短編小説   作:重複
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笑い話(デミウルゴス・ラナー)

デミウルゴスは笑った。

 

 

 

なんと自分の主人は偉大なのだろうかと、感嘆の笑みがこぼれて押さえきれない。

 

 

 

ネイア・バラハ。

 

 

 

あのような駒を用意してくださるとは、どれだけ先を見据えておいでなのかと、どれほどの言葉も主人を評するには足りないだろう。

 

 

 

このローブル聖王国で、魔導王の配下になった亜人ならぎりぎり許せる、とまで言える人間が増えている。

 

 

 

いままで数百年に及んで敵対していた相手に対してだ。

 

 

 

なにしろ、この国(聖王国)は宗教国なのだ。

 

亜人はもちろんのこと、異形種は敵として認識している。

 

特にアンデッドとなれば、生まれた時からの神殿の教えもあって、憎み嫌悪して当たり前の存在なのだ。

 

 

 

事実、魔導国はアンデッドの治める不倶戴天の敵として、亜人殲滅後に攻め込むべき敵国という認識だったのだ。

 

 

 

それは今も変わっていない。

 

 

 

南部では、だ。

 

 

 

北部では凄まじい勢いで、魔導王アインズ・ウール・ゴウンを称える人間が増えている。

 

 

 

デミウルゴスの計画では、北部と南部の対立は、南の支持しない聖王の即位の不満や、北部と南部の被害の有無による経済的対立などを煽る予定だった。

 

 

 

それが加速度的に対立が早まっているのだ。

 

 

 

これは当然ネイア・バラハの存在が関係している。

 

 

 

魔導王を支持しているという事が、そしてその支持者の数が増え続けていることが、宗教的対立として現れているのだ。

 

 

 

信仰系魔法を使う聖王を頂点とする宗教色濃いお国柄。

 

アンデッドを憎み嫌悪し、滅ぼすべき敵と認識している国民が大多数を占めるのだ。

 

 

 

そんな国で、アンデッドが頂点に立つ国への併呑を望むなど、国を裏切る行為と取られてもしかたがない。

 

 

 

ところが、そんな考えを人々に教え広め、その考えに同意する者を増やし続ける存在を、聖王自らが支援していたとしたら、それはどのように見られるか。

 

 

 

いうまでもない。

 

 

 

聖王女(カルカ)以上に、聖王にふさわしくない、と判断する。

 

 

 

信仰系魔法を第五位階まで使いこなす存在(カルカ)すら、女であるという一点のみで「不適格(ふさわしくない)」と断じた南部からすれば、現聖王(カスポンド)の行いは、排斥するに値する蛮行として映った。

 

 

 

といっても、南部の一部の貴族は新聖王と北部を支持した。

 

 

 

これは魔皇ヤルダバオト対魔導王アインズ・ウール・ゴウンの戦闘を目にした貴族たちである。

 

 

 

彼らは怖れたのだ。

 

 

 

彼の魔導王の力を。

 

 

 

そしてその機嫌を損ねることを。

 

 

 

 

 

当然である。

 

 

 

自分たちがまったく手も足も出ず、蹂躙されるだけでしかなかった相手(ヤルダバオト)を圧倒的な力量差でもって完殺したのだ。

 

 

 

その力が自分たちへと向けられるなど、誰も望まないあってはならない事態だ。

 

 

 

 

 

この世界では、他国がどのような被害を受けようと、それを助けに行くような国は基本的には存在しない。

 

 

 

どれほどの被害が出ていようと、その被害者が自分でなくて良かったと思うのが普通だ。

 

 

 

正しく弱肉強食の世界なのだから。

 

 

 

王国のフィリップの父親が危惧したように、他国への援助や救援など何かしらの支援は、当然のように見返りが期待できるか、他国を併呑するための方便でしかない。

 

 

 

帝国のジルクニフが恐怖したように、他国へ軍を動かすには方便が必要なのだ。

 

 

 

たとえ国民の総意が善意であろうと、国を預かる首脳部は国を疲弊させる政策を無制限に許容するものではない。

 

 

 

 

 

だからこその、何かしらの被害が出た時、助けに来てくれる存在。

 

あるいはその庇護下にあることで、他の脅威から守られるような絶対者の存在。

 

 

 

単騎で国を落とせるヤルダバオトと、単身で都市を落とせるメイド悪魔。

 

そういった強者を、同じく力でねじ伏せる事のできる超越者。

 

 

 

その存在の下につく事は、どれほどのメリットをもたらすか計り知れないだろう。

 

 

 

 

この世界でも、表立ってではないが、竜王国は法国へ寄進という形で金品を渡し、防衛力の不足を補っている。

 

魔導国を後ろ盾に持てば、その威を借る事で、他国への抑止力となる。

 

 

 

頭を下げて通り過ぎる事を待つ事が許されるのは、天災だけだ。

 

 

 

弱者たる人間は、襲われれば逃げるしかなく、逃げたとしても、追われ探され狩り尽くされるのが常なのだ。

 

 

しかし、それが理解できる者(北部)とできない者(南部)との溝は深い。

 

 

 

 

「ああ、本当に素晴らしい。同じ国で同じ宗派の者同士が、お互いの正義をぶつけ合い、争いあう。なんと愚かな人間らしい結末でしょうか」

 

 

デミウルゴスには嗤うしかないお話だ。 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ラナーは嗤う。

 

クライム。貴方は強くならなくていいのよ。

 

いいえ、強くなってはいけないの。

 

 

 

もし、クライムが人より抜きん出て強かったなら――

 

あるいは、何かしらの才能を持っていたなら――

 

きっとラナーから取り上げられてしまっただろう。

 

 

 

お飾りの第三王女に、そんな人材は不要、あるいは宝の持ち腐れで勿体無いとして――

 

強ければ、死んでも誰も文句を言わない、使い捨ての戦力として。

 

才能があれば、拾われた恩を「王家」に返す為にと、使い潰されていただろう。

 

 

 

力も才能も無い、ある意味「どうでもよい存在」だからこそ、ラナーに「与えられて」いるのだ。

 

 

 

それをラナーは良く知っている。

 

だからこそ、クライムは無力のままだ。

 

人に教えも受けられず、助言も無い。

 

居ないかのように扱われる。

 

 

 

だからこそ――クライムの世界は狭く、ラナーによって見える世界しかない。

 

 

「わたしのかわいい犬(クライム)は、賢く(人間に)なんてならなくていいのよ」 

 

 

 

ただ、私を見ていればいいの。

 

 







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