こんにちは。斎藤充博です。僕はふだん「指圧師」の仕事をしています。日々仕事をする中でふとこんなことを思いました。
食べ物を食べながらマッサージを受けたら飯がうまくなるのか?
たとえば、ピアノ演奏を聞きながら料理を食べるお店ってありますよね。間違いなく高級な店です。そこで演奏しているピアニストもなんだかかっこいいじゃないですか。
それと同じように食事をしながら、マッサージをするのはどうでしょうか。一流のレストランでマッサージができたら、マッサージ師としてハクがつくというものです。
今回協力してもらうのはマッサージ師の岡野浩人さん。
岡野さんは「あん摩マッサージ指圧師」であるだけでなく「鍼灸師」と「柔道整復師」の資格も持っています。これはけっこうすごくて、業界の序列的に僕が頭が上がるような人ではないのです。
さらに岡野さんが院長を務める訪問医療マッサージこころ池袋治療院の施術室もお借りしています。
岡野「斎藤さん……。治療室、ましてや治療用ベッドの上で物を食べるっていうのは……」
斎藤「よくないですよね……」
岡野「普通ダメです。でも、あんまり気にしないでいきましょう。やってみたらいいと思います。おもしろそうですし」
斎藤「ですよね!」
事前にはこんなやりとりがありました。院長、意外とノリノリですね。ありがたや。それでは始めてみましょう。
【編集注】本稿では、検証のために「寝転がりながら食事をする」などの「お行儀が悪い」行為をしていますが、それらを推奨するものではありません。
マッサージされながらケーキを食べてみよう
ケーキを用意してみました。果物を乗せたチーズケーキです。見るからにうまそう。
まずは普通に食べます。乗っている果物がオレンジ、イチゴ、ブルーベリー、キウイと全部すっぱいもの。これが濃厚なチーズケーキとよく合います。うまいです。
これをベッドサイドにちょこんと置きまして
うつ伏せ用のクッションの高さを通常の2倍にしてみました。これならうつぶせで食べられそうです。
うつぶせでマッサージを受けながら物を食べると脳が忙しい
太ももを心地よい圧でおしてくれる岡野さん。そして超おいしいケーキ。しかし。
斎藤「これは……脳がものすごく忙しいです!」
岡野「どういうことですか?」
斎藤「気持ちよさと、おいしさってなぜか両方いっぺんに感じられないので、なんども切り替えながら感じています」
岡野「なるほど……。そんなふうになるのか」
斎藤「それぞれがいいんですが、相乗効果はないです」
横向きでマッサージしてもらいながら物を食べるとけっこういい
岡野「うつぶせが悪いのかな? ちょっと横向きになってみますか」
斎藤「あっ。これはけっこういいですね」
岡野「いけますか?」
斎藤「今度は脳が忙しくない……。気持ちよさとおいしさが、両方感じられる。姿勢やおす場所でけっこう変わるもんですね」
岡野「なるほど……」
斎藤「これ、いいんじゃないかなあ。マッサージ師に新たなニーズが見えてきた……」
中トロを食べながらマッサージを受ける
今度はバトンタッチして岡野さんに受けてもらいましょう。用意したのはお寿司。中トロです。
まずは普通に食べてもらいます。まあなんの問題もなくうまいですよね。中トロですもんね。
今度は僕が太ももを掌圧します。岡野さんには中トロを食べてもらいます。
岡野「あーっ! これさっき斎藤さんが『脳が忙しい』って言っていたやつですよね。わかりました。味覚と触覚で超忙しいですね!」
斎藤「でしょ? 忙しいんですよ!」
中トロに勝つマッサージ
斎藤「今度は横向きになってみましょう。忙しくなくなりますよ」
岡野「忙しくはないです……。ただ、斎藤さんの『マッサージの気持ちよさ』が、中トロのおいしさに勝ってしまっていると思います。相乗効果にはならない」
斎藤「中トロよりも僕のマッサージがいいんですか? 超うれしいですが、なんだそれは……?」
岡野「あっ。でも『斎藤さんが圧を抜いたときのマッサージの余韻』が寿司のおいしさと合わさると、ちょうど良い感じです! マリアージュ!」
ここで解説。僕は「指圧」をメインにマッサージを行っています。岡野さんは僕が指で圧を入れたときの感じは味の邪魔になるけれども、圧を抜いたときの感じは食事に合うと言っているのです。
斎藤「ワインソムリエみたいなこと言い出した……。これは本気で新たな需要が見えてきましたね」
岡野「いや、アリだと思います。食事に合わせるマッサージ!」
肩をマッサージしながら物を食べたら味がしなくなった
斎藤「本当に外食にマッサージを合わせるとなると、座ったままやることになるのかな……」
岡野「試してみましょう」
岡野「これは……大変だ」
斎藤「どうしました?」
岡野「なんの味もしませんよ。口の中で中トロのグニュグニュとした食感だけが残ります!」
斎藤「そんなことってあります?」
岡野「ホントですホント」
肩をマッサージされながらだとワサビを食べても辛くない
斎藤「味が感じられないってことは……」
斎藤「たとえばワサビを食べても辛くないのでは?」
岡野「今すぐ試しましょう」
座って岡野さんに肩を指圧してもらいながら、ワサビだけをパクっと食べてみます。
斎藤「辛くない!!!」
岡野「これは発見ですね?」
斎藤「口の中で多少ピリピリはしますが……。ぜんぜん平気。なんか他人事みたいに感じます……」
斎藤「ゴホゴホッ」
岡野「大丈夫ですか?」
斎藤「ワサビを飲み込んだ瞬間に、急に喉にきました……。なんだこれは……?」
口の中ではぜんぜん辛さを感じなかったのに、喉では刺激を感じます。なにこれ?
ワサビの件がショックで呆然としています。これはいったい何なんだ……?
岡野「神経の伝達速度の問題かもしれませんね。触圧覚の方が脳への伝達が速いとか……?」
斎藤「うーん。味覚の速度ってどうなっているんでしたっけ?」
手持ちの知識でいろいろ考えてみますが、よくわかりません。
マッサージ師じゃない人に体験してもらおう
マッサージ師ではない人にも体験してもらいたい。友達の米田さんにも受けてもらうことにしました。
せっかくマッサージ師が2人いるので、2人一緒に受けてもらうことにしましょう。ちなみに食べているのは辛口のチキンナゲットです。
斎藤「どうですかね……?」
米田「味は確かに感じにくいですね……。それから肩を両方一気におされていると、なんだか物が飲み込みにくいような気がします」
岡野「足はどうですか?」
米田「なぜかよくわかりませんが、ものすごく悪いことをしているような気がします……」
斎藤「それはちょっとわかる。このサービスを商品化するには罪悪感の払拭が必要ですね」
斎藤「うつぶせはどうですかね?」
米田「これは……」
米田「王様ですね……」
斎藤「王様?」
米田「宮廷で王様がくつろいでいる感じがします。かなり気分がいいです。いますぐこのサービスを始めてほしい……」
斎藤「いいですね。王様なら罪悪感消えますね」
横向きになったら王様度がさらに増えました。優雅……! いや、単なる怠け者か?
米田「ここに、王様を扇ぐ人がいたら完璧じゃないですかね?」
岡野「そのへんに、ちょっと団扇の代わりになるような物あったはずです!」
斎藤「Nさん、僕ら手が離せないんで、あおいでもらっていいですか?」
ここで先ほどから撮影をしてくれていた編集部のN氏にあおいでもらいました。
斎藤「完全に王様だ……。食べているのはチキンナゲットなのに」
岡野「これはウケますね。新しいビジネスの創出ですね」
米田「早く作ってください。絶対に通います」
編集部N氏「これなんの企画でしたっけ???」
食事に重要なのは雰囲気なのかもしれない
米田さんには肝心の「マッサージしながら食べるとおいしいのか」ということを聞くのを忘れてしまいました。そんなことよりもみんなで「王様」の状態を作り上げたことがうれしかったんです。
「マッサージが食事に合うか合わないか」なんてささいなことよりも、こうした雰囲気作りの方が重要なのかもしれません。そういえば、レストランで演奏しているピアノだって、雰囲気作りですよね。
食、そしてマッサージの奥の深さよ……。
最後に実験の結果を一応まとめておきます。
・うつぶせでふともものマッサージを受けながら食べると……気持ちよさと味で脳が忙しい
・横向きですねのマッサージを受けながら食べると……圧を抜いたときの余韻と味にマリアージュを感じられる
・座って肩をマッサージされながら食べると……味が全くわからなくなる
・うつぶせになって2人同時にマッサージしてもらい、さらにもう一人にあおいでもらいながら食べると……王様!
こうして見てみると、ぜんぜん条件がそろっていないですね。
取材協力
岡野浩人
ホームページ:訪問はりきゅう上達ラボ
プロフィール
斎藤充博
1982年生まれの指圧師(国家資格所有)。著書に『子育てでカラダが限界なんですがどうしたらいいですか?』(青月社)あり。
ツイッター:@3216
ホームページ:田端ふしぎ指圧
Source: ぐるなび みんなのごはん