外国人の受け入れと日本人の賃金
骨太の方針では、外国人受け入れの拡大も明記されました。私は、この方針には明確に反対していきたいと思っています。
今、日本の経済は〝好調である〟ということになっています。しかし、好調なのは大企業の業績だけで、中小企業の利益が伸びているかといえば、確かに仕事は増えているものの利益はほとんど伸びていない。また、働く人の賃金も伸びていないのが現実です。実際、昨年の実質賃金の伸びはマイナス0・2%。名目賃金は少し上がったものの物価上昇がそれよりも上回ったために、実質的な手取りは減少しています。これでは景気が良いなどとは口が裂けても言えません。
なぜ賃金が伸びないのか。最近いろいろ考えるのですが、まず考えられることは、30年近くにおよぶ不況のおかげで、賃金は上がらないのが当たり前になってしまったことが大きな要因ではないかと思います。しかし、良い人材を採用しようと思ったら、高い給料を提示するのは当たり前です。特に最近は人手不足で、売り手市場と言われています。有効求人倍率も上昇して全国平均で1・6倍ほどとなり、失業率も下がり続けて2・5%と低水準になっています。
本当であれば、これだけ失業率が低ければ賃金が上昇するのが当然です。しかし、賃金は上がらない。なぜなのか。
過去の有効求人倍率と失業率の推移を調べてみました。驚きました。
高度経済成長の頃の失業率は、なんと1%台。バブルが崩壊してからは3%、4%、5%とひどい状況が続きますが、高度経済成長している時は、まさに「超人手不足」だったのです。だからこそ賃金も上げざるを得ないし、賃金が上がるから個人消費も伸び、さらに経済が好調になるという、現政権が目標としている「経済の好循環」が起きていた。これはこの時の1%台という「超低失業率」に起因するのではないかと考えています。
そう考えると、今の失業率はまだまだ高い。さらに最近は女性や高齢者が働くようになっているので、労働者はどんどん増え続けています。人口減少社会だから・・・というのは実は間違いで、今の日本では働く人は増え続けているのです。
そこに外国人を入れたらどうなるか。今のところ、日本よりも経済的に小さな国から来ている方々がほとんどです。日本では低賃金であっても母国の基準で考えれば高賃金ですから、日本人と同等の賃金が保証されれば喜んで働きます。外国人の雇用を容認することによって、結果として、日本人の経営者は低賃金で労働者を雇用することができる。経営的には楽になりますが、日本人の賃金アップには繋がらない。そうすると、かつての高度経済成長期のような、賃金上昇によって個人消費が拡大し、それが更なる好景気を呼ぶという経済の好循環が起こらない。いつまでもデフレ不況から抜けきれない
という流れになっているのではないでしょうか。 すでに日本は外国人受け入れ数が39万人。世界第四位の移民大国になっています。せっかく賃金上昇の好循環が起きようとしているのに、ここで外国人を入れて失業率を上げてしまってはダメなのです。日本人の賃金はこの後全く上がらない、ということになってしまいます。
しかし、経営者が低賃金で雇用をしなくてはならない事情もあります。例えば、農業でも最近は外国人の就労が増えています。日本の農産物は基本的に輸入が自由化されていますから、海外からの安い農産物が大量に入ってきます。これに対抗するためには、人件費も極力抑えなくてはなりません。高い日本の人件費ではとても競争に勝つことができない。安い賃金しか提示することができずに、その賃金で来てくれる外国人に頼らざるを得ない。そんな状況があるのではないかと思います。
また、建設業にも外国人は増えています。建設業も労務単価が他産業の平均に比べて100万円も安い。本当は賃金を上げて募集をするべきなのでしょうが、ご承知のとおり、建設業はずっと叩かれ続け、徹底的な競争になっているのでできるだけ原価を抑えなくてはならないという状況にあります。公共事業の労務単価も、ももっと上げるべきなのでしょうが、例のPB黒字化目標のために上げられません。その結果、日本人の若者は建設業に就かず、外国人に頼ることになっています。
他にも、今回の骨太の方針で外国人の受け入れ拡大の対象になっているのは、造船・介護・観光などが挙げられています。
私は骨太の方針の決定前の自民党の会議の中で、「安い賃金のままで日本人を雇用しても来ないから外国人を入れるというのは問題である。まず日本人の賃金を上げる努力をするべきだ。」と主張しました。その結果、骨太の方針には新たな在留資格による外国人材の受け入れは、「生産性向上や国内人材の確保のための取組(女性・高齢者の就業促進、人手不足を踏まえた処遇の改善等)を行ってもなお、当該業種の存続・発展のために外国人材の受け入れが必要と認められる業種において行う。」という文言になりました。
ただ、外国人受け入れの流れは相当強いものになっています。自民党議員も、ほとんどが「人口減なので受入れやむなし」あるいは「受け入れを積極的に行うべき」という主張をしています。
しかし、人口減と言っても、今の日本は徐々に人口が減っているだけで、急激に人口減少社会になっているわけではありません。人口減が急いで外国人を入れなくてならない理由にはなりません。
それよりも人口減を止めるために必要な政策は、日本人の給料を上げることであり、結婚できて子育てできるだけの先行きの見通しを立てられる社会をつくることだと思います。人が足りないから外から連れてきて穴埋めしようというのはあまりにも安易な発想ではないでしょうか。
また、安全保障上の問題も大きいと思います。建設業にしろ農業にしろ造船にしろ、私たちの生活には欠かすことのできない大切な産業です。これらの産業に関わる中心的な人物が外国人になったら、私たちの生活の基盤を外国人に委ねることになります。
特に、先日も大阪北部で大きな地震がありました。京都での被害もありましたが、大規模災害が発生した時に、外国人が日本に残って復旧作業に当たってくれるかと言えば、それは難しいと考えておくべきでしょう。外国人の皆さんは、生活費を稼ぐために日本に来ているのであって、危ないところで命がけで働く義理はありません。むしろ、家族のために母国に帰るのが当然の選択です。災害大国の日本で、これから首都直下型地震や南海トラフ地震が確実にやってくると予想されている中で、一生懸命外国人技術者を育成しても、いざというときには皆いなくなってしまい、結果的に事業の継続ができずに廃業に追い込まれる。そういうことも想定しておくべきではないでしょうか。
まず政治の立場からできることは、公的なものの労務単価をできるだけ引き上げること。そして長期の安定発注を予測できるような長期計画を策定し、公表することであろうと思います。農業であれば、海外の安い農作物に対抗できるような農業支援予算を充実させて、日本人を雇用できる環境を整えることです。賃金を上げても大丈夫という安心感を経営者に持ってもらうことが必要だろうと考えています。
もう一つの論点は、上場企業の経営姿勢です。今の上場企業はあまりにも短期利益志向が強く、株主還元を重視し過ぎています。上場企業の利益は過去最高になっていますが、増えているのは配当金や自己株取得ばかりで、協力会社への支払いや人件費に向けられていません。かつての日本企業は、株主中心の経営ではなく、日本国の再興のために経営していたように思います。当然、短期利益を追求するばかりではなく、長期の発展を見据えてさまざまな投資をしてきました。その投資には、人材育成、協力会社育成もあったのです。大企業だけでなく、協力会社も従業員も共に栄える企業体を目指していたと思います。そのような慣行が「日本型経営はいけない」という風潮のなかで否定され続け、株主資本主義が蔓延しています。
また、長く続くデフレ不況のおかげで、コストカット経営がもてはやされるようになりました。今の大企業の経営者たちは、みな「コストカット」で出世してきた人たちばかりです。未来への投資ではなく、人件費削減、外注費削減、コスト削減のための海外移転。それがもてはやされ評価される時代が続きました。これも給料が上がらない、中小企業が儲からない一つの原因であると思います。
ヨーロッパでも、移民問題は深刻になっています。多文化共生とか外国人を差別するなという反対しにくい理由を述べる人も大勢いますが、人間の感情を無視してはいけません。ヨーロッパ各国は確実に移民を入れ過ぎて失敗しています。米国でさえ、メキシコ移民の問題でトランプ大統領は苦労していますし、米国で人種問題が再燃しかけているのは周知の事実です。これらの国が移民問題に政治的、社会的に莫大なコストをかけていることは皆よく分かっているはずです。世界各国が苦労しているし、日本人の賃金上昇に歯止めをかけてしまうという意味でも、外国人の受け入れは慎重にしなくてはなりません。
また、入ってくるのは親日感情を持つ人たちばかりではありません。日本に悪意を持っている人たちも当然入ってくると考えるべきです。まさに安全保障の問題になってきます。
これから外国人が増えていけば、外国人参政権の問題は必ず大きな政治課題になるでしょう。ただでさえ、平等意識の高いメディアからは、推進の声が上がるでしょう。おそらくその声には抗えません。そうなると政治にも外国人が入ってくることになります。
そして、今の出生率のまま推移するとなると、二世代ほど後の日本列島は、日本人ではなくて、〝ニッポンジン〟を名乗る全く別の人たちが中心になって住む国になっていることでしょう。これらの未来を予想しながら、それでも外国人受け入れを拡大するのか。慎重な議論が求められます。
-「ひろしの視点」第46号(2018年6月)より-
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