モモンガはセフティーゾーンの建築に際して、自分の考えを二人に述べる。
「私の手持ちにシークレットハウスがあるので、それを設置しその後、短杖でアースサージを使い丘の様に周囲に土を盛る。上空は空気を入れ替えるために開けておくが、幻術を展開し誤魔化そうと考えている。この案に何か修正する点はあるか?」
「いえ、完璧な計画かと」
「我々ニ意見ヲ求メズトモモモンガ様ハ我ラノ主人。ソノ決定ニ従ウノハ臣下ノ務メデゴザイマス。」
モモンガは、自分の案が通った安堵感と盲目的に命令に従う姿勢をみせる二人に危機感を募らせる。モモンガはこんな骸骨魔王様な恰好をしているが、まごうことなき一般人である。
むしろ、自分では劣っていると考えているくらいである。そんな奴の意見に反対意見を示さないなどその集団には破滅が待っていることは間違いない。この場には、モモンガの意見を深読みして、その案を説明してくれる者などいないのだから。モモンガはそのことを二人に説明し簡単に注意するとすぐに作業を開始する。こんな状況で防備的に丸裸な状態であるのは慎重派のモモンガには一秒でも早く打開したいからである。
◆◆◆◆◆◆◆
完成した拠点の中に入ると遠見の鏡をアイテムBOXから取り出す。このアイテムは周囲を観察するのに非常に優れているが、カウンターを受けやすいのでたっぷりとスクロールを使用し対策をとる。スクロールを余分に使用してしまうので普通はやらない無駄の多い方法ではあるが背に腹は代えられない。この世界がユグドラシルと同じかは分からないが消耗品は二度と手に入らないかもしれないのでできるだけ使用したくはないモモンガとしては血涙ものの出費である。
(さて、俺たちの周囲はどうなっているかな…)
モモンガは最初、現在地として始まりの草原だとあたりをつけてはいたが、後々に違うのではないかと考え始めていた。
(もし、始まりの草原なら転移の塔がどこにいても見えるはずだしな…)
ゲームを始めたばかりのプレイヤーには転移などの高位魔法を使用して他のフィールドに飛ぶことは出来ない。その為の救済措置として運営が設置した拠点があるはずだが、どこを見渡しても存在しなかった。この時点でモモンガ達のいる場所は未知の場所ということになる。
(なにがいたとしても、NPCは俺が守る!そして、この世界に来てるかもしれない二人にまた会うんだ!)
モモンガが決意を新たにした。
しかし、現実は甘くなかった。モモンガの心境はある一点に占められていた。
(遠見の鏡が操作できない。)
そう、作戦の根幹である周囲の偵察がいつまでも開始できないのである。ゲームであれば浮かび上がるコンソールを操作するだけであった。しかし、今はこちらが現実である。操作方法が全く分からないモモンガはそのことが臣下二人に悟られないように小振りな動きで様子を伺っていた。しかし、このままではいつか二人にばれてしまうだろう。わざわざ、ここまで維持していた威厳をこんなことで落としたら目も当てられない。モモンガは両手を使い大胆に操作してみる。危険な賭けではあるが変化も大きくなり何か共通性が分かるかもしれない!という運任せの作戦ではあったが…
(おーこうすると、視界が開けるのかぁ。なんだか分かってきたぞ)
その時、斜め後ろから声がかかる。
「モモンガ様。アチラニ何か動クモノヲ確認デキマシタ。」
確かによく目を凝らすと何かがいる。アップしてみるとその詳細が明らかになっていく。
それは、二足歩行の蛇の頭を持つ集団と二足歩行のヤギの頭を持つ二足歩行の集団である。二つの一派は争っているようだが、もう大勢は決したのだろう。ヤギの頭を持つ二足歩行の集団が殲滅にかかっている。
(これは、山羊人と蛇身人だよな…ユグドラシルの種族もいるわけか…)
確か、どちらもあまり強い種族ではなかったような気がする。見た感じはどちらも上級職には見えなかったので10レベルから20レベルといったところだろう。しかし、山羊人に一体、バフォルクロードぽいやつがいるのが気掛かりだが…
「コキュートスよ。奴らのレベルはどの程度とみる?」
ここは、武人と設定され、それに関する職業スキルも持っているコキュートスの意見もきくべきであろうとモモンガは判断する。この問いかけは、ユグドラシルのプレイヤーが多くの種族を選択できることに起因している。例えば、蛇身人を極めれば多彩な毒を操る
「彼ラノ実力ハ大半ガ10レベルモナイデショウ。一体だけ30レベルヲ超エタ個体ガイマスガソレダケデス。」
やはり、モモンガの見立てと大して変わらなかったことに安堵する。ならば、やるべきことは一つだ。
「この世界での我々のレベルを確認したいと思う。しかし、念には念を入れて、今回はこの山羊人の集団にデスナイトを仕掛けたいと考えている。」
もしかしたら、この集団を我々の様に観察している集団が存在しているかもしれない。そうなった場合、姿を顕せば非常に厄介なことになる。とは言え、ユグドラシルではデスナイトは守備モンスターであり、守る対象と一緒に行動させなければ主人の元を離れることは出来ない。
「下位アンデット作成―
中位アンデット作成―デスナイトー」
「死者の大魔法使いは北に1km地点にいるこの山羊人の集団を襲え。そして、デスナイトはその警備にあたり死者の大魔法使いと連携して殲滅せよ」
本当はゲームでできる様に方角を指定し進ませて、遭遇する敵を攻撃せよ等の簡単な命令にするつもりだったが、召喚した瞬間、モンスターとの繋がりを感じ、複雑な命令でもいけるかな?と感じたモモンガは命令を当初、考えていたよりアレンジしてみた。2体のモンスターは了解の意を告げるとその方向に走り去っていった。
「モモンガ様。つまり、モモンガ様が創造なさったデスナイトと死者の大魔法使いがあの集団に勝てれば、コキュートス様の読み通りのレベルである可能性が高く、逆に滅ぼされた場合、レベルの読み違い又、何らかの特殊能力を有している可能性を考慮できるということで間違っていないでしょうか?」
今まで成り行きを見守っていたナーベラルが作戦の確認を行う。
「その通りだナーベラル。また、わざと数体だけ残し情報を得たいとも考えている。本当は人間種の方が望ましかったがこの世界に存在しない可能性もあるしな」
人間は情報システムの構築がうまい。元人間であるモモンガはそのことを良く知っている。なので、できれば人間種をみつけたいが…。ここで、モモンガは自分が人間のことを全く別の種族であると認識していることに気づく。
(思えば、動物よりは人間に近い種族が殺されていても何も感じなかった。人間が殺されていても同じように感じるのだろうか…)
モモンガは体だけでなく心も人間をやめてしまった可能性を思い至り、少しショックを受けたが、今はそんなことを考えている場合ではないとデスナイトと死者の大魔法使いが映り始めたモニターに目を向けた。