オバロ瓦落多箱(旧オバロ時間制限60分1本勝負)   作:0kcal
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作者に書く意思がある限り、エタってないってえろい人が言っていた。


ざ・ねすと5

(くう、まさか中弟が一撃で沈むとは)

 

 ギ・ドンは蛇の雷撃を避けた後に後ろで悲鳴が上がり、倒れ伏す音を聞いて舌打ちする。その後に音は聞こえないという事は気絶したのかもしれない。中弟は母が違う弟だが、兄者や自分よりも頭がいい。だが、反面身体は小さく、昔から軟弱だと思うことはたびたびあった。だから自分が先行したのだが、反射的に魔法を避けてしまった。死んではいないだろうが、魔法によるダメージは治りが遅いし、再生しないこともある。はやく手当てをしてやらねば。

 

「ばかが!所詮弟か!蛇の魔法如きにやられるとは!」

 

 鋭敏な耳が、ガ・ガラ兄者の怒声と足音を捉える。蛇に向かっていくようだ。位置関係を素早く把握する。蟲小人が側面に回ってきたため、蛇に向かえば背後をとられる位置だ、ならば

 

(さっさと片付けて兄者に加勢する、それが一番いい形だろう)

 

 そう判断し、樹上よりそちらに向き直ると、生意気な口を叩いた蟲小人が右手の先をくいくいと動かしているのが見えた。

 

「おっと、ウォートロールには意味がわかりませんか?かかってこい、と言う意味です」

 

「貴様!」

 

 樹上より生意気な蟲小人を睨み、弓を瞬時に構え、続けざまに三本の異なる毒矢を放つ。機械の様に正確な動きでなければ、実現不可能な技だ。蟲小人は反応できないのか棒立ちのまま。己の矢速から考えれば、今の時点で回避行動をとっていないのは致命的だ。

 

(やはり魔法詠唱者だったか、馬鹿め!)

 

 同じ種族でも魔法詠唱者であれば、大きく身体能力は下がる。僅か30センチほどしかない的だが、ギ・ドンは全ての矢が命中することを確信していた。

 

 ギ・ドンはウォー・トロール兄弟の中で一番俊敏で器用な次兄だ。そして驚くべきことに、銀級冒険者のレベルで野伏のクラスを取得している。

 

 放浪している時、魔物を倒していた人間の冒険者たちを見かけたギ・ドンは興味を持ち、その夜に捕まえて話を聞き出した。捕まえる過程でただ一人を除いて殺してしまったが、残った人間は<武技>の存在に興味を持ったギ・ドンに対し、それならば自分の持つ野伏の技術や<武技>を教えるから喰わないでほしい、と取引を持ち掛けてきたのだ。

 

 ギ・ドンは了承した。

 

 それから3年の間その人間と生活し、技術を習得する日々を送った。結果、ウォー・トロールでも抜きんでて器用なギ・ドンは優秀な野伏となったのだ。自分よりも弱かったが、全ての技術を教えたと彼に言った人間。その最後の日にギ・ドンはその人間を強き者と認め、感謝と共に己の血肉とした。

 

「殺った!」

 

 だが次の瞬間、棒立ちの蟲小人は”そのままの姿勢で真横に動き”必殺の矢を全て回避する。

 

「ほほう、頭・胸・腹にそれぞれ一本ずつですか、見事な腕です。しかし狙いが正確だと避けるのも容易いですな」

 

「馬鹿な!?俺の射を見切っただと。ならばこれはどうだ<疾風加速>、<風切>!」

 

 武技を用いて、3本の矢をほぼ同時に放つ。更に、放たれた矢はありえぬことに、空中でさらなる加速を見せた。

 

「無駄です。その程度止まって見えますな」

 

 しかし、やはり蟲小人は直前まで棒立ちのまま、矢をギリギリで回避する。

 

 昆虫は、通常の人間や動物――ここでは亜人や獣型の魔物も含む――とは根本的に構造が違う。たとえば眼。昆虫の持つ複眼は細かい数千から数万個の眼が寄り集まった器官である。その特徴として、単眼レンズである生き物に比べ視認できる距離は短くなるが、動体視力は数倍以上に達し、発射された銃弾をも視認可能なのだ。当然、ユグドラシルではそのような事は全く考慮されてはおらず、全てはステータスに従って処理されていた。だが、はたして”ここ”でもそうなのだろうか?

 

「……どうやら見た目と違って、相当な強者のようだな。いいだろう、お前を強者と認めてやろう。蟲は好みじゃないが……貴様を喰ってやる」

 

「ほう、大きく出ましたな。吾輩を食べると?では……」

 

 蟲小人が、言葉と共にゆっくりと両腕を上げた。

 

 

 ザワッ

 

 

 まるで森そのものが声を発したかのように、全ての方向から音が鳴る。ギ・ドンはその時、戦慄と共にあることに気がついた、気がついてしまった。

 

「相手を食べると宣言したからには――」

 

 木々の幹が蠢き、枝から葉が離れ、地面が脈動する。地面が盛り上がり、両手を上げた蟲小人が”そのままの姿勢で”樹上にいる己と同じ高さまで持ち上がった。

 

「――食べられる覚悟がおありですな?」

 

 自分自身が無数の蟲の群れの中にあり、蟲小人がこの群れの”王”であることを。

 




題名が変わりましたので、時間は計っていません。







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