ライターの榎並です。
会社から徒歩3分のところに「いわま餃子」という店がある(東京都千代田区神田三崎町)。
その名の通り餃子屋なのだが、外観がなんだかおかしなことになっている。
餃子屋なのにケバブを全面的にプッシュしているし、イランの国旗を掲げているし、その周りに電飾が光っているし、ほかにも情報量がとにかく満載。なんともただならぬ雰囲気を発している。
ちなみに、5年前、オープン直後のお店の様子がこちらである。
シンプル!
……いったい、いわま餃子に何があったというのか?
改めて比較すると、ものすごい変わりよう……。
イメチェンにも程がある。どうした?いわま餃子よ。
オーナーに聞いてみよう
いや、このお店の変化については、じつはずっと気になっていた。最初の1~2年は、それでも一般的な餃子屋だったと記憶しているが、3年目あたりから最近どうも様子がおかしいぞ!ということになり、以降あれよあれよという間にケバブと本格ペルシア料理が幅を利かすようになっていった。
そして、こうなった。
まあ、相変わらず餃子はうまいし、ケバブもうまい。「ドルメ」とか「レシテファランギスープ」とか、呪文みたいな名前の料理が食べられるのも嬉しい。まったく文句はないのだが、いわま餃子がこうなった経緯について、ここらで一度ハッキリさせておきたい。
そこで、オーナーを訪ねてみた。
オーナーの岩間ゆうこさんとハミッドさん。
ちなみにこのお二人……
夫婦である。
なお、ハミッドさんはイラン出身とのこと。お店の変化のカギはハミッドさんが握っていそうだが、ともあれまずは話を聞いてみよう。
餃子とカレー以外に90種類のペルシア、インド、トルコ料理も
── いわま餃子さん、5年前にオープンした時からちょくちょく来ていたんですけど、最初は餃子とカレーしか出してませんでしたよね?
「はい、餃子とカレーだけです。北海道に「みよしの」さんっていう餃子とカレーを出す有名なお店があって、東京でもそういう店ができないかと思ってオープンしました」
── でも、今はもはやペルシア料理(イラン料理)中心の店になってますね。もちろん餃子もおいしいんですけど。
「はい、餃子とカレー以外に90種類くらいのペルシア料理やインド料理、トルコ料理があります」
── どうして、そんなことになったんでしょうか?
「全てハミちゃん(ハミッドさん)の影響ですね」
── あ、やっぱり。
▲ハミちゃん
「ハミちゃんとは2年前に結婚したんですけど、その前から婚約者としてお店を手伝ってもらっていました。それで、いろいろとアドバイスをしてくれて。餃子屋さんもカレー屋さんも他にいっぱいあるし、もっと珍しいメニューを増やしたほうが近所の人たちに喜んでもらえるんじゃないかってことで、ハミちゃんの母国のペルシア料理を出すようになりました」
── その頃からですかね、外観もどんどん変わっていきましたよね。
「それはハミちゃんが影響力を増していった結果ですね。どんどん浸食されていった感じです(笑)」
「すみませんね」
「でも、アイデア出しから看板のデザイン、取り付けまで全部やってくれるので、すごく助かっています」
▲ウソみたいだろ。餃子屋さんなんだぜ
妻は元アイドル、夫は元格闘技チャンピオン
── ハミッドさんはもともと料理人だったんですか?
「いえ、もともとは格闘技をやっていました。ボクシングではイランの国内チャンプだったこともあります。あとはイランの古武術でも7年くらいトップだった。日本に来たのも、協栄ボクシングジムの金平会長(故人)にK-1の選手として誘われたのがきっかけです。現役引退後もトレーナーとして、日本に残ることになりました」
── どうりで、餃子屋にしては屈強すぎると思いました。ゆうこさんとはどこで知り合ったんですか?
「奥さんは金平会長の娘さんの知り合いだったんです。試合の後の打ち上げで顔を合わせる機会があって。当時、彼女はアイドル歌手やっててモテモテだったし、そもそも18歳も年齢が離れているし、最初はまったく(付き合える)自信なんてなかったです。でも、2年くらいお友達の期間を経て、少しずつ……ですね」
▲ちなみにハミッドさんは現在50歳、ゆうこさんは32歳
── ゆうこさん、アイドルだったんですか?
「歌は18歳から25歳くらいまでやっていました。ライブハウスを回って、バイオリン弾きながら歌ったり。お店を始めてからも1年間くらいはライブに出てましたね」
▲「さくらさくらこ」の名前で、ユニバーサル ミュージックジャパンからメジャーデビューもしている
「特に最初の頃はお店にもファンの人がいっぱい来てて、僕としては複雑でしたね。めっちゃヤキモチ妬いてた。リングでボコボコにされるより辛かったです(笑)」
「でも、今はファンの方もハミちゃんと仲良くなってくれて、一緒に写真を撮ってブログにアップしてくれたりするんですよ」
それにしても、いろいろ要素が多い二人である。話が渋滞してきたのでいったん整理すると……
・「いわま餃子」は5年前にゆうこさんがオープン
・当初は餃子とカレーの店だった
・途中からハミッドさんが助っ人に加わり、ペルシア料理を提供するように
・ハミッドさんの影響力が増すにつれ、外観がどんどんペルシア寄りに
・ゆうこさんは元アイドル、ハミッドさんは元格闘技チャンピオン
・ハミッドさんはお店に来るゆうこさんのファンにヤキモチを妬いていた
こういうことらしい。うむ、謎はすべて解けた。解けたが、この二人はおもしろいのでもう少し話を聞いてみよう。
イランナンバー1レストラン直伝のケバブ&おふくろの味
── ハミッドさん、料理はどこで覚えたんですか?
「おかあさんに教えてもらいました。それから、ケバブはおじさん直伝ですね。おじさんはイランで一番有名なレストランをやってるんです」
▲おじさん直伝のケバブがたらふく味わえる「Wキャバブクビデセット」(2,100円)。生後半年以内の子羊はやわらかくジューシー。生臭さもない
▲お誕生日感があって楽しい
── ケバブ以外はハミッドさんが子どもの頃に食べていた、いわゆる「おふくろの味」というやつですかね?
「ぜんぶ実家で食べていた料理ですね。子どもの頃の記憶をたどりつつ、おかあさんに電話してレシピを聞く。何度も通ってくれるお客さんが飽きないように、なるべくバリエーションをつけたいと思っています」
▲こっちはハミッドさんおふくろの味「ホレシュテキャラフス」(1,280円)。ラム肉をセロリ、トマト、レモン、スパイスで煮込んである。トマトベースのシチューみたいな味
── もっとスパイスがきついのかと思ってましたけど、ぜんぜんそんなことないですね。すごく食べやすくておいしいです。
「ペルシア料理はあまり辛くないし、基本的にやさしい味です。トマトもよく使うので、イタリアンに似てる料理も多いですよ」
▲ペルシアのカツレツこと「コトゥレットゥ」(ナンとセットで1,080円)。牛ひき肉とじゃがいも、玉ねぎを合わせ、スパイスを効かせて揚げたもの。イモ感が強くてカツというよりコロッケっぽい。うまい
▲「イランのチャイ」(350円)。ホルマという中東原産の甘い実とか角砂糖とかナッツとか、いろいろついてくる
▲そして、ゆうこさんが焼く餃子も激ウマ。ビジネス街であることを考慮し、にんにくとしょうがの2種類から選べる
おまけ:ハミちゃんは腕相撲も超強いぞ!
お腹も満たされたところで、最後にハミッドさんに腕相撲を挑んでみよう。
なぜ唐突に腕相撲かというと、
看板に「腕相撲 挑戦者求む!」って書いてあったから。
ちなみに、反則負け以外では一度も土をつけられたことがないらしい。
しかし、ハミッドさん同様、格闘技なら筆者もボクシングを少しかじっていたし、アマチュアで2勝8敗という輝かしい戦績も残している。そう易々と負けるわけにはいかない。
▲レディー・ゴー!
▲(易々と)ドンッ!
いやあ、名勝負でしたね。
……と、このまま帰るつもりだったが、瞬殺されてくやしいので腹いせにハミッドさんを辱めてやろう。
というわけで、インタビューにかこつけて「お互いの好きなところ」を2人に言い合ってもらうことにした。これは恥ずかしいぞ~。
「彼は精神的にタフで、すごく頼もしい。30年前のイラン・イラク戦争では最前線で戦って生き残った人なので、ギリギリの経験をして心が強くなったんだと思います。私もハミッドから、どんなことがあっても絶対に諦めない、頑張って乗り越えていく力をもらいました。周囲の人を明るく元気にしてくれるところも好きですね」
「彼女は正直でウソをつかない。それに、こっちの機嫌が悪いときもイライラせず、いつでも優しいし傍にいてくれる。イランには、なかなかそういう女性はいませんね。僕にはもったいないくらいの奥さん。神様は、僕に大サービスをしてくれたんだと思います」
恥ずかしがるどころかものすごく堂々と答えられてしまった。
いやあ、ナイスカップルだなあ……。
いろいろごちそうさまでした。
▲カラオケができるパーティープランもあります
※なお、取材からほどなく「いわま餃子」は「野菜肉巻き串 ARASHI 水道橋」に改名。名前もペルシャ寄りになったみたいです。
〈紹介したお店〉
プロフィール
榎並紀行(やじろべえ)
1980年生まれ埼玉育ち。東京の「やじろべえ」という会社で編集者、ライターをしています。ニューヨーク出身という冗談みたいな経歴の持ち主ですが、英語は全く話せません。
> ツイッター: Twitter (@noriyukienami)
>ホームページ:やじろべえ
Source: ぐるなび みんなのごはん