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〈時代の正体〉豪雨災害乗じ差別扇動 川崎の男性、デマツイート

  • 神奈川新聞|
  • 公開:2018/07/11 23:43 更新:2018/07/12 01:23
川崎市宮前区の男性が投稿した差別扇動するデマツイート(画像を一部修整しています)

川崎市宮前区の男性が投稿した差別扇動するデマツイート(画像を一部修整しています)

【時代の正体取材班=石橋 学】西日本豪雨で被災者の避難や救助活動が続くさなか、川崎市宮前区の男性(55)が人種差別をあおるデマをツイッター上に投稿していたことが11日、分かった。特定の外国人が被災地で犯罪を計画していると記し、被災者の不安を無用にかき立てる悪質な内容。ツイートは削除されたが、市は人権侵犯事案として横浜地方法務局川崎支局に通報した。

 投稿は8日未明。河川が氾濫した愛媛県南部の窮状を訴える投稿をリツイートした上で「火事場泥棒の中国人、韓国人、在日朝鮮人たちが避難所に居る間に狙ってますのでご注意下さい、それと女性は単独行動は危険です、奴らは日本国民浄化計画で災害時に実行しますので」とデマを用い、特定の国籍・民族の人々をおとしめるヘイトスピーチを書き込んだ。

 愛媛県警は「外国人犯罪の通報や被害届の提出はない。常識的に犯罪の計画も考えられない」としている。

 ツイッター上では「災害に乗じた悪質なヘイトデマ」「デマのせいで生じる無意味な問い合わせ電話に対応する手間が、今も誰かの命を削っている」といった非難が相次いだ。男性は神奈川新聞社の取材に「インターネットで得た情報を基に書いた」とし、当該の投稿は「批判がうるさいので削除した」と話した。

 ネット上のヘイトスピーチのモニタリングを行っている川崎市人権・男女共同参画室は9日にツイートを確認し、「特定の外国人についてのデマである上、災害時にはとりわけ適切でない」と問題視。法務局に通報した上で対応を検討している。

【解説】命を危険にさらすヘイトに規制を


 災害時の差別扇動デマがわけても許されないのは、命にかかわる危険を生じさせるからだ。

 2016年の熊本地震では「朝鮮人が井戸に毒を入れた」とのデマがネット上で広がった。1923年の関東大震災ではこのデマが基で官憲や市井の人々が多くの朝鮮人、中国人を虐殺している。

 東北学院大の郭基煥教授の調査では、2011年の東日本大震災直後に流れた「外国人犯罪が横行している」というデマを聞いた仙台市民の8割が事実だと信じたという結果が出た。実際に自警団を組織した被災者もおり、被災地で外国人が迫害にさらされる恐れは過去の話ではない。

 また、関東大震災に関する政府の中央防災会議報告書は「流言が殺傷事件を招くとともに救護にあてるべき資源と時間を空費させた」と指摘。救えたはずの命が失われるという災害対応の側面からも教訓を説く。

 ここ数年、災害のたびに会員制交流サイト(SNS)がヘイトとデマの「拡声器」として悪用されている。ツイッター社は利用規約でヘイト行為を禁じるが、違反投稿の削除などの対応は全く不十分。西日本豪雨でも「朝鮮人が暴動を起こすぞ。気をつけろ」「空き家とか崩れた家に入って窃盗しています。たぶん中国人です。見つけたら殺しましょう」と殺害を呼び掛けるツイートまでが放置され、拡散している。企業としての社会的責任の欠如は再三批判されても一向に改まらない。

 6月の大阪府北部地震では法務省人権擁護局が「災害発生時には、インターネット上に、差別や偏見をあおる意図で虚偽の情報が投稿されている可能性もあり得ます」と注意喚起のツイートを初めて行ったが、根本的な解決にはほど遠い。

 川崎市の男性は名前と顔写真、町内会の肩書を明示したアカウントでヘイトデマを投稿。「後ろめたさはない」と臆面もなく言い切る。害悪の重大さと匿名に限らない確信的な差別が横行する危機的状況を踏まえ、国はネット上のヘイト規制を、市は差別禁止条例の制定を急ぐべきだ。

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