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Book Reviewこの本の書評

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会社で最も重要なリソースは何か。それは、設備でもお金でもなく「人」だろう。
比較的規模の小さな会社ともなれば、ギリギリの人手で現場を回していて、一人でも辞められたら厳しいという環境も珍しくはない。

特に人離れが激しい業界といえば介護職だ。公益財団法人「介護労働安定センター」の調査によれば、2015年10月からの1年間で介護職員の退職者は全国で16.7%。この数字は他の業界と比べても高い水準だ。

そんな介護業界において、驚くべき社員定着率を誇る会社がある。埼玉県さいたま市で介護事業を行うリハプライム株式会社だ。同社の社員定着率は年々良化しており、2017年の社員定着率は96%になっている。

どうすれば社員が辞めない会社をつくることができるのか。
その方法を明かしているのが、同社代表取締役の小池修氏が上梓した『日本一社員が辞めない会社』(小池修著、ぱる出版刊)だ。
本書は、退職者が後を絶たないことに頭を悩ませる社長やリーダー、アルバイトやパートが定着しない店舗経営者にとって学ぶべきことが多い一冊となっている。

社員の「待遇改善」を後回しにしてはいけない

著者は、社員が辞めないための大前提として、まずは社員の待遇改善が必須であると述べる。
「有給休暇が取れない」「給料が安すぎる」といった待遇の悪さは社員にとって大きなネックだが、多くの経営者は「社員の待遇改善は会社が儲かってから」と考えてしまう。

しかし、会社が儲かるためには、社員がいなければ話にならない。だからこそ、社員の待遇改善は真っ先にすべきことなのである。

ギリギリの人員や売上の中、休暇を取らせてあげることや昇給の要望に応えていくことは、現実にはなかなか難しい問題かもしれない。しかし、給料の面でいえば、仕事の成果の一部をインセンティブ制にするなどして昇給に応えていくことも可能だと著者は言う。

ただし、待遇改善はあくまで前提条件。これだけで社員の離職を防ぐのに十分とは言えない。

社員が辞めないために絶対に必要なのは、「経営理念」を明確にし、社員と共有することだ。
本書では「理念」を軸にした社員が辞めない会社づくりの「4つのステップ」が紹介されている。どのようなものか見ていこう。

「経営理念」は社長室の額縁に飾るものではない

著者は経営理念を「"どんな会社を創りたいのか?"を言葉にしたもの」だと定義している。社員が社長やリーダーの顔色を見るのではなく、その「理念」、その「想い」から自己判断することが許されれば、おいそれと会社を辞めてしまうことはないはずだ。
問題は、いかにその「理念」を社員に伝え、共有し、行動に変えていくかということだ。そのためのステップが次の4つだ。

  1. 会社の「理念」を確立する(会社の「目的」の共有)
  2. リーダーが理念を「体現」する
  3. 社員の味方となり「信頼」関係を構築する
  4. 社員の「(やる気)支援」をする

まずは「理念」の確立だ。どんな会社にも「経営理念」はあるだろう。しかし、それは「社長室の額縁に収まったお飾り」になっていたり、「朝礼で復唱するだけの形骸化したもの」になっていたりはしないだろうか?

経営理念とは、この会社が「存在する目的」であり、「譲れないフィロソフィー」であるから、社員に伝わっていなければ、社員自身が「働く目的」を持てない状態に陥ってしまう。それはモチベーションの低下につながるし、社員はリーダーの顔色伺い、指示待ちにならざるを得ず、反発を招く危険もある。

したがって、経営理念は言語化されて、社員に伝わることが何より重要だ。
著者が社長を務めるリハプライム株式会社の経営理念は「敬護」というものだ。
これは著者による造語で「人生の大先輩である高齢者の方々を、介助して護るのではなく、敬って護る」という意味が込められている。

こうしたわかりやすく言語化された経営理念があれば、社員の働く目的もブレず、モチベーションは維持されていくというわけだ。

理念の「体現」はリーダーが率先して行うもの

経営理念がお飾りになってしまっている会社では、リーダー自らが理念に反したことをしていることが多いです。そうなると社員はリーダーに不信感を抱き、職場を去ってしまう。

したがって、経営理念の浸透には、リーダー自らが率先して「体現」することが不可欠だ。

たとえば、著者は、開業してすぐ、ある歩行困難なシニアの歩行をサポートする際、「おいっちにぃ、おいっちにぃ」という掛け声を無意識に出してしまったという。しかし、それは高齢者を敬う気持ちに欠けており、「敬護」の精神に反する言葉だと気付き、以後、改めたそうだ。
こうした社長やリーダーによる意識的な理念の「体現」によって社員に「理念」を浸透させていく。また、このように言行一致で理念を「体現」していくことや、様々な手法で「信頼」関係を普段から創っていくことで社長やリーダーの言葉と指示が伝わりやすくなる。

また、社員のやる気「支援」も、社員が辞めない会社づくりにおいて大切なポイントだ。
著者の会社では、社員と社長の個別面談が定期的に行われており、そこで社員の要望や夢を聞き、今の会社でどのようにそれらを実現していくかを、膝を詰めて話し合うという。

「理念」を持って社員と接することを「綺麗事」「面倒だ」と思うリーダーや経営者もいるかもしれない。だが、社員が定着しない、辞める人が後を絶たないという会社は、まさにそんなリーダーの思いが「退職」というカタチに表れていると言えるだろう。本書を読めば、リーダーや経営者が忘れがちな「理念」の本当の意味と、その効力を再確認できるだろう。

(新刊JP編集部/大村 佑介)

Interviewインタビュー

人が辞める会社が抱えるシンプルな「3つの原因」

著者写真

――初のご著書となった『日本一社員が辞めない会社』ですが、特に読んでほしいのはどのような人でしょうか?

小池修氏(以下、小池):比較的規模の小さな会社の社長さんとリーダーの方々ですね。
私は、今の会社を設立して事業をやっていく中で、どうすれば人が辞めないでくれるか、どうすれば社員と一緒に同じ方向に進んでいける会社にできるかを考えるようになりました。その答えが「理念を共有する」ということだったんです。

私がお会いする社長さんや経営者の方々の中には、「理念は特にない」という方がいらっしゃいます。そして、「では、今の会社や事業で何をしたいんですか?」と聞くと「儲かるんですよ、この仕事は」と答える方も少なくありません。

でも、何のために、誰のためにという使命がない事業って、長く続いていないと思います。
過去を紐解いても、ずっと順風満帆の会社や事業はほとんどありません。状況が悪くなったときでも、やる意味を持っている会社、目的がある会社に顧客はついていくものです。
私もやる意味がある事業をやりたいので、「使命」「理念」はすごく必要だと思うんです。

会社の一部署でも、「うちの部署はこの困り事をクリアしたい」という目的・理念は持てると思うので、理想の会社像を持っていない社長さんだけでなく、なりたてのリーダーの方にも読んでもらいたいですね。

――小池さんの「人が辞めない会社づくり」の原点はどこにあるのでしょうか?

小池:
最初、介護の施設を最低限の人数で始めたのですが、とにかく人が定着しなかったんです。その原因は何なのかを考えていくと、すごくシンプルだったんですね。

原因は3つ、「休みが取れない」「将来が見えない」「嫌な奴がいる」です。
社長が満足に給料を取れていないのに、社員の行く先々まで考えられているかと言ったら疑問ですし、少人数だから大丈夫だろうとコミュニケーションをそこまで重視してなかったりすることもあるでしょう。
しかも、大企業並みに有給休暇を取らせてあげる余裕ももちろんないですから、油断するとどうしてもブラック企業になってしまうんですね。

突き詰めると、離職の理由はその3つにあると思ったので、それらを解消するためには何が必要かを考え始めたのがきっかけでした。格好よく世直しを始めたとか、社会問題を考えたというよりは、単純にこのままだと人が続かないので手を打ったという感じでしたね。

――そこで、まずは社員さんが休みをとれるように、それまで1店舗でやっていた介護の事業を、2店舗目を立ち上げて人を増やす、という大胆な取り組みをされた。

小池:
4人でやっていたときは休みが一日もとれないような状況でした。子どもが熱を出した社員さんにも「出てきてもらわないと困る」としか言えないくらいで。

そんなことが普通に起きている状況で、「このままだと社員にお休みを取らせてあげることができない」「小さな会社で夢もなくてこのままやっていけるだろうか」という思いが常にありました。
そこで、大きくしていくために2店舗目を経営するお金を捻出し、無理やり2店舗目を出したら、光明が差してきたんです。

実は、2店舗目をつくったタイミングで、思い切って一人だけですが人数を増やしました。つまり、「2店舗9人体制」にしたんですね。
「1店舗に4人」が介護では必要最低人数なのですが、当初はその最低人数ギリギリの4人で回していて、とにかくブラックな状態になってしまって…。とはいえ、1店舗の状態で5人目を入れようとすると利益が出なくなるという状況でもありました。
でも、2店舗9人大切にすることで、社員も休めるし、利益も出るという状況が出来た。増やした1人が、遊軍というか誰かが休んだ穴を埋める人員になってくれたわけですね。

休みも取れるようになって、店舗や業態を増やしたことで将来的な見通しも立てられるようになった。そこから人間関係や社員の給与をどうしていくかという話をしていったんです。
会社の理念も大きく変えて、社員同士、相手の価値に気付いてそれを相手に伝えてあげられるような、そんな一生過ごしていきたいような関係を会社の中でつくろうよ、という方向に舵を切っていった途端に、会社も人もすごく安定し始めたんです。

社員の休みをつくるという最初の一つを変えたことが、良い連鎖を生んだのだと思いますね。

――当時、お子さんが熱を出している社員さんに「出てきてくれないと困る」と言わなくてはいけないような状況だったそうですが、そのときは「申し訳ない」と「仕方がない」という気持ちではどちらが勝っていましたか?

小池:
正直に言うと、イーブンでした。もちろん、自分も子どもがいるので、「午前中だけでも出てきて」と言わなくてはいけない辛さは大きかったです。

ただ、少人数のデイサービスだと一人が欠員になると行政に報酬の単価を下げられてしまうんですよ。そうなるとまた赤字幅が広がるし、何よりも楽しみに待っている利用者の方々のリハビリが中断してしまいます。そういうことを考えた上での「明らかに出てこないとダメじゃない?」という事業前提の論理性と、人間の感情として「ここで休ませてあげないでどうするの?」という気持ちの2つの考えに挟まれていた感じです。

――それはキツい判断をしなければいけませんね…。

小池:
はい。だから、こんなことが一生続くのはキツイと思っていました。
もしその子どもがその熱をこじらせて後遺症でも残ってしまったら悔いても悔いきれません。だから、倫理的にも、休みを取れるようにするという選択をしなければいけなかったのだと思います。今では、その選択は正しかったと感じていますね。

「理念」は社員に伝わってこそ意味がある

――経営理念が明確になっていることのメリットと、理念の大切さを痛感したエピソードはありますか?

小池:
介護はマニュアル通りに利用者さんに接するのが難しいんです。
例えば、車椅子から車への「移乗」というものがあります。いつも通りの方法で介助しても問題ない人でも、足が震えていたり辛そうだったりしたときには、利用者さんの負担にならない移乗の方法を選ぶのが介護としては適切です。つまり、常に臨機応変な対応が求められるんです。

ですので、その「理念」というのは、ビジョンとか目的といったものとほぼイコールなものと考えてもらっていいのですが、その「理念」を判断基準にして、自分の能力の範囲内で自己対応できるようにしないといけないのかなと考えました。

そのために私がやっているのが「ひまわり型経営」です。
ひまわりというのは、大きいものから小さいものまで色々な形がありますが、どれも太陽に向かって咲きますよね。細かいことはともかく、全員が、太陽である「理念(=判断基準や目的)」に向かって、一つ一つの仕事に取り組んでいくわけです。

そうすると「おはようございます」の挨拶ひとつでも違ってきます。
「相手に元気を伝える、温かさを伝える」という理念を社員に共有させれば、はつらつとした声で「おはようございまーす!」と言ったり、相手の近くまでいって微笑みながら「おはようございます」と優しく声をかけたり、一人一人が自分なりのやり方で理念に沿った挨拶をしてくれるんです。

やり方はそれぞれでいいので、「理念」だけは外さないでくれればいいんです。

――リハプライム株式会社には「敬護」というシンプルでわかりやすい経営理念があり、書籍の中でも「経営理念は社員に伝わることが大切だ」とおっしゃられていますが、社員に伝わる経営理念を構築する際のポイントはありますか?

小池:
理念は内容が良いだけでは浸透しません。理念が浸透するには社長やリーダーが理念を体現することが一番です。それがどんなに素晴らしい理念だったとしても、社長やリーダーがやっていなければ、社員はやりません。だから、理念と体現はセットだと思ってほしいです。

さらに、理念はビジュアル化した方が伝わりやすいと思います。そのために私の会社では「ビジョンマップ」というものを作っています。
詳しくは本書で紹介していますが、9つのマス目に分けた一枚の紙に、自分の理想とする写真や絵やイラストと、目標や目的や期限を記した文章を入れた、会社の理想の風景をビジュアル化したものです。

特に、最近の若い世代には言葉だけではピンと来ないが、ビジュアルにするとわかりやすい人が多いということもありますね。
リハプライムの「敬護」という経営理念は、私の考えた造語で、人生の大先輩である高齢者の方々を「介助して護る」のではなく「敬って護る」という意味があります。
これを理解してもらうには、ビジュアルで見せること。そうすると、「なるほど!社長はこういう理想を実現したいのですね!」と、ほぼ例外なく言ってくれます。

どんなに素晴らしい理念でも、難しい言葉で書かれていたり、高尚すぎる言い回しになっていたりすると、それを実現する社員に伝わりません。でも、理念は伝わることが重要です。それを社長やリーダーが体現することで、理念は浸透していくものだと思っています。

社員の「心に火のつくポイント」を掴んでいるか?

――社員が辞めてしまう会社と働き続ける会社の最大の違いは何だと思いますか?

小池:
私の見識から言うと、社長が社員に関心を持っているかどうかだと思います。
私の会社が上手くいっていなかった時と、今を比較してみても、社長である私の社員に対する関心度合いが違うことは大きいですね。

人の心に火をつけて人を活かそうと考えると、社員に関心を持たないとできません。人によって心に火のつくポイントが違います。たとえば、「給料を上げるぞ」と言って火が点く人と、そうでない人がいるわけで。

悪い意味での歯車として社員を扱えばすごく簡単です。目標値だけ言って「そこまでやれ」で済みますから。でも、社員に関心を持ち、普段を知っている私は、「これをやる目的はこれだよね」「この目的を達成したと言える数値はこれだよね」「だからこれを目標にしよう」「あなたならどういうやり方をしたい?」という話から入っていくんです。
そうすると、その共有の過程の中で、相手の顔を見ていれば、心に火がついたかどうかっていうのはすぐにわかるんですよね。

今私たちがやっているタクシー移送の事業でも、足の悪いご両親と同居する主婦スタッフなどは「私やりたいです!」ってタクシー免許を取ってくれたりするんです。でも、単に「お金稼ぎたいです」という人に、タクシー移送という話をすると「タクシーですか?」「それ、僕がやるんですか?」という反応が返ってきます。

そんなふうに、一人一人の火のつくポイント、その人にとっての興味をリーダーが掴んでいるかどうかは、特に小さな会社では大事ではないかと思います。

――5、6人くらいの規模の小さな会社ほど、関心を持って、社員の火のつくポイントを探るコミュニケーションがとれそうなものですが、そうではないのでしょうか?

小池:
逆だと思いますね。「一緒にいるからわかっているだろう」「一緒にいるからわかる」となりやすいので。

私の会社も今では100人を超えていますが、最初の一店舗4人だけのときはミーティングなんて一回もしていなかったですから。横にいて一緒にやっているからわかっている気になってしまうんですよ。
話してみると実は、社員が仕事でやっていることと、実際の関心事はちょっと違っていたりします。
ただ、本人が認識していないだけで、社員の最大の関心事を掘り下げていくと「家族の幸せ」であることが多いです。
「家族の幸せ」が最大の関心事なのに、「今日はここまでやれば目標の数字を達成できるから、遅くまで頑張ろう!」と言っても、それで家族の誕生日に帰れないのであれば、火のつきようはないわけです。

そのために、私は社員一人一人と、定期的に一対一で面談する機会をつくっています。
面談では目標数値とかの話は一切しないです。面談相手の関心事と、会社の理念についてだけしか話しません。
「今、会社はこういう方向に進んでいて、こういう理想の会社をつくりたいんだよね」「あなたの興味や関心があるのはここだっていうことだから、ここで協力してくれない」って。「あ、でも、私のこの部分は不得手なんです」「じゃあ、その部分は他の得意な人にやってもらうから」って。

そんなふうに一人一人と話して、会社の理念や理想と社員の火のつくポイントをすり合わせていくんです。これは一対一で話すからこそできるやり方ですね。

――なかなか社員の関心とスキルと、会社がやっていきたいところを重ねて適材適所に持っていくのは難しいと思うのですが、それを一対一の対話という形で実践しているんですね。

小池:
社員の心に火をつけるのが私の役目なので、細かい指導はしないんですよ。営業担当に「こうしたほうが上手くいくよ」と言ったことは無いですし。
私は、どちらかと言うと「こうなったら面白くない?」「こうなったらすごくない?」という話をするんです。それで「そうですね!」って相手が乗ってきたら、もうあとは任せて大丈夫。「こうやろうと思うんですけれど」と相談してくるので。

リーダーの言葉で、社員に「本音」が伝わる

――今のお話を聞いていてもそうですが、本書では「プラス言葉への言い換え」や「大げさな順調ぶりの表現」、「8褒めて、2惜しいの絶妙レシピ」など、普段の言葉遣いに関する部分も印象的でした。リーダーや経営者にとって「言葉」とは、どうあるべきだとお考えなのでしょうか?

小池:
言葉は信頼関係をつくるベースだと思っています。
よくリフレーミングで「言葉を言い換えましょう!」と言っても「それって言葉遊びでしかないですよね」「良いように言っても、悪いものは悪いですよね」という反応をする人もいるのですが、それって目的がちょっと違うんですよ。

言葉は「本音」を伝えてしまうものなんです。
たとえば、母親が誰かから「お宅のお子さんはケチねぇ」って言われたら「いや、うちの子は節約家なんです」と言いかえたりしますよね。

正解不正解で言ったら、その子どもは、本当にケチなだけなのかもしれないですよね。でもそれを「節約家なんです」と言うと、子どもは「お母さんは私のことを節約家だと思っているんだ」と、その言葉を母親の本音として受け取るんです。
本人自身もケチだと自覚していたとしても。そこで「そうなのよ、うちの子はケチなのよ」と言えば、それが母親の本音として子どもに伝わりますよね。

リフレーミングをして「ケチ」を「節約家」とポジティブに言い換えられたら、その子は母親のことを「お母さんは自分の味方だ」と感じます。それは職場の人間関係でも同じだと思うんですよ。
上司は裁判官ではないので正解か不正解を判ずる必要はなくて、大事なのは「味方である」ということを示すことかなと。

特に少人数の会社は、上司やリーダーが裁判官として存在してはダメです。

社員や部下がミスをした時に、厳しく「お前何やってんだよ!大事なお客さんの時に!」と言うと、「いや、だって、あれは……」と言い訳とか反発心を生むんですよね。そんなミスをした時でも「おまえらしくないな」とか、「俺がもう少し丁寧に教えればよかった。すまんな。」などと味方になる言葉を使えば、相手の態度も変わってくるんです。
味方から「遅刻はダメだよ」と言われたら、納得もしてくれるし受け入れてくれるものなので、リーダーはまず「味方になる」というところを大事にしたいですよね。

だから、リーダーでもミスを正す事を厳しく言う人がいると、面談の時に「たしかに君は正しいし、倫理観とか正義感があるよね」「でも、言葉は本音を伝えてしまうものだから、君が『あいつはさぁ!』とミスを断罪して言うことで、相手と信頼感を作り損ねているんだよ」と伝えるようにしています。

それがリフレーミングや言葉を言い換える理由なんです。

著者写真

――最後に離職者の多さに悩んでいる経営者やリーダーの方々にメッセージをお願いします。

小池:
そもそも離職したい人はいないですし、入ってきたときには夢を持ってきているので、社員の味方になって、その人との信頼関係をしっかり築いてくれるリーダーが増えてもらいたいと思っています。

経営者やリーダーは、信頼関係をしっかり作って社員一人一人が自分で目的を考えて動けるように支援していくことがすごく重要です。そのためには社員にわかりやすく伝わる理念を作って共有していき、経営者やリーダーが率先して体現する。さらに、言葉や態度を変えて、一人一人の社員とのコミュニケーションを深めて信頼関係を創っていく。
当初は私もそれができていなくて、会社の経営が上手くいかない時期を味わいました。でも、いろいろな経験や勉強をしてこのスキームでやってみたら上手くいくようになったので、ぜひ皆さまにも試していただけたらと思います。

(了)

Book Data 書籍情報

プロフィール

小池 修(こいけ おさむ)

リハプライム株式会社代表取締役
1965年、埼玉県さいたま市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、不動産会社の営業マンを経て、上場企業(フィットネスクラブ)の役員まで上りつめる。しかし、2010年、両親がほぼ同時に倒れ、介護が必要になったことを機に、介護施設を探すも、両親を入れたい施設がなかったために、周囲の大反対を押し切り、自分でつくることを決意。2011年4月に埼玉県さいたま市にデイサービスの1号店をオープン。しかし、思うように利用者が集まらず、手持ちの資金が底をつきかけたとき、利益重視の経営から利用者重視の経営に舵を切ったところ、少しずつ利用者に支持され、現在は定員オーバーで、順番待ちの状態に。その後、デイサービスのFCを全国展開しつつ、訪問看護ステーションや介護タクシー、福祉用具販売などの事業も次々に展開。さらに2018年1月にはシニア向け美容室を併設したカフェ「茶の間」をオープン。介護事業者として成功を収めている。同時に、離職率50%が当たり前の介護業界で、定着率96%を達成し、業界の注目を集めている。

目次

  1. 第1章
    なぜ、あなたの会社の社員はすぐに辞めてしまうのか?

    1. 全社員との年4回の社長面談でわかった社員のホンネ
    2. 今の若者たちは(有給)休暇が取れるのが当たり前
    3. 職場の人間関係は退職の大きな引き金になる
    4. 社員は会社の将来より自分の将来が大事(当たり前!)
    5. 給料が退職理由の決定打になることは少ない
  2. 第2章
    待遇改善は社員定着の前提条件

    1. 「儲かってから改善する」では遅すぎる!
    2. 4人に1人が無理なら8人に1人にすればいい
    3. 規模を拡大するもう一つのメリット
    4. 社員のやる気と定着率アップにつながるインセンティブ制度
    5. チームプレーの組織でもインセンティブ制度の導入は可能!
    6. 社員の昇給希望にはできるだけ応えるようにする!?
    7. 社員の待遇改善が、社員が辞めない会社づくりの第一歩
  3. 第3章
    社員の定着率を上げる4つのステップ

    1. 社員の定着率を上げるには4つのステップがある
    2. 理念がないと、社員が社長の顔色をうかがうことになる
    3. 理念は言っているだけで体現しないと逆効果。社員はリーダーのことを信頼しなくなる
    4. 社員は信頼できないリーダーの言うことは聞かない
    5. 自分の成長を感じられないと、社員は去っていく。社長(リーダー)による「(やる気)支援」
  1. 第4章 【ステップ①「理念」】会社はオフィスではなく、「理念」でできている

    1. 経営理念とは「どんな会社を創りたいのか?」ということ
    2. 「理念」が退職リスクを大幅に低減させる
    3. 応援される経営理念を作るための2つの質問
    4. 社長自身がわくわくする「理念」を!
    5. 経営理念と行動指針はセットで「社内共通語」に
    6. ビジョンは理念の「見える化」ツール
    7. 「理想の風景」を共有するビジョンマップ
    8. 夢がかなうビジョンマップ、4つのポイント
    9. ビジョンマップは2カ月に一度、必ず目につくようにする
    10. ビジョンマップの伝え方にはコツがある
  2. 第5章【ステップ②「体現」】理念はリーダーが「体現」していれば浸透する

    1. 理念を浸透させるために創った「理念浸透部」
    2. 何を言うかより、誰が言うか?理念浸透はリーダーの普段の「体現」度合いで決まる
    3. 2カ月に一度の社長講話で、具体的な「行動指針」を浸透させる
    4. 創業の想いを実際のストーリーで語る
    5. 創業物語のムービーを創って社員に見せる、語る
    6. 管理職は「自分(の言動)管理職」たれ!
  3. 第6章 【ステップ③「信頼」】社員から「信頼」されるリーダーになるには?

    1. 「人は誰もがダイヤの原石」と信じる
    2. 他人と自分は絶望的に違うことを知る
    3. 社員との信頼関係を築く3つのK
    4. 「ほめる」環境をつくれば、社員は辞めない
    5. 「8ほめて、2惜しい」の絶妙レシピ
  4. 第7章 【ステップ④「支援」】社員のやる気を「支援」する

    1. 「2:6:2の法則」は上の2割から辞めていく不思議
    2. 支援とは本人がやるための「気づき」を創ること(目的設定)
    3. 「知行果の一致」の法則で見守る!
    4. 社員の「気づき」と「行動」を生む7つの質問法
    5. 社員の夢を応援する(わくわくを探す)
    6. 社員の夢と会社の夢のベクトルを合わせる