの作戦通りである。鎧が盾を構える間は後ろに位置する死者の大魔法使いは魔法を発射することが出来ない。つまり、安心してバザーは距離を詰めることが出来る。鎧の持つフランベルジェとバザーの武器が交差する。この瞬間バザーが生を受けて以来最大の激闘が始まる。
…
デスナイトは通常、35レベルのモンスターである。防御特化とは言え、この世界では破格の強さを誇る。それに対してバザーのレベルはほぼ同じか少し下ぐらいである。レベルだけ見ればいい勝負と言えるが、今回のデスナイトはモモンガのスキルで強化された特別性である。そのレベルは40に届く。10レベル離れたら勝負にならないと言われているユグドラシルでこの差は歴然としたものである。もし、ユグドラシルプレイヤーがこの戦いを観戦していた場合、満場一致でデスナイトの勝ちを予想するだろう。
…
バザーは笑った。そこに敗北を認めた者が浮かべる自棄はなく、その笑みはただただ好戦的なモノであった。鎧は
(しかし、武器を壊せばこちらにも分はある。)
バザーは武器を破壊する武技の使い手であり、今回もその能力を使い相手の武器を破壊したのだ。バザーはこの能力をフルに使い数々の猛者達と渡り合ってきたが、今回の戦いでは戦況を決める大きな一手となった。武器がなくともこのアンデットはかなり強いが、今のままいくと自分の勝率のほうが高くなるだろう。後ろでは配下の挙げた雄たけびが響く。恐らく、あちらで請け負っていた死者の大魔法使いも無事、撃破できたのだろう。バザーは満身創痍になりながらも最後の一手を鎧にぶつける。鎧はよろめき、倒れこんだところで消滅した。そして、その後ろには漆黒の闇が揺らめいていた。
◆◆◆◆◆◆◆
アインズがバザーとデズナイトの戦闘を見て、はじめに出てきた感想は…ありえないである。コキュートスの見立てはほぼ間違いないだろうし、戦闘の内容自体も当初の予想の範囲を出ない。しかし、相手の山羊人はデスナイトの盾とフランベルジェをピンポイントで破壊したのである。武器破壊の技はユグドラシルにも存在する。しかし、それは個人の力量よりも武器の材質などの要素の差により成立する技である。現在、剣と拳を混じらせる二体の武器にそこまで差があったとは、考えにくい。コキュートスも同じ疑問に思い至ったのであろう。険しい表情でモニターを睨んでいる。ナーベラルは、低レベルな戦いのどこに見るべきところがあるのか?と首をかしげていたが。モモンガとて武器の破壊に警戒心を顕しているわけではない。自分の知らない能力をこの世界の住人が使用したことがまずいのだ。例えば、この世界の山羊人は武器を神器級ですら破壊できる特殊能力をもっているかもしれないし、他の種族はレベル差に関係なくアンデットの消滅を行えるかもしれない。
(となると、まずはこの現象の原因の特定を行うべきだよな…)
「コキュートスにナーベラルよ。やつらのレベルはこちらの見立て通りで間違いなかったが先ほど、ナーベラルが確認していた様に何らかの特殊能力を有している可能性が高く、デスナイトや死者の大魔法使いだけで勝利を収めることは出来なかったようだ。なので、当初の予定を変更してやつらを蹂躙するのではなく、圧をかけながら情報を得ようと思うがどうだ?」
「アインズ様が直接創造なされたアンデットを消すとは、不快ですね。殺しますか?」
ナーベラルが鋭い顔をしながら、言い放つ。モモンガ的には別にデスナイトが殺されたところで何体か作成できるので、気にしていないがNPCには不快な出来事だったのかもしれない。
(ナーベラルのドスの利いた声ってこわっ!アンデットじゃなきゃビビってただろうな…)
女性とかかわった経験が皆無なモモンガには、美人と同じ空間にいるだけでプレッシャーなので驚かせるのは辞めてほしいところではあるが、そんな態度はおくびにも出さず、モモンガは答える。
「ふっ。デスナイトが消滅させられたのは予想外ではあるが、手痛い損失ではない。それよりも圧倒的不利を跳ね除けた彼らに多少の慈悲はかけてやるべきだろう?」
モモンガは脳内でイメージした王様を真似て笑う。
「マサニ、ソノ通リカト…。彼ラノ戦イニハ目ヲミハルモノガ多カッタト考エマス。ソノ戦イニ免ジテ慈悲ヲカケテヤルベキカト。」
武人として山羊人の戦いに何か感じるものがあったのかもしれない。コキュートスが賛成したことでモモンガはゲートを開く。
…
その闇から最初に現れたものを見たとき、バザーはただでさえ荒かった呼吸が止まってしまうかと思うほどの衝撃を受けた。
(あの、鎧がもう一体だと!)
先ほど死闘を演じた敵が完璧な状態でもう一体現れたのである。先の戦いではギリギリ勝利を収めたが今、戦えば確実に死ぬ。だからと言って、今の傷ついた体では逃げることも満足にできない。その鎧の後には粗末なローブを纏った骸骨と人間が二人、続いて出てきたが人間の一人がでかすぎること以外に特別、感じることはない。あの鎧を骸骨が使役しているのだろうが、たかだかスケルトンが強い存在を隠れ蓑に堂々としていることにバザーは苛立ちを感じた。勿論、バザーが何も感じなかったのは彼の観察眼が劣っていたわけではない。この地で目立つことを嫌ったモモンガが力を隠す指輪を全員に装備させた結果である。神器級の装備を破壊される可能性も考慮してはいたが…。ちなみに現在の三人の恰好はコキュートスの袴以外は普通のノービスのローブである。骸骨が鎧の斜め後ろから声を発する。
「そこの山羊人よ。先の見事な戦いに免じて、膝を折り私の質問に答えれば無傷で解放してやろう。」
モモンガとしては、情報を聴ければどうでもいいので膝を折る必要はないが、後ろのナーベが視線だけで山羊人を殺せそうな感じがするので高圧的にでてみる。
その言葉を聞いたバザーの心境はふざけるな!である。バザーは個人の武勇にも優れた王であるがその統治能力、人心把握能力も優れたものである。普段であれば、例え、雑魚のスケルトンの命令でも自分達を殺せる力を構えられたら従い、自分の命を賭してでも仲間たちを無事に拠点に戻すことを優先しただろう。しかし、自分のベストファイトといえる試合の後に横から虎の威を借りる狐が現れ、膝を折れ?ふざけるな!である。また、現実的な問題として今回の死闘で仲間たちにも死者が出ているここで、食い下がらず膝を折れば配下達の信頼は落ちてしまう可能性もある。血が上った頭でモモンガの言葉を咀嚼したバザーは言い放つ。
「黙れ!スケルトン!確かにそこの鎧は強いがお前は大したことはないだろうが!質問には答えてやるから、そこで縮こまってないで俺の目の前まで来い!」
スケルトン呼ばわりされたことにムッとするがそれだけ、上手く偽装できているということだろう。早く、情報を収集したいモモンガがその問いに答える。
「そんな言い方はないだろう。そこには「この下等生物が!<魔法最強化・龍雷>」
モモンガの言葉があちらに届くまえに太い一本の雷が到達する。あれ?と思うモモンガを尻目にコキュートスとナーベラルが言い争う。
「ナーベラル!モモンガ様の目的ヲ忘レタカ!私ダッテ堪エタノダゾ!」
「しかし!コキュートス様!あの下等生物は恐れ多くも神に等しい存在であるモモンガ様の創造物を消滅させただけでは、飽き足らず重ねて無礼を行いました。仏の顔も三度までです!それは死を以て償うべきかと!」
コキュートスが一理あるか…と呟く
(いや!一理ねーよ!というか、神にも等しいってなんだよ。俺は外見はこんなんだけど中身は草臥れたおっさんだぞ!つーか、まだ、あいつ三度も怒らせてねーよ!はぁ、ツッコミどころが多すぎるな…)
もしかして、ナーベラルはポンコツなのでは…という考えが脳裏によぎるが、そんなことはないだろう。弐式炎雷さんは結構しっかりしてたし…
「あれ?あの敵って捕獲がクエストクリアの条件ですか?参ったなー、さっき爆破しちゃいました。」
「えっ?必殺のスキルを今使ってほしい?さっき、でかいのがいたんで使っちゃいましたよ笑」
あれ、もしかして弐式炎雷さんて割とポンコツだった?そんな考えが脳裏をよぎるが今は物思いに浸ってる場合ではない。
「はぁ、コキュートスよ。ナーベラルの攻撃が目立ちすぎた可能性がある。お前が後ろの山羊人を3、4匹捕獲しておけ。後は目立たず、私が片付けよう。」
ボスが一撃でやられ混乱した山羊人にモモンガの魔法が追い打ちをかける。
「<魔法効果範囲拡大・死>
暴れていた山羊人達が静かになる。ちなみに、モモンガのため息で冷静になったナーベラルもまるで死の魔法をかけられた様な顔色にはなっていたが…。その後、撤収の準備を行いモモンガ達はそそくさとその場を後にした。モモンガ達は瞬殺してしまったが、豪王バザーの死はアベリオン丘陵に大きな混乱を発生させた。その混乱は後に大きな騒動のきっかけになってしまうのだが、それをモモンガ達は知る由もなかった。
やっと、プロローグは終了という感じです。バザーやリユロとかは原作では不遇でしたが、レベルもかなり高い(ガゼフ、クレマンより高い)のでかなり優秀なキャラだったと思ってます。相手が悪すぎただけで…
高機動トウモロコシさん、誤字報告ありがとうございます。