オーバーロード ~経済戦争ルート~   作:日ノ川
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だいぶ話数が増えてきたので、章ごとに分けてみました
今回から新章に入ります。今後の展開への下準備みたいな話なのであまり話自体は進んで無いです


第四章 店舗拡大
第48話 帰還後


 魔導王の宝石箱王都支店、三階に作られたアインズの私室内で久しぶり座った椅子の感触にアインズは心の中で思い切り深いため息を吐いた。

 アンデッドであるアインズは肉体的に疲れなど存在しないのだが、精神的な疲れはまた話が別だ。

 ナザリックの自室もそれなりに落ち着きはするのだが、常に誰かしらメイドが着いていることと部屋が広すぎることが精神的に小市民であるアインズにとっては気が休まるどころの話ではなく、こうした小さな──それでも鈴木悟が住んでいた部屋よりは広いのだが──部屋の方が落ち着く気がする。

 ナザリックの者達には口が裂けても言えないが。

 

「あー、疲れたぁ。しかし今回の作戦は大成功だったな。流石はデミウルゴスだ」

 もう全部あいつに任せていいんじゃないだろうか。

 そんなことを考えはするが、もちろんそれが不可能なことは分かっている。ただの現実逃避だ。

 しかし作戦は成功したが、だからといってアインズには休息の時は訪れない。

 何よりこれからのことで最も気がかりなのは、王国と帝国から貰えるという勲章だ。

 仲良くなったジルクフニがいる帝国ならば分からないことはそれこそ直接聞けば済む話だが、王国はそういう訳には行かない。

 王国は貴族社会であり選民意識が強いと聞く。礼儀作法など分からないまま勲章を授与するのは不味いだろう。

 なぜ調べてこなかった。と言われたらそれまでだ。こちらは単にガゼフを助けた一市民として会うのだから、言い訳など口に出来るはずがない。

 

(となると、誰かに聞く必要があるな。王国の礼儀作法について知っている奴か。誰かいたかな?)

 帝国ならばジルクニフでなくとも元貴族だというアルシェに仕事として依頼する方法があるが王国のそうした貴族社会に明るい者に覚えはない。

 そんなことを考えていると、部屋の扉がノックされた。

 

「アインズ様、失礼致します」

 アインズの了承を得て中に入ってきたのはブレインである。アインズがいない間にナザリックで礼儀作法を学ばせたらしく門番としての仕事は変わっていないが一応人前に出しても大丈夫な程度には成長した、とセバスからは聞いている。

 この短い間で大したものだ。と思ったが、セバスのところに来た段階で何故か一通りの礼儀作法を学んでいたらしい。

 本人に聞いても乾いた笑いしか浮かべなかったそうだが、一体何があったのだろうか。

 

「どうした?」

 ダラけていた姿勢を戻しアインズはブレインを出迎える。

 

「はっ。ソリュシャン様がお目通りを願っております、お通ししても宜しいでしょうか?」

 

「良いだろう。入れよ」

 短い休憩だったな。と改めて支配者の座り方のまま手を振ってブレインに告げる。

 はっ。ときびきびとした足取りで離れようとするブレインの腰に下げられた武器に目が止まる。

 

「おい」

 

「はっ、何でしょうか」

 

「その武器、それはどうした?」

 元々持っていた刀とは鞘や持ち手が少々異なる。

 どこから手に入れたのか気になったのだ。

 

「これはシャルティア様より御拝受致しました。こちらを使用しアインズ様をお守りするようにと。有事の際には私の体が果てるまでアインズ様をお守りいたします!」

 

「う、うむ。そうか、なるほど。その時は頼むぞ」

 再度はっ。と力強く返事をして改めてブレインは部屋を後にする。

 そう言えば黄金を両替してきた褒美として何か渡すように言っていたことを思い出す。軽い気持ちで言ったのだがアインズがそう言った以上シャルティアが何もしないはずはない。

 武器というのは以外だったが、今まで持っていた刀は現地レベルではそれなりの物だったが、魔導王の宝石箱に属するブレインがナザリックの武器を持てば宣伝にもなる、良い褒美だ。

 シャルティアもちゃんと店の事を考えているんだな。と思いつつ、アインズはソリュシャンが入ってくるのを待った。

 

 

 ・

 

 

「以上がこれまで王都で結んだ商談と売り上げの報告となります」

 久しぶり会った主にソリュシャンは任されていた王都店に関する報告を終了する。

 主は威厳溢れる態度で椅子に身を預け、ソリュシャンの渡した報告書に目を通して小さく頷いた。

 

「なるほど。大きな問題は無さそうだな。ゴーレムの普及も順調か」

 

「はい。初めは王都近くの村にこちらから出向いておりましたが、今では離れた村からも王都に出向いて契約を結ぼうとする村も現れ出しました。順調にアインズ様の御威光が広まっている成果かと」

 ソリュシャンの言葉に主は鼻を──そういう音がしただけだが──を鳴らし、首を横に振った。

 

「私の威光など関係いない、これらは全てアイデアを出したシャルティア、そしてこの店を任せたお前とセバス、店員の人間達の努力によるものだ。己の成果を他者に渡すような真似はするな」

 

「はっ。申し訳ございません」

 直ぐに頭を下げると、それまでの絶対者たる態度が一瞬だけ薄れたような気がしたが、顔を上げるとそこにはいつもの主の姿がある。

 んんっ。と咳払いをし主は改めて報告書に目を落とした。

 

「ところで売り上げは分かったが、具体的に今はどのような商品が人気だ?」

 

「失礼致しました。それにつきましては私から直接報告させていただいても宜しいでしょうか」

 構わない。という返事を頂戴した後、ソリュシャンは現在人間達が挙って求めている商品を幾つか挙げる。現在の売れ筋商品はいわゆる市民の人間向けの調味料が中心だ。

 人間達の雑多な食材でも、ナザリックの料理長が考え出したレシピを元に香辛料を組み合わせたスパイスや、ドレッシング、ソース等を使えば、少なくとも食べられる程度の味にはなるようだ。

 ソリュシャンとしては結局のところ、それらの食材はこの世界で採れた物を使っており、味などナザリックで用意されたものとは比べるのも失礼な出来だと思うのだが、マトモな食事も口にしたこともない者では仕方ないだろう。

 

「なるほど調味料か……ふむ。ありふれた物のはずだが、それらは伝わっていないのか? それとも長い間に失われた? 同じように人間以外の者ばかりだった可能性もあるか」

 小さな声でなにやら考え込み始めた主を前に、ソリュシャンは邪魔することなく口を閉じ黙って主を見つめた。

 見窄らしい建物に、稚拙な室内の装飾、矮小で威厳など感じられない安っぽい椅子。

 確実に絶対的支配者である主がいるような場所ではなく、この光景には違和感しか感じない。

 主にはナザリック地下大墳墓の玉座の間が最も似合う。

 だがしかし、不思議なことにソリュシャンは主がここにいることが嫌いではない。

 全く持って似合わないのは間違いないが、ここにいる間はソリュシャンが主にとっての唯一のメイドである。という事実がそう感じさせるのだろう。

 ここのところずっとこの店に詰めていた為にナザリックに戻れず、メイドとしての仕事も出来ずにいたせいで余計にそう感じるのかも知れない。

 仕事らしい仕事がなく、待機時間が長くふてくされている妹たちもいるというのに贅沢な悩みだが、ソリュシャンにとってはあの椅子に座っている主の姿が実に好ましい。

 

「何かあったか?」

 ソリュシャンの視線に気づいたのだろう、主は思考を止めこちらに顔を向けた。

 いいえ。と今まで考えていたことは口には出さない。

 自分はあくまで側室狙い。

 誰か本妻が決まるまで、好意は全面に出すつもりはない。

 

「そうか。済まないな、少し考えに没頭していた。とにかく調味料が売れていることはわかった。料理長達には二弾三弾と新たな商品を開発するようには言ってある。完成したらソリュシャン。お前に任せる、味を見てどれが売れそうか吟味せよ。食材に関してはエ・ランテルのバルドから仕入れられるように連絡しておけ、奴もそろそろ追加のゴーレムを欲しがっている頃だろう」

 

「畏まりました」

 いつかセバスが言っていたように、人間とは実に面倒な存在だ。

 ナザリックで作った人間如きが手に入れることすら烏滸がましい商品であっても同じ物を出し続けていると飽きがくるらしい。

 事実商品の売り上げは横ばいになり始めている。それを見抜き、主は新たな商品の開発を命じたのだろう。

 自分は未だ人間のことは完全には理解出来ない、何となく程度に行動の予測ぐらいは出来るがそれも想定通りに相手が動くかはまちまちだ。

 結果、ソリュシャンは未だに幾つもの相手の行動を想定し多数の選択肢を考える方法を採っているが、今回は主がそう考えたのだから、このタイミングで新たな商品を開発するのが最適に違いない。

 

「報告は以上か?」

 

「……いえ、後一つ。アインズ様が帝国に出向いて以後、何度となく面倒な客が現れています」

 

「なに? クレーマー……商品に難癖でも付けてくる奴でも出たか?」

 そんな輩が出てきたら、誰にも知られないように処理したいところだが、今のところその手の客は現れていない。

 

「いいえ。蒼の薔薇です。何人か立ち代わりで来ていますが、特に魔法詠唱者(マジック・キャスター)のイビルアイが最も厄介です。何度もここに訪れては長々居座っております」

 自分は上から遠視で眺めているだけなので、実害はないのだが、明らかに邪魔だ。

 何より主のアンダーカバーの一つであるモモンに惚れているのが態度で一目瞭然なのが癪に障る。

 それは即ち、その内面である主に惚れているも同然、人間如きが烏滸がましいにもほどがある。

 しかし、邪魔ではあっても王都で最高位冒険者だ。ドワーフ製の武具を販売し始め、冒険者の客も増えだしたことを考えると簡単に追い出すわけにはいかない。

 

「イビルアイ? あの仮面の魔法詠唱者(マジック・キャスター)だな。何をしに来ているのだ、確か奴らは正式に店の顧客にはなっていないはずだな。単に買い物に来たとしても奴が使えそうなアイテムは売っていないし、ドワーフ製の武具でも奴らの最上位武具よりは下だろ?」

 

「……恐らくはモモン様との繋がりが欲しいのかと。モモン様に助けられ王都に逃げ帰って以来、ずっとここに通い詰めていました。その後モモン様はドラゴンを渡してすぐ帰ったことになっていますので、恐らくここしかモモン様と関係を持てる場所が思いつかなかったのでしょう」

 ソリュシャンの言葉を聞いたアインズは驚いたように首を傾げ、モモン? と疑問を浮かべる。

 まさか気づいていなかったのだろうか。

 そう言われてみればイビルアイがこの店にくるようになってから主が直接その姿を見たことはなかったはずだ。

 だとすれば気づいていないのも仕方がない。

 助けたときにはそうした態度を見せなかったのだろう。

 ならばこちらから余計なことは言うこともない、元々絶対の確証があるわけでもなく同じ御方に好意を寄せる者としてのそう直感しただけだ。

 

「モモン様に助けられた後、会う約束を果たせていないから。と言っておりました。モモン様がここに訪れることは滅多に無いと言ってはいるのですが、チームで動いている以上エ・ランテルまでは行けないのでここに来ているのかと」

 

「……ああ、そういえば宿に来るように言っていたな。社交辞令かと思っていたが、律儀な娘だ」

 下等生物にも慈悲を与える心の広い主は怒りはしないだろうが、正直イビルアイの存在はナザリックに属するものから見れば不愉快極まりない。

 何しろ最初にこの店に訪れた時から、主に対し偉そうな態度をとり続け、そのことを謝罪することもなく、厚顔にも店に通い続け店にやってきた冒険者達に、別人と認識しているモモンの話ばかりして間接的に主を貶めている。

 そんなつもりはなくとも、ナザリックの者から見ればそう見えてしまう。

 シャルティアは言うまでもなく、最近ではセバスも多少距離を置こうとしているのが分かるほどだ。

 しかし、主にそのことを言っても気にするな。と言うに違いない。その程度のことは主にとっては正に些末なことであり、気にする価値もないのだ。

 自分達もそれを習わなくては、と思うのだが感情のコントロールはなかなか難しい。

 

「分かった。では奴が現れたら私に知らせろ。モモンに扮して一度会ってやれば気も済むだろう」

 

「……畏まりました」

 むしろ悪化するのでは。と思わないでも無かったが、とりあえずそう言っておく。

 ソリュシャンの返答に主にうむ。と頷いた時、背後の扉がノックされた。

 

「む?」

 

「私が対応します」

 いつもはアインズ当番であるメイドの仕事であろうと今だけは自分の仕事だ。

 機嫌良く一礼し主の元を離れ、扉を開ける。

 

「ソリュシャン様。店よりアインズ様にご報告が入りました。アインズ様にお取り次ぎをお願いします」

 扉を開けた先にいるのは当然門番であるブレインだ。

 ナザリックの者ではないが、シャルティアが血を吸って眷族にしたということで、下で働いているただの人間達よりはマシな立ち位置だ。

 あの不愉快極まる礼儀も何もなっていない態度もシャルティアとセバスの特訓によって多少は改善された。

 なので本来そこまで毛嫌いすることもないのだが、せっかく主と二人切りの時間を邪魔されたことでやはり多少は不満が残る。

 

「私が伝えます。内容は?」

 取り次ぎを頼まれたのだから本来は主に確認するのが筋なのだが、そうした思いがソリュシャンの対応をつれないものへと変える。

 

「あ、しかし。私に関係すると言いますか、下にガゼフが私に会いに来ているそうで、私が出ても良いかアインズ様に確認を。とのことでしたので、その」

 まだ突発的な事態には弱いらしい。慌てた様子のブレインにソリュシャンは頷く。

 

「そう。分かりました、少し待ちなさい」

 そういう事情ならこれ以上ワガママは言えない、主に確認を入れようと扉を締めソリュシャンは思わず心の中で息を吐く。

 主と二人切りの時間はどうやらここで終わりらしい。

 

 

 ・

 

 

「で? こんなところまで連れ出して俺に一体何の用だガゼフ。単なる世間話じゃないんだろ?」

 店を離れ、周囲に人気が無いことを確認してからブレインが口火を切る。その実直な物言いにガゼフは微かに安堵した。

 ガゼフが見てきた酒に溺れ、毎夜刀を抱きながら震えていたブレインではなく、もっと昔、王の御前試合の決勝戦でホンの僅かな間に会話を交わした己の力に絶対の自信を持ち、不遜で、プライドの高いブレイン・アングラウスそのものだ。

 セバスという師匠を得て、シャルティアと和解し、かつての自分を取り戻した、というところなのだろう。

 だがしかし、それにしては少し奇妙な所が目に付く。

 ブレインの動きがどこかぎこちないのだ。

 ある程度の強さを持っているものからすれば相手のちょっとした動作だけで相手の力量を判別出来る。

 ガゼフも人間のそして純粋な戦士であればそれなりの精度で相手の強さを見抜けるがブレインと再会した時に見た奴の技量は、精神的には完全に折れていたが、その動きや立ち姿からはガゼフと同等レベルのものを感じていた。

 だが今のブレインは違う。動きに繊細さがない。

 

「それもあるが……ブレイン。お前はどうした? 師を見つけ、何故弱くなっている? 何があった」

 本来はこんなことを聞いている場合ではないのだが、どうしても気になり口にしてしまった。

 その言葉を聞きブレインは驚き、そして同時に不満そうに鼻を鳴らした。

 

「俺がか? 何を言っている。何ならここで試しても良いぞ。今の俺ならお前にも負ける気はしない」

 腰に差した以前のものとは違う刀、それに手を掛けた瞬間、一気に殺気が解放される。

 威圧感は確かに以前と遜色無い、いや以前より強いほどだ。

 

「いや、そんなつもりはない。ただ、お前の動きがな、少し違和感があっただけだ。なら、怪我でもしているんじゃないか? だとしたら無理に連れ出して悪かったな」

 一瞬手合わせをしたい衝動に駆られたが、今は自分には使命があると思い出して首を横に振る。

 

「──ああ。なんだそのことか。なに師匠、セバス様の戦い方は今までの俺とは全く違うからな、新しい戦い方を覚え切れていないからそう見えるんだろう。だが心配するなすぐに取り戻すさ」

 そう言えば同じ剣士でも人によって戦い方はまるで違う。武器が変わればもう完全に別物と言っても良い、違和感があったのはそれが原因だろう。

 内心で納得し改めて話を切り出す。

 

「そうか。おっと、関係無い話をして悪かったな。お前も忙しいだろうから率直に言おう。実は一つ聞きたいことがあってな」

 無言で続きを促すブレインにガゼフは早速、王から命じられた任務を説明した。

 

 

「騎士? アインズ様の護衛でか……それはこう巨大な体躯で剣と盾を持った」

 話を聞き終えたブレインが首を傾げつつ、口にしたのは恐らく最初に村の中にいたあのアンデッドの騎士のことだろう。

 

「いや、それではない。真っ黒い鎧を着た巨大な斧を持った騎士だ。細身の鎧で外見上は女性のようにも見えたが、顔も何も見えない全身鎧だったのでな」

 

「全身鎧……ふーむ」

 少しの間考え込んでいたブレインだったが突然何か閃いたような顔になった後、今度は眉間に皺を寄せ何か考え込んだ。

 

「……それで、その方に何か用があるのか? 俺は一応店に属している以上、目的も分からん相手にベラベラ話すことは出来ない」

 ブレインの口から出た言葉に驚いた。

 

「変わったな、ブレイン」

 

「俺にも仕えるべき主って奴が出来たからな。お前の気持ち、今なら分かるぜ」

 ますます驚かされる。

 王に仕える自分を宮仕えで窮屈そうだと笑っていたことを思い出す。その時も酒で荒れていたせいで何かに当たりたくて仕方ないのだろうと聞き流していたが、同時に本音でもあったはずだ。ブレインが団体行動の苦手なタイプなのはガゼフにも分かる。

 

(ブレインの主か、やはり彼だろうな)

 しかしブレインが仕えるべき主。と聞いて先ず思いつくのはあの偉大な魔法詠唱者(マジック・キャスター)アインズ・ウール・ゴウンだ。

 セバスはあくまで執事であり仕える相手という印象はない。となればそのセバスが仕えているアインズに忠誠を誓ったと考えれば納得出来る。

 何しろ相手は強さだけではなく慈悲深さも兼ね備えた男。

 ガゼフだって王に出会う前に会っていたなら、どうなっていたか分からない、そんな相手だ。

 だがそうなると少し考え物だ。

 今回はそのアインズに知られないように騎士の名を聞くのが任務なのだから、ここで話してしまえば口止めをしてもアインズに伝わる恐れがある。

 さてどうしたものか。

 

「どうしたガゼフ。何故黙っている」

 

「……む」

 剣呑な雰囲気が広がり出したことを感じ、ガゼフは諦めた。

 隠し事をしたまま話をしても信用など得られない。

 貴族達なら自分が侮られたと知ればそれだけで全てをご破算にしたかも知れないが、相手がアインズならば、多少気を悪くするかもしれないがそれだけで全てを台無しにする男ではないと断言出来る。

 

「分かった正直に話そう。実はもう話は行っていると思うがアインズ殿に勲章を贈る話がある。そして同日に開催される舞踏会にアインズ殿を招待したいのだが、共に村を救ってくれた騎士の方にも来てもらいたいのだ。しかし名前が分からないのでは招待状も出せないのでな。調べなかったのはこちらの不手際なのだが、なにぶん時間がない。申し訳ないが──」

 

「……あーそういうことか、お偉方ってのは本当に細かい事を気にするな。わかったわかった、それなら良い。お前がアインズ様を侮っていないことは重々承知だ」

 一度言葉を切り、ブレインは中空に目を送り何か考えるような間を空けてから続きを口にする。

 

「……あー、その御方はアルベド様だ、姓は無い。そう言う風習がある所の生まれた方だ……えっと、護衛ではあるが立ち位置としてはシャルティア様やソリュシャン様と同じ。アインズ様の娘に同然の扱いを受けている。侮るような真似はするなよ?」

 ここで言う侮るとは姓のことだろう。

 王国では市民なら二つ、貴族は三つ、称号を付ければ四つ、王族ともなれば称号を加えて五つから名前が出来ている。

 だからそのアルベドという騎士が姓もなくただ一つだけの偽名や通称のような名であることを嘲笑する輩が現れないとも限らない。それが分かっていながら対策もしないような真似はするなという意味だろう。

 アインズは娘同然と言っていたシャルティアも吸血鬼と知りながら親代わりとして深い愛情を持っているのは見て取れた。

 それと同等ならば扱いも相応にするべきだし、特に王派閥の貴族達には伝えておかなくてはならない重要な情報だ。と心に刻みブレインに礼を言う。

 

「分かった。王に伝えよう、そのアルベド殿にも追って招待状を送りたいが店に送って問題ないか?」

 

「……問題ない。こちらで渡るようにしてそれまでに店に来て貰えるようにお願いしよう」

 毎回毎回考えるような間を空けてから話すのはブレインなりに自分の言葉に責任を持ち、アインズの迷惑にならないように気を使っているためだろうか。

 本当に変われば変わるものだ。

 そう考えて見てみれば立ち姿もどこと無く戦士と言うよりは執事や従者じみて見えてくる。

 どちらにしてもかつての好敵手が立派に立ち直ってくれているところを見るのは実に良い気分だ。

 

「すまないブレイン、感謝する。そしてまた折を見て俺の家にも遊びに来い。美味い酒を用意しておく」

 

「そのうちな」

 つれない返事とは対照的に、ブレインはニヤリと不敵な笑みを浮かべてみせた。




次は久しぶりにナザリックでの話になる予定です






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