インデックス投資ナイトの登壇者たち(7日夜、東京・渋谷) インデックス(指数)連動型投資信託などで長期の資産形成をしている個人投資家が年に一度開く手作りのイベント「インデックス投資ナイト」。2018年は7月7日夜に東京・渋谷のイベントスペース「東京カルチャーカルチャー」で開催した。関心が高まっている「国際分散投資と米国株のどちらを選ぶか」など旬のテーマに白熱した議論が続いた。
■チケット、4分で「瞬間蒸発」
インデックス投資ナイトは09年から毎年開催。登壇者や聴衆同士がアルコールを飲みながら本音で資産運用を語りあう人気イベントだ。今年もインターネットの販売窓口でわずか4分で約140人の席が売り切れる「瞬間蒸発」の状態だった。
第1部のテーマは「国際分散投資VS米国株指数」。著名ブロガーで著書「お金は寝かせて増やしなさい」がヒット中の水瀬ケンイチ氏(ハンドルネーム)が国際分散投資派で、米国株投資のブログが人気のたぱぞう氏(同)が米国株派。筆者も「行司役」として討論に加わった。登壇者同士がまずビールで乾杯、ジョッキを重ねながら議論が続いた。
投資のセオリーはなるべく幅広く分散すること。それなら「王道」は全世界株投資だ。しかし最近は米国株の堅調さを受け、米国株への集中投資のほうが資産を増やしやすいのではないかという「米国派」も台頭している。
たぱぞう氏は「米国株指数のS&P500種株価指数は長期で安定して上がり続けている。株主を大事にするのが米国企業。きちんと決算時に数字を出してくるし、自社株買いなども積極的。この結果1株利益(EPS)も上昇していく。人口増に加えて企業の新陳代謝が活発なのも強み」と米国株の魅力を語った。
■全世界株の上昇を長期で上回る米国株指数
確かに米国株の長期的な上昇力は強い。例えば1990年以降でみてS&P500種株価指数は全世界株指数「MSCIオール・カントリー・ワールド指数(ACWI)」を上回っている。IT(情報技術)バブルで米国株が高値だった2000年を起点にすると似た動きだが、10年以降では再びS&P500がぶっちぎりだ。
行司役の筆者は「ここ数年のS&Pの円ベースでの成績は一部『追い風参考』を考慮する必要があるのでは」とコメント。通称「FANG(ファング)」と呼ばれる主力ハイテク株の上昇のほか、インフレ率の差を加味した総合的な米ドル相場である実質実効為替レートが過去の平均に比べ割高になっている影響が含まれているからだ。
水瀬氏は「私は日本、先進国、新興国と幅広く分散している。常に個別銘柄の株価や為替レートを見続けるのはしんどいから、今の国際分散のインデックス投資に落ち着いた」としたうえで、最近の米国株の強さの永続性に疑問を呈す。「現在のような強い上昇トレンドが20年も30年も続いていくかどうかは分からない。このトレンドが、次はインド、中国、ドイツ、英国で起きるかもしれない。それがどこか分からないから、国際分散投資をしている」
■米国株ブームは過熱気味?
これに関しては、たぱぞう氏も「最近の米国株ブームをみると『大丈夫かな?』と思うこともある。自分がブログを始めた16年春に比べ米国株のブログの数は現在5~6倍に増えている」と過熱ぶりを指摘。「自分はもともと逆張り派なので、ちょっとむずむずしている」と話すと会場から笑いが起きた。
そのうえで「新興国が成長しているのは事実だが、経済成長に合わせて株価が上昇しているかというとそうでもない。中国の電子商取引最大手、アリババ集団などのように、新興国で生まれた企業も米国で上場して米国株の指数に組み込まれていく(のだから米国株投資で新興国の成長も取り込める)」と指摘した。
筆者は「米国企業の活発な自社株買いは高株価を求められる経営者の保身の面もあり、成長資金が一部食われている可能性もある」などと気の利いたことを言おうとしたが、終盤は酔いが回ってしまったのか、少しろれつが回らなかった。
■低コストの連動投信が増加
第1部のテーマは要するに「良いインデックスとは何なのか。分散の幅広さか、より大きく上がる指数か」という重要かつ本質的な議論だ。確かにより大きく上がる指数があればより大きなリターンが得られるが、その永続性を見極めるのは簡単ではない。
水瀬氏は「全世界株でも時価総額の半分強は米国なので、味付けをするかしないかだけの違いかもしれない。様々な上場投信(ETF)を組み合わせている自分も(結果的に)米国株の比率が時価総額比より少し高くなっている(が無理に修正はしていない)」とコメント。たぱぞう氏も「自分も一部全世界株型投信をもっています」と明かしていた。議論は熱気がありながらも和気あいあいとしたもので、最後は水瀬氏とたぱぞう氏ががっちり握手して終わった。聴衆からは「二人とも紳士的で大人」とのツイートが相次いだ。
ちなみにS&P500の連動投信としては、信託報酬が従来より低い「iFree S&P500」が大和証券投資信託委託から新たに登場している。先進国と新興国の全世界株に1本で投資する指数としては以前からのMSCI ACWI(連動投信に「eMAXIS Slim 全世界株式」「野村つみたて外国株」など)に加えて、中小型株にも投資できる全世界株指数FTSE Global All Cap(連動投信に「楽天全世界株式」や「EXE-iつみたてグローバル」など)が登場し注目を集めている。
ただしACWIとFTSEの両指数の値動きはかなり似ている。FTSEは中小型株を含む分、リターンは高そうにも見えるが、実際は値動きに対する影響の多くは時価総額の大きな銘柄で決まるためだ。連動投信の信託報酬(コスト)などを勘案して好みで選べばいいだろう。
■金融庁幹部がつみたてNISAを解説
この日は第2部で金融庁の今井利友金融税制調整官が積み立て方式の少額投資非課税制度「つみたてNISA」について会場からの疑問に答えた。「つみたてNISAと一般NISAをどちらか一方に統一することは考えていない」「NISA制度の恒久化を目指す」との言葉に会場が沸いた。
第3部では「投資継続のメンタリティ」をテーマに、個人ブロガーや経済評論家の山崎元氏、ファイナンシャルジャーナリストの竹川美奈子氏が討論した。山崎氏は「リスク許容度は自分にしかわからない。具体的な金額を想定して考えるべきだ」とアドバイス。竹川氏は「リーマン・ショック後の08~09年に積み立てをやめた、あるいはすべて売り払ってしまった投資家が本当に多かった」と振り返り「それを繰り返さないための方策の一つが仲間をつくること」だと話していた。
リーマン・ショックからはや10年。米国景気拡大もまる9年だ。株価は大きく上がり、多くの投資家は資産を増やせた。しかし、米国の戦後の景気拡大の平均は5年で、循環的にもいずれ下落局面はくる。インデックス投資ナイトなどを通じた仲間づくりが、そんなときに投資を継続する大きな力になるのかもしれない。
(編集委員 田村正之)
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