核とミサイル問題をめぐる米国と北朝鮮の交渉が破綻しつつある。7月6、7日に平壌で開かれた実務者協議は北朝鮮の反発で、非核化の時期はおろか、手法も詰めきれなかった。トランプ政権はどうするのか。
米国のポンペオ国務長官は、実務者協議について「ほとんどすべての主要な問題で進展があった」と成果を誇った。だが、具体的な中身といえば、非核化を検証する作業グループの設置で合意したくらいである。それも米朝共同ではない。米国が設置しただけだ。
北朝鮮は実務者協議をどう評価したか。
北朝鮮の国営メディアである朝鮮中央通信は「米国はCVID(完全で検証可能、不可逆的な非核化)だの、申告だの、検証だのといって、一方的で強盗さながらの非核化要求を持ち出した。遺憾極まりない。我々の非核化意思が揺さぶられかねない危険な局面に直面している」という外務省報道官の談話を伝えた。これでは、作業グループの設置どころではない。
トランプ政権は6月12日のシンガポール会談を受けて、北朝鮮側が核開発の実態を自主的に申告し、それを基に米国や国際原子力機関(IAEA)が検証する手順を想定していた。実務者協議は手順を決める場という位置づけだ。そもそも、トランプ大統領はシンガポール会談の後「非核化はすぐ始まる」という認識だった。
ところが、北朝鮮側は今回の談話で明らかなように、申告にも検証にも応じるつもりがない。彼らが議論するつもりだったのは、米朝関係の改善と朝鮮戦争の終結宣言、大陸間弾道ミサイル(ICBM)のエンジン試験場廃棄問題、それに米兵の遺骨発掘問題である。
これでは、肝心の非核化の話がいつ始まるのか、展望はまったく見えない。トランプ政権は、北朝鮮の得意とする「譲歩小出しの引き延ばし戦術」の術中にはまってしまった。
大統領はシンガポール会談を「大成功」と宣伝してしまったために、側近がいまさら失敗とは言いにくい。それで成果を過大宣伝する。このままでは「真実から目を逸らして、虚構の成功を追い求める」という最悪の展開になる可能性もある。
報道官談話で注目されるのは、実務者協議については「強盗さながら」という強い表現を2度も使って非難しながら、トランプ氏については「我々はトランプ大統領に対する信頼心をいまもそのまま持っている」と評価している部分だ。
これは、トランプ氏がポンペオ氏の前任だったティラーソン国務長官はもちろん、多くの側近を短期間で更迭してきた経緯と無関係ではない。大統領さえ敵に回さなければ、本当に信頼されているかどうかも分からない側近はいくら批判しても大丈夫、とみているのだ。
北朝鮮はなぜ、強腰に戻ったのか。それは中国と関係がある。