映像作品も音楽も、いまや「ネットサービス」を抜きには語ることができない。ビジネスの主体は、月額料金を支払うことで見放題・聴き放題になる「サブスクリプション型」が軸になっている。
そして、サブスクリプションといえば、個々のユーザーが好みそうなコンテンツを教えてくれる「レコメンド」機能がつきものだ。
では、レコメンドによって提案されるコンテンツは、どのように選択されたものなのか? そこには、各コンテンツ企業の戦略と、個人情報に対する考え方が大きく影響している。
レコメンドは、現在のコンテンツビジネスに必須の機能である。
なぜなら、ネットビジネスには「在庫リスクが低い」一方、「陳列能力が弱い」という特徴があるからだ。これは、現実の店舗とネット上の店舗を比較すればよくわかる。
現実の店舗には、最低でも数百種類の商品が並んでいる。目につきやすいかどうかはともかく、店内を歩けば、視界にはつねに数十種類の商品が入ってくる状態だ。
一方、ネット店舗におけるは商品は、画面上にある。画面1ページ内にわかりやすく並べられる商品の数は、多くても20程度がせいぜいだ。ページをクリックしたりスクロールしたりすればいくらでも商品数を増やせるが、ユーザーにしてみれば、そのような作業そのものが面倒くさい。
検索機能の陰に隠れてはいるが、じつはお目当ての商品を見つけづらいのが、ネット店舗の実態だ。
結果、自分が知らない作品や商品に突然、かつ偶然に「出会う」確率は、ネット店舗よりも現実の店舗のほうが断然、高くなる。
これは、商品の陳列に使用できる空間の広さの違いによる性質の違い、という側面が大きい。ネットビジネスの特徴の一つとして、「陳列能力が弱い」ことを挙げたゆえんだ。
一方、「在庫量」まで考えに含めると、話はガラリと変わってくる。
実際の店舗では、在庫・陳列できる商品の量は「店舗がもつ倉庫の大きさ」に比例する。巨大な店舗をつくらないかぎり、一定以上の商品バリエーションを用意することはできない。場所代や調達コストを考慮に入れると、おのずと在庫量には限界がある。
対照的に、ネットビジネスの場合には、倉庫のサイズは店舗の在庫量に影響しない。特に、扱う商品が「モノ」ではなく、映像や音楽といったコンテンツである場合は、在庫可能な量は圧倒的に多くなる。サーバーの容量さえ増やせばよいわけで、コンテンツを「在庫する」ことのリスクはほとんどない。
Netflixのようなサブスクリプション型のコンテンツビジネスは、ネットのこうした特性を最大限に活かしたサービスだ。
在庫リスクが少ないため、「見たいもの・聴きたいものがたいていある」状況をつくりやすい。音楽サービスであれば、数千万曲が聴き放題などと謳っているのがこれだ。
一方、人間の「可処分時間」には限界がある。いくら見放題・聴き放題といっても、一定量以上のコンテンツを消費することはできない。そこから逆算して手頃な料金を定め、ユーザー側から見れば「好きなときに好きなコンテンツが、好きなだけ消費できる」ような状況を提供しているわけだ。
意外に思われるかもしれないが、これは、食べ放題店のビジネスモデルに近い手法だ。