はじめまして。ささたつ(@sasata299)こと、佐々木達也です。学校教育のICT活用を支援するClassi株式会社の立ち上げに携わり、2017年からCTOを務めています。
キャリアのスタートは、インターネット広告代理店のアドウェイズ。その後、創成期のクックパッドで新規事業「やさい便」の立ち上げなどを経て、EdTechの世界へと足を踏み入れました。縁あって、GeekOutでコラムを書く機会をいただいたので、これを機に自身の歩みを振り返ってみようと思います。
エンジニアを目指したのは「飽きなさそう」だったから
「ITエンジニアです」と言うと、よく「昔からプログラミングに興味があったんですか?」と尋ねられます。しかし、大学・大学院時代は材料工学を研究していて、パソコンにもほとんど触らないような日々でした。
では、材料工学に興味があったのかというと、そんなこともない。進路選択のときに周りの大人に言われるがまま、実は「やりたいこと」よりも偏差値で大学と専攻を選んでしまいました。だから、材料工学の研究を将来をかけて続けていく気持ちにはなれなかったんです。
就職活動の時期になると、周りが自動車関係や鉄鋼会社などに就職を決めていく中、私は銀行員や営業職など多様な企業・職種を見ていました。その中からITエンジニアを選んだ理由は、「一番飽きなさそう」だったから。IT業界はどんどん新しい技術が出てくるので、飽きっぽい自分でも飽きずに続けられるのではと思ったんです。
そこで、史上最年少の東証マザーズ上場社長(当時)がいたアドウェイズに入りました。今振り返ると、当時は業界自体が混沌としていました。なにしろ100人規模の会社であるアドウェイズが、新卒を70人採用していましたから。急速にインターネット産業が拡大していく渦中に、私はいました。
思い出深いのは、入社早々の飛び込み営業。お客様に話を聞いてもらえないことなんて当たり前でしたし、怒鳴られて走って逃げたこともありました。大変でしたが、この経験があったからこそ、今も営業メンバーの現場の苦労を理解することができていると思います。
アドウェイズでは、主にPerlを使ってサービスを提供していました。急激に拡大している企業でしたから、誰かが手取り足取り教えてくれるわけではありません。ひたすら勉強し、できることがどんどん増えていくのが単純に面白かった時期でした。
ただ、当時のアドウェイズは中国にも拠点があり、開発は主にそちらで行っていたんです。自分の経験と知識が増えるにつれ、もっともっとコードを書きたくなり、2年半勤務して、転職を決意します。
プライベートで少し触りはじめていたRubyで開発したいという気持ちが強くなり、国内でほぼ唯一Rubyを使って大規模なサービス開発をしていたクックパッドに入社を決めました。
エンジニア天国だったクックパッドでの経験
クックパッドは、エンジニアにとって理想的な環境でした。サービス課題をしっかりと技術で解決していて、周りのエンジニアも優秀なメンバーばかり。居るだけでも成長できたような気がします。Rubyを使った新規サービスの立ち上げなども経験し、「バリバリ開発したい」という欲求は日ごとに満たされていきました。
クックパッドでは「からあげエンジニア」というあだ名をつけられるなど、エンジニアとしての私のキャラクターも決まったように思います。
クックパッドのオフィスにはキッチンがあり、社員総会やクリスマス会などのイベントでは、社員が料理を作ります。「スイーツを作って」「メイン料理をお願い」と担当が割り振られるなか、私も「何が作れる?」と聞かれました。料理はほとんどできなかったんですが「揚げ物だったら……」と軽い気持ちで応えたんです。
初めて作ってみると意外な高評価を受け、それから「からあげ」をちょこちょこと揚げるようになりました。イベントのたびに2キロ・3キロと気持ち悪くなるくらい揚げていたら、いつの間にか「からあげの人」と呼ばれるようになっていました。
今でも、社内外の勉強会に登壇するたびに「からあげ」を最初の掴みとして使っています。「継続は力なり」ですね。
3年半ほど経て、数名のスタートアップに移ります。すべての役割を少ない人数で果たしていかなければいけないというヒリヒリした面白さがありましたが、少人数故の人間関係の難しさなどもあり退職。2014年に、教育領域のインキュベーション事業を手掛けるヒトメディアに入りました(のちにClassiに転籍)。
教育×ITは、日本の未来を創る仕事
ヒトメディアでは当時、後に私が入社することになる、ベネッセとソフトバンクが共同で設立したジョイントベンチャー「Classi」の立ち上げを支援していました。その担当をすることは聞かされていましたが、それ以外、何をするかはさっぱり分からない。それまで働いた経験がない大きな会社が関わっていることも「どうなるか分からない」という意味で面白そうだと思いました。
岡本太郎氏の言葉に、迷ったら「困難なほう」を選ぶというものがあります*1。私の好きな著書『自分の中に毒を持て』にも、迷うのはやりたいからで、困難なのに迷うのは本当にやりたいことだからだという話が書かれていて、これに従うことにしたんです。
そうじゃないから迷うんだ。危険だ、という道は必ず、自分の行きたい道なのだ。ほんとはそっちに進みたいんだ。
だから、そっちに進むべきだ。ぼくはいつでも、あれかこれかという場合、これは自分にとってマイナスだな、危険だなと思う方を選ぶことにしている。
岡本太郎『自分の中に毒を持て〈新装版〉』(青春文庫、2017年)31ページより
正直、入社当初は教育にそれほど興味を持っていたわけではなかったんですが、今は子どもも2人産まれて、すごく関心の高い事業になっています。「日本の未来のため」にやっている自負があり、「自分の子どものため」という情熱もあります。
私は大学入試のときに、よく分からないままに偏差値だけで大学と専攻を決めてしまいました。それはそれで一つの観点ですが、別の観点もあったのではないか。長い時間を過ごす学校という場だからこそ、先生を通じて子どもたちには多様な可能性を見せたいし、いろいろな選択肢があることを知ってほしいと願っています。
Classi(クラッシー) - 学校教育のICT活用を支援するクラウドサービス
Classiには、先生と生徒、もしくは先生と保護者の間のチャット・コミュニケーション機能や、生徒が使い慣れたスマートフォンで授業を受け、一人ひとりの学力に応じて振り返りや課題に取り組める機能(アダプティブラーニング)があります。
また、答えのない課題に対してチーム一丸となってプロジェクト学習する機能(アクティブ・ラーニング)や、生活・成績・学習履歴などありとあらゆる学びの記録を蓄積する機能(ポートフォリオ)などもあります。
学校教育にICTを導入する意義
ClassiをはじめとするICTを活用することで、特に3つの意味で学校現場をサポートできると自信を持っています。
- 1. 子どもたちの状況をつぶさに把握できる
- 学校現場ではこれまでも、学業成績のデータ化や蓄積はなされてきましたが、テクノロジーを活用することでそれ以外の情報、例えば、子どもたちのモチベーションの変化や、メンタル面などについても把握できるようになります。
- 2. 子どもの力ややる気の伸長を他の先生と共有できる
- 2021年度からスタートする新しい大学入試では、生徒一人ひとりがポートフォリオと呼ばれる「学びのアルバム」を作り、出願書類として提出することが求められています。
先生方にとっても、成績だけでなく、生徒の学びや成長をよりきめ細かく見ていくことが求められるのです。これは、担任の先生だけでできることではありません。各教科の先生や部活動の顧問なども巻き込んで、学年をまたぐ長期間のデータを蓄積していく必要があります。
ICTを活用すれば、学校全体で子どもの成長を見守り、データをシェアできる仕組みが実現できます。 - 3. 先生と子どもの円滑なコミュニケーションを実現
- 学校の先生に直接質問することに抵抗感を抱く子どももいます。そういう子でも、チャットであれば気軽に「先生、質問があるんですが」と投げかけることができる。ちょっとしたきっかけですが、先生と子どもの距離をぐっと近づけることができると思うんです。
Classiで実現したいこと
Classiは、2014年の提供開始以来、全国の高校の40%を超える2,100校に導入され、80万人以上の生徒が利用しています。
ICTがなかなか取り入れられにくい土壌にある、レガシーな学校教育の現場でClassiが急速に広がっていったのは、営業担当が学校現場のニーズや課題をつぶさに把握しているからだと感じます。先生たちと一緒になって、学校現場をどう良くしていくかを真剣に考えている。その現場感覚があってこそ、私たちも有益なサービスを開発できます。
今後は、すべての小学校・中学校・高校においてClassiを導入してもらうことが、私の一番の目標です。自分の子どもが通う学校でも使ってほしいので、すべての学校で当たり前にClassiが導入されている世界にしたいんです。
さらに、ひとりの子どものデータを小・中・高と積み上げていくことができれば、その子の変化をシームレスに把握することができます。成長の度合いや、考え方の変化を把握しながら、先生はより良い指導を行うこともできるようになるでしょう。
優秀なエンジニアに求められる素養とは何か?
よく「優れたエンジニアってどんな人ですか?」「どんなエンジニアと働いてみたいですか?」と聞かれることがあります。
ハイパフォーマーであることは確かに重要なのですが、私は「なぜそうしたのか?」の背景や意図をきちんと残してくれるようなエンジニアが優秀だなと感じます。背景や意図が分かっていれば、その部分を後から触る人は圧倒的に作業しやすいですから。
あとはHRT*2(特に謙虚であること)を意識できているエンジニアでしょうか。エンジニアといえども基本はチームプレーで、人と人なのでコミュニケーションが発生します。自分がすべて正しいわけではないと謙虚になり、相手に対して自分にはない強みだったり視点を持っていると尊敬・信頼できる。そんな人と一緒に働きたいと改めて思います。
これからはコードを書かないエンジニアも必要
皆さんよくご存じの通り、今のご時世エンジニアは会社員でなくても生きていけます。引く手あまたの業種なので、条件次第でどんどん会社を移ることも可能でしょう。しかし、チームを作る側からすると流動性が高く、とても厳しい時代だなとも感じます。
そんな中、私がエンジニアをマネジメントする上で意識していることは、Classiが目指しているビジョンやミッションを定期的に思い出してもらうこと。エンジニアは、日々目の前の課題を解決していくために作業をしています。そうすると、「あれも課題だ」「これも直さなければいけない」と視野が狭くなってダメな部分ばかりが目に留まり、「Classiを利用することで学校自体が良くなっている」という事実や、「子どもたちの可能性を広げる仕事をしている」という意義が見えにくくなってしまいがちです。
そこに共感してジョインしてくれたのだから、メンバーの業務へのモチベーションが下がってしまう前に、定期的にミッションやビジョンの共有を図っていかなければいけないと強く思っています。
エンジニアに「コード書くか、マネジメントするか、どっちがいい?」と聞いたら、十中八九「コードを書きたい」と答えるでしょう。それが自然だし、私もそうです。
ただ、プロダクト作り全体で考えると、ビジネスサイドとエンジニアの間に入って、エンジニアの気持ちを代弁したり、ビジネスサイドと要件を調整したりする「コードを書かないエンジニア」も必要なんじゃないか。せっかくチームとしてやるんだから、みんなの力を結集して、一人ではできない大きなことを実現したい。そう考えて、私は今コードを書かない形でプロダクトづくりに関わっています。
私の当面の目標はClassiをすべての学校に使ってもらうことですが、その後は教育のようにレガシーなほかの分野にもITを導入していく仕事をしてみたいと、常に思っています。どうなるか分からないような無謀な挑戦をしてみたい。そんな衝動があるんです(笑)。
これからのキャリアでも「困難なほうを選ぶ」チャレンジを続けていきたいと思っています。
佐々木達也(ささき・たつや)@sasata299 / sasata299
*1:「私は、人生の岐路に立った時、いつも困難なほうの道を選んできた。」(http://playtaro.com/blog/2016/03/11/%E8%B4%88%E3%82%8A%E3%81%9F%E3%81%84%E5%A4%AA%E9%83%8E%E3%81%AE%E8%A8%80%E8%91%89%E3%80%82/ など)
*2:HRTとは、謙虚(Humility)・尊敬(Respect)・信頼(Trust)の頭文字で、書籍『Team Geek』でソーシャルスキルの三本柱として紹介されている。